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名誉のためでなく  作者: ulysses
第1章
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第006話 帰投

 灰色の冬空に闇に染め上げられたような雲がちぎれ飛び、激しく叫ぶ暴風と豪雨が桟橋を叩き続けている。荒れ狂う海は雨飛沫に煙る漁港を粉砕しようと押し寄せるが、岩礁に阻まれてやがて勢いを緩め、湾の中まで到達する頃には勢いは失われていた。

 

 ミネルヴァ王国北東部に位置する人口千人ほどの漁村カッスルネル。袋状の湾の、狭まった出入り口の左右を峻厳な岩礁がとりまく天然の要害は、結界魔術を付与した防魔網により海棲魔獣の侵入を防いでいた。その分、複雑な潮の流れを乗り切るためには熟練の操舵の腕がいる。岩礁の周りには、無数の沈船が眠っていた。

 

 昼だというのに既に夕暮れ刻のような暗さの中、漁港に併設された寄合所に人族と亜人族の女たち、そして一人の少年が不安そうに集い、遥か沖合の岩礁に乗り上げた大型ヨットを見詰めていた。

 まだ少女の面影を残した若妻から真っ白な髪に腰の曲がった老婆まで女たちは皆、獣人族と人族の文化の入り交じったこの地方特有の人妻の証であるサラハと呼ばれる、服の上に重ねて着る足首までの厚手のフロックスカートを身に着けている。

 

 その中で一人拳を握りしめて、じっと座礁した大型ヨットに向かう小型の救難艇を睨むように見ている10歳の少年がいた。漁師の仕事上必要な防水性と防寒性に優れた、脱脂をしない羊毛から編まれた厚手のスエーターを着ている。前身頃の縄状の編み込みは、漁に使うロープや命綱を意味しており、女たちの、北海トロール漁に出ている家族の安全や大漁などの様々な願いが込められて編まれていた。

 また、その模様は家によって違っていて、遭難死の際の個人識別と家紋の意味合いもあった。両肩から三本垂直に始まり胸下で二回ひねられた縄をかたどった編み込みは、この村のトロール漁船団の網元であるシアーズ家の模様だ。


「ディラン、心配おしでないよ。ミスタ・デイブが舵を握っているんだ、こんな波になんか負けやしないよ」黒のサラハを身に着けた人族の老婆エンドラ・モンゴメリーが、少年の肩に手を置いた。

 少年は無言で、視線をそらさずにいた。産褥で母を失い、長期の漁でたった一人の肉親である父親が家を空けている間、村の女たちがこの子の母親代わりだった。そのせいなのかどうか、喜怒哀楽の表現が乏しく無口で内向的な少年だった。本を読んでいる姿の方が多いくらいで小柄な体躯だったが、その割りに同年代の子どもたち、特に幼い子から少し年上まで女の子の間では人気があった。たまに小船を操る時の腕も良く釣りや罠漁もうまい。秘訣を惜しげもなく教えるので、男の子にも好かれていた。

 しかし、その子供たちは暴風雨の中、更に『大魔嘯』の戒厳令の為、丘の上の修道院に避難していた。


      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ディラン・シアーズ少佐は、H.M.S.フラウンダーの艇長室の寝棚で上半身を起こし、汗まみれの身体を震わせた。今まで見ていた夢、この何年間か見る事のなかった、18年も前の少年時代の記憶が再現される苦痛を思い出し、ため息をついた。

 あと6時間で母港であるプリムゼルに帰港する。気を緩めるのはまだ早いと自分に言い聞かせ、補給物資の需要報告や魔石の補充要請、休暇申請書などの最終決済を待つ書類の山を見る。下着を替え清潔なシャツとスラックスを身に着けた。パイプ立てからお気に入りのブライアーのパイプを選び、骨董屋で見つけた陶器の葉入れからひと摘みの刻み煙草を詰める。震える指先に灯した火で、苦労して吸い付けた。

 デスクにつき書類を一枚とったが、いつの間にか視線はパイプから漂う紫煙を見詰めていた。

 

      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 プリムゼル港への入港は14時頃、お祭り騒ぎの中行われた。

 魔獣と交戦し撃破、獲物を曳航したH.M.S.フラウンダーを一目見ようと、人々はこぞって港や丘、湾に面した橋などのそこかしこに集まり歓声を上げる。停泊中の帆船や軍艦は時鐘を打ち鳴らし、港湾施設はサイレンを鳴らした。すれ違う警備艇や軍艦上では、甲板に乗組員が整列し敬礼をする。こちらも入港用の一張羅であるセーラー襟の黒い制服と、つばのない水兵帽に着替え整列して答礼する。フラウンダーの水兵たちは、市民の歓迎ぶりに誇らしげだった。

