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名誉のためでなく  作者: ulysses
第1章
2/19

第001話 遭遇

私の好きなジャンルの海戦小説と、ファンタジーの融合を目指しています。


遅筆のため、更新に時間がかかりますが、気長にお付き合い下さい。

暇潰しにでもどうぞ。感想、指摘などを頂けると、とても嬉しいです。

読んだ方に楽しんでいただけると、更に嬉しいです。

 聖暦1662年の穏やかな春の陽光が反射し、鈍色に輝く海原の向こうに、黒々と点在する小さな島影が浮かび上がる。巡航速力の魔石機関に特有の吐息のような動力音が、艦橋まで聞こえてくるほど穏やかな、午後の海だった。


 世界を取り巻く大洋に、わずかばかりの陸地がそれぞれの国家を営む世界ネレイーシス。波面をずんぐりとした艇首でゆったり切り分け進むのは、北辺に位置する比較的大きな国家、ミネルヴァ連合王国の海軍巡視部隊に所属する、木造の小さな軍艦だった。

 ミネルヴァ連合王国は、人族のミネルヴァ王国、エルフ族のディエナ王国、ドワーフ族のウルカン王国、獣人族のアレス王国の4国家から構成される連合国家である。かつては種族間紛争が絶えなかったが、聖暦1100年頃にミネルヴァ王国の主導で相互平等・安全保障条約を締結、連合王国となった。連合の提唱者であり、人口の最も多いミネルヴァ王国の王都ロンディニウムの王国大議院に各王国から王の代理の貴族議員たちが駐在し、毎年2回開かれる王国大会議にて政策の審議をしている。


 全長105フィート、全幅30フィート、排水量195トン、乗員30名が乗り組む哨戒艇、H.M.S.フラウンダーは、その航行能力からトロール漁船の設計を下敷きに、軍艦として建造された「哨戒トローラー」だった。姉妹艇の中には退役後、民間に払い下げられて漁船に改装し直され、文字通りの「トロール漁船」になった艇もいる。

 艇上では、午前直から当直を引き継ぐ慌ただしさも収まり、ゆるやかな時間が流れていた。

「領海の北東端、オングレス諸島だ。そろそろ、転針の頃合いだな」規定より長めの黒髪が微風に揺れるのを感じながら、ディラン・シアーズ少佐は、傍らで当直中の新人、ティム・キャニング士官候補生に黒い瞳を向けた。


 この哨戒艇のような小艦艇では、航海士などの専任職が配属される事も少なく、たいてい皆、いくつもの役職を兼任していた。若いキャニングも、航海士見習い、看護師見習い、司厨員を兼ねており、ディランも艇長でありながら船務科(航海)長、砲雷科長をも兼任している。今は、キャニングに航海術を仕込んでいるところであり、感応魔術を用いて星の光を集め位置を測り、風と海流を詠み、航路情報を更新し、艇の針路を決める(すべ)を教え始めていたのだった。


「はい、今当直の予定は、3分後に取舵30度に転針、艇速15ノットで4時間直進し、再度取舵30度、リゴルス島をめざします、サー!」キャニングは勢い込んで、小柄な身体の上の、金色の巻毛を振り立てた。

「ちゃんと予習はしてきたようだな。しかし、予定はあくまで予定だ。針路上の情報だけではなく、周辺の情勢にも目を配るようにしておくんだ。それと、少し力を抜け」


 ゆったりと舵輪をにぎり、リラックスして士官の会話を聞いていたオベド・オクリーブ操舵長は、ドワーフ族特有の岩のようなあごをゆがめ、微笑んだ。見るからに頼りないひよっこだが、候補生(カデット)はいつも一生懸命で、ライオン種の獣人族の割に優しく人柄もいい。もう少し筋肉がついて、このまま苦労を忘れなければ、いい士官になれるだろう。あくまでも、挫けなければ、だが……。

