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(仮)  作者: イオン水
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第75話 ダンス

南国の第三王女が姫の騎士団寄宿舎で、姫の騎士団員と共に生活すること3日。

南国の第三王女の一行は予定より1日遅れて王都入りを果たした。

その内容は、以前に少し触れているので、もういいと思う。


"初顔合わせ”はすぐに行われた。

これに関しても、前の2人と代わり映えしない。

国によって特色があるのかと思ったけど、国際的(?)な共通ルールでもあるのか、それ程の違いは無い。

せいぜい、正装に国の特徴が出る程度か。


そしてその翌日の夜には、「殿下の后候補」が3人集まったことにより、大きな歓迎の催しが行われたのである。




それから3日程が過ぎた―




魔王『……』


―…何?


魔王『いや、何でもない』


―そう?なら良いけど



気を取り直して、それから3日が過ぎた―






――――――――――







こんな大きな宴を開くというのは、国費の浪費でしかないと思う。

この一晩で消費されるお金で、一体どれだけの事が出来るのだろうか。

それこそ、若が前に言っていた孤児院や教育施設の一つや二つは建てる事が出来るのでは無いだろうか。

維持するお金が別で必要なので、実際には建てるだけではないのだけれども、それでもそれだけのお金が無駄に浪費されているのが心苦しい。


その原因が自分にもあるとしたら、なおの事だ。


流石に他国の姫君を歓迎する催しの為、行わないわけには行かない。

もう少し予算を抑えることは出来ないか、翁や有力貴族に相談したが、「これ以上は無理です」と言われてしまった。

これがギリギリのラインらしい。


これ以上、何かを削ると言う事は、国の威信を失墜させる可能性が高いし、歓迎する相手に失礼なのだそうだ。

この程度で落ちる威信などどうでもいい気もするけど、色々悪影響が予想されるのでまずいらしい。

それに相手に失礼と言われてしまうと、これ以上、僕に言える事は無い。




名前を告げられて会場に入る。

集まる視線。

これも僕が苦手なものの一つだ。


さっさと席まで行きたいが、優雅に歩みを進めないと駄目らしい。

国王と言うのは本当に面倒なことばかりだと思う。


会場の最上段が僕の指定席。

その一段下には、若達が居る。

横を通り抜ける際に若と目が合った。

その目が「殿下も大変だね」と言っているのを感じ、少し笑う。


やはり若はすごいと思う。

こういう場で、美女を3人もはべらせて――妖精少女を入れると4人だけど――あんなに堂々としている。

器が違う、本当に。


ちなみに若達と少しは離れて、妖精姉も居る。

妖精姉は当初、この宴に参加しないつもりだったらしい。

しかし皆に言われて、しぶしぶと言った感じで参加していた。

若達に隠れるように居るのは、余り目立ちたくないという本人の意思によるものだ。


その妖精姉とも目が合う。

目が合うまで無表情だった妖精姉だが、目が合うと「不本意です」とでも言うように頬を少し膨らませて顔を背けた。

見た目とは裏腹な、その行為に思わず微笑む。


日頃は静かに妖精少女のそばに居るだけなので、そういう性格のように思われがちだが、実はそうでも無かったりする。

まあこの国には知り合いが殆ど居ないということもあり、色々と溜まっているのかもしれない。

僕と話している時は普段とは違い、よく話すし表情もコロコロと良く変わる。

僕と話すことでストレス解消になるなら良いと思う。

僕自身も妖精姉と話していると楽しいし、ね。



そんな事を思いながら席に着くと、すぐに僕の后候補の3人が入る。


僕の后候補…

一体、僕は誰を娶るのだろう。



隣国の王孫女は僕より年下で、妖精少女と歳が近い。

年齢の割には聡い子だと、話していて思う。

だからと言って異性として見れるかと言うと、そうではなく「妹が居たらこんな感じかな」という気持ちになる。

そして、この歳で結婚相手を決められて(実際にはまだ決まって無いけど)しまうという事に、王族とはつくづく…と、思ってしまうのも確かだ。



北国の筆頭貴族の娘。

僕に一番年齢が近い。

言葉数も少なく、物静。

おしとやか、と言う言葉を体現したような女性である。

病弱と言う事もあり、弱々しいイメージだが、そうで無い事を僕は知っている。


数日前の話だが、北国の筆頭貴族の娘が窓から外を眺めている姿を見た。

方向が北国の方だったので、故郷を懐かしんでいるのかと思ったが、外を眺めるその目は意外なほど、力強かった。

普段からは考えられないほど。

何と言うか…「格好良い」と思えるほど。


