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(仮)  作者: イオン水
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第76話 目撃者

気を取り直して、それから3日が過ぎた―



僕「誘拐事件…ですか?」


殿下「はい」



僕の言葉に殿下が頷く。



殿下「若が以前に話していた、あの噂です」


―僕が話していた?



はて、そんな話なんかしただろうか??



魔王『しただろう』


―したっけ?


魔王『あれだ。商人父とかいう者から聞いた』



ああ!思い出した。

確かに聞いた後に、殿下にその話をした。

城下で起きている"らしい"事件だったので、念のために殿下の耳に入れておこうと思って伝えておいたのだ。



―その時聞いた別の話に衝撃を受けすぎて、忘れてた



殿下の后候補の話の事だ。



魔王『ああ、事後な』


―事故!



もうそのネタはいいよ…

いや、本当に勘弁してください。


…僕は気を取り直すと口を開いた。



僕「被害者の居ない誘拐事件、の事ですね」



僕の言葉に「そうです」と殿下が再度、頷いた。



僕「でもあの話は、あくまで噂だったのでは?」


殿下「そうでも無いようなのです」



殿下はそう言うと、白の騎士団団長の方を見た。

それを受けて白の騎士団団長が頷くと、僕に言った。



白の騎士団団長「誘拐事件に関する噂は少し前からありましたが、ここ最近、その数が増えてきました」


僕「それは…噂が広まったからでは?」



噂と言うのは、流す者の発信力に掛かっている。

TVも電話も無いこの世界では、人伝ひとつてが最大の伝言方法なのだ。

噂を面白おかしく、または興味を持つように話す力が無いと、聞いた人は次の人に話そうとも思わない。

そしてどれだけの人に話すかによっても、広まる速度は変わる。


噂なんてものは、少数の人間の中で語られている間はそうは広まらない。

が、ある一定の数を超えた瞬間に、爆発的に広まるのだ。

1人が数人に話す程度では広がる速度もたかが知れるが、10名が個別に数人に、100名が個別に数人に、1000人が個別に…発信者が多ければ多いほど、噂を知る者が増えていく。


鼠算ねずみざん式に。


だから、噂を知る者が増えた結果、広める者が増えただけなのではないか?

そう言った僕に、白の騎士団団長が「それもあるでしょうが―」と首を振る。



白の騎士団団長「目撃者が増えて来ていたのです」


僕「目撃者…」



いくら目撃者が増えようと、犯人を捕まえる所か被害者が一人も分からない状況では、事件自体に信憑性が低い。



殿下「今まで、目撃者は一般市民のみで、警吏や兵士といった者で誰一人として現場を見た者は居ませんでした」



伝え聞く話はどれも、確かにそうだ。

事件発生後に通報を受けて駆けつける事はあっても、直接、現場を目撃したり犯人を見たりした者の中に警吏や兵士などといった者は一人も居なかった。

それが余計に噂の信憑性を低くしている要因だったのだ。



―…ん?


僕「"でした"??」



過去形?



