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(仮)  作者: イオン水
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第62話 原因と結果

殿下は無言で目を剥く僕に「原因と言うのは少し言い過ぎですが」と笑った。



殿下「でも3人もの姫が送られてくるのは若が居るからです」


僕「僕…ですか?」


殿下「はい」


殿下は頷いた。

やはり意味が分からない。



殿下「若に興味を持った国がいくつも出てきたんです」



僕は内乱前まで全く無名だった。

この国に足すら踏み入れてなかったのだから当たり前だ。

それが内乱終結後にいきなり姫と婚約をした。

どの国も一体どんな人物なのか気になるのは当然だという。



殿下「そして若を調べた結果、内乱を早期終結させた人物だと知れ渡ります」


僕「いえ、別に僕が終結させたという訳では…」


殿下「若はそう言いますが、結果から見るとそう判断されてもおかしく無いんです」



姫の救出と反国王軍の集結。

小砦攻略。

赤白両騎士団の離反。

大砦攻略と黒の騎士団壊滅。

新兵器の開発。

領主軍の撃退と追撃。

王都攻略。

その全てにおいて関っているのだ。



僕「…何か有り得ないくらい誇張されてません?」



間違いなく姫の救出はしてない。

どちらかといえばたまたま出会って一緒に行動をした、と言うのが正しい。



殿下「しかしあの時の姫姉さまは最初の内乱で敗走した後、生存も絶望視されてたんです」


僕「確かに出会ったときも襲われてましたね」


殿下「その姫姉さまとあの森で再会できるとは夢にも思いませんでした」



あの森、というのは殿下たちと出遭った森の事だろう。

そもそもあそこで殿下と逢い、殿下の集めた勢力の事を知ったからこそ、小砦攻略に挑めたのだ。

それが無ければ翁ももっと慎重に行動していたはずだ。

そう考えるとやはり、殿下の求心力あってこそだと思う。



殿下「いいえ、逆です」


僕「逆?」



殿下たちも仲間を再度集める為に色々と動き回っていた。

しかし変な所に声を掛けて、国王派と繋がっていたらそこで終わりである。

一度敗走をしている所為せいで、殿下たちに賛同していた者たちの何人もが国王派に鞍替えしていた。

沈む船には乗りたくない、という事だ。

薄情と言えばそれまでだが、彼らにも守らなければいけない土地と領民が居るので、仕方が無いとも言える。



殿下「だから翁にあった後は身を隠して時機を待つ予定でした」


僕「それなのにすぐに行動に移す事に?」



あの時の殿下は、翁と渡りが付けば、すぐにでも行動を移す気が満々だった。

少なくとも僕はそう感じた。



殿下「若に出会ったからです」


僕「は?」


殿下「若に出会ったからです」



2回言われても意味が分からない。



殿下「若に出会って、賭けてみようと思ったんです」


僕「え?意味が分からないです」



あの時の事を思い返してみる。


夜、油断をしてたら囲まれていた。

危うく斬られそうになった時に、妖精少女に助けられた。

僕の油断と力不足の所為で、姫と妖精少女が危険な目にあった。



僕「…思い返しても、決起する決め手なんて何処にも無いですけど?」


殿下「そうですか?」


僕「妖精少女に助けられて、危うく姫と妖精少女を守りきれなかった事しか思いつきません」



あの時の僕が今くらい剣が使えてたら、2人を守れていたのだろうか?

正直分からない。

単独でなら囲いを突破して逃げる自身はあるけど、2人を守りつつと言うのは難しいだろう。


「正確には―」という殿下の声で思考を止めて、殿下に意識を戻す。



殿下「若と居る姫姉さまを見て、ですね」


僕「姫と、僕を見て?」


殿下「ええ、妖精少女もですが、あの絶望的な状況で姫姉さまは笑ってました」


僕「それだけで?」


殿下「それだけと言いますが、あの時はそれで充分だったんです」



「驚きとともに嬉しかったですけどね」と殿下が言う。

それほど先の敗戦は酷かったらしい。



殿下「目の前で多くの兵士達が、僕と姫姉さまを守るために命を落としました」



しかも裏切りによって、である。

その事が姫の心をどれ程傷つけたのかは想像できない。



殿下「捕まるか、既に殺されてしまったかもしれないと思っていた姫姉さまに逢えたばかりか、笑ってました」


僕「…」


殿下「若を見て、若のおかげなんだろうな、と思ったんです」


僕「…姫が笑っていた事が、決起する気になる事にどう繋がるんですか?」



殿下は少し考えてから「今だから言いますけど」と前置きをした上で言った。



殿下「決起しないと若が居なくなると思ったんです」


僕「は?」


殿下「あの時の姫姉さまの笑顔で、若に好意を寄せているのがなんとなく分かりました」


僕「えええ!?」


―たった一目でわかるなんて!!



