第83話 突入
逃げ腰の不審者の手引きで扉が開かれる。
その瞬間、逃げ腰の不審者の背後に隠れていた白の騎士団員が、扉を開けた者に掴み掛かり地面に引き倒した。
扉を開けた者の口を押さえ、声を出すことは防げたが、それでも引き倒した際に少なからず物音がしてしまった。
が、この程度の物音は仕方ない。
要は、賊を待機所から出さなければ良いだけの話である。
扉を開けた者を押し倒した際の物音が聞こえたのだろう。
「どうした?」と言う声が、通路の奥の待機所から聞こえてきた。
それの声に答える事も無く、大きな盾を持った2人の赤の騎士団員を先頭に、数名の赤白両騎士団員が待機所目掛けて駆けて行く。
ガチャガチャという足音が響き渡る。
その足音に、賊の1人が待機所から警戒しながら顔を覗かせようとした。
その賊と、盾持ちの赤の騎士団団員が鉢合わせする形となる。
顔を覗かせた賊が「何だ!?」と言うのを無視して、盾持ちの赤の騎士団団員が無言のまま、手に持った盾で顔を覗かせた賊を待機所に押し戻す。
「押し戻す」という言い方をすると優しく聞こえるが、ようは盾で体当たりをかまして、無理やりに待機所に押し戻した、という事だ。
「ぐあっ」と言う声の後に「何だ!」や「誰だ!」という声と、何かが倒れたり壊れたりする物音が響き渡る。
少々なら上に聞こえない、という話だったが-
-少々ってどれくらいだ?
そんな事を思いながら、俺も扉をくぐって地下通路へ入る。
激しく争う物音も、俺が待機所に付く頃には収まっていた。
待機所の中をちらりと見ると、4名の賊が床に押さえつけられていた。
その横に、うつ伏せで倒れて動かない賊が1人。
「抵抗をしたため、やむなく」と報告する赤の騎士団員に、「仕方ないな」と頷く。
突入前に「出来るだけ殺すな」と言う指示は出していたが、あくまでも「出来るだけ」だ。
この建物内に居るだろう者で、必ず生け捕りにしなくてはいけないのは店主のみだ。
それ以外は、無理する必要など無い。
しかし、コレだけ騒いでも誰も来ないという事は、本当に上には漏れていないようだ。
それとも音は漏れてはいるが、この程度の物音は日常茶飯事という事か。
どちらにしても、俺達には都合の良い話だ。
俺は目で隣に居た白の騎士団員に合図を送る。
その合図で白の騎士団員が、待機所の向いにある扉の横に張り付いた。
情報では、被害者を閉じ込めている牢屋がある部屋だ。
賊は4名捕縛で1名死亡。
扉の所で1名捕まえたので、全部で6名。
地下に居るとされている賊の人数と同じ数だ。
だから地下にはもう賊は居ないはずである。
だが、あくまでもそれは賊の情報を元にした予想でしかない。
嘘を付いている可能性もあるし、上に居るという他の賊が降りてきている可能性もある。
用心に越した事は無い。
俺の前に盾を持った赤の騎士団員が待機するのを待って、扉の横に張り付いた白の騎士団員が牢屋のある部屋の扉を開けた。
盾を持った赤の騎士団員が身構えるが、部屋から誰か飛び出してくる、という事は無かった。
扉の横に張り付いた白の騎士団団員が手に持った灯りを部屋の中へと向けた。
ぼんやりと部屋の中が明るくなる。
やはり部屋の中に賊の姿は無いようだ。
部屋の両隅に何か動くものがある。
どうやら拉致されていた被害者達のようだ。
左側の牢屋の中に男性が、右の牢屋の中に――俺は咄嗟に白の騎士団員の持っていた灯りを手でさえぎった。
それだけで灯りの全てが防げる訳ではないが、何もしないよりマシだろう。
何故そんな事をしたのか。
被害者の女性が半裸に近い格好に見えたからだ。
何の為にそんな姿にしているのか―商品として扱っていたなら、それ程、酷い目にはあわされていないと願う。
因みに男も半裸に近いんだが、まあ男なのでどうでもいいだろう。
いや、今はそんな事を考えている場合ではないか。
俺は灯りを持った白の騎士団員に、灯りを下げるように指示を出す。
そして身を包む事が出来るものを、何か持ってくるように言った。
すぐに監視室にあった一枚の毛布が運ばれてくる。
それを受け取った俺は、暗い室内に入ると被害者女性の入れられている牢の方へと向った。
廊下の明かりでぼんやりと鉄格子が見える。
俺はその内側に毛布を差し入れると「コレで身を包むといい」と言った。
牢の中で誰かが立ち上がり、毛布に手を伸ばすのが薄っすら見える。
その人物は毛布を受け取ると、うずくまったままの人物に毛布を掛けたようだ。
赤の騎士団団長「もう、灯りを持ってきても大丈夫か?」
俺の問いに反応が無い。
もう一度聞こうと口を開く前に、「えっと…はい」という1人の女性の声が聞こえてきた。
その返事を受けて、灯りを持ってこさせようとして――思いとどまる。
そして、返事をしたらしい女性に「質問があるのだが」と声を掛けた。
赤の騎士団団長「毛布は1枚しかなかったのだが?」
薄っすら見える人影。
身を寄せ合って毛布を被っているであろう人影の隣に、立ち上がっているのが何となく姿が見える。
赤の騎士団団長「今、灯りを持ってくると、貴方が大変な事になるのはないのか?」
俺の言葉に「そうなんですが、毛布の大きさが2人分しかなかったので」と返ってきた。
「足りないなら足りないと言えばよかろう」と言う俺に、女性は「これ以上、お手を煩わせるのも何だと思いまして」と、言った後に「それに少しの間、恥ずかしいのを我慢すれば良いだけですので」と締めた。
―そういう問題なのか?