 

 やがてフラウンダーが一般船舶の立ち入りが禁止されている軍港地区へ進入すると、巡視部隊司令部より艇長に宛、『魔獣さんぷるヲ魔研ニ引キ渡シタ後、速ヤカニ司令官室マデ出頭サレタシ』と信号が送られてきた。フラウンダーは軍港の端に位置する【魔獣研究所】専用桟橋へと向かった。

 

 魔獣研究所はミネルヴァ王立軍に属する研究機関で、魔獣の習性・弱点などの研究、脅威度の判定、対魔獣戦の戦法研究など、魔獣に関する多岐に渡る研究を行っている。プリムゼル軍港には、海棲魔獣の習性などを研究する【魔獣対策部 生態研究課】のプリムゼル分室が出先機関として存在し、海軍のみならず市政とも密接に連携して活動していた。

 

 突堤横の斜面での、魔獣の引き上げ作業を監督する副長に後を任せると、シアーズはネクタイを締め、海軍士官の制服である黒いリーファージャケットに袖を通した。

 錨マークが刻印された金属のシャンクボタン、リーファー襟で袖章として少佐を表す中幅の金線が三条、袖口を並行に取り巻いている。

 

 かつて海軍士官の制服はダブルブレストのフロックコートだったが、動きやすいように丈を短くした士官候補生(リーファー)用のものが時代とともに正式に制服として採用され『リーファージャケット」と呼ばれるようになった。軍や海事関係以外の世間一般では『(ダブル)ブレザー』とも呼ばれている。

 シアーズは洋上ではスエーターや防水コート、ダッフルコートなどでいる事が多いため、チェストにしまい込まれていたジャケットには畳み皺がついてしまっているが、気にしない事にした。報告書の封筒を持ち軍帽を被ると、巡視部隊の司令部までは、歩いていく事にしていた。

 

「通りがかった内火艇(ランチ)に声をかけてありますぜ、艇長(スキッパー)」と甲板で、オクリーブ操舵長がシアーズに声をかけた。声に込められた何かに、シアーズは頷いた。

 舷側には、女性下士官の操る19フィートの小型艇が横付けされていた。操舵は艇前部で行い、艇尾に小型魔導ケトルが搭載されている。それ以外の場所は兵員や物資の搭載場所に当てており、キャンバスの天幕が張られている。港内の伝書業務や備品の配達などの軽作業は、王立海軍婦人部隊(Women's Royal Naval Service)通称WRNS(レンズ)が行っていた。

 25歳くらいの、可愛らしい顔に生真面目な表情を浮かべた女性下士官の敬礼に答礼し、シアーズとオクリーブは艇尾に陣取った。ここなら小型魔導ケトルの動力音で、誰にも話を聞かれることはない。

「何か、まずい事でも?」

「アイ、どうやら艇ごと転属させられそうです。基地の兵曹仲間の言うには、【魔研】だそうで。王都から係官が出張ってきてますが、あれは書類屋じゃあないですぜ。どうにも、胡散臭そうな連中ですわ。それと、聴取の後はすぐ出港になりそうです。魔研の方に補給物資が届けられとります。ミスタ・グリーンが補給品目を見て、「この季節に冬用装備を支給とは」と、ぼやいていました」

「では、南洋へ派遣という事もあるわけだ」シアーズとオクリーブは、笑い合った。


 補給品に関しては、こと武器に関して以外の、支給される装備の食い違いは日常茶飯事で、軍では笑い話になっている。陸地の少ないこの世界は、決して物資豊かとは言えない。鉱石や繊維など、工業で必要な資源は常にぎりぎりの採取量である。時には、採掘権を巡っての紛争も起きる。補給物資もなんとか体裁を整えて、とりあえず渡すという状況であった。

 ともかく、この短い時間で、いろいろなコネから情報を仕入れたようだ。


      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 内火艇を操縦するマッジ・エイミス水兵長は、翻りそうになるスカートをストッキングの膝で挟んで、背筋をぴんと伸ばして立ち、舵輪を握っていた。普段はもっとリラックスしているのだが、シアーズ少佐が便乗しているため緊張している。今回の手柄の話しも聞いているし、以前から彼の事は意識していた。舵を大きく切るたびに、ちらちらとその長身を盗み見ていた。

