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名誉のためでなく  作者: ulysses
第1章
5/19

第004話 都市

 王都ロンディニウム。その始まりは、勇者戦争にまで遡る。

 

 紀元前62世紀頃以降、魔族が世界を支配しており、超国家アリアーダ帝国を築いていた。そこでは魔導文明が花開き、世界を魔導車、魔導船、飛空艇などが行き交っていた。

 栄華を誇る魔族に対し人族、獣人族、ドワーフ族、エルフ族は征服され、奴隷として扱われていた。

 その用途は剣士、闘士、弓兵などの戦奴隷。使用人、農民、重労働などの労働奴隷。快楽のための性奴隷など多岐にわたる。

 魔族は強大な魔力で多種族を支配し、その文明は爛熟していった。

 

 しかし、やがてその繁栄にも翳りが見え始める。

 

 アリアーダ帝国では紀元前5世紀から2世紀の間に行われた4度にわたる内乱の後、各地では兵役や戦禍により農村が荒廃し、その反面貴族や騎士階級ら富裕層による徴税は増大、貧富の格差は拡大した。いずれの内乱も、利権や領地を争う貴族間の紛争が、派閥を巻き込み大きな戦となったものだった。

 それと並行して元老院や市民会議では腐敗や汚職が横行、やがてその一部は、武力を用いて政争の解決を図るようになる。

 こうした中で、帝国の求心力は徐々に崩壊の過程を辿る。


 政治権力を巡る平民派と閥族派・元老院派の争いなどの政情不安な状態が続いていた紀元前1058年に、ポイニウス衛都大将軍、ラクサル元老院議員、クラクスス財務書記長は三頭政治と呼ばれる統治体制を構築して権力を握り、ラクサル議員は娘ヒルアがプルケルノス元老院議長の息子へと嫁いだことで政治基盤を固めた。

 

 紀元前1054年、ラクサルは征西総督に任命され、子飼いの奴隷軍を率いて辺境西部方面へ赴任し、現在のミネルヴァ、ガリアス方面の征服戦争を戦った。

 

 転戦の後、ラクサルは後のミネルヴァ王国にあたるアカイア島南東部を征服しテミ川北岸に砦を建設、農奴を入植させて植民地化した。

 拠点集落を建設したのは帝国の労働奴隷だが、それ以前にこの地域周辺には獣人族が群居しており、女王ブディンに率いられた獣人族が砦を襲撃し、一進一退の攻防を繰り広げた。紛争は人族の元奴隷、剣将軍アルトスと同じく人族の元奴隷、弓将軍キントス率いる戦奴隷軍により平定され、女王を討たれた獣人族は北方の島へと追いやられた。

 砦は獣人語で「血まみれの剣」を意味するロノディンと呼ばれそれが定着、後にロンディニウムと改称された。

 一方、帝国では紀元前1047年には、ポイニウスとクラクススが共に執政官を務めた。


 しかし、紀元前1045年にヒルアが死去し、同年にクラクススも病死したことで三頭政治が崩壊した。

 ラクサルの辺境西部遠征の成功によりポイニウスと同等の軍事上の権限を得たことに対し、元老院派はラクサルの権力拡大を危惧してポイニウスと接近した。


 紀元前1043年にはプルケルノス元老院議長一家暗殺に伴う帝国内の混乱へ対処するため、ポイニウスを唯一の執政官に選出した。元老院はラクサルが征西総督としての任期切れ後に執政官に立候補する意向であることを知り、ラクサルから奴隷軍を引き離すことを模索した。

 ラクサルはポイニウスも軍隊を解散させるならば自分も軍隊を解散すると元老院に伝書を送ったが、元老院はラクサルが不法に奴隷軍を維持するのならば【国家の敵】と宣告するとした。


 ラクサルの幕僚である剣将軍アルトスは、ラクサルの拒否回答書を元老院へ伝えたが、元老院は受け取りを拒否した。


 ポイニウス及び元老院派は征西総督としてのラクサルの任期が終わったことを受けて、帝都に戻り軍を解散するよう指示し、ラクサルが執政官に立候補するのを禁じた。ラクサルは地位も軍隊の力もなしに戻れば罪を着させられ、政治的にも失脚させられると考えた。