 多くの亜人族の軍人は、どれだけ有能であろうとも、やがて軍の体質に失望して捻くれていくものだった。まったく、人族の偉いさんってものは……。そこでディラン艇長に思いがおよぶ。あの人は、特別だ。人族はもとより自分のようなドワーフ族からエルフ族、獣人族、果ては魔族と人族のハーフまでもが寄せ集まったこの艇を、まとめあげている男。いや、不思議でも何でも無い。親父さんには、偏見が無いのだ。目をみれば分かる。自分よりだいぶ歳は若いが、親父さんと呼ぶのがしっくりくる。オベドは、また微笑んだ。


「……はい。あの、艇長、それはどういう事でしょうか?」

 キャニングが質問したと同時に、見張り員の鋭い警告があがり、思わずライオン耳がひょこりと顔を出した。

「右舷、赤20に大きな水しぶき! 大型海棲魔獣、3頭! ……直進してきます!」

 ディラン・シアーズ艇長は、呆然と立ちすくむキャニングを見やり、疲れたような笑みを浮かべた。

「こういう事さ……。第一警報! 針路変更、面舵10! 砲術師、水雷師は戦闘配置! 遠話師は司令部に報告──ワレ海魔三頭ト遭遇。阻止行動を開始セリ[日付・位置]!」


      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 善行章三本(ストライピー)の一等水兵アンガス・バーンは、ベンチにハンモック袋を敷き寄りかかりながら、自分の王国である第三食堂──寝室兼居室兼食堂──を見回した。灰色熊(グリズリー)の獣人であるアンガスは、腕っ節一本で軍隊生活を送ってきた。歳とともに多少丸くはなったが、自分の権威に挑戦しようという者がいれば、瞬きする間もなく畳んでしまうだろう。今、食堂仲間は手紙を読んだり繕いものをしたりと、思い思いの寛いだ時間を過ごしていた。

 アンガスは、自分と同じく砲術班と闘術班に所属する黒狼の獣人、ゼッド・ヴォーティガン一等水兵に声をかけた。

「ヘイ、ウルフィー。お袋さんは、あいかわらずか?」

「ああ、グリーズ。察しの通り心臓と、自分の介護のために嫁にいかねぇ妹のグチばかりだ」二人の亡き父親も水兵で、母港のプリムゼルで生まれた時から近所付き合いをしてきたので、ゼッドの妹のポーレットもよく知っていた。兄とは似つかぬ、肩までの黒髪が美しい、26歳の優しげな美女を心に思い浮かべた。家族も認めた衛士隊の恋人との結婚に、なかなか踏み切れないようだった。

「こいつばかりは、本人の意志だ。周りがやいのやいの言っても、まとまるめぇ」

 酷薄そうな鋭い顔でぼそりと呟くゼッドだが、アンガスは10歳下の妹が可愛くてしょうがない兄の強がりを見て取り苦笑した。


「ミスタ・(ウルフ)、プリム(ゼル)のいい医者を知ってますがね、お袋さんを診せたらどうですかい」二等水兵で人族のダミアン・ヘイが、革の半長靴を磨きながら口を挟んだ。この半長靴には足首と臑に連動した革のストラップと留め金が通っており、一引きで脚にフィットする構造になっている。

「なんてぇ医者だ? お袋は王立病院に通ってるが、治癒術でも歳相応の回復しかできねぇだろう」

「いや、俺の知ってるのはディエナ王国から来て、薬草や根を使って魔術無しに治療するっていうエルフの医者で、ベリル街の平民の間じゃあ、よく効くって評判なんですぜ」

 初めて聞く治療法に、二人してほぉと感心の息を漏らした。──その時、


 ウーガ、ウーガ、ウーガ!


 警報が三度鳴り響き、それまでしていた事をすべて放り出し、皆、食堂を飛び出した。アンガスとゼッドは、通路に収納してあった自分の防盾をそれぞれ持ち上げ、砲術班の持ち場である甲板へ向かう。最後尾を走りながら、ニヤリと笑いあった二人の脳裏からは、医者もゼッドの妹の事も、きれいさっぱりと拭い去られていた。

