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名誉のためでなく  作者: ulysses
第1章
10/19

第009話 際会

 王立軍 魔獣研究所での証言も終わり、暗号名【トラスト作戦オペレーション・トラスト】と呼称される特殊任務の概要説明も一段落したある日の午後、シガルソン大尉に急用が入ったため翌日までの予定がキャンセルになった。

 魔獣研究所は陸上施設が多く、制服も王立陸軍と同じものの胸に【魔研】を象徴する盾の徽章を付けている。H.M.S.フラウンダーとその乗組員が所属する新設部署【調査科】では、今までの王立海軍の制服の襟に盾の徽章を付ける事で、暫定的に引き続き着用することになっていた。現在は、乗員分の徽章の支給待ちだった。

 シアーズを気遣ったエムリス・ウセディグ副長とケンジー・ランドール少尉が改装中のフラウンダーに残ると言い、シアーズには気分転換の外出を勧めた。

 ティム・キャニング候補生は、酒保での飲み食いを何でも艇の伝票に付けてよいという初陣のご褒美に喜び、好きなだけケーキを食べに行っている。シアーズは少し考え、私服で軍港のゲートを出て街へと歩き出した。


 衣服に頓着しないシアーズは、フランネルの黒いシャツの上に、本来は郊外や田舎で着るべき茶色のスポーツコートを着て、グレーのスラックスに茶のデッキシューズという有り合わせの服装だった。街ではそれを見て眉をひそめる通行人もいたが、彼の意識に上ることはなかった。

 これといって目的がある訳ではなく、ただ通りから通りへ街を彷徨っていた。この15年間、基地か海上かを問わずに途切れなく軍務に就いており、まとまった休暇をとったことがなかった。故郷には係累もいないし、もとより帰る勇気はなかった。

 シアーズの目には流れる人波が、ただ自分と関係なく過ぎて行く海の浪のように見えていた。歩きながら彼は、途方に暮れていた。

 

 そんな時、シアーズを呼び止める声が聞こえた。聞こえたというより感じた、という方が正しい。その声はかすかに耳に届いた、今にも消えそうな老爺の呟き声だった。

 通りの辻に蹲る、すり切れ汚れたマントのフードに隠れた頭部からその声は聞こえた。

「軍人さん、聞いて行きなされ。当たるも八卦、当たらぬも八卦。為すべき事がないのなら、無駄に潰やす刻もまた戯れによかろうて。お代はいらぬでな、座りなされ」

 アブドッラー・アル=ハズラッドと名乗った辻占い師は、赤道の砂漠島ペルキリアから流れてきた巫民よ、とかすかに聞き取れる声で呟いた。

 何かに導かれるように、いつの間にかシアーズは彼の前に広げられた(むしろ)に座っていた。

 

「お前様は、何か大切なものを失っておるね。親かな、兄弟かな、信念かな……。おお、心にトゲが刺さって、哀しみが大きく育っておる。フフフ、いずれ哀しみに呑み込まれるかも知れぬのう。今は何も出来ずとも、何事も時節が肝心じゃで、その時々での選択を大事にすることじゃ。……なに、解析魔術は使っておらんわい。儂はただ、迷いの道しるべを示すことで口に糊しておる民の一人じゃでな、迷うておる者が分かるし伝えるべき言葉は自然と浮かんでくるのじゃ」

「大したアドバイスは受けていないような気がするが、暇つぶしにはなった」と言い、肩をすくめたシアーズは銀貨を渡した。

「ふぉふぉふぉ、これはこれは。大金の御礼代わりに、一つサービスじゃ。こちらの通りを、海に向かって歩くが良い。そこに良い時節が待っておろうて。行くがよい、また機会があれば、会う事もあるじゃろう」

 その方向へ歩き出したシアーズがふと、「なぜ軍人だと分かったのか」と尋ねようと振り返ると、老爺の姿はもう無かった。


       ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 マーカンヴィル離宮庭園。

 シアーズが歩いて行った先には、広大な庭園を囲む鋳鉄製のフェンスが広がっていた。入場料を払い、門をくぐった。

 

