第7話 救出
キャッシュが残っていたらしくデータを頂けました!
再度書いてみたら前と(もう殆ど覚えていなかったのですが)全く違う話になってしまってました…
本当に感謝です。
ゆっくりと笑顔を上げて姿勢を正す美女殿はまるで歌劇の一幕を切り取ったような雰囲気だった。
誰もがその姿に声を出せないで居ると翁が拍手をしながら美女殿に近づいた。
翁「素晴らしい腕だった。そしてよう言ってくれた」
美女殿は笑顔で軽く会釈する。
翁はまだ尻餅をついて呆然とする領主息子を見て言う。
翁「大海は知ったか?」
領主息子ははっと我に返ると立ち上がる。
色々思うところが在るのだろうがこの場から逃げ出さないだけの矜持はあるようだ。
翁「美女殿の言った意味は理解できたか?」
領主息子「…はい」
翁「美女殿に敗れた事に屈辱を感じておるのか?」
領主息子「……いえ」
心中は穏やかではないが怒りを露にするほど愚かではないようだ。
翁「もしその事を恥に思うおなら間違っている。恥に思うべきは見た目に騙されて本質を見抜くことが出来なかった己を恥じよ」
領主息子「…」
翁「まぁワシもこのような見目麗しい女子が居たら騙されてしまうだろうがな」
豪快に笑いながら「どうじゃ?うちの孫の嫁に」と翁が言うのを「私には仕えるべき主がいますので」と笑顔で流す。
翁「蛙は大海を知った。ならやるべき事は分かるな?」
領主息子「はい」
領主息子の目に恥を飲み込み変わろうとする強い意思が宿る。
今の気持ちを忘れずに邁進すれば将来が楽しみだ。
領主息子「美女殿、数々の無礼お詫び申し上げる」
美女殿「私のほうこそ差し出がましい事を申しました」
領主息子「いえ。目が覚めました。貴方の言うとおりでした」
気持ちを入れ替え生まれ変わった領主息子にはもう美女殿を見下したりする気持ちは無く、まるで師事すべき師を見るような眼差しになっている。
周りの兵士達も同じような目で美女殿を見ていた。
―というより教祖とか神を見るようだな
同じ事を思っていたのか翁は私を見た後に眉を少し上げ「まるで宗教じゃな」と呟いた。
もしかしたら新しい宗教がここに生まれたのかもしれない。
翁「さて準備と選抜はどこまで進んでおる」
現領主に声を掛けるとはっとしながらも「ほぼ終わっております。もう出れます」と言った。
現領主も例外では無かったようだ。
選ばれたのは兵士隊長を含めた30人。
街道付近まで進み、一部の人数で姫を救出する。
残りのメンバーはもし敵に発見された時のための護衛要員である。
爺「翁が行かないとは予想外だな」
翁「本当は行きたいがワシもしなければならない事があるからな」
爺「ほう?」
翁「ワシらだけでは数が足りん。集めねばならん」
爺「大丈夫か?」
翁「幾人か前から連絡を取ってる信頼できる者達がいる。連絡を取れば2000くらいは集まろう」
時間を掛ければ領民などからも兵を募れば一領主でも1000を越える兵を集めることが出来るだろう。
だが兵は何も常時金がかかる。
領主が抱える専属の兵士となると普通は50名から多くて200程しかいない。
少ないところは10数名という小規模領主もいる。
中には一声掛ければ5000以上を集める大領主もいるが、それは自分の一門の領主や貴族の私兵を集めてであり、個人で数千もの兵を持つ領主は居ない。
王宮だけは別格で幾つかの騎士団等を抱え、全部集まれば万を越えるかもしれない。
翁の領主は国境に面しているが隣接国とは第一王女が嫁ぐぐらいの良好な関係が築かれているのでそれほどの兵数は居ない。
それでも有事の際は最前線となる為に350名の騎士を召抱えており、武具なども豊富に揃えている。
数十年前、まだ隣国と緊張感にあった時は最大で600名近く居たらしい。
翁「皆、今の国のありように心を痛めているものばかりだ。必ず呼応してくれる」
国の混乱を憂いている者は意外と多い。
先のクーデターの時も手は貸さなかったがクーデターが旨くいけばいいと思っていた者も居ただろう。間に合わなかっただけの者も居たかもしれない。
その後の国の荒れように危機感を抱いいる者も多いはずだ。。
このまま内部からの腐敗を止めないと内外部両方からこの国は死んでしまうだろう。
その事を理解している者達が手を貸してくれたら今度こそいけるかもしれない。
翁「領主息子よ。今のお主なら何故お主が選ばれないか分かるか」
領主息子「はい」
翁「そうか。反論は無いな」
領主息子「はい」
翁は満足に頷くと美女殿に振りかえる。
翁「お願いがあるのだが」
美女殿「出来る程度の事でしたら」
翁「領主息子を連れて行ってもらえんだろうか」
姫「わかりました」
領主息子が驚きの顔で美女殿を見る。
翁「感謝する。領主息子よ」
領主息子「はい」
翁「美女殿に付いて色々学べ。盗めるものは何でも盗んでこい」
領主息子「はい!」
翁「美女殿、よろしく頼む」
翁は軽く頭を下げそう言うと、自分も他の領主に連絡を付る為に動き出した。