僕「誰か実際に現場を見たと?」


白の騎士団団長「そうです。我が白の騎士団団員の1人が、現場に居合わせました」



そう言うと、白の騎士団団長は簡潔に説明した。



その白の騎士団団員は非番だったので、許可を取って城下に降りた。

そこで現場を目撃したのである。


昨日の夕方、日も暮れだしたので戻ろうとしていた時の話だ。

人気の少ない路地を歩いている時に、小さな声が聞こえて足を止めた。

気のせいかと思うくらい、一瞬だけ聞こえたとても小さな声。

女性の…悲鳴というか、息を呑むような声に聞こえたそうだ。

そしてバタバタと暴れるような物音がした。


白の騎士団団員は気配を殺すと、物音のする路地を盗み見た。



白の騎士団団長「そこが事件の現場だったのです」



覗いた先には、覆面を被った数名の人物と、足元に気を失っているのか倒れた女性の姿が見て取れた。

それを見た白の騎士団団員は、気配を殺しながら腰の剣を抜いた。

非番とはいえ騎士なので帯剣はしている。


どのタイミングで飛び出そうかと考えていると、覆面が二人掛かりで倒れていた女性を担ぎ、移動を開始したのである。

それを見た白の騎士団団員は、すぐに飛び出して後を追いかけた。


相手は人を一人担いだ集団だ。

あっという間に追いついた。

と、覆面集団の中から2人、足をとめると白の騎士団団員の前に立ちふさがった。

そしてその2人を相手にしている間に、他の覆面集団は女性を連れ去ってしまったのである。



白の騎士団団長「その時に賊の1人でも捕まえる事が出来たら良かったのですが…」



取り逃がしてしまったらしい。


犯行現場に居合わせた白の騎士団団員は、決して弱くは無い。

少なくとも、賊の1人や2人に遅れを取るような者ではないらしい。

それくらいの実力は持った者だったのだ。



白の騎士団団長「賊が相当な手練てだれだったようです」



2人を相手にしていた白の騎士団員は、背後に気配を感じた。

そこには、先行した賊が回りこんだのか、それとも別で新た来たのかは分からないが、賊がもう1人、駆けつけてきていた。

その賊が背後から何かを投げた気配に、とっさに剣で薙ぎ払う。

その何かは剣に当たると白い粉を撒き散らした。


白い粉はそれ程の量ではなかったが、それでも上半身、特に顔の辺りに散ったのだ。

咄嗟とっさに眼を閉じ、息を止めたたが間に合わなかった。


細かい白い粉の影響を受けてしまったのだ。

粉が何で出来た物なのかは分からない。

分からないが、その効果は目潰しと痺れ。

眼は鋭い痛みに、開けているのも辛い。

そして徐々にではあるが、指先が痺れてだしていた。

痺れに関しては、時間経過でどれだけのものになるのかは分からないが、少なくとも、眼は今すぐ痛みが取れるような感じでは無かった。


痛みで殆ど開かなず涙で歪んだ視界の先に2人と、背後に1人の賊。

どう考えても、無事に切り抜ける事が出来る状態ではない。

そう悟った白の騎士団員は死をも覚悟し、ならば犯人の1人の遺体でも証拠として残そうと考えた。


視界が聞かない状態で賊を3人相手に、それでも白の騎士団員は致命傷を避けながら善戦していたが、徐々に押され始めて居た。

と、遠くから細い笛の音が聞こえた気がした。

すると、3人の賊は急に攻撃をめ、逃走したのだ。


その直後、警吏が数人、現場に駆けつけたのである。



白の騎士団団長「どうやら賊は、警吏が駆けつけるのを察知したようです」


僕「別で見張りが居たのかな?」


白の騎士団団長「そうかも知れません」



全身傷だらけの白の騎士団員は、駆けつけた警吏に状況を説明すると、倒れてしまった。



白の騎士団団長「どうやら、粉の影響以外にも、武器に毒が塗られていたようです」


僕「毒…」


白の騎士団団長「本来なら、本人の口から説明をさせるのですが…」



当の白の騎士団員は現在、意識不明の重態らしい。

その状態でありながら、警吏に説明するまで意識を保っていたというのは、賞賛に値するだろう。



翁「その白の騎士団員のおかげで、誘拐事件が本当に起こっている事だと発覚したのじゃ」


僕「…それでも被害者がどこにも居ないと?」


殿下「居ないと言うよりは、分からない、と言うべきでしょうか」



被害の届けがどこからも出ないのだ。



僕「何故、被害者が分からないんでしょうか?」



僕の言葉に誰も答える事が出来ない。

少しの沈黙が、執務室を満たす。


その沈黙は、執務室のノックの音で破られた。

ノックの音に殿下が返事をすると、扉を開けて赤の騎士団団長が入ってきた。


「現在、分かっている状況をまとめて来ました」と言うと、赤の騎士団団長は大きな紙の筒を殿下に手渡した。

殿下は「ありがとうございます」と受け取ると、その紙を机の上に広げた。



僕「地図?」



それは王都の地図のようだ。

細かい路地などまでは無く、ある程度の通りが書かれた程度の簡略地図だった。