 元老院はラクサルに対して、元老院最終勧告を発した。


 紀元前1042年、覚悟を決めたラクサルは子飼いの部隊である奴隷軍8万と共に、軍隊を率いて侵入することを禁じられていた帝国西部州と帝国本島の境界であるコビン海峡を渡るという、決定的な一歩を踏み出した。

 これが【英雄戦争】の引き金となる。

 

 圧倒的な軍事力の差に初戦で撃退されたラクサル軍は、辺境へと落ち延びた。

 そこでラクサルは、予てより密かに期していた計画を実行する。

 

 【奴隷解放宣言】である。


 魔族であるラクサルだが、屋敷や領地で幼少の頃から奴隷と分け隔てなく接し付き合う姿から、奴隷からは愛され、貴族からは変人と嘲笑されていた。

 

 やがてラクサル軍は【解放軍】と呼ばれることとなる。人族と獣人族、ドワーフ族、エルフ族ら亜人族は続々と参加して、その兵力は膨れ上がり、やがて帝国軍を圧倒していく。その目的は帝国を倒し、民主国家を打ち建てること。

 これに対抗し、帝国ではポイニウスが帝都を武力で制圧。元老院や市民会議を停止させ、【魔族の王】を名乗り独裁政治を開始。帝国民は魔窟と化していた元老院に反発していたため、ポイニウスの果断な独裁と選民思想を歓迎した。

 

 解放軍は、各地で帝国軍の裏をかきゲリラ戦を展開。ラクサルによる素早い用兵と大胆な機略で、帝国を翻弄した。

 

 数年後、ラクサルが帝国により暗殺され、解放軍の指導者に剣将軍アルトスが就いた。

 

 ここに【英雄】が誕生した。

 

 ラクサルの愛弟子でもあるアルトスは、帝国に復讐を誓う。ラクサルは帝国打倒後、魔族も交えた新体制を考えていたが、鬼となったアルトスは魔族の殲滅を宣言した。

 

 一進一退の戦争は熾烈を極め、大地は荒廃し文明は失われ、命は消えていった。

 50年以上に渡る英雄戦争が終結し、わずかに残った魔族は南極に逃げ延びた後、隠れ里にこもり世界との接触を断った。

 

 紀元前996年、老英雄アルトスは、ラクサルの夢見た共和国樹立を宣言した。

 世界は平和に包まれ種族間の交流も盛んだった

 

 ラクサルの建設したアカイアの砦では、紀元前1020年頃に治安のため、テミ川岸を除く街の三方に市街壁が巡らされた。およそ4万人の人口を擁していた旧砦地区を中心として、行政施設が増設された。後のシティ・オブ・クラウにあたる地域も独立した集落が形成されており、北部の亜人集落との交易で活況を呈した。2つの地区は街道によって結ばれていたが、街道ごと都市外壁内に組み込まれ、城塞都市国家ロンディニウムが誕生した。

 

 その後、約1000年後にはラクサルの名は歴史から消され、英雄アルトスと6人の仲間が魔王を倒したという物語が巷間に流布していた。

 世界では、代を経るにしたがい地域格差、資源や領有地の奪い合いが起き国家は分裂していく。それは種族間にもひびを入れ、険悪な関係となっていく。

 

 さらに人族の欲望により、悪しき制度も復活する。

 【奴隷制度】である。

 

 聖暦元年、7英雄の子孫と僭称した者たちは王権を主張しそれぞれ王国を建て、その一人、神官リスルを祖先と主張する聖王国リスリメアは、リスルを神の代弁者と崇拝するリスル教を国教とし人族至高主義を掲げ、亜人を家畜と決めつけた。

 

 世界には、再び野蛮が満ち溢れようとしていた。

 