 思っていたより背が高い、6フィート位かしら、とシアーズの印象を心に刻んで行く。軍帽からはみ出た長めの黒い癖毛に、細く高いが弱々しさの感じられない鼻筋。鋭い双眸が印象的で、黒曜石の如く漆黒で冷たく感じたすぐそばから、笑いにキラキラと輝く。力強く結ばれた口元の両側には、奥歯を噛み締め続けたためか歳に似合わず薄く皺が浮いている。28歳の年齢よりも少々落ち着きすぎ、学問僧のような雰囲気を纏っているが、ふとした瞬間にひどく危険な人間のようにも見える。基地の婦人部隊員で彼に関心を持っている女性は多いが、彼女が抱いているそれは少し違った。ドワーフ族の上等兵曹との会話が一段落したところを見計らって、思い切って声をかけた。

 

「お話しをさせて頂いてよろしいでしょうか、少佐」

「何かな、水兵長」

「マッジ・エイミス水兵長と申します、サー。私はベンジャミン・エイミスの妹です。その節は、兄がお世話になりました」と言い、白い覆いを被せた制帽を脱ぎ、狐耳を出してお辞儀をした。隣でオクリーブ上等兵曹が、獣耳にピクッと反応したのにシアーズは笑いをこらえた。乗組員の獣人族には反応しないのだから、女性限定らしい……。

「ああ、それは……。ベンジーは元気かい?」

「はい、現在は巡洋艦ユリシーズの補給係兵曹を努めています。これも、7年前の少佐の尽力があったからです。私たちは本当に、少佐に感謝しています。それとともに、申し訳ない思いで一杯です……」

「過ぎた事だ、気にしないでくれ。いい仲間もできたし、“住めば都” と言うしな」と言いながら、住処(すみか)も変わりそうだが、と考えた。


      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 オベド・オクリーブ上等兵曹は、エイミス水兵長とシアーズ少佐の会話を聞きながら、シアーズが巡視部隊に配属された当時、シアーズの経歴を調べ出した時の事を思い出していた。

 ディラン・シアーズは、順調に出世コースを進んでいた。13歳で王立海軍幼年学校に入学し、王立海軍兵学校へ上がり優秀な成績を修め、卒業とともに19歳で少尉に任官した。在校当時から亜人に対して分け隔てない彼の行動は、貴族出身の生徒たちからは不評を買っていたが、公明正大な言動が紳士として評価され、敵を作るまではいかなかった。卒業して一年後に駆逐艦アフリディの船務科航海班から駆逐艦コサックの砲雷科砲術班長に任命され中尉に昇進。そのまま順調に出世の階段を昇るかと思われたが、一年後、かねてから亜人を虐待していた砲術長と諍い、クレドランヴィル伯爵の三男であるエドガー・グレイ大尉を叩きのめすという事件が起こった。この虐待の最大の被害者が、狐人族のベンジャミン・エイミス一等水兵だった。

 本来なら軍法会議ものだが、グレイ大尉の虐待があまりにも酷く伯爵家の名を出さぬためと、亜人族の騒擾を防ぐ名目で箝口令が敷かれ、事件は闇に葬られた。しかし、シアーズは大尉への辞令とともに、艦隊勤務から巡視部隊へ追いやられた。シアーズは処分を甘受し経緯を秘する事と引き換えに、エイミス一等水兵に便宜をはかるよう上層部と取引をしたのだった。

 厳重に秘匿された事件だが、軍の柱石たる兵曹族は互いの貸し借りで融通し合い、どんな情報でも探り出す事ができた。兵曹族が実際に軍を動かしているとも言えた。

 近況などを語り合うシアーズとエイミスを微笑んで眺めながら、司令部に着いたらどうやってエイミス水兵長から休日の予定を聞き出そうかと考えていた。

 

      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 15時半頃、シアーズはオクリーブとエイミスと分かれ、二階建ての古びた石造りの巡視部隊司令部棟に入った。案内係の水兵に来意を告げると二階奥の司令官室まで案内され、デスクにつく秘書に引き渡される。秘書の婦人部隊員が司令官室の扉をノックし、確認とともにシアーズを室内へ招いた。室内には巡視部隊司令官のサイモン・ビューロー准将(男爵)と副司令のネイザン・アトキンソン大佐が待っていた。


 ミネルヴァ王国では、男爵は貴族の最下位の称号である。騎士団に所属するのにも、男爵以上の爵位を必要とする。名誉称号である一代騎士も、公式の場では男爵と同等の待遇を受ける。また、この爵位につく者を『●●男爵』と呼ぶことはめったになく、貴族への一般的敬称である卿を用いて『●●卿』と呼ぶ。ビューロー卿は34歳の無駄な活力に溢れた白金の髪の美丈夫であり、その魅力を家格を上げるあらゆる機会に注ぎ込んでいた。今はその魅力はいくらか抑えられ、不機嫌そうだった。

 

「ディラン・シアーズ少佐、本日1420をもって、プリムゼルに帰投しました」軍帽を左脇に挟み敬礼し、司令官が答礼の手を下ろすとシアーズも敬礼を解き、報告書を大佐へ渡した。