 マーカンヴィル離宮庭園は、ミネルヴァ王ジョージ6世の離宮として聖歴1427年から6年の歳月を掛けて建設されたが一度も行幸されることはなく、その後イスタグリア伯爵へと下賜された。現在は、このリノン半島一帯が私営庭園となっている。

 小振りだが美麗な宮館を中心に階段状に芝の広場が広がり、テラスには色鮮やかな橙色の縞模様が連なる。日陰がない広場を歩いていると、シアーズは汗ばんできた。

 木陰を求めて、鬱蒼とした木々が立ち並ぶ散策路を歩く。樹齢500年を越すライム・ツリーの枝陰に入ると、心地良い海風が渡り人心地がついた。ゆっくりとオリンピア・ガーデンへ向かう。

 オリンピア・ガーデンとは聖歴1510年から1530年に掛けてユピテル・ガーデン、ユノー・ガーデン、ウェヌス・ガーデンが造られ、1562年にディアナ・ガーデンとウェスタ・ガーデン、1583年にケレス・ガーデンが追加された大庭園である。

 木立を抜けると突然、目の前に海が広がる。海に向いて並ぶベンチに腰掛け、オリンピア・ガーデンの下にある小さな湾、バーノン・プールに寄せては引く波を眺めた。

 ポケットからブライアーのパイプを出し、携帯用の皮の葉入れからコンステレーションという刻み煙草を詰め、震える指に灯した火で苦労して吸い付けた。


「……微細なトゲが少佐の魔力放射の中心に食い込んでいるように見えたのですが、消えてしまいました。少佐は最近、前回の大魔嘯の夢をよく見るとおっしゃいましたね。今まで眠っていた呪いが、動きだしたのかもしれません」

「時限式の呪いという事か。そんなもの、聞いた事がないが……」

「以前、迷宮入り事件の資料庫で、記録を見たことがあります。ガリアスから亡命してきた漁師の監視記録で、受け入れから約10年後にノイローゼにかかったそうです。エルフの精神科医や神官、呪祓師などに診せたが良くならず、あわやという所で妻の妊娠が分かり、突然全快したとありました。解析魔術の記録を分析した結果、精神系の呪いがかけられていたと結論がでたそうです。残念ながら、魔術の系統や属性、術者の特定はできていませんでしたが……」シアーズは、『どこの資料庫』なのかシガルソンに聞きたくなったが、どうせはぐらかされると思い、あきらめた。なんにせよ、今のところは呪いを解く事ができないのだった。

 シガルソン大尉の急用というのも、おおかたこの呪いに関して上層部と協議しているのだろう。任務から外されるかもしれない。悪くすればお払い箱か。どうでも良いか、ちくしょう。シアーズは自棄気味にひとり笑った。

 しばらくして立ち上がり、手すりにパイプの火皿をコンコンと当て灰を落とし、また歩き出す。


 メイン・エントランスを入ると聖歴1575年に建てられた控え屋敷があり、現在は瀟洒なレストランになっている。その前面にはユピテル・ガーデンが広がり、海沿いの道を進むとベンチが木立の中に並んでいる。穏やかな午後の陽の下、散策中の人々が思い思いに座っている。しばらく歩くと広い三日月形の堡塁が現れ、3基の魔砲台が沖に向けて並んでいた。対岸にはプリムゼルの街並みが望め、スミッソン灯台が陽炎の中で揺れている。

 

 そのまま歩いて、ユノー・ガーデンにさしかかる。コロニアル様式の温室の前には、整然と整形された生垣が並び、それに続いて花壇が築かれている。そこには、リラの花が咲き乱れていた。