 聖歴280年頃、城塞都市ロンディニウムと割拠する武装集落が敵対していた辺境、アカイア島南部を平定した放浪の剣士リアムスはミネルヴァ王国建国を宣言、長らく使用されてきた広大な総督官邸を解体し、都市中央部に武神ダグザを祀る大修道院のマステル寺院と王宮のメディカ宮殿を建設し、マステル寺院でミネルヴァ王ウィリアム1世として即位した。

 以後、メディカ宮殿を中心とするシティ・オブ・イスリスは政治と宗教の中心地となる。一方、シティ・オブ・クラウはこの頃既に自治機能を有する商業・経済地区に発展しており、王都の運営に対して発言力が増していた。ウィリアム1世はマドゥル戦塔などの要塞をシティ・オブ・クラウの東西に建設して市民を威圧した。しかし亜人との交易などを通して経済的発言力のあるシティ・オブ・クラウは、聖歴512年に市長を選出する権利や独自の法廷を持つ権利を獲得、更に聖歴526年からは市政参事会を選出し、王権から独立した高度な自治都市として独立を保持した。

 

 聖歴538年、ミネルヴァ王国ではオルバート1世の元、【新奴隷解放宣言】が発令された。ほとんど奴隷商へと堕落したリスル教団の追放を進める中で、リスル教会破却に伴いロンディニウム内外で没収地の開発が進んだ。これにより、多くの人口を許容できるようになったロンディニウムは、当時の経済発展とあわせ急激に成長し始めた。

 2つのシティ間には市街地が成長して両者は一体化し、聖歴550年代には人口50万以上、更に半世紀後には70万人以上が居住している。


 聖歴596年、女王リゼルナ1世が王立取引所を開くとシティ・オブ・クラウの重要性は急速に増大する。街の発展にともなって貧困層が流入し、これが王権への抵抗勢力になることを恐れた女王は、聖歴598年に市門の外3マイル以内に新たに建物を建築することを禁じる布告を出した。しかし、町の拡大を法令で阻止することは不可能なことであり、ロンディニウムはさらに膨張することになる。


 聖歴665年の赤死病の大流行では20万人近い死者が出た。翌666年には市街地のパン屋から出火した火の手が市壁に囲まれた地の3分の2まで広がり、辺りを灰燼と化させた【ロンディニウム大火】が起こった。これは当時、都市のほとんどの建造物が木造だったこと、道路の幅が狭過ぎてもらい火によって火の手を広めたことが、火災の規模を拡大させた理由とされる。


 更地となったロンディニウム中心部をかつての雑然とした町から、計画的に整備された都市に生まれ変わらせる好機として、内務省の監査官ジョエル・レナルズは新たに都市計画を構想した。しかし、この構想は都市の整備によって土地を失うことを恐れた地主達が、利己的に建物を乱立させたことによって計画倒れに終わった。だが、レナルズは大火が再び発生するのを未然に阻止するための法整備に努めた。その結果、聖歴667年の再建法では新築建造物には石と煉瓦のみを使用するよう定められた。


 再建されたロンディニウムは、かつて木造建築が雑然としていた町並みとは全く異なるものとなり、市街中心部は石造に一新して不燃化され、民間の投資によってアパート群が建造され、道路も拡幅された。

 聖歴700年代にはセント・グリモア・パークからパルティア・パークに至る大通りが敷かれ、街路沿いに瀟酒な建物が整然と並ぶ景観が形成された。更に聖歴760年代には、中世からの市壁と門も取り壊されている。


 その後ロンディニウムは更に発展を遂げ、聖歴800年代に橋が増設され、テミ川南岸が発展。東部や南部には大きな手工業地帯が形成され、東部の港は世界有数の港湾となった。

  

