第56話 論功
姫の騎士団選考会最終日となった。
最終日まで残った候補者は347名。
あれから脱落者が一人も居ないというのは凄い事である。
姫の騎士団寄宿舎の広場はそれなりに広い。
それなりに広いが347名が並ぶと面積の殆どが埋まってしまう。
この中で模擬戦を行うのはさすがに無理である。
その為に最終日は城の訓練場広場で行う事となった。
一回目の選考会会場と同じ場所である。
城の訓練広場に姫の騎士団員と候補者達が並ぶ。
整列すると僕と美女さんは赤の騎士団団長と白の騎士団団長を連れて前に進み出た。
正面で皆の方に向くと「ピュー」という口笛が鳴って一斉に全員が敬礼した。
僕もそれに敬礼を返してから手を下ろすと姫の騎士団団員と候補者達が一斉に敬礼を辞める。
「ザッ!」という音が聞こえてきた。
―姫の騎士団ってこんな集団だっけ!?
赤の騎士団団長が小声で「素晴らしい統制だ」とか何とか言っている。
凄いけど、いつの間にここまでになったのだろうか。
少なくとも僕が顔を出していた10日程前まではそんな事無かったよね??
魔王『数日で何をしたのだろうな』
―美女…恐ろしい子!
などという驚きを出さないように気をつけて候補者の面々を見やる。
どの顔もやる気と緊張に満ちた顔をしている。
それは姫の騎士団員も同じだろう。
別に赤白両騎士団団長が来ているからと言うわけではない。
それも一部にはあるのかもしれないが、原因は別にある。
城の3階の高さにあるバルコニーに姫が来ているのだ。
それだけではない。
妖精少女と妖精姉はもちろん、第一王女まで見に来ているのだ。
第一王女はどうしても姫の騎士団を見たかったらしい。
選考会最終日は城の訓練広場で行うので姫が見学に行く、という事を知ると「私も見に行きます!」と言い出した。
この日の為に滞在日数を3日ほど延長しているのだ。
夫である隣国の国王には手紙で知らせているようだが、大丈夫なのだろうか。
明日には帰国するらしいから大丈夫だろうけど。
因みに子狼も一緒にいる。
出合った…という表現も微妙だが、妖精少女が面倒を見るようになった当初は妖精少女が2匹とも抱えていた子狼も、最近はすっかり成長して妖精少女の3分の1程度の大きさになった。
妖精少女にとても懐いていていつでもどこでも一緒だ。
遊んでいる時以外はおとなしく妖精少女について回っている。
姫や有力貴族の娘に撫でられても大丈夫と言うのは、小さな頃から一緒にいるからなのだろうか?
美女さんや妖精姉はむやみやたらと子狼に触れようとはしないので慣れているかどうかは判らない。
ただ美女さんが来ると伏せるので、子狼達の中の野生が感じているのかもしれない。
子狼の僕に対する反応は、何ていうか良く判らない。
僕も必要以上に近寄らないというのもあるけど、気が付いたらじっと見てる。
正直反応に困る。
嫌われているのかと思いきや、呼べば来るし撫でても嫌がらない。
ただ見ているだけの時があるというだけなのだが、一体何なんだろう。
魔王『えらい説明口調だな』
―べ…べつに今まで忘れてたんじゃないんだからね!!
本当に違うからね。
選考会最終日の話である。
なぜ赤白両騎士団団長が来てるのかというと、第一回と同じ手伝いをお願いしたからである。
両騎士団団長は快く了解してくれた。
お願いした時に赤の騎士団団長が食い気味に「了解した!」と言ったのはびっくりした。
もしかして自分も参加できると思っているのだろうか?
美女さんが最終日の内容を説明している。
第一回と同じく4つの隊に分けて模擬戦闘を行うのだ。
午前中は僕のチームvs候補者各隊、午後は候補者各隊の総当たり戦である。
しかしさすがに今回は僕と美女さんの2人チームで迎え撃つわけではない。
魔王『美女が本気を出せば全員と戦っても勝てるがな』
―美女…恐ろしい(ry
まあ本気を出すと死人が確実に出そうなので美女さんとペアは辞めておく。
姫の騎士団から一隊、僕のチームとして参加するのだ。
参加する隊は模擬戦毎に入れ替わる。
美女さん「今から半時(約1時間)の時間を与えます。各隊作戦を考えてください」
美女さんが指示を出すと姫の騎士団各隊はそれぞれ候補者の各隊を集めて作戦会議を始めた。
午後の模擬戦闘が終わった。
―別に説明が面倒だったわけではない!