間違っても、そういう問題じゃないだろう。
俺は赤の騎士団団長の証であるマントを外すと「これで体を隠すと良い」と、女性の方に差し出した。
女性がマントを受け取り、それで体を包んだのを本人に確認した後、灯りを持ってくるように指示した。
すぐに牢に灯りが射す。
左の牢屋には、鉄格子まで来ている男性2人が、右の牢には牢の奥で毛布に包まっている2人の女性と、赤の騎士団団長の証のマントで身を包んで立っている1人の女性がいた。
赤の騎士団団長の証のマントで身を包んでいる女性が、思った以上に若くて驚いた。
女性と言うよりは、少女と言ってもいい年齢かもしれない。
こんな状況でもしっかりと受け答えをしていたので、まさかこんなに若いとは思わず少し驚いてしまっただけなのだが。
その少女が真っ直ぐ俺を見つめる。
何故だか落ち着かない気がして、視線を他の者に移す。
どうやら他の者も見る限りでは、怪我をしていたり、病に冒されていて、早急に手当てが必要そうな者は居ないようだ。
俺は全員に聞こえるように、自分は赤の騎士団団長である事と、助けに来た事を伝える。
そして、賊をすべて捕らえるなりするので、それまでここで待て居て欲しいと伝えた。
待機所に居た賊の話で、牢の鍵は店主が保管している事が判明した。
それ以外に目新しい情報は何も無いようだ。
もうコイツ等をゆっくりと尋問している時間も意味も無い。
騒がれても邪魔なので。さっさとご退場願う。
単に、地下水道の小部屋まで連れて行って、他の賊と共に監視するだけなのだが。
地上への扉を一枚開ける。
扉の向こうは小さな踊り場のような空間があり、折り返すようある階段の先に、もう一枚の扉があった。
どうやら、元々は地上の扉1枚だったのを、踊り場の部分に後から扉をつけて2重扉にしたようだ。
1人の白の騎士団員がゆっくりと階段を上がり、2枚目の扉に張り付く。
音を聞いて、上に誰か居ないかを確認しているのだ。
扉に張り付いていた白の騎士団員がこちらを振り返り頭を振るうのを見て、「行け」という動作をする。
その合図を見た白の騎士団員は、扉を少しだけ開け、向こうを覗き込む。
少しの間、そのままでいた白の騎士団員は、ゆっくりと扉を開けると、隙間から1階の廊下を覗き込んだ。
少ししてこちらを振り返ると「付いて来い」とでもいうように腕を振るう。
そして静かに扉を開けると、廊下へと出ていった。
白の騎士団員の合図で、他の者達も足音をさせないようにゆっくりと上に上がっていく。
俺も同じように、1階へと上がった。
1階部分の作りは、情報通りのようである。
地下階段を上がると、左に伸びる短い廊下。
その先はT字路になっていて、左が2階への階段、右が真っ直ぐ伸びた廊下。
右に伸びる廊下の右側には扉が1枚、左側には3枚。
地下階段の手前の廊下は人が1人通るのがやっとという程度で狭いが、2階への階段から真っ直ぐ伸びる廊下は、大人がすれ違うのに不自由しない程度の広さがある。
扉は情報通りなら、右が香料店へ繋がっており、左は手前から倉庫、店主の部屋、従業員室となっている。
すぐに各員が静かに配置に付く。
各扉に2名、店主の部屋には2名と俺が待機する。
その他の者達は、2階の制圧だ。
と、ここで廊下の先の窓の外に人の気配がしたので視線を向けると、白の騎士団員の1人が窓から覗き込んでいるのが見えた。
向こうもすぐにこちらに気が付き立ちあがると、しっかりと頷いた。
外のメンバーもいつでもいける、という事だろう。
俺も頷き返すと、階段手前にいるメンバーに「行け」と身振りで指示をする。
階段を駆け上る音が響く。
それを聞きながら、目の前の扉を開け放つ。
ざっと見たところ、中に居るのは男が1人。