女性に対して「格好良い」と言うのが、褒め言葉なのかどうかは微妙な所だけど。



そして南国の第三王女。

「格好良い」と言うのが褒め言葉になる女性。

彼女は他の2人とは比べ物にならないくらい、エネルギーの塊だ。

歳は僕より若達に近い。

僕との婚姻より、姫の騎士団に興味があるようだ。

と言うよりは、婚姻には興味が無いらしい。

かと言って南国の第三王女から断ってこないのは、王族として婚姻については割り切っているからだろう。



誰を選んでも、国にとってはプラスになる。

逆に選ばない事によるマイナスを天秤にかけた方がいいのだろうか。

少なくとも、選ばないことにより国交を断絶、という事だけはどの国も無い。


今の所は。



3人とも娶る、という判断だけは無い。

何故なら3人を選ぶと言う事は、3人に順位をつける必要があるからだ。


3人とも甲乙付けがたい。

3人自身もそうだが、3人の母国も、だ。

それに順位をつけるというのは、無理なのだ。


なら3人とも平等でいいじゃないか?と思う人も居るかもしれないが、そんな事を出来るのは若ぐらいだと思う。


姫姉さま、有力貴族の娘、美女さん。

この3人に順位など無い。

無いけど、3人の中では暗黙の了解がある。


有力貴族の娘と美女さんは姫姉さまを立てている。

姫姉さまは有力貴族の娘と美女さんを、自分と同列に扱っている。

そして有力貴族の娘は美女さんを尊敬していて、美女さんは有力貴族の娘を姫姉さまの次に立てている。


3人が3人とも、互いを尊重しているのだ。


何だそれは。


そういう言葉がしっくり来るくらい、奇跡的な関係だろう。

その三角形に入れる者など居ない。


いや、妖精少女なら、その中に入れるだろう。

というか、妖精少女が入って正三角錐となるのが本来の形なのだとしか、思えない。




僕には無理だ。

どう考えても、多くの女性を一度に幸せに出来る甲斐性など持ち合わせていない。

なら3人から1人、誰を選ぶか。


目線が自然と下がり、一人の人物を捕らえて―



音楽が鳴り始め、僕は「はっ」と我に返る。

いつの間にか后候補の3人が僕の隣に腰を下ろしており、ダンス曲が流れ出していた。

僕は立ち上がると南国の第三王女の手をとって階段を下りた。



念の為に言っておくけど、南国の第三王女を選んだのは最初から決まっていた事だ。


僕が南国の第三王女と、若が姫姉さまと一緒に降りて踊る。

そして終わる頃に、有力貴族の娘が北国の筆頭貴族の娘と共に降りてきて、それぞれ南国の第三王女と姫姉さまと変わる。

南国の第三王女と姫姉さまはそのまま席に戻る。

そして次は隣国の王孫女と妖精少女が降りてくる。


妖精少女に関しては、先の内乱終結の際の宴では踊る事は無かった。

しかし今回は、歳の近い隣国の王孫女が僕と踊ると聞いて、「私も踊りたい!」と希望した為、実現する事となった。

隣国の王孫女と一緒にダンスの練習を頑張みたいだ。

まだまだ何とか形になっている程度だけど、妖精少女が楽しそうに踊っている姿は、微笑ましい。


そして最後に美女さんと妖精姉が手を取り合って降りてくる。

これも最初から決めていた事だ。


妖精少女が参加することにより、当初は隣国の王孫女の手を引く予定だった美女さんがあぶれてしまったのだ。

その相手として、妖精姉に白羽の矢が立った。

妖精姉はもちろん断った。

目立ちたくない、と。

そこを姫姉さま、有力貴族の娘、美女さんの誠意ある説得(包囲網とも言う)により、首を縦に振る事となった。


しかり妖精姉は踊る事はしない。

美女さんと降りてきた妖精姉は、妖精少女の手を取ると一緒に、そして僕は隣国の王孫女と共に席に戻る予定なのだ。


若はそのまま美女さんと踊る。

どうせその後、若は色々な女性のダンスの相手をさせられるのだから、別に構わないだろう。

ちなみに僕は、今回だけは他の女性と踊るのを免除されている。


若は「美女さんが戻る時に1人なのは良くないので、僕も一緒に…」とか言っていたけど、美女さんに「子どもじゃないので一人で戻れます」と笑顔で言われていた。

「それなら行く時も一人で…」と妖精姉も口を挟んだが、「その場合、妖精少女が一人になってしまいますから」と、これまた笑顔で返された。


美女さんの笑顔は、やはりこの国最強のようだ。



その美女さんと妖精姉が降りてくる。

階段を降りきった所で2人は手を離し――という予定だったのだが、美女さんが妖精姉の手を離さないままに歩を進める。

妖精少女は笑うと、とてとてと小走り――バタバタと走るのははしたないと姫姉さまに注意されているので、見苦しくないラインを少し超えた程度の速度(駄目じゃないか)で――僕たちの方に来ると隣国の王孫女の手を取り、そのまま階段の方に向かった。

