第71話 急展開・後編
南の小砦から撤退して二時(約四時間)。
未だに南の大砦までの行程の半分という所だ。
そこに背後を監視していた斥侯が戻る。
「敵兵が進軍中。その数約5000以上。このままでは半時程で敵に補足されます!!!」
斥候の言葉に緊張が走る。
思った以上に追撃が早い。
という事は、本隊が国境を越えて南の小砦付近まで来たのだろうか。
その前に南の小砦の兵を救出できたのは、僥倖と言える。
しかし今の我々の状態で、背後に迫っている5000以上の敵兵に対応できるか?と問われれば、厳しい。
数は此方の方が多いとはいえ、その中で戦える者はごく僅かだ。
南の大砦まではまだ半分以上の距離がある。
撤退時に南の大砦には、撤退の為の援軍を既に要請している。
しかし、その部隊が来るのは最短でもまだ二時(約4時間)は掛るだろう。
―敵との遭遇は避けられない。
そうなると、敵の追撃を耐えつつ撤退するしかない。
厳しい戦いがまた始まる。
魔王『しかし、やるしかあるまい』
僕は魔王の言葉に頷くと、どう対応するかに意識を切り替えた―
――――――――――
魔王『―という展開とかになると、面白いと思うんだが?』
―魔王の妄想かよ!
妄想の中の魔王はエライ格好良いな!?
ちょっと盛りすぎにも程がある気がするけど!
魔王『そうか?こんな物だろう。逆に言えば、控えめ過ぎたと感じるくらいだ』
―どれだけ自己評価が高いんだ!
魔王『変わりにお主にも、良い思いをさせてやっただろう』
魔王の言葉に「そうかな?」と首を傾げる。
どうも僕の役所は、魔王に依存している感が拭えないのだけど?
僕の疑問に『そうか?』と魔王が言う。
魔王『出てくる者どもは「いかにも」な感じの行動をさせてみたが?』
―まあ、確かにそうかもしれないけど…
魔王『姫など、ああいう行動を取りそうだろう?』
や、確かに魔王の話に出てきた姫の行動は「ありそう」と言えるだろう。
やられたら僕は確実に死ねる。
しかし全員が「ぽい」かと言えば…ぽいのかも知れない。
―魔王以外は!
いや、まあそれは魔王の物語…と言うのも癪だが、妄想なのでどうでも良い。
というか、最近の魔王のキャラ崩壊の酷さが一番ありえないと思うが、黙っておこう。
それより何より―
―そして何でそんな中途半端な所で終わってるんだよ!!
え?ちゃんと逃げ切れるの??というか、美女さんたちは!?
魔王『そうだな―』
――――――――――
敵の追撃を受けるくらいなら迎え撃つ。
そういうう結論に達した僕たちは、陣形を整えた。
とはいえ、南の大砦への撤退を行わない訳ではない。
撤退は行いつつも、背後からの敵襲に備えた陣形を取ったのだ。
南の大砦への撤退は行いつつ、敵に追いつかれたらすぐさま戦闘できるような陣形―
――――――――――
―いやいやいやいや、何、また始めようとしてるんだよ!
魔王『美女がどうなったか知りたいのではないのか?』
―すぐに出てくるのかよ!
このタイミングでとなると、僕たちのピンチに颯爽と(どこかからか集めた)軍勢を率いて助けに現れる、という程度のモノしかない。
魔王『いや、その案とは別の案もあるのだ』
―別の案?
魔王『敵の追撃部隊を率いているのが美女』
―何、その長展開!?
え?敵なの?
何で!?
その数日前に僕と美女さんは夫婦になったばっかりなのに??
魔王『それも今回の話を彩る為の伏線だ』
―伏線だと!
本当は敵だった美女さんは僕や姫たちと過ごす中で、僕たちと過ごす日常を愛していることに気が付く。
しかし美女さんは、それを押し殺した。
美女さんの立場では、その生活を甘受する訳には行かなかったのだ。
そうして、今回の裏切りにより、僕たちはピンチを迎える。
そして敵の追撃部隊との交戦の中で出会う、僕と美女さん。
「び…美女さん…?」と呼びかける僕に、美女さんは無表情のまま僕に斬りかかる。
余りの事に反応できずにそのままの僕。
間一髪で助けたのは有力貴族の娘だった。
有力貴族の娘「美女さん!何故!?」
有力貴族の娘の叫びに顔を歪める美女さん。
しかし有力貴族の娘への攻撃を緩める事はしない。
呆然とその光景を見ていた僕は、魔王の言葉に我に返る。
事情は分からない。
それでも美女さんを止める。
そして連れ帰る。
―僕たちの日常に!!
僕は有力貴族の娘と美女さんの間に割り込んむと、力の限り叫んだ。
僕「やめて!僕の為に争わないで!!」
誰もが一度は憧れるだろう言葉を言い放つ。
僕の一言で、僕たちの周りの音が止まる。
敵も味方も、命を懸けて争っていた者達が、一瞬にして固まった。
―ふっ、これが狙―
―まてぇぇぇいぃぃぃぃ!!!
いやいやいやいやいやいやいやいや。
―おかしいだろう!!!
魔王『ん?』
―なんでそこまでシリアス展開で、出てきた一言が「やめて、僕の為に争わないで!」なんだよ!!
魔王『これは奇な事を言う』
魔王が僕の言葉に『何を言っているんだ?』とでも言うように告げた。
魔王『「僕たちの日常に連れ帰る」と言っただろう』
―ぇ?どういう事?
魔王の言っている意味がわかんない。
僕がおかしいの?「僕たちの日常」って、そんなイメージ?
魔王が『そうだな―』と思案するように言うと、
魔王『もう少しヒドイ―かもな』
―魔王の妄想より!?