この男が店主だろう。
男は大きな机の向こうに、半ば腰を浮かせた状態で固まっている。
もしこの状況で逃走するとしたら、背後の大きな窓からだろう――が、すでに外には白の騎士団員の姿が見えるのでそれは無理である。
固まった店主が何か言う前に「動くな!」と叫んだ。
それにびくっと身を震わせた店主は、それでも咄嗟に机の引き出しから何かを取り出そうとした。
その瞬間、店主の後ろの窓が叩き割られる。
窓の外に白の騎士団員が回りこんでいた事に気が付かなかったのか、いきなり窓が割られた事に驚いた店主が振り返ろうとして、机に体をぶつけて痛がる。
―だから動くなと言ったのに
男が回復する前に、俺の両脇にいた赤の騎士団員が机を回りこんで男を取り押さえた。
俺も机に近づくと、店主が何かを取り出そうとしていた引き出しを見る。
引き出しは何段かあったが、どの引き出しかはすぐに分かった。
上から2段目だけが中途半端に開いていたのだ。
その引き出しを開けてみると、中には幾つかの書類の上に一振りの短剣があった。
まさかこんな探検で戦えるはずも無く、もしかしたら自害しようとしたのか。
そんな度胸が有りそうには見えないが。
何にせよ無事に店主を確保できて何よりである。
あっけないものである。
2階では未だに怒号が響いているが、店から突入した赤白両騎士団が続々と2階へと上がっているのですぐ終わるだろう。
捕縛した店主を連れて共に外に出ると、若と白の騎士団団長が居た。
店主を他の者に任せると、2人に近づいていった。
白の騎士団団長「お疲れ様です」
赤の騎士団団長「疲れるほどの事はしてはいないが、あの暗い地下水道はうんざりしたな」
俺の言葉に白の騎士団団長が、再度「お疲れ様です」と言った。
赤の騎士団団長「そうだ、若。姫の騎士団員を数名、地下の牢屋に行かせてくれ」
若「どうしました?」
赤の騎士団団長「捕まっていた女性が半裸に近い姿だったので、男ではまずいだろう」
「一応、毛布などで身を包ませてはいるがな」という俺の言葉に頷いた若は、美女殿を呼び寄せると二言三言、話をした。
美女殿は頷くと、すぐに数名の姫の騎士団員をつれて店の中へ入っていった。
2階も静かになり、店の制圧は終了した。
誘拐犯のアジト制圧により、店主1名、従業員1名、賊11名捕縛(賊4名は戦闘により死亡)
攫われていた被害者、男性2名、女性3名救出。
赤白両騎士団員、それぞれ1名ずつ軽傷。
店主を生きて捕らえる事が出来たので、今後、詳しい事件の内容がわかるだろう。
が、それを調べるのは俺の仕事ではない。
それ専門の者がいるので、任せておけば良いだろう。
若と白の騎士団団長と話し合い、この建物は白の騎士団で一時管理する事となった。
後は撤収するだけ、という段階で「兄ちゃん!」という声が聞こえた。
そちらを見ると、1人のチビが姫の騎士団員に連れられて来るのが見えた。
「誰だ?」と俺が口を出す前に、白の騎士団団長が「あの子が『賊が地下に逃げた』という情報をくれたんです」と言ってきた。
そのチビは走ってくると「優しいお姉ちゃんは!?」と若に聞いた。
若が俺のほうを見る。
―優しいお姉ちゃん、とやらが誰の事かわからない
地下の牢には3名の女性が居たが、その中の誰かなのだろうか。
俺が考えていると、チビが俺達の背後を見て「優しいお姉ちゃんだ!」と叫んだ。
そちらを見ると、美女殿達に連れられて3名の女性が香料店から出てくる所だった。
チビが「おーい」と手を振ると、その中の1人、赤の騎士団団長の証のマントで身を包んだ少女がそれに答えるように手を振り替えした。
―ああ、あの少女が、このチビの言う「優しいお姉ちゃん」なの―ぶっ!