「さて、仕事の時間だぜ」


      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 午前直を終えたエムリス・ウセディグ大尉は、副長室で休暇の申請書、補給物資のリスト、傷病報告書、乗員の査定書などの様々な書類をチェックする事務処理を始めた。もの静かで決して動揺する事がない副長は、エルフ族特有の論理に重きを置く言動と、女性のような冴えた美しい風貌から、氷麗人(アイスマン)と乗組員から呼ばれていたが、嫌われてはいなかった。毎週末に行われる規則違反者に裁定を下す場も、公明正大で穏やかな態度から、反感を買う事もなく終了するのが常だった。


「グリーン兵曹、参りました、サー」

「入りたまえ」

 ノックと共に丁寧な声がかけられ、副長の声に、小柄でずんぐりと丸い男が狭い部屋に入ってきた。筋肉の固まりに鎧われて武闘派という見かけのレナード・グリーン補給係兵曹は、修理班主任と司厨長も同時に努めており、艇の物資面を取り仕切っていた。

 王都ロンディニウムのスラムで育った人族の彼は、10代の始めにギャングの使い走りや荒事から社会勉強を始めて、数年後には若いながら組織の経営するナイトクラブの支配人を任され、その過程で金勘定や物資の調達の仕方、紳士的な態度などを学んだのだった。海軍に志願したのは、抗争に嫌気がさしたとも、暗殺から逃れるためとも噂されていた。


「早速だがミスタ・グリーン、キャニング士官候補生についてのメモを読んだのだが、厨房での彼の勤務態度に問題でもあるのだろうか」

「いえ、副長。候補生は、飲み込みは早いし手先は器用だし、文句などは全くありません。ただ、いつまでも下士官の私の部下に士官がいるというのは、少々変則がすぎるのではと」

「その点は問題ない。配属時に説明した通り、彼には事務方の勉強と航海術の勉強を、並行してさせている。事務の勉強の前に、食糧や物資などの消費と在庫の状況を学ぶのは、君の部下が最適なのだ。完全に理解できなくても、大まかな感覚がつかめればそれでよい。それまでは、君の作業を見させておきたまえ」

「了解しました。では、懸案の旧型戦闘杖の交換申請に関しまして──」


 その時、警報が鳴り響き、配置に急ぐ乗組員の喧噪の空気が伝わってきた。

「ミスタ・グリーン、修理班の指揮を執りたまえ」

「アイ・サー。失礼します、サー」


      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ケンジー・ランドール少尉は、目覚めたと同時に上体を起こし、下段の寝棚から両足を、勢いよく振り出した。この二人用士官居室は、ティム・キャニング士官候補生と共用している。上位の者は、寝棚の上段を使いたがるものだが、ランドールは有事の際の即応に配慮し、好んで下段を使っていた。

 士官食堂の給仕が、革の半長靴の間に、起きる時間に合わせて出るよう調節され、保温魔法で熱さを保っている小型の紅茶ポットを挟んで置いてくれていたので、私物棚から錫のカップを出し、紅茶を飲んだ。

 枕に頭を置いた瞬間に眠りに落ち、目覚めると一気にフル稼働する彼は、いつも活気に溢れている。24歳の人族の彼は、一見すると神話の彫刻のような美丈夫だが、よく見ると、どことなく間が抜けた印象が強く、普段の気障な言動とあいまって三枚目として艇内で親しまれていた。

 制服を着ながら、航海班の深夜当直までの間に闘術班員に課す訓練メニューを吟味し始めた。

 班員は他の科との掛け持ちであり、半分は自分と同様人族、半分は獣人族だ。当直によりメンバーを分け、時間をずらして訓練しているが、獣人族は巨体が多く概ね打撃系、人族も体格には恵まれているが、獣人族程でないため、組技系の訓練が主体になる。

 ふと思い立ち、指を鳴らす。逆のメニューを課す事にしよう。目先も変わるし、攻撃と防御の選択肢の幅が広がるだろう。それは、負傷や殉職の可能性を減らす事に繋がる。そう結論すると、魔術で水を精製しカップを濯いだ後、舷窓から捨てた。


 警報と同時にカップを棚に投げ、半長靴に足を突っ込むと部署に向かって駆け出した。


      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 エルフォッド・ギルダン機関科兵曹は、直径10フィート、高さ6.5フィートの魔導シリンダーを覗き込んだ。艇の動力である魔石機関は、取水口から魔導シリンダー内に海水を取り込み、シリンダー中央に配置された「メイルシュトロームの魔石」により渦巻きを発生させ圧力を上げ、艇尾の排水ノズルから噴射する事で推進力を生み出している。艇体の大きさからして、シングルノズルの仕様であり、最大25ノットの速力が出せた。