――――――――――
王女救出部隊が集まった。
よく見ると美女殿の殺気に反応した者は殆どおり、全部で30名だった。
「指揮をお願いします」という兵士隊長が私に言ってくるのを首を「私より適任者がいる」振って否定し横を見る。。
兵士隊長も美女殿を見た。
爺「お願いできますか?」
美女殿「他の人がいいと思うのですが」
領主息子「貴方なら異存は無い」
「困りました」とさほど困った風でもなく呟く美女殿に他の兵士達も頷く。
―やはり信仰に近いな
爺「他のものも異存は無い様だし。頼みます」
美女殿「では、やれるだけだけやってみます」
館を出る前に地図で姫たちの居る場所とその近くの街道を確認すると作戦を話し出した。
日が昇ると街道を抜けにくくなってしまう為、ここからは時間の勝負だ。
美女殿「まず10名の騎士がこちら(地図上で目的地と90度方向が違う方向)へ出発してもらいます」
爺「この館も監視されてると?」
美女殿「2人か3人は居るでしょうね。1刻ほど走ったら2人一組に分かれて4方バラバラに分かれてここ(目的地の街道から少し離れた場所にある林)へ向かってください。もし追われている人がいたら数刻ほど走った後に大回りをしてこの館に帰還してください。指揮は兵士隊長様お願いします」
兵士隊長「様はいりません。了解しました」
美女殿「次は少しして15名と馬車に出てもらいます。方向は最初の10名と逆の方へ行ってください。1刻ほど進んだら適当な場所に隠れてください。指揮は爺様お願いします」
爺「わかった」
美女殿「隠れる場所は周りの開けた場所にある小さな茂みなどがいいですね。少ししたら10名はそのまま先へ進み最初のメンバーと同じように半刻ほどで2人一組で散ってください」
爺「馬車は?」
美女殿「馬車は場合によっては邪魔になるので無理には連れて行きません。10名が出発して半刻たったら馬車と共に目的地と別の方に移動し3刻後に大回りで館に戻ってください」
美女殿「領主息子様と最後のメンバーは半刻後に私と共に目的地方向へ向かいます。1刻ほど進んで追われてそうなら国境方面に方向転換して途中で同じように2人一組で分かれ、後は同じやり方で。全員の目的地はここ(街道から半刻ほどの距離)です」
美女殿が指差した場所を確認し全員が頷いた。
美女殿「鶏鳴の始め(1時頃)に集まりをを見て街道を越えるメンバーを決めます。遅れた人はここに待機になるので頑張って時間までに集まってください」
時間との勝負である。
美女殿「皆さんお願いしますね」
笑顔で告げる美女殿に皆は敬礼した後、行動を始めた。
――――――――――
一組目の部隊が館を出た。少し待って私達も出発する。
馬車を無理が無い程度に急がせながら一直線に走る。
半刻進むも適した場所が見当たらすにもう少し進む事になった。
途中、開けた場所にある小さな林を見つけ入る。
追われているかは今の状況では分からない。
5名を選び追手に十分に気をつけるよう言い馬車を任せて先を急ぐ。
2刻ほどして最初の手はず通りに2人一組に分かれる。
追手の気配は無いようなので目的地へ向かって向かった。
目的地の林に着く。
美女殿と領主息子と兵士隊長はすでに着いており、他の幾人かの兵と共にいた。
10名ほどが目的地に着いているようだ。
その後も兵がぱらぱらと集まりだし鶏鳴前までに全員が揃った。
迎えに行くのは美女殿、私、領主息子と兵2名。
兵士隊長には「日が昇りだしても戻らない場合や発見された場合は館に戻るように」と伝え、この場を指揮してもらうことになった。
徒歩で街道に向かう。
未だに数名の歩哨が居るが闇が濃くなったお陰で見つからずに街道は渡れそうである。
美女殿が街道の向こうにある小さな岩を指差す。
あそこに行けと言う事らしい。
歩哨の位置を確認し、私が先に行く。
出来るだけ低く音を立てないように走り岩の後ろに隠れる。
すぐにもう人一人の兵士が来た。
岩は小さく2人が隠れるがやっとなので兵に奥の森へ隠れるようにいうと音を立てずに移動する。
次の兵も同じように伝え領主息子も森へと消えたのを確認して私も森へ隠れる。
奥へと伝えると領主息子は「美女殿は?」という顔をしたがすぐ後ろに美女殿が居て驚きの声を上げそうになる。
街道から十分離れてから走り出す。
もうすぐ目的地という場所で美女殿が皆に姿勢を低くして下がるように合図をする。
少し戻った所で美女殿に話を聞く。
爺(どうしました?)
姫(知らない兵が居ます)
爺(!!)
姫(姫と若が無事なのか分かりませんが数が多いようです)
領主息子と兵は無言でどうするかの判断を待っている。
姫(結構の数が居そうですが、とりあえず様子を見てまいります。)
「少し待っててください」というと美女殿は気配を消して目的地の方へと向かった。
誤字修正
繭 → 眉
手を貸し手くれたら → 手を貸してくれたら
さっきの反応 → 殺気に反応
依存 → 異存
付いている → 着いている