殿下が一目で気付くくらいには、あの時点で姫が僕に好意を寄せてくれて居たなんて驚きだ。

そしてそれを見抜いた殿下の観察眼は凄すぎる。



魔王『…お主が鈍すぎるだけだと思うがな』


―うっ…



確かに僕は少し鈍いかもしれない。『少しか?』

それでも普通は一目でそんな事はわからないと思う。『そうでも無いぞ』


魔王がとても煩い。



殿下「あの時はまだ、姫姉さま自身もそこまで意識してなかったかも知れません」



無自覚としても、心の拠り所にはなっているように見受けられた。

もちろん妖精少女に対してもだ。

少なくとも殿下の目にはそう映ったのだ。



殿下「姫姉さまが男性にあそこまで気を許しているのを初めて見ました」



それは姫と言う立場上、男性と接する機会が無かっただけなんじゃないだろうか?



殿下「そんな姫姉さまを見て、僕も若に賭けてみようと思ったんです」


僕「理由がおかしい…」



説明を受けているはずなのに、間がゴッソリ飛んだようにしか思えない。

しかし殿下は「もう説明し終わりました」とでも言わんばかりの笑顔で僕を見ている。


姫が僕を頼りにしていたから。

そんな事で命を賭けた博打を決めたのか。



―おかしいよ



殿下はどちらかと言えば常識派だと思ってたのに。

一瞬で行き当たりばったりな非常識派に早代わりした。



殿下「もちろん、それだけじゃないですよ」



ため息をついて首を振る僕に、殿下が笑って言う。



殿下「翁が、翁と周辺領主が味方に付けば、内乱で戦えるだけの戦力はそろう予定でした」



しかしそれでも確実に勝てると言える程では無い。

次に一度でも負ければ終わるのである。

だからこそ完璧を期すために、確実に勝てるだけの戦力を集める時間を取ろうとしていたのだ。



殿下「だから若はきっかけです」



殿下が僕を真っ直ぐ見詰めて言う。



殿下「あの時感じた勢いに乗ろうと思ったんです」



「大正解でした」と殿下は笑った。



―やっぱり博打じゃないか


魔王『大博打だな』


殿下「だから若のおかげなんです」



何だろう。

そう言われてもどう答えて言いものやら困る。

僕の微妙な顔を見て殿下がまた笑った。



殿下「とりあえず、若のおかげで内乱が早期終結しました」


僕「いや…」



殿下の言葉に反論しようとする。

しかし殿下が「そういう事にして話を進めさせてください」と言うので頷いた。



殿下「少なくとも各国もそう判断しました」


僕「そう、ですか…」


殿下「敵対していた赤白両騎士団を離反させるカリスマ」


僕「…」


殿下「黒の騎士団と領主軍、あわせて約1万の篭る大砦を1日で陥落させる指揮能力」


僕「……」


殿下「領主軍を追撃する大胆さと深追いしない決断力」


僕「………」


殿下「新兵器を想像する知性」


僕「…………いっそ殺してください!!!!」



何コレ、褒め殺し?

新手の拷問なの!?


恥ずかしさで「一思ひとおもいに殺せ~~~」と言う僕に殿下が「もう言いませんから」と笑いながら言った。



―絶対楽しんでる


殿下「各国も似たような判断をしたそうです」


僕「僕だけの力ではないですし、僕が居なくても結果は一緒だったと思いますが」


殿下「少なくとも赤白両騎士団の離反は無理でしょうし、大砦を1日でなんてもっと無理だったでしょう」



首を傾げる。

はたしてそうだろうか?



殿下「大砦は王都を守る最終防衛ラインなんです」



大砦が落ちれば後は王都まで遮るものは無い。

だからこそ大砦は堅固な作りになっているのだ。

1~2万程度の兵に囲まれても、一月くらいは篭城できるぐらいの頑丈さも蓄えも充分なのだ。



殿下「その大砦が1日で陥落する、というのは衝撃的だったと思います」


僕「あれは大砦内部から門が開いたから出来た事ですよ」


殿下「それを成功させたのも若じゃないですか」


―そう、だったっけ?


