十一話
アキラ>信じがたい話しだね
タク>そう言われても現実でそうなってしまったんだから仕方がないだろう?
SINGO>何を言うかタクよ! こんな素晴らしい現実は無いでしょうが!
タク>なんでだよ
SINGO>これからお前は、可愛い女の子と一緒に同棲出来るんだぞ!?
タク>だから悩んでるんだろ。今後のことに
SINGO>ああ、もう! なんて贅沢な悩みかしら!!
と、伸吾は現実で俺の隣に居るにも関わらず、何故かこうしてチャットで話している。
理由は簡単だ。俺がアキラに相談を持ちかけたからである。
何の相談かって? 決まっている。名前以外一切謎に包まれた少女についてだ。非常に不本意だが、警察も認定ずみのアンビリーバブルな同棲生活がスタートしてしまったのだ。
あれから自宅に戻り、この子が何者なのか、何処から来たのか、何故俺のことを『りゅう』と呼ぶのか腰を落ち着かせ問いつめてみたものの、ルイは首をかしげるばかりで何も答えてはくれなかった。
俺は頭を悩まし唸り声をあげ今後についてどうしようかと必死に考え、ルイは相変わらず俺の腕を握りしめ、伸吾のアホはニヤニヤとその様子を伺っていたところに、状況をさらに悪くするであろう来訪者が訪れたのである。
黒須である。
こいつは本日俺と伸吾が学校をサボったのを知り、その理由を問いつめに面白半分で訪れたらしい。だが、思いもよらない見知らぬ少女が居ることに気がつき、一瞬だけ目を見開いて体を固まらせていたが、伸吾にその過程を聞くやいなや極上の笑みを浮かべ、今後どうなるか楽しみでしかたがないといった様子である。
で、何故この状況でアキラに相談を持ちかけたのかというと……言わないでも解るだろう? 俺が唯一常識的に相談できる貴重な知り合いだからだ。
そして現在、俺と伸吾が二つ並べて配置されたパソコンをいじり、黒須がそれを後ろから眺めている。ルイは俺から放れていたくないからか、左後ろから俺の衣服の一部を軽く握ってパソコン画面を見つめていた。
さて、ここからが本題だ。あらゆる情報を仕入れられる(と、俺は思っている)アキラならば、全てがシークレットに包まれているルイについて僅かながらの知識が得られるかもしれないと思索したからだ。良い答えを期待するぜ、アキラ。
アキラ>うーん、それだけの情報からだと、僕も何もできないよ
絶望的答えが返って来た。
タク>ほう、アキラ殿でも解らぬことがあるのか(クロス)
現在我が家にパソコンが二台しか無いため、黒須の言動は俺が代わりにタイピングしてアキラに伝えている。
アキラ>そうだね。さすがにフルネームではない名前、身体的特徴だけでは僕にもどうしようもないかな
そりゃそうですよね。ごもっとも。
タク>僅かな情報でもいいんだ。出来れば何かわかったら教えてくれないか?
アキラ>OK。でも、あまり期待はしないほうがいいかな
タク>……わかった(涙)
悪い。大いに期待させてもらってますよ。
アキラ>それよりも、そのルイさんは君から放れたがらないんだろう?
タク>ああ。それに一番困っている
アキラ>学校に行っている時はどうするつもりなんだい?
………………
…………
……
そうだ! 学校行ってる間どうするんだ!?
あまりに仰山の出来事が一日でドバッと訪れたためにそこまで気が回らなかった。
よくよく考えればルイと知り合ったのは昨晩だ。友達でも無ければ知り合いでもないわけだよな……まぁ、大雑把に言ってしまうと『他人』なわけだ。そんな奴に留守番させていいのだろうか? しかも、こいつは俺の記憶によると万引きにまで手を染めてしまっているんだよな。
……危険だ。留守番を任せるには信用が足りん!
まぁ、盗まれて困るような物も置いてないのだが……。
「そうだよ! 学校行ってる間どうすりゃいいんだ!?」
と、嘱望もしていないが黒須に問いかけるように現実で声を出してみた。
「留守番で良いだろう?」
黒須即答。それに合わせ伸吾も口を動かしてくる。
「んだ。夫の仕事帰りを待つのは妻の仕事だぜ♪」
黙りなさい。お前には聞いていません。
「いや……まんび……」
「万引き犯に留守番をさせられないだろ」と、口に出しそうになったが慌ててその言葉を喉の奥へと引っ込めた。さすがにこれを言うのはデリカシーが無いよな。しばらくは俺だけの秘密にしておこう。
「あー、ごほん。さすがに他人であるルイを一人で置いておくわけにはいかないだろ?」
「なーに言ってんの。こんだけ拓のこと慕ってるんだぞ? 何を心配することがあるのさ!」
「うむ。オレから見てもルイ殿が拓に好意を抱いているのがわかるが」
あーもう! こいつらじゃ話しになんねぇ。
アキラよ……頼む、何か良い案を出してくれ……。
アキラ>それと、ルイさんのことは親御さんには話してあるのかい?
問題増やさないでくれ……。