そして美女さんと妖精姉のすれ違う際に「頑張ってね」と言うと、そのまま通り過ぎて階段を上っていく。

僕たちの前で、やっと手を離した美女さんは「ふふっ」と笑うと若の手を取って離れていってしまった。



取り残された僕と妖精姉。


ここで妖精姉の手を取って階段を上がるというのは―無い。

もちろん、一人で戻るというのは、もってのほかだ。


僕は妖精姉に向かって手を出すと「お手を」と言った。

その言葉に、呆然としていた妖精姉が「ハッ」となって僕の手を取る。

そして「あっ」という顔を一瞬した。


きっと、ボーっとしていてつい、僕の言葉に反応して言う通りにしてしまったのだろう。

僕は妖精姉に近づくと、踊るために腰に手を回した。

その動作に妖精姉の身体が反応する。

しかし僕を振りほどく事はしない。


ここで僕を振りほどくと言う事は、僕に恥を掻かせる事になるから。

いくら恥ずかしくて嫌だからといって、自分と相手を天秤に懸けた場合に、相手を気遣う優しさを持ち合わせている女性なのだ。



「ううぅ…踊らなくて良いって言ったのに…」と言う、恨み言葉を耳元で聞くくらいは何て事も無い。

ただこれだけは言っておかなくてはいけないと思い、「僕も知らなかったんです」と耳元で囁いた。

その言葉に「ひゃぅ!」と小さく、悲鳴のような頷きを上げて、ステップが乱れる。


ちなみにダンスは、妖精少女の練習に付き合ったので、ある程度は出来るらしい。

妖精姉も、まさか自分が踊らされるために一緒に練習させられていたとは、夢にも思わなかっただろう。

踊りながら美女さんと目が合ったときに、「ああ、全員共犯か」と納得してしまった。


全員と言うのは、姫姉さま、有力貴族の娘、美女さんと妖精少女である。

后候補の3人が共犯かは現在は不明だが、隣国の王孫女は先ほどの行動を見る限り、ある程度、仲間に入っていたと予想される。



緊張のためか、身体からだの硬い妖精姉に「緊張しなくても大丈夫ですよ」と囁く。

それに「ひゃっひゃめです」と言う妖精姉。

どうしても緊張が解けないらしい。

ステップもちゃんと踏めてるし、後はリラックスしていれば問題ないと思うのに。

その事を伝えると「だ…から、みみぃ…っ!」とステップを乱しかける。

やはり慣れていない為か、話しながら踊るのは、まだ難しいらしい。

僕は妖精姉の緊張を解こうと、「大丈夫ですよ」など、言葉をかけ続けたが、結局最後まで緊張は解けなかったとようだ。


ダンスが終わった。

妖精姉は慣れない事で疲れたのか、息を乱している。

若干、顔も赤い。

そして立っているのもしんどいようだ。

僕に寄りかかるようにして何とか立っている。


若と美女さんがこちらに来た。

僕は小さな声で「妖精姉が疲れているようなので、やはり僕は妖精姉を連れて戻りますね」と告げる。

本当なら妖精姉と美女さんの2人で戻ってもらい、僕は若と共に女性達のダンスの相手をするつもりだったんだけど、仕方ない。


僕は妖精姉に「歩けますか?」と耳元で聞く。

妖精姉はビクッと身体を震わせると、コクリと頷いた。