 楡の木陰の鳩のモニュメントは看護士の祖、ミリアム伯爵夫人を記念したものだ。噴水の脇には120年前に活躍したアラモス提督を讃える、海龍に支えられた台座に大剣が刺さったモニュメントが威風堂々と聳えている。シアーズは、提督のモニュメントを眺めた。アラモス提督の海戦物語は幼い頃のお気に入りだったが、今はわずかな感慨が湧くだけだった。

 

 ウェスタ・ガーデンでは、ガーデン・ハウスの前に広大な芝の広場が広がっている。人々は寝転び寛ぎ、弁当のバスケットを広げている者もいる。遅い昼食だろうか、とシアーズはぼんやり考えた。何もかもを飲み込む絶望感は、少しは癒えた。だが、澱のように沈潜したわだかまりは、心に暗く染み付いていた。

 ウェスタ・ガーデンの一番奥に隠れるように、バラ園があった。薄紅色のバラが、慎ましやかに揺れている。その向こうには、林に囲まれて東屋が建っている。

 休んでいこうと東屋の階段を上ると、一人の若い女性がいた。


「こんにちは、よいお天気ですね」


 彼女の第一声は、それだった。ありきたりな、変わったところの無い普通の挨拶。鈴の転がるような声で、それは美しい音楽のようにも聞こえた。小首を傾げにっこり笑い、肩までの金髪がはらりと揺れた。細面の輪郭、(すみれ)色の大きなくりっとした瞳、少し低めの小さな鼻、撫子色の唇が映える白い絹のような肌。まるで人形のように整った、冷たくも見える容貌に生気を吹き込む凛としながらも優しさをたたえる眼差しに捉えられ、シアーズは雷に打たれたように硬直し、ただそこに立ち尽くしていた。

 彼女は困ったように二重の瞼をまたたき、くすりと笑った。その笑みを見てようやく我に返ったシアーズは、「すまみせん、お邪魔をしました」と(きびす)を返そうとした。その女性は膝にスケッチブックを立てて東屋の内部をぐるりと巡るベンチに座り、右手にコンテを持っていた。スケッチの邪魔をしてしまったようだった。

「ご気分がとても悪そうにお見受けしますわ。どうぞ、お座りになって下さい」


       ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 私は少し顔色が悪いその男性に、思わず声を掛けてしまいました。それは普段の私からは、考えられないような大胆さでした。

 私は、せめて気分が良くなるまでこの東屋のベンチで休んでいってもらおうと思い、スケッチブックを閉じて立ち上がりました。するとその男性は、それは悪いと私を(とど)めるのでした。お互いに何度も遠慮し合っていると可笑しくなり、二人とも同時に吹き出してしまいました。

 

 その(かた)が身に着けている服装はマナーを無視していましたが、組み合わせは不思議と不快ではなく私とも釣り合いがとれています。何故なら私も、マナーを無視した独自のコーディネイトだったからです。

 本日の私の服装は、塹壕用コートのデザインを取り入れた、服飾デザイン科の友人に作ってもらったグレーのトレンチジャケット、白いブラウスに空色のスカーフを胸前にふわりと流し、最近発表されて物議を醸した膝下丈の空色のスカート、黒いタイツに同色の乗馬用ロングブーツという組み合わせです。お父様に知れたら、お小言を頂くかもしれません。いいえ、何にでも興味を示す好奇心一杯のお父様ですから、目を輝かせて褒めてくださるかもしれませんね。

 

 目の前の男性の理知的な眼差しと穏やかな物腰、控えめな態度に、この方は学僧か教師なのではないかと想像していました。ですから、ようやくお互いに落ち着いた頃、「ディラン・シアーズと申します。王立……魔獣研究所に務めています」と、にこりと笑いながらおっしゃった言葉にやっぱり、と思いました。魔獣研究所は軍隊でありながら、務めている方々は皆さん研究者だと聞いています。