 「メイルシュトロームの魔石」は巨大な大魔蛸(クラーケン)が棲む、北極海に近いモスケネス海の大渦の底で採鉱される。最古の記録では、6000年前から存在する事が確認されている、大渦を発生させるクラーケンの魔力が少しずつ漏れ出し、海底の岩に蓄積されたものだった。その魔力は海の生き物にも影響を及ぼし、魔獣に変化した海棲生物の巣窟ともなっているため、採鉱には危険が伴う。希少でもあるため在庫は国家が貯蔵していた。その使用目的はほとんど軍艦の動力であり、その他では一部の大きな収穫が見込める漁船の動力に限定されており、禁輸品として厳重に管理されている。そのため、その他の旅客や貨物など民間の船舶は、帆船またはガレー船が使用されている。

 世界には何カ所か大海魔の棲み家があり、その魔力を取り込んだ魔石の採鉱権をめぐり、国家間で紛争が起こることも珍しくはない。北辺に位置するミネルヴァ王国は、領海内にモスケネス海を有するため、希少ではあるがその採鉱量は安定していた。


 魔石に込められた魔力は放出され、崩壊していくため消耗品であり、いかに命令通りに艦を運用しながら長持ちさせるかは、機関長の腕にかかっていた。

 シリンダーの覗き窓から魔石の状態を確認したギルダンは、取水管の漏水チェックをしていた部下の二等水兵ターロック・エイルウィンに声をかけた。

「タリー、問題なければ飯を食ってこい。魔石の調子もいいから、しばらく儂が見とる」

「アイ、機関長。んじゃあ頼んますわい。今日の飯はウルカン風シチューだそうで、楽しみにしとったですよ」

「そうか、儂も早めに行くとするか」2人のドワーフ族の男は笑い合った。

 ウルカン風シチューは、ウルカン王国東部の大森林地帯に群棲する大魔鴉を材料とする。肉の下処理に失敗すると、固い・臭いと悲惨な事になるため、ミネルヴァ王国ではめったにお目にかかれない郷土料理である。美味いウルカン風シチューは、雉のシチューに似ているという者もいて、人族でも狩人などには好感をもたれていた。また、この艇の独特の規則だが、機関員が全部で4名と人数が少ないので2名づつの12時間当直となっており、業務に支障をきたさない限りにおいて、自由な時間に仮眠や厨房での食事がとれた。

 ギルダンは、気配りの司厨長レナード・グリーン兵曹を思い浮かべて、側壁に掲げられた艇の全体図が描かれた銘板の、厨房部分を見上げた。


 銘板には、艇の来歴も刻まれていた。


 哨戒艇 H.M.S.フラウンダーは聖暦1651年、ウルカン王国の西海に面した交易都市ターラの、ボアーン川河口にあるクリドネ&エアムド造船所により、しなやかさと強靭さを誇るモンラッグ松材を使用し建造された。最も荒い海での操業を想定したトロール船の設計図が元であるだけに、過酷な環境でその実力を発揮する。ベッカーラダーと軍用魔石機関により、非常に操作性に優れた艇となっており、ほぼ船体分の距離での旋回が可能である。ベッカーラダーとは、排水ノズル直後に位置し、ノズルが噴き出す強い水流の向きを右、又は左方向へと変えることで船体の向きを変える舵板であり、後端部に「フラップ」と呼ばれる可動できる板を取り付けているものだ。フラップが最大70度程度まで舵角をとれるので舵の利きが良くなり、小回りが利くようになる優れた技術である。

 トロール漁の際、片方の網を巻き取りながら他方の網を打つ事ができようにと、ウィンチ2基とクレーンが装備された、2連巻き取り船として設計されていたが、そのウィンチは漂流船などを曵航する場合に、クレーンは補給物資の搬入や支援物資の陸揚げなどに利用するため、そのまま設置されている。