が、どう見ても大丈夫そうに見えない。

僕が若の方を見ると、美女さんが僕とは反対側から妖精姉を支える。


「えっ!?」と一人残されて言う若に、美女さんが「頑張ってくださいね」と微笑むと、僕と美女さんで妖精姉を支えながら戻っていった。



妖精姉が席に付く頃には、再び音楽が流れ出し、若が貴族の娘とダンスを踊っているのが見て取れた。

僕達が踊っている間は居なかったが、周りでも多くの者達が踊っている。



僕は顔を真っ赤にして俯いている妖精姉に「大丈夫ですか?」と声をかけた。

それにコクリと妖精姉は頷くが、決して視線を上げようとはしない。

やはり体調が悪いようだと思い「部屋に戻ってはどうでしょうか?」と言う前に、美女さんが「慣れない事で疲れただけで、座っていれば落ち着くと思いますので大丈夫です」と言った。

そして妖精姉に「冷たい飲み物です」とグラスを手渡していた。


「殿下もどうぞ」とグラスを差し出されたが、「お酒は―」と断る。

飲めない訳ではないが、強くも無い。

だからこういう、公式の場では控えるようにしているのだ。


僕の言葉に美女さんは「果汁酒なので、飲みやすいと思います」と微笑んだ。

その言葉に、これ以上断ると言うのは失礼だと思い、受け取り口をつける。

よく冷えたそれは、果汁の甘みもあってか、とても口当たりが良かった。

「これは…確かに飲みやすいですね」と言う僕に、美女さんが「ここら辺の方は果汁酒を飲まれないようですけど」と言う。

たしかに初めて飲んだ。


果汁酒を片手に席に戻る。

妖精姉の事は心配だが、美女さんに「私たちが見てますので大丈夫ですよ」と微笑まれて、席に戻されてしまった。


美女さんの微笑み恐るべし、である。



チラリと妖精姉の方を見ると、姫姉さまと有力貴族の娘と何か話しているようだ。

音楽で何を話しているかまでは聞こえないが、小さく頷いたりしている。

姫姉さまが見ていてくれているので、まあ、安心だろう。


ちょうどダンスが終わった所なのだろうか、下では若が、何人目になるか分からないが、別の貴族の娘の手を取ろうとしていた。

少し離れた所に居る娘たちは、ダンスの順番待ちなのだろうか。

若がこちらを見る。

その目は「こっちは必死で踊っているのに、優雅に腰掛けてお酒ですか、そうですか!!」と言っている。

僕は手にした果汁酒の杯を若に掲げて微笑んだ。



今日中に全員と踊り終わると良いですね。

今回の最大の被害者は妖精姉でした。


途中から、と言うよりは最初以外は、語り部が殿下になりました。

若が飛ばしてしまおうと思った、后候補の歓迎の宴について、殿下に語ってもらったわけです。


ちなみに当初は魔王の予定でした。

しかし魔王だと面白みが無かった為(魔王ごめん!)、色々あって何人か候補が変わっていき、最終的に殿下で落ち着きました。


因みに「魔王→美女さん→有力貴族の娘→姫→殿下」とでした。

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