魔王『……』
―何とか言ってよ、魔王。
午後の候補者同士の模擬戦は熾烈を極めた。
赤の騎士団団長が「ほう」と感嘆を漏らしたほどだ。
模擬戦全てが終わった頃には候補者達は立っているのがやっとの有様だった。
こうして姫の騎士団員選考会は終了した。
347名の候補者が合格。
元々居た29名と新たに347名が加わり、総勢376名の大所帯となった。
――――――――――
第一王女が帰国する日が来た。
姫の騎士団選考会最終日の翌日であるが。
僕達は見送りをする為に殿下と話をしていた第一王女に近づいていった。
僕達に気が付いた第一王女が「お見送りありがとうございます」と微笑んだ。
姫「またのお越しをお待ちしております」
第一王女「すぐに会えるわ」
―次に会う時は僕達の結婚式の時だろうか。
姫「そうですね。次は私達の結婚式にお会いできますね」
姫がそう言うと「楽しみにしてるわ」と第一王女が微笑んだ。
第一王女「有力貴族の娘も元気でね」
今日の有力貴族の娘は姫の騎士団員としてではなく、僕の妻として第一王女を見送りに来ている。
有力貴族の娘「第一王女様もお元気で」
第一王女「あまり我慢をしてはだめよ」
有力貴族の娘「はい…」
―我慢?
僕が疑問を口にする前に妖精少女が第一王女に「かえっちゃやだ~」と抱きついた。
ここ数日でかなり懐いたようだ。
その頭を優しく撫でて「また来るからね」と言う第一王女。
その言葉に「ほんと?」と聞き返す妖精少女。
「本当よ」と第一王女が言うと「うん」と呟くと妖精姉に駆け寄って抱きついた。
そして第一王女を振り帰ると手を振りながら「またきてね」と言った。
妖精姉も「お元気で」と挨拶していた。
美女さんと第一王女の挨拶が一番短かった。
お互い微笑んで「またお会いしましょうね」「はい」…短い。
仲が悪いと言う雰囲気ではない。
どちらかと言えば「言葉なんかは要らない」といった風である。
有力貴族の娘もそうだけど、美女さんも第一王女と一体どういう話をしたんだろう?
僕がそんな事を考えていたら白の騎士団団長が「そろそろよろしいですしょうか?」と声を掛けてきた。
第一王女は国から護衛の兵を少しは連れて来ている。
しかし念のために白の騎士団団長率いる白の騎士団50名が国境まで護衛の任に当たるのだ。
国境まで行けば隣国の兵が迎えに来ている手はずとなっているようだ。
第一王女は白の騎士団長に「ええ」と頷くと「ではまた。ごきげんよう」と軽やかに挨拶をし、白の騎士団団長の手を取り馬車に乗り込む。
白の騎士団団長が馬車の扉を閉めるとすぐに馬車が動き出し、それに呼応して護衛の兵や白の騎士団員が馬車を囲むように出発した。
白の騎士団団長は自分の馬に騎乗すると「言ってまります」と僕達に告げて馬車を追いかけて走っていった。
こうして第一王女は帰国の途に就いたのである。
――――――――――
領主息子の一団が帰還するという知らせが届いた。
内乱の後すぐから国中を回り、各地の被害を確認したり賊や魔獣を討伐したりしていたのだ。
その任期が終わり戻ってくると言うのだ。
僕と美女さんは帰還予定時刻に城門で領主息子達の帰還を待っていた。
そこへ領主息子の一団が帰還する。
馬を下りた領主息子は僕達に気が付くと「ただいま戻りました」と挨拶した。
最後に会ったのは姫の騎士団のゴブリン討伐の際だったが、あの時よりも雰囲気が変わっている。
初めて会った時は自信に満ち溢れたというより溢れ過ぎて困った感があった。
しかし今は落ち着き安心感が増したような気がする。
兵士隊長とも挨拶をしていたら城の侍女が身支度の案内に来た。
身支度を整えた後に殿下に謁見するのだ。