赤の騎士団団長の証のマント――いい加減言いにくいので「マント」でいいだろう――で身を包んだ少女。
その少女がチビの呼びかけに答えるために手を上げた所為で、マントが肌蹴てその体が丸見えになってしまっていた。
いや、立ち位置的に、丸見えなのは俺だけか?
若の位置からは見えないだろうし、白の騎士団団長も微妙な位置である。
というか、そのまま動けば色々とまずいだろうに、優しい姉は気にした風も無く、そのまま動こうと―
―おいっ!!
俺は速攻で駆け寄ると、優しい姉の手を掴んで下ろさせ、マントの前を閉じた。
赤の騎士団団長「前が肌蹴てしまっているだろうが!」
優しい姉「ああ、すみません」
全然すまなさそうに見えない。
俺は嘆息すると「若い娘が、無闇に肌を晒すべきではない」と言った。
この歳になって女の裸の一つや二つで動揺する事は無い。
無いのだが、それも相手だとか状況だとかに左右される。
関係を持った女が2人だけの時に裸になるのなら構わない。
だが、年頃の少女がこうも無防備に肌を晒していたら、年長者として窘めるのが当然だろう。
いくら少女とはいえ、さすがに人前で肌を晒すのは良くない年齢なのは間違いない。
俺の言葉に「わかりました」と笑顔で頷く優しい姉。
優しい姉「騎士様には、ちゃんとお礼を言いたいと思っていたんです」
「会えてよかったです」と言う優しい姉。
赤の騎士団団長「お礼?」
優しい姉「そうです」
優しい姉は頷くと「助けてくださって、ありがとうございました」と深々と頭を下げた。
身を起す優しい姉を見た俺は、無意識に優しい姉を―
白の騎士団団長「…婦女暴行の現行犯ですか?」
赤の騎士団団長「-っ!すまない!!」
抱きしめていた優しい姉を突き飛ばすわけにもいかず、ゆっくりと自分の体から話した。
そして白の騎士団団長の方を見ると「コレには深い訳があってだな」と急いで言った。
白の騎士団団長「言い訳は本人に――いえ、美女殿に言うべきでしょうか?」
その言葉に急いで横を見ると、優しい姉の隣に、美女殿が立っていた。
俺は「や、優しい姉のマントが捲れていたので咄嗟に―」と、しどろもどろに言う。
我ながら情けない限りだが、美女殿の笑顔の前では仕方ないだろう。
背中に、どの戦場でも流した事がない類の汗が流れる。
その俺を見つめていた美女殿が「わかってますよ」と頷いた。
美女殿「先程のやり取りも見てますし、赤の騎士団団長様がそのような事をする方ではない、と存じております」
美女殿の言葉にほっと胸をなでおろす。
横で白の騎士団団長が笑いをかみ殺している。
―覚えていろ…
白の騎士団団長を横目で睨む俺に、優しい姉が「また見えてしまいましたか」と言った。
優しい姉「見苦しいものを何度も、すみません」
赤の騎士団団長「いや、見苦しくは無いが―」
そこまで言って、止まる俺。
失言した。
どうこの場を切り抜けよう、というか白の騎士団団長のつっこみをかわそうかと思案している俺に、優しい姉が「なら良かったです」と言った。
―いや、良くないだろう!