 その笑顔に私は、「ティアナ・エ……ランドです。ロンディニウムのターナー芸術学院に通う画学生です」と、思わず本名を名乗ってしまう所でした。私は訳あって、エランドという偽りの姓を使っています。とても心苦しいのですが、私が学院で過ごすには必要な事なのです。私は、心の中で謝罪しました。


 その後はどちらからとも無くぽつりぽつりと会話をしながら、でも間にはさまれる沈黙がとても自然で、私はバラの園のスケッチを続けていました。シアーズさんもゆったりと座り、景観を眺めています。シアーズさんは研究に没頭してしまう性分なのかしら、話していると世間の事に驚く程疎かったりします。私の話に驚く仕草が何だか子どものようで、微笑ましくなってしまいます。彼も気分が良くなったようで、血色が戻っていました。

 

 初めて()った男性と二人きりなのにこんなに心が穏やかなのは、19年の人生で初めての経験です。

 いいえ、ちょっと嘘を吐きました。本当はドキドキしています。


       ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 陽もだいぶ翳り、夕暮れが近い。彼女も帰り支度を始める。私は彼女と連れ立ち、庭園の門へと歩く。途中、会話をしながらティアナ嬢が微笑むのに、見蕩れてしまった。

 そのうちに、門に着く。別れの時間だ。しかし彼女はなぜか立ち止まり、もじもじしている。思わず私は、彼女に声をかけてしまった。

「もしよろしければ、食事でもご一緒願えませんか?」

 その瞬間、彼女の顔はぱぁっとほころんだ。「ええ、喜んでご一緒しますわ」

「誘っておいて申し訳ありませんが、この街に詳しくないもので、どこか寛げるお店をご存知ありませんか」これは男としてどうなのだ、と思いながらも自然に話せた自分に驚いた。

「ふふ、そうですね……。ちょっと変わったお店ですが、一度行ってみたいと思っていた場所があるのです。そこでよろしいですか?」小首をかしげ、聞いてくる。一も二もなく、賛成する。ふたり並んで歩き出す。

「サウス・テリトリアル・ロードとリッジウェイ・ロードの交わる角に、『十の鐘亭テン・ベルズ』というパブがあるのです」

「パブですか? それでは食事などできないでしょう。それに貴方のような女性が入るには……」あまり品行のよろしくない女性だと見られてしまう。それは避けたい。

「そのパブは、『パブ・レストラン』を標榜していてパブほど猥雑ではなく、レストランより堅苦しくない寛げる空間と美味しい異国料理が楽しめると、最近はロンディニウムにも評判が聞こえているそうなのですわ。私、お友達に自慢してしまいますね」楽しそうに笑うティアナ嬢に、懸念も霧消した。しかしパブ・レストランとは聞いた事がない、一体どんな店なのだろう。


       ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 三階建ての石造りのチューダー様式の建物の一階に、パブ『十の鐘亭テン・ベルズ』はあった。扉をくぐるとほんの少し暗くした魔導照明(マギ・ランタン)が灯り、穏やかな会話とピアノ・コンボが演奏する音楽がゆったりと流れる空間だった。

 八割程の混み具合だが、うるさくはない。ふたりは空いたテーブルに座り、ティアナはジャケットを脱ぎ、スケッチ道具と一緒に脇の椅子に載せる。クローク・サーヴィスは行っていないらしい。街なかでは、二人の服装に眉をひそめる視線を何度となく感じたものだが、店内に入ってからはまったく感じなかった。どうやら、自由な雰囲気が売りでもあるらしかった。

 

 注文をしに行くカウンターを探し頭を巡らせていると、10歳くらいの犬獣人の少年が注文を取りにきた。

「いらっしゃいませ。ご注文は、お決まりですか?」

「注文を取りにくるとは、珍しいんだな。メニューやお勧めはあるかな、食事がしたいんだ」

「よく言われるんだy……言われます。コホン、本日のコース料理はいかがですか? シキ国風料理で、評判はいいんだ……いいんですよ」つっかえながらも一生懸命な様子に、ふたりは微笑みを浮かべ勧められたコース料理を注文する。