謁見の間には殆ど人が居なかった。
僕達が帰還した際にはあれだけ多くの貴族達が集まったのに、今は数える程しかいない。
まああれは僕達がボロボロで帰ったので、どんな失態をやらかしたのかと見に来ただけだろうけどね。
殿下が領主息子達に労いの言葉をかける。
そして翁が戦功を読み上げた。
賊などはそうそう居ないだろうと思っていたが、やはり国が乱れていた為か大小あわせて5つほどの賊の拠点を壊滅させたようだ。
魔獣も十数匹討伐したらしく、戦功としては十分だろう。
そして領主息子が齎す情報も有益なものだった。
領主息子に黒翼勲章、兵士隊長以下兵士達も階級がそれぞれ上がって各部署に配属される予定だ。
僕達姫の騎士の時より待遇が悪く見えるかもしれない。
勲章だけ見ればそうかもしれない。
しかし兵士達は階級が上がる。
これ以降も頑張ればさらに上がる事もあるだろうし、要職にも就く事もあるだろう。
姫の騎士団員も姫の騎士団員の中で頑張れば上がれるかもしれない。
あくまでも姫の騎士団という閉ざされた中だけだ。
―どう頑張っても副団長まで上がる事は事実上不可能だけどね…
魔王『それでも女が騎士になれる時点で今までとは違うのだがな』
だから褒章と言う形で姫の騎士団に報いたのだろう。
魔王『箔付けだろうがな』
―それも多分にあるだろうけどね…
領主息子は近衛兵隊長に任命された。
近衛兵のトップである。
今まで爺が兼任していたのだが、この事を見越して領主息子の為に空けていたのだ。
いきなり領主息子が隊長で大丈夫なのか?と思ったけど大丈夫らしい。
領主息子と共に行動していた兵の半分以上が近衛兵の人間で、領主息子の着任と共に近衛兵に戻り領主息子を補佐していくのだ。
兵士隊長は近衛隊副隊長として同じく領主息子を補佐していくらしい。
まあ爺と翁で考えた人事だから、そこら辺は手堅くしているだろう。
そして個別に褒美が与えられた。
領主息子へは領地が下賜されたのだ。
表向きは今回の働きに対する褒美である。
しかし以前にも話をしていたが、本当は内乱時の働きに報いたという面がある。
魔王『お主と姫を婚姻させたという戦功だろう?』
―そう言われると微妙な気がする。
姫と有力貴族の娘との関係に後悔など一切無い。
無いのだけどそう言われるとどうも腑に落ちない部分がある。
いやよく考えたら領主息子は悪くない。
独断専行は許されない事だけど。
―本当の戦犯は別にいる!
魔王『赤の騎士団団長か?』
そう、あの人は全く…
人の気持ちを勢いだけで暴露するというのはどういうことなのだろうか??
魔王『まあ全く気が付いていなかったお主にも罪はあるな』
―気が付かないのは仕方ないじゃないか…
魔王『鈍いにも程がある』
―今はそんな事無いからいいじゃないか!
魔王『……』
取り合えず赤の騎士団団長に報ふk…じゃないお礼をするのはまた今度考えよう。
そんな事を考えている間に領主息子達の論功が終了していた。
姫の騎士団選考会最終日については色々と思うところがあると思います。
しかしこういう形で短くしました。
理由の一つに「前回の選考会と代わり映えしない感」が自分の中で大きかったからです。
子狼の事は本当に忘れて無かったですよ?
同じく領主息子もね!
現領主は…出てこないけど自分の職務をしっかり果たしております。
…多分。
「活動計画」と言うのを見つけました(今更w)
今後の予定とか言い訳とか言い訳とか言い訳を書くと思います。
生暖かい目で見てあげてください。。。
誤字修正
バルオニー → バルコニー
就つく → 就く
姫の騎士団員の中だ → 姫の騎士団員の中で