自分の失言を棚に上げて、優しい姉に心の中で突っ込む。
そんな事を知ってか知らないでか、優しい姉は「ちゃんと、直接会って御礼が出来て良かったです」と、微笑んだ。
赤の騎士団団長「そんな事は、後日でも良かったのだが」
優しい姉「いえ、今日を逃すと、もう出来ないと思いますから…」
優しい姉はそういうと、少し笑顔が翳ったように見えた。
その表情と言葉に不思議に思った俺は「今日ではないと無理?」と首を傾げた。
優しい姉「私のような者が、騎士様にお会いする事などできませんから」
そういってふんわりと微笑む優しい姉。
赤の騎士団団長「『私のような者』とは、一体何だ?」
優しい姉「それは…」
言いよどむ優しい姉。
しかし、すぐにハッキリした声で言った。
優しい姉「私のような”屋無しの娘”は、です」
俺の目を真っ直ぐみる優しい姉。
俺もその目をそらす事無く、真っ直ぐ見つめ返す。
赤の騎士団団長「馬鹿らしい」
優しい姉「…え?」
赤の騎士団団長「馬鹿らしい、と言ったのだ」
2度目は少し声を大きくして言った。
それに戸惑う優しい姉を見て鼻で笑う。
赤の騎士団団長「そんな”些細な事”が、俺に会う会わないの基準になるのは馬鹿らしい、と言ったのだ」
その言葉に、優しい姉の視線が少し揺れる。
赤の騎士団団長「それがどうした?」
優しい姉「……」
赤の騎士団団長「まさに『それがどうした?』だ」
優しい姉「…貴方様がそう仰っても、きっと他の騎士様達がお許しになりません」
赤の騎士団団長「俺が認めさせる」
優しい姉「…それでも、騎士様の一番偉い人が―」
赤の騎士団団長「俺が一番偉いから大丈夫だ」
俺の言葉に「は?」と言う優しい姉。
赤の騎士団団長「俺が赤の騎士団の団長だ」
「だから俺が一番偉い」という俺の言葉に、完全にフリーズする優しい姉。
俺はそれに苦笑すると「だから、気にせず会いに来ればいい」と言い、優しい姉の頭をぽんぽんと軽く叩く。
赤の騎士団団長「そのマントは、赤の騎士団団長だけが羽織れるマントだからな」
団長だけが羽織る事を許されるという事を説明する。
「だから、今は優しい姉が赤の騎士団の団長を名乗って良いぞ」と笑った。
その言葉に「なっ―!」と絶句し、急いでマントを脱ごうと――する前に先読みして、マントの前を掴む。
赤の騎士団団長「だから、若い娘が肌を晒すなと言っているだろう」
優しい姉「で、でも、大切なマントが―」
赤の騎士団団長「ああ、大切だ。だから、直接返しに来いよ」
「それまでは貸しておいてやるよ」と言った。
それでも何とかマントを返そうとする優しい姉に「着ていろ」とそれ以上言わせない。
それでも何かを言おうとしていたが、俺が見つめるとぎこちなく俯き「ありがとうございます…」と小さく言った。
それを見届けて、マントから手を話す。
優しい姉達被害者は、美女殿達に連れられて馬車に乗り込んでいった。
その際に「じゃあ、またな」と俺が言うと、優しい姉はちょこんと会釈をして馬車に乗り込んでいった。
――――――――――
赤の騎士団団長と優しい姉のやり取りを眺めつつ、ニヤニヤする。
僕「あれは、わざとですか?」
白の騎士団団長「完全に素ですね。」
何と言う男前。
僕が女性なら、確実に惚れてしまっているだろう。
僕「素でアレって、赤の騎士団団長は僕の事を言えないですよね」
白の騎士団団長「私はどっちもどっちだと思いますけどね」
「そんな事は無いと思うんだけれども」と言う僕に「姫と若のときも、周りから見たらあんな感じでしたよ」と白の騎士団団長がバッサリと切る。
それは…何ていうか「ごめんなさい」としか言いようが無い。
―あんなに恥ずかしい事をしていたのか、自分は。
当時を思い出して黙り込んだ僕に「何にせよ」と白の騎士団団長は言った。
白の騎士団団長「一段落着きましたね」
僕「そうですね」
と、そこで背後から「兄ちゃん」と声を掛けられて振り返る。
そこには小柄な少年が立っていた。
小柄な少年「優しい姉ちゃんを助けてくれてありがとう」
僕「いや、僕は何もしてないよ」
「助けたのは赤の騎士団団長だよ」と赤の騎士団団長を示しながら言う。
そんな僕の行動に、しかしながら小柄な少年は首を振った。
小柄な少年「兄ちゃんが話を聞いてくれなかったら、誰も助けてくれなかったと思うから」
「だからありがとう」と言うのだ。
僕はそれに何と答えようかと少し考え、笑顔で「うん」とだけ返した。
「どういたしまして」は違う。
だからといって、小柄な少年の気持ちをこれ以上否定するのも違う。
だから、「こちらこそありがとう」という気持ちをこめた「うん」。
それがちゃんと伝わったかどうかは判らないけど、小柄な少年はその返答を聞いて、同じく「うん!」と笑った。
姫の騎士団員に、小柄な少年を優しい姉の元へと連れて行ってあげるように言う。
そして、優しい姉が落ちついやたら、2人を姫の騎士団寄宿に案内するように伝えた。
手を振り馬車に乗り込む小柄な少年を見送る。
優しい姉が無事でよかった。
魔王『しかし、今回は本当に、お主は何もしてないな』
―そうだね
このまま居なくなっても、誰もその事に気が付か無いかもしれない…
いつもは2話に分ける分量ですが、1話としてUPしました。
その為に、いつもより文字数が多目となっております。
誤字修正
「わかてますよ」 → 「わかてますよ」