 アトナ合金製のシェルターデッキ構造により、あらゆる海上で行動が可能であり、巻き取りウィンチの制御は操舵室後方室内で行なうことができるので、荒天でもクルーが甲板に出る必要がない。

 トロール漁で捕獲された魚は右舷前甲板のハッチより船内へ投入され、船体中央部の魚処理室へ送られる。冷凍魔術で処理され、氷漬けとなった魚は前部中央ハッチより荷下ろしされる仕様だったが、魚処理室は水兵の居住施設に改装されている。

 軍艦として使用されている現在、部屋割りは、船長室以下高級船員室(1名収容×2、2名収容×1)は士官居住区、食堂は士官食堂、船員室(6人収容×1)は下士官居住区(第2食堂)、そして水兵居住区(第3食堂、20名収容)となっている。


 ギルダンが故郷の都市を脳裏に浮かべ、ターロックが厨房へと向かおうとしたその時、戦闘準備を促す警報が鳴り響いた。


      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 艇首マストに交替で登る見張り員を見ながら、ジェフサ・ヘイワード一等准尉は隣に立つハーフエルフに、当直を引き継いでいた。ヘイワードは、苦労のにじみ出た老人のような外見にもかかわらず、まだ42歳であった。

 飲んだくれの父親が酒場の喧嘩で刺されて死んだ後、母親は隣家の妻子持ちと何処かへ消えた。10歳の何らの財産も持たない人族の子どもだった彼は、身売り同然に貨物帆船の雑用係から船乗り人生を始めた。14歳の時、船長室付き給仕となった所で船主が破産。船を放り出された彼は、倒産の心配がない海軍に志願した。最下層の二等水兵からコツコツと昇進を重ねてきたが、望外の幸運だったのは遠視と遠話の魔術に適性があった事だ。

 通信に携わる重要な部署に配属されしばらくした後、信号係としての勉強のため H.M.S.サムハム信号学校に派遣された。その甲斐があって、今ではヨーマン信号手という准士官まで上り詰めたのだった。

 一方、インジルド・チェルディッチ砲雷科兵曹は、ミネルヴァ王国の農業の中心地サフォルトゥシャーのオパニー村に、人族の農業の研究に来たエルフ族と、大農園主である村長の勝ち気な一人娘の間の、なに不自由ない環境に生まれた。知識欲が旺盛な彼は、世界が見たいという希望を抱いて海軍に志願した。父親が教師代わりに勉強を教え、使用人の子どもたちに囲まれて育ったため、世間知らずな入隊時は高慢な態度で苦労したが、祖父のような滋味あふれるヘイワード准尉とは馬が合い、この5年間は暇さえあればヘイワードの経験談を聞くのを楽しみにしていた。


「インジ、今マストにあがってったダグに気をつけていてくれ。やっこさん、何か悩みがあるようだが、何も言わん。仕事に支障があっちゃ、いけないからな」

「了解です。でも、あいつは仕事はきっちりやる奴ですから、大丈夫ですよ。まぁ、目は離しませんが」


 話題の主、ダグザ・オェングス二等水兵は人族と魔族のハーフであった。

 人々に忌み嫌われる魔族と娼婦の間に生まれた彼は、生まれた瞬間から日陰者であった。町の人々から存在は黙認されていたが、子ども時代から思春期にかけて人並みな扱いをされた事はなく、娼館の女たちのみが息子のように接してくれた。新たな生きる場所を得るため、彼が選んだのは海軍だった。


 彼は悩みを抱えていた。それは誰にも言えない悩みだった。しかし胸を焦燥で灼かれながらも、任務をおろそかにする事はなく、遠視魔術を使い海原を監視する。

 ……、今、海面に何かが?

 海中から躍り上がる複数の物体が、周りの海水を噴き上げる瞬間に、正体を掴んだダグザは叫びを上げた。


「右舷、赤20に大きな水しぶき! 大型海棲魔獣、3頭!」魔獣はこちらに向けて突進しだす。


「直進してきます!」

いろいろと紹介回のため、回りくどくて申し訳ありません。

筆力が乏しいので、努力して上げていきたいと思います。

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