魔王『赤白両騎士団を通じて黒の騎士団の一部を戦争放棄状態にし、扉を開けさせたただろう』



そう言われるとそんな気がする。



殿下「周辺諸国は内乱が長引くと予想してました。」


僕「そうなんですか?」



僕の言葉に殿下は頷きながら「僕達もそう考えてました」と言った。



殿下「最終的には国王軍が勝つ、とも思っていたでしょう」



それが蓋を開けてみたら短期終結の上、反国王軍の勝利で幕を閉じたのだ。



殿下「少ない兵力で内乱を勝利に導いた人物」


僕「それが既に過大評価がすぎる…」


殿下「僕はそうは思いませんが、そう評価されても仕方ないでしょうね」


僕「何故ですか?」


殿下「姫姉さまと婚約したからです」



本来ならそんな情報は眉唾物だろう。

少なくとも話半分以下に思われるはずだ。

しかし姫との婚約が情報に真実味を帯びさせたのだ。



殿下「内乱後の政策」


僕「僕は何もしてませんけど?」


殿下「若に相談に乗って貰った事が案件が幾つかあったでしょう」



確かにあった。

しかし世間話に僕の考えを述べたという程度のものだと思う。


しかし僕の言った事のいくつかは実行に移したらしい。



殿下「まだそれ程時間が経っていない為に結果が出ていないものばかりですが、どんな事をしているかは調べればすぐにわかりますからね」



内乱後に誰も想像しなかったような施策を行えば、注目を浴びると言うのだ。



―なんかズルをしている気分



と言うもの、この世界ではなじみが無くても僕の居た世界では普通に行われている、という事など山ほどあるのだ。

そういう事の中で役に立つかも知れないと思ったものを言っているだけなのだ。

言わば答えを知った上で知らない人に「さも自分が考えたように」言っているだけである。



―自分で考えたようには言ってないけどね


魔王『まあそれで良くなら、何でも良いのでは無いか?』



確かにその通りである。



殿下「数年後に結果が出れば、どの国もわが国の真似をするかもしれませんね」



僕はもと居た世界で結果を知っている。

でもこの世界では知られていない。

だから成功するかどうかもわからないし、そもそも細かい事まで予測は出来ないだろう。



殿下「極め付けは姫の騎士団でしょうね」


僕「姫の騎士団が一体?」


殿下「どの国にも多少の女性兵士は居ると思います。でも女性だけの騎士団はありません」


僕「そのようですね」


殿下「女性だけの騎士団と聞いて、どの国もたわむれで造ったお飾り、もしくは若が女性を囲う為の方便とでも考えていたでしょう」



確かにそうかもしれない。

実際に僕が女性を囲うのを隠す為のものだと陰口を聞いた事もある。



殿下「その姫の騎士団が少数でゴブリンの集団を倒しました」


僕「実際は惨敗と言えますけどね」


殿下「しかし死者は出ませんでした」



本来なら正規の騎士団が出向くレベルのゴブリンの集団。

そのゴブリンの集団を姫の騎士団だけで討伐したのだ。

冒険者や元兵士が殆どとはいえ、市井の出の者も居た。

しかも設立からさほど時間の経っていないにも関らず、である。



殿下「その一件で若への評価がさらに上がりました」


僕「ええ!?」


殿下「素人同然の女性集団、あくまでも各国の意見ですよ?その集団が正規の騎士団と同等以上の働きをしたんです」



僕が率いたから、と思われたらしい。

だから内乱も早期終結できたのだろう、と。



僕「その突飛な判断に誰も突っ込まないんですか?」


殿下「少なくとも情報上ではそうなってますからね」


僕「それでもおかしいと思うでしょう」


殿下「ありえない話ではないですからね」


僕「そうなんですか?」


殿下「過去に名を馳せた偉人というのは常識では考えられない伝説を残してますからね」



少数で万の敵を退けた将軍。

素手でドラゴンと喧嘩した冒険者。

一人で魔族の軍隊を壊滅させた勇者。

1日で砦の食料を食い尽くした兵士。



―何かどれも眉唾だね。というか最後のはどうなの?


魔王『大げさに伝わっているものもあるだろうが、少なくとも挙げられた4つの話はどれも事実ではあるな』


―本当なの!?1日で食べつくすってどんな胃だ!