僕たちの日常って一体…
―いや、そんな事はどうでも良い!
何で魔王の妄想が2話も続くんだよ!!
魔王『もうそろそろ、こういう展開が無いと、飽きられるぞ?』
―誰に!!
いや、確かに平和な話が続いている。
続いているけど、実際に平和なので仕方ないだろう。
物語でもあるまいし、そうそう事件が起きていたら身が持たない。
―そもそも美女さんが裏切るとか、超展開にも程があるだろう
魔王『そうか?』
魔王が僕の言葉に『そうでもないぞ』と言う。
美女さんは元、勇者だ。
しかも「他国の」である。
国には友人知人はもちろん、家族も居るだろう。
魔王『そういう者を人質に取られたら?』
どうするか。
大切な誰かが人質に取られたからといって、すぐには裏切りはしないだろう。
少なくとも僕たちも「大切な誰か」に含まれていると自負している。
魔王『だからと言って、美女を裏切らせる手段は無い、などという訳はあるまい。方法などいくらでもある』
『自発的にしろ、無理やりにしろ―な』と魔王は言う。
―今回の魔王の話の美女さんは、どっちなの?
あくまでも魔王の妄想の話だけど、魔王が「現実に則している」と言うほどだ。
美女さんが裏切る理由も、「ありえる」内容なのだろう。
魔王『もちろん、”自発的”だ』
『そうでなければ、面白くあるまい』という魔王に、僕はのどを鳴らす。
―美女さんを自発的に裏切らせる方法…
これは是非、聞いておかなければならない。
もしかしたら誰かが、その方法で美女さんを―という事もあるかもしれないからだ。
―どういう方法だったのか教えてくれ。
僕の言葉に魔王は『うむ』と言うと、重々しく告げた。
魔王『南の国に自生する甘い果実を報酬に、だ』
―は?
魔王『南の国に自生する甘い果実を報酬に、だ』
魔王が2回言った。
でも大切なことには聞こえない。
―甘い、果実…え?何?果物?
魔王『そうだ』
―そんな訳あるか!
何が現実だ!
馬鹿じゃないのか。
何で果物一個の為に、僕たちは裏切られなければならないのだ。
魔王『その果実は南の地方でしか採れない珍しい果実なのだ』
しかも保存方法が難しい。
だから中々、こちらの方面には出回る事が無いらしい。
魔王『だから、かなり貴重な果物と言える』
―いや、それでもおかしいだろう!果物だよ!?
魔王『だが、アレに関しては、マジなのだ』
魔王が重々しく言う。
けど、もう魔王が重々しく言っても、全然重要そうに聞こえない。
『美女は本当にあの果実が好きだからな』と魔王が言った。
魔王『余り好き嫌いを言わない美女が「好き」だと言う、数少ない物の一つだろうな』
―そ、そうなんだ
その南の果実を美女さんが好きなのは本当のことなのか。
それだけはいい事を聞いたかもしれない。
魔王へのツッコミで忙しかった(周りから見たらボーとしているようにしか見えないだろうけど)僕に「到着したようですね」と美女さんが話しかけてきた。
美女さん「南国の第三王女の部隊が王都の門をくぐったようですよ」
美女さんの言葉と共に、空気が震える振動が王城に居る僕達の鼓膜を揺らす。
城下の祭りに集まった人々の歓声が、音ではなく振動を伝えてきたのだ。
10日以上に渡って続いていた祭りは、勢い衰えさせるどころか、盛り上がる一方だった。
そして今日、南国の第三王女が王都に到着した事により、盛り上がりは最高潮を迎えたのである。
南国の第三王女の一行の風貌が、彼らの盛り上がりに可燃燃料をどばどば投下させる。
兵士達は皆、見たことも無い衣装―南国特有の民族衣装らしい―を着て、馬に似た生き物―これも南国特有の生き物らしい―に乗っている。
ただそれだけなのだが、その風貌により、華やかなパレードの様相を呈していた。
僕達はその様子を王城から眺めていた。
僕の隣に立つ美女さんが「やっと来ましたね」と僕に微笑んだ。
僕がそれに何かを言う前に、「うむ!」という大きな声が聞こえる。
美女さんを挟んで僕と反対側に立つ女性が「遅すぎるくらいだ」と朗らかに笑った。
その人物、"南国の第三王女"を横目で見つめて、僕は小さなため息をついた。
皆さんは不思議に思っている事だろう。
南国の第三王女を迎えに行ったはずの美女さんが、何故僕と並んで南国の第三王女の一行が王都に入るのを見ているのか?
そもそも何で、その南国の第三王女の一行と一緒に来るはずの南国の第三王女が、僕達と一緒に南国の第三王女の一行が王都に入るのを見ているのか?
いや、そんな事より、魔王の妄想に憤りを感じているかもしれないが、ここは"何故、南国の第三王女がここに居るのか?"と言う方を疑問に思うように、協力をお願いします。
しかし「南国の第三王女」という言葉が出すぎて、意味が分からなくなってしまいそうだ。
たった数行の間に何回「南国の第三王女」という単語が出ただろう。
北国の筆頭貴族の娘とは雲泥の差に、涙が出そうである。
さて、「何故、ここに南国の第三王女が居るのか?」だが、それは2日程前に遡る―
魔王『―と言っても、大した内容でもないんだが』
―魔王はもう黙ってよ
2話にも渡って充分、話しただろうに…
妄想落ちでした。「夢落ち」と並ぶ最低さです。
こんな話を引っ張って本当にすみません。
ただこれで今後、この物語の終わりに「妄想落ち」も「夢落ち」も使えなくしました。
以下、言い訳は後日の「72話UP後の活動報告」にて。
誤字報告
複線 → 伏線