 都市の発展に大きく寄与した遠隔地と交易する大商人によって組織された商人ギルドは、都市参事会を牛耳って市政運営を左右していた。

 同時期、それまで都市外での肉系食糧供給や獣・魔獣による被害に対する討伐などを行っていた狩人が組織化され、冒険者ギルドが発足した。

 領主や都市を防衛、守護、治安維持を行う騎士団、衛士は都市内で活動していた。

 また、商人ギルドによる市政独占に反発した手工業者たちは、鍛冶・木工・織物など職業別のギルドをたちあげ、連合した手工業ギルドを結成した。

 ギルドに参加できるものは親方資格をもつものに限られており、徒弟制度による厳格な身分制度──クラン制度──により、その頂点に立つ親方は職人・徒弟を指導して労働に従事させた。


 やがて手工業ギルドは商人ギルドに対抗して市政参加を要求し、この両集団の闘争では双方に雇われた冒険者による脅迫・暗殺・戦闘・暴力行為が行われ、都市を混乱に陥れた。


 事態を収束させるため、当時の王、アマディアス3世により手工業ギルドにも市政参加が認められた。また、冒険者ギルドにより被害が拡大したため、冒険者による犯罪行為の禁止、ランク制限、クラン長によるクラン員の管理の徹底を法律により義務づけた。

 更に冒険者という悪名の染み付いた名称を、友人を助けに長距離を走り通したメルローズという狩人にちなみ【ランナーズ】と改称させた。


 従わない冒険者は地下にもぐり非合法な闇ギルドを結成、【ギャング】と呼ばれ犯罪行為を行うようになる。


 製品の品質・規格・価格などは厳しくギルド内で統制され、品質の維持が図られた。販売・営業・雇用および職業教育に関しても独占的な権利を有していたため、自由競争を排除してギルドの構成員が共存共栄することが可能だった。しかし、このことが各個人の自由な経済活動を阻害したともいえる。


 近世の絶対王政下において各都市の自主性が失われ王権に屈していく中で、ギルドは王権に接近して特権集団として自らの利権擁護を図った。

 また王も彼らを囲い込むためにギルドに支持される職業別の社会保険制度を作り上げた。この制度は王国の社会の行動様式を根本的に規定するものだと言われている。


 聖歴888年、それまで別々の町だったシティ・オブ・クラウとシティ・オブ・イスリスを含むロンディニウム中心部が、初めて行政区域としてまとまった。


 聖歴900年代にロンディニウムの人口は爆発的に増加し、500万人を超えたが、それと同時に下水道設備の不備や貧困地域の拡大などの都市問題が深刻化した。聖歴968年には大悪臭が発生した事を契機に、上下水道を公共事業として整備したが、今なおロンディニウム南部のテミ川南岸や東部のエンズバウなどには貧困者の多い地区が存在し、諸外国からの移民、逃亡奴隷などの流入もあいまって貧困問題は継続されている。


 聖歴1150年、ミネルヴァ王国は、交易相手でありながら、数々の極地紛争を引き起こしていた、アカイア島と隣接する亜人国家諸島、エルフ族のディエナ王国、ドワーフ族のウルカン王国、獣人族のアレス王国と相互平等・安全保障条約を締結、更に国家として連合し、ミネルヴァ連合王国となった。

 

 連合の提唱者であり、人口の最も多いミネルヴァ王国の王都ロンディニウムには、各王国から王の代理の貴族議員たちが駐在し、毎年2回開かれる王国大会議に出席して政策を決定している。

 しかし、交易などで昔から亜人と付き合いのあった庶民は差別意識が少ないが、ミネルヴァ王国の貴族・高官には人族を至高とする差別意識は多く、密かに連合王国内では禁止されているリスル教を信奉する者もい・・・・・・

 



●失踪した社会政治学者アーサー・ピムル教授の論文草稿。その残された断片より

※この草稿は証拠品箱から紛失し、のちに処分用の書類箱にまぎれこみ焼却されたことが判明した。

※今回は舞台となる世界、国家と都市の歴史説明となります。

※資料がこなれていないのですが、今はこれが精一杯なので、

 後ほど改稿予定です。

※作中のアパートは、日本のアパートではなくアパルトマンとか

 メゾンという形式の欧州様式の賃貸住宅です。

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