殿下「目撃状況を記した地図です」



見ると、地図のあちこちに印と短い文章や矢印が書かれていた。

文章は「目撃した日」や「○本目の路地を入った所」「○○の裏」といった、日にちや場所の説明。

矢印は「○本目をどちらに曲がり○○にて見失う」等といった、賊を追いかけた経路の説明だろうか。


僕が殿下に話をした後に、念の為に情報を集めては居たようだ。

それを纏めた物を赤の騎士団団長の元で、急遽、纏めた様だ。



翁がすぐに部下を呼び、王都の詳細な地図を持ってくるように指示を出す。


地図と言うのは国家の最重要機密だ。

だから詳細な地図というのは、厳重に管理されている。

それは王都の地図だけではない。

国全体の地形などに関する物も全てだ。


詳細な地図の作成は禁止されている。

各領主が自分の土地の地図を作成するのは認められているが、それを他者に譲るのは、どんな理由であれ重罪だ。

ましてや、一般の者は、詳細な地図を作成しようとするだけで極刑モノである。

一族郎党全て処刑、というのも大げさではない。


この国に限った話ではなく、どの国でもそうだ。


それは何故か。


詳細な地図が他国に渡らないようにする為である。


詳細な地形図が他国の手にあるというのは、どれだけの不利益をこうむるかは、想像にかたくないだろう。

だからこそ、どの国も地図の作成や譲渡に重い罰を科すのだ。


因みに旅には地図が必需品だ。

だから旅人や商人は、地図を持っている。

しかしそれは、かなりの簡略地図だ。

大雑把な山や川や湖、それに町などの大体の位置が書かれている程度のモノである。


逆に言えば、その程度の地図しか所持が認められていない。




少しして翁の部下が一枚の紙の筒を持って表れた。


翁はそれを受け取ると、王都の詳細な地図を机に広げる。

たった2枚の地図で机が一杯になる。

というか、載りきれてない。


その詳細な地図に白の騎士団団長と赤の騎士団団長が、、赤の騎士団団長が持ってきた地図の内容を書き入れていく。



「貴重な地図に書き込んでしまっていいのだろうか?」と思ったが、魔王が『複写だからかまわんだろう』と説明してくれた。


確かに地図は最重要機密である。

だが、国王ともなれば、国政を行うに当たって使用する事も多々ある。

その為、原本とは別に数枚の複写を、いつでも使用できるように用意しているはずなのだ。

もちろんそれは極少数の者しか取り扱いが出来ないように、城の奥に厳重に保管されている。



少しの時間を置いて、王都の詳細な地図に写し終わったらしく、赤白両騎士団団長が地図から離れる。

その地図を殿下と翁が覗き込んだ。

インクが乾いていない所が、所々にある為に触れる事までしない。



この地図に記載されている物の中で一番古いのは、内乱当時。

一月ひとつきから二月ふたつき、長い時には半年くらいに一件くらいの目撃だったのが、内乱終結時には月に1、2件になっている。

そして最近では数日に一度、という頻度で目撃されていた。

もちろん中には、まだ分かっていない目撃情報もあるだろうが。




翁「さて、目撃された場所が分かったが、ここから何が分かるのか…」



全員が地図を見る。



殿下「…比較的、こちら側で目撃される事が多いようですね」



と、殿下が城の南側を指す。



赤の騎士団団長「そこら辺は…商店などが連なる区画でしょうか」


白の騎士団団長「確かに、(城の西側の一区画を指しながら)逆に貴族の屋敷などが多いこちらの地域は、ほぼ目撃されて居ないですね」


殿下「それは、その辺りに警備の兵が多かったりするからでは?」


翁「商店の多い地域で目撃が多いのは、人が多いから、とも言えますな」



地図の目撃分布から、色々と話をする面々。

すると殿下が「若、どうかしましたか?」と、静かに話を聴いていた僕に聞いてきた。



僕「…いえ、どういう人が被害にっているのだろうと考えてました」


殿下「被害者について…ですか?」



僕は頷くと「被害者不明、と言うのが気になって」と答えた。



僕「被害者が分からないというのは、逆に言えば被害者がどんな人達か分かれば、色々なモノが見えてくるかな、と思いまして」



「犯人とか動機とか」と言う僕に殿下が「なるほど」と感心するので、慌てて「ああ、そこまで納得しないでください」とクギを刺す。



僕「何となくそう思っただけでので」


白の騎士団団長「しかし、一理あると思いますよ」


赤の騎士団団長「では、どういった者が被害にあったのだと、若は思われるのだ?」



赤の騎士団団長の問いに僕は「う~ん」と腕を組んで眼を閉じた。

前に少しだけ出た話(第59話「都市伝説」参照)です。



誤字修正


そうでもない洋なのです → そうでも無いようです

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