第53話 第2回選考会
美女さんが僕に嫁ぐ(偽装)事はすぐにでも発表する事となった。
よくよく考えたら姫との発表と同時に有力貴族の娘が嫁ぐ事も発表され、それから間もなく美女さんを娶るのだ。
どれだけ女好きなんだという話である。
魔王『よくよく考えなくても女好きだな』
―仕方無しだよ!これで打ち止めだから!!
魔王が『そうだと良いな』と言うのが怖い。
本当に次が出そうだからやめて!
取り合えず美女さんを娶る(偽装)話はすぐに発表する。
魔王『(偽装)とは何だ』
―付けておかないといつの間にかその通りになっていそうでコワイから
『くだらん』と一笑された。ううぅぅ…
美女さんを娶る事を発表する。
では美女さんの正体をいつ流すか、という問題が残る。
姫の騎士団員にはあの場で見た事を口外しないように伝えて居る。
だが何処からどのように漏れ出るかはわからない。
殿下「今すぐはダメですか?」
爺「ダメでしょう。まだ他国の介入に対する備えが出来ていませんしな」
翁「若と美女殿の発表からある程度開けた方が良いだろうな」
「夫婦としての関係を無視できなくなる程度にはな」と翁は言った。
そうなるとどれ位の帰還が必要なのだろうか?
爺が「長ければ長いほど良いでしょうなと言う。
姫「いっそ知られるまで黙っておきますか?」
美女「そうも行かないと思います」
「姫との結婚式に他国から沢山の人が来るでしょうから」と言うのだ。
各国のお偉いさんの中には美女さんと直接面識がある者も居るようだ。
そうなると「の新芽が芽吹く頃」がタイムリミットと見ても良いだろう。
美女さん「その時期は私は隠れてましょうか?」
姫「ダメですよ。一緒に式を挙げるのですから」
―はい?
僕が「偽装だとわかってますか?」と聞くと「わかってます」と姫ははっきり答えた。
しかし私と有力貴族の娘が挙げるのに美女さんだけ挙げないのはおかしいと言うのだ。
翁「確かにのう」
僕「翁!?」
翁「よく考えなされ。姫の言うとおりだ」
有力貴族の娘と美女さんの発表は殆ど時期が同じである。
それなのに片方は挙げて片方は挙げないとなると、色々と勘ぐる者は出てくるだろう。
だから美女さんも挙げるべきなのだと言う。
それでも何か言おうとする僕に姫が「美女さんが居なくなっても良いんですか?」という言葉にぐうの音も出ない。
魔王『毎回毎回似た事でうじうじ言って、似た様な事で言い負かされよって』
―くっ
魔王『そろそろ損得で物事を判断できるようになれ』
―でも!
魔王『そういう立場なのだ』
魔王はそう言うとこれ以上の事は言わせないという感じに黙り込んだ。
魔王とそういう話をしている間に美女さんも一緒に式を上げるという方向で纏まりつつあった。
美女さんが僕に「よろしいのですか?」と聞いてきたので、少しして頷いた。
――――――――――
姫の騎士団の問題がいろいろと浮き彫りになった。
もちろん僕の能力不足もそうだが、やはり人数が少ない。
姫の騎士団員の増強をする事としたので第二次公募を行う。
勲章の授与などで姫の騎士団への応募数が跳ね上がり400名近い数が集まったらしい。
特に姫の騎士団に市井の者が居て同じく勲章を得たのが大きいようだ。
その市井の者である商人娘がそれを聞いて「恥ずかしいです」と言っていた。
400名近い応募の第一次審査はやはり書類審査だ。
翁が「早く若もこういう事をやる部下を持ってくださされ」と言われたので「今回で最後にします」と言ったら笑われた。
早くそれなりの地位に付いてくれと言われたのだ。
勘弁してください。
人数が増える。
どれくらいかわからないが増える事は間違いない。
だから姫の騎士団員が駐在する館をもらえないかと殿下に言ったらすぐに用意してくれた。
一の郭と二の郭に5箇所。
僕「多すぎですよ」
殿下「好きな所を選んでください」
僕「いえ、姫の騎士団宿舎なのでそんな豪勢な建物は必要在りません」
何だこの「お風呂が大きい」とか「ガーデニングが綺麗」とかは。
姫の騎士団団員が訓練できる庭などがあるような建物が良い。
そう言うと翁が「これはどうじゃ?」と一つの建物を出した。
古い。
一の郭の一番奥になる建物だが何せ古い。
かなり昔に人はすまなくなってはいるが国が管理していたので住むのは問題はない。
この建物を建てたのは昔の国の軍人貴族で「もし王都が攻められた時に篭城できないと困る!」と自分の館を要塞化したそうだ。
何せ館の周りに2重の堀を掘って水を張って跳ね橋にしている上に、高い塀で囲っているとという懲りようだ。
篭城を考えて水も引いているらしい。
本当は王都でクーデターを起こすつもりだったのではないだろうか?
城の裏門が館の中にあるというのは、よほどこの館を作った軍人貴族は信頼されていたのだろうか?
勝手に壁に穴を開けて作った訳ではないだろう。
因みに城壁に引っ付いているのはこの建物だけである。
殿下「数代前の王の後宮だったという噂もありますよ」
―また後宮か!