 やがて運ばれた料理は味も盛りつけも、どれも素晴らしいものだった。


 食前酒にライチ酒、食事中は辛口の白ワインを飲む。

 鮑、白魚、春野菜のサラダ。

 真鯛の炙り(レア)。

 帆立、蕗の薹、椎茸の揚げ物。

 シャリアピン・ステーキ。

 アルフォンシーノの鍋風。

 コンガーの煮付け。

 筍のフライ、一寸豆みじん粉揚げ。

 鱒を炊き込んだライスボウルとシキ国風すましスープ。

 ワインシャーベットとフルーツの盛り合わせ。


 キリリと冴えた白ワインは、シャリアピン・ステーキにもよく合った。店の雰囲気と料理にふたりは心の垣根を取り払い、互いを更に身近に感じていた。談笑し互いの近況などを語り合ったが、話せないことも互いにあった。

 ふたりの背後では、ウィリアム・エヴァンストン・トリオが演奏する、Waltz For Debby 〜 Turn Out The Stars 〜 What Are You Doing The Rest Of 〜 Sugar Plum 〜 Easy Living 〜 My Romance などといった曲がゆったりと流れている。


 やがて食事も終わり、ふたりは店を後にする。月明かりの下、満ち足りた思いでティアナが宿泊している高級なホテルまで送っていく。無言で歩いたが、何かが二人の間には築かれていた。いつか、今日話せなかったことも話せるのではないかと、再会を確信していた。

 入り口で別れの挨拶をし、彼女は何度も振り返りながらロビーへと入って行った。

 シアーズの手の中には、王都での彼女の連絡先が書かれたメモがあった。基地への道を辿りながら、心の中で「次の良い時節に。きっとまた、それは来る」と呟き、微笑んだ。このところ感じていた絶望感は、すっかり消えていた。


       ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 プリムゼルのある安ホテルの一室で、【王立海兵隊 特殊舟艇作戦部】に所属するユージーン・シガルソン大尉は中間報告書を(したた)めていた。タイプライターを使用すると印字したインクリボンが残るため、万が一を考え重要な書類はいつもすべて手書きだった。

 一区切りがつき、シガルソンは指先で煙草に火をつけ深く吸い込んだ。椅子の背にもたれ、たゆたう紫煙を目で追う。


 シガルソンは別に、シアーズの呪いについて上層部と協議をしていた訳ではなかった。初期段階の【C任務】要員としてシガルソンは、大きな権限を与えられている。多大なストレスのかかっているシアーズのガス抜きのため、一度気を緩めさせるために姿が見えないようこのホテルに籠ったのだった。明日にはシアーズも多少なりとも落ち着いて、意に染まない任務も受け入れ易くなるだろう。


 初期段階の【コントロール任務】とは、記憶や心情、劣等感、意地、トラウマなどを刺激し、あらゆる手段を用い特殊任務を遂行するのに最適な精神状態に調整する行為をいう。場合によっては脅迫や、女や金品を餌にする事も厭わない。

 今回は、それほど厄介な案件ではない。シアーズが呪いに呑み込まれようと克服しようと、H.M.S.フウラウンダーが謎の敵性勢力を誘き出す囮であることに変わりがない。却って与し易しとみて、のこのこと早い段階で接触してくる可能性もある。

 諜報関係や汚い格闘の訓練などが終わり、【トラスト作戦】が開始されれば自分の任務は終了だ。任務の本当の目的を知らされていないシアーズたちは、ある意味幸せか……。


 そんなことを考えている自分に、何十度目かの嫌気がさした。

※スポーツコート……………………ブレザージャケット

※アルフォンシーノ…………………金目鯛

※コンガー(コンガーイール)……穴子

※シキ国風すましスープ……………吸い物


※設定資料その1に、ネレイーシス世界図及びミネルヴァ連合王国図をを掲載しました。

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