「今回はよくやった。基地司令と軍港長、魔研の分室長に市長も大層喜んでいる。昨夜のパーティでも、貴君の手柄話で持ち切りだった。私も鼻が高い」ビューローが、気がなさそうに言った。そのままアトキンソン大佐に頷く。

「司令官のお気持ちだ。リトラル産の一等級葉巻だ」大佐は5インチ程の金属製の管を、シアーズに渡した。

「はあ、ありがとうございます、大佐。光栄であります、閣下」と、シアーズは葉巻管をポケットに突っ込んだ。

「さて、シアーズ少佐、君とフラウンダーには現状のまま、魔研に転属してもらう。……ところで、君は上や魔研に知り合いでもいたかな?」ああ、男爵様は俺が自分で転属の工作をしたと思って不機嫌なのか、と気がついた。

「いえ、寝耳に水の話です。自分にはそのような知己はおりません。ただ、軍務を遂行するのみです」ビューローはしばらくシアーズの目を覗き込んでいたが、やがて納得したように笑いかけた。

「そうか。私も市長のイスタグリア伯エドワード・ノースリッジ卿と友誼を深めることができた。君も上等な葉巻を手に入れたし、栄転して皆満足というところか」司令官は機嫌よさげに、うんうんと頷いた。

「さて、それでは私は会食の準備があるので、失礼するよ。転属については、アトキンソン大佐と話してくれたまえ」と、シアーズとアトキンソンに退室を促した。

 

      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 副司令の部屋で、シアーズとアトキンソンは紅茶を飲んでいた。

「いつもながら、あの御仁のスチャラカさには頭が痛い」と大佐が愚痴をこぼした。

「目の上の瘤が消えるのだから、機嫌はよくなるのではないですか」ビューローは有能だが平民出身のシアーズを嫌い、祖父が一代騎士だったロックウェル大尉を贔屓していた。

「イエスマンばかり集めたがるからな。こちらの苦労も、分かって欲しいものだ」大佐は苦笑いしながら、右手で互いのカップにブランデーを落とした。


 サイモン・ビューロー准将は、コネと世渡りの上手さで今の地位に就いた。巡視部隊を実際に動かしているのはアトキンソン大佐だった。普段は准将の言動を肯定し、裏で適切な指示を出して部隊を運営している。亜人に対する偏見の薄い彼を、シアーズは信頼していた。

 5フィート半の小柄なぽっちゃりとした体躯と、鼻下にたっぷりとたくわえた髭が優しげに垂れた目元とともに安心感を抱かせて、アトキンソンはプリムゼルの社交界では43歳の実直で温厚な人物として知られている。かつては、攻撃に重点をおいた艦隊型駆逐艦トライバル級で、ついで輸送船団の護衛を行うための小型で低速のハント級護衛駆逐艦の艦長を歴任し、某国の通商破壊艦や海賊、海棲魔獣と戦いを繰り広げていた。

 駆逐艦エクスモアの艦長兼護衛艦隊駆逐艦分遣隊の指揮官をつとめていた時、ある絶望的な海戦で左目と左手、艦を失い艦上勤務の道を絶たれた。義眼と義手を使用して療養の後、巡視部隊の管理官として赴任。やがて副司令に昇進し、前司令官の退任とともに着任してきたビューロー准将のお守りを任されている。

 

「今回の転属の話は、きな臭い。私の見たところ、魔研の調査官は特殊部隊の隠れ蓑だ。海兵っぽい勘がするから【特殊舟艇作戦部】SBSだな。君は何かどえらい事に巻き込まれたようだ、覚悟していけ。それと、補給品はどこかから回ってきたリスト通りだ。活動場所は、おなじみの北海だと思う。まずい事にでもなったら、遠慮なく報せろ」

「誰かが私の墓の上を歩いたような気がしますよ」シアーズは考え込みながら、不安感を冗談にまぎらせる。

「君たちと艇の転属は、官報には載らない。下手をしたら特殊作戦ではなく、諜報関係かもしれん。重ねていうが、用心を怠るな。何かあれば頼れ。逃げ道は常に確保しろ」

 改めて事の重大さを感じたシアーズは、厳しい目の色をアトキンソン大佐に向けた。

「随分とお詳しいですが、何かご存知ではないですか、大佐。あなたも関係者なのでは?」

「ふむ、そうとられても仕方ないか。私が艦を失った時にも、似たような状況があったのでな。彼らは、帰って来なかった。同じ轍は踏ませられん、必ず生きて帰ってこい」

※「誰かが自分の墓の上を歩いた気分」……ゾッとするという意味の言い回し(英)。

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