魔王『食いつくのはそれか。確か呪いか何かの所為という話だったな』


―呪い…一体どんな呪いなんだろうね


魔王『さあな。それより魔族を壊滅させた勇者、というのは美女だぞ』


―えええええええええええ!?


魔王『さすがに一人では無いし、壊滅ではなく撃退だがな』



押し寄せる魔族を最前線に立って押し留め、最終的に撤退に追い込んだ、というのが実際の話らしい。


それでも凄いよ。

美女さんならやりかねない、というか実際にやったんだけど。



殿下「それで各国がわが国に警戒しだしたのです」



この国は特にこれと言った技術があるわけでも、資源があるわけでもない。

国の立地的には東西南北に抜けるのに便利と言う程度だ。

この国を通らずに東西南北に抜ける場合は遠回りになる、と言う程度の立地でしか無いのだ。

それでもいくつもの国が同盟を結ぼうと、殿下と自国の姫との婚姻の話を持ちかけてきたのだ。

それなりにこの国に価値なり、脅威なりを見出したのだろう。


「その原因が僕にある」と言うのは腑に落ちないが、殿下が言いたい事は判った。



僕「それで、殿下は僕にどうしろと?」


殿下「他国の姫たちの護衛をお願いしたいんです」


僕「僕に、じゃないですね。姫の騎士団にですか?」


殿下「はい」


僕「それは構いませんが―」



それだけで一々呼び出したのだろうか?

他人に聞かせないようにまでして話す事とは思えない。

それくらいなら普通に翁あたりからも話がありそうだからだ。


僕の疑問が伝わったのだろう。

殿下が「頼みたいのは別の事です」と言った。



僕「一体…?」


殿下「3人の姫たち、后候補の為人ひととなりを見てほしいのです」


僕「為人ひととなり?」


殿下「そうです」



3人の姫たちは当然の事ながら殿下も面会する。

殿下の見合い相手なのだ。

しかしずっと一緒に居るわけでは無い。

殿下にもやるべき政務がある。



殿下「若にも為人ひととなりを見てもらって、判断の材料にしたいのです」


僕「それが他の人に知られたくない事なんですか?」


殿下「はい」


僕「何でその程度の事を秘密に?」


殿下「別に秘密にする必要も無いんですけどね」



その程度なら翁も言ってくるのでは無いだろうか?

いや、さすがに言わないかな。

でももしかしたら護衛ついでに、ぐらいは言ってきそうである。



殿下「翁も多分、同じ事を言うと思います」


僕「なら何故?」


殿下「翁が頼む前に自分で言いたかったんです」



翁に先に言われる前に自分の口から僕にお願いしておきたかったらしい。

保護者に自分の恋愛について言われるのは恥ずかしいのだろう。



僕「だから今日は、なのか」


殿下「ええ」


僕「わかりました。わかりましたが―」


殿下「が?」



僕は深いため息をいた。



僕「前フリが長すぎです」



僕の言葉に殿下が「すみません」と謝る。

本当は殿下が悪いわけではない。


たったコレだけを聞くために、あんなバタバタしてしまったのか。



―どっと疲れが…


魔王『殿下が告白などするわけないだろうにな』



確かに魔王の言う通りなのだが、あの時はそれを否定できるだけの確信は無かったのだ。


とりあえず殿下の相談内容はわかった。

「出来るだけの事はします」と約束をして殿下の部屋を後にする。

そして空の館に戻ると、寝る支度をしてベッドに身を横たえた。


ほうっとため息を一つく。

精神的に疲労したのだろう。


僕はあっという間に眠りに―








―いや、魔王が言い出した所為じゃん!


魔王『今頃突っ込むのか!!』

3話に渡ってやっと殿下の相談が終わりました。


誤字修正

いや、魔王が言いだ所為じゃん → いや、魔王が言いだした所為じゃん

大砦攻略と黒の騎士段階壊滅 → 大砦攻略と黒の騎士団壊滅

背走した → 敗走した

再開できるとは → 再会できるとは

敗走をして居る →  敗走をしている

時期を待つ → 時機を待つ

殿下が気が一目で気付くくらい →  殿下が一目で気付くくらい

赤白量騎士団 →  赤白両騎士団

居いた → 居た

ため息を付いた → ため息をいた



殿下との会話での内乱後の政策について。

分かりにくい文章だった為に修正。

「若に相談した案件が幾つか」あり、「その中の幾つかを実行に移した」という表現に変更しました。

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