だから城から直でいける様になっているのか。
何にせよ姫の騎士団の宿舎としては申し分ないと思う。
一つには一番奥である事。
少々訓練で騒いでも文句は言われないだろう。
二つに直で城に上がれる事。
三つに堀と高い塀で囲われている事。
3つ目はどうなのだろうかと思うが、少なからず快く思っていないものが居る。
何かをすぐにされるとは言わないが用心するに越した事は無い。
騎士とは言え女性のみである事には違いない。
特に姫の騎士は執政と同じ地位にある事から、姫の騎士団に頭ごなしに命令は出来ない。
だがどこにも頭の悪い者は居る。
女性によからぬ事をしようとする者も居るかもしれないのだ。
姫の騎士の権力で頭の悪い権力者を、そして塀と堀で無頼漢をそれぞれ防げるだろう。
姫の騎士団の館は決まった。
殿下のお墨付きで中に入れる者は姫の騎士団員と執政並みの地位があるもの。
それ以外は殿下、もしくは僕の許可が居ると言う事にした。
それ以外で不当に侵入を試みた者は侵入者とみなして斬ってもよいと言うのだ。
さすがにやりすぎ感はあるが、館の裏に王城への入り口があるのである。
これを盾に正当性を無理やり付けた。
今後は姫の騎士はここで寝起きをし、姫の護衛の任の者だけが空の館に登る事となる。
すぐに姫の騎士団のメンバーと翁が用意した侍女を連れて美女さんが準備の為に下りて行った。
姫の騎士団寄宿舎に僕が入ったのは3日後、王城側から入ったがその異様さに驚いた。
王城側の入り口が3階の高さにあったのだ。
城と宿舎の3階から橋が伸びて繋がっているのだ。
そして寄宿舎側の橋の一部、城壁のところが跳ね橋になっている。
―どれだけ凝ってるんだ
魔王『物凄い用心だな』
王城へ上がるのに寄宿舎の中を通らないといけないのは中々良いかもしれない。
ただ王城から橋を渡って寄宿舎へ入ってすぐ近くの扉が寝室だというのは、やはり元々後宮として使われていたからなのだろうか。
―まあ一部屋を姫の騎士団の会議室にすれば良いか。
姫の騎士団寄宿舎は下記のような間取りになっている。
1Fは姫の騎士団団員の宿泊と食堂、厨房などの生活エリア、幾つかの会議室。
2Fは指揮官クラスの宿泊と予備室。
3Fは会議室と資料室と予備の寝室。
3Fの予備の寝室は何かで僕が泊り込むことがある際の寝室となる予定だ。
――――――――――
姫の騎士団の第一次選考会通過者は384名。
一回目の5倍以上の数である。
商人娘が居るからか多種多様な人材の応募があった。
市井の者も多いが中には娼婦の出などもいる。
さすがに翁が「弾くか?」と聞いてきた。
余程の理由が無い限りは弾く前に確認して欲しいと伝えていたのだ。
それに僕は「徹底的に調べて白なら通してください」とだけ伝えた。
通ったという事は白なのだろう。
貴族の娘の応募も増えた。
これには翁が「若に近づくには姫の騎士になるのが早いと感じたのだろう」と言う。
馬鹿らしいと笑おうとしたが『3人の妻のうち2人が姫の騎士団員だな』という魔王の言葉で辞めた。
そう取られても仕方ないらしい。遺憾である。
まあ思惑はどうであれ、それくらいでは弾かれずに一次審査を通っている。
そういう者は二次以降で脱落すると思っているのだろう。
候補者384名を寄宿舎の広場に集める。
現在ここにいるのは僕と美女さんと姫の騎士団員と候補者のみだ。
姫の護衛は近衛兵に任せている。
候補者にこれからの予定を伝える。
一月間、ここで寝起きをしながら姫の騎士団員と同じ生活をしてもらう。
ただし警備の任に付いてもらうわけにはいかないのでそれは免除だ。
384名を4つの隊に分け、一つの隊が96名とし、各隊に分けられる。
3日間訓練で1日が半分休暇だ。
とは言え休暇は外出出来ず、食事の用意や館の掃除と座学、寄宿舎の警備などを行うのだ。
この事を聞いた候補者の一部からざわめきが起こったので見ると貴族の娘達だった。
騎士団の候補になった時点で今までの身分は関係なく「一候補」となる。
自分の事は自分で行い、騎士団内の上下関係は階級性のみである。
それは他の騎士団でも同じであり、それが受け入れられない場合は今すぐ候補を取り下げるべきである。
美女さん「姫の騎士団内の階級に従えない場合は、騎士団団長の名の下に罰する権利があります」
それが軍隊と言う者である。
「騎士団団長が死ねと言えば死ぬ覚悟がない者は向いておりません」と美女さんが言う。
誰一人何も発しないのを確認した美女さんは「次に負傷を追った場合の保証はありません」と言う。
美女さんが一人の騎士団員を見るとその団員は頷いて小手を取り外し腕をまくって傷を見せた。
この前のゴブリン退治で負った傷だ。
美女さん「このように傷が残る事もありますが、保障はありません」
「傷は名誉です」と美女さんが言った。
本当はそこまで厳しくない。
傷が絶えないのは確かだ。訓練でも負傷をする事はある。
ただ傷を負った者たちには僕が個人的に保障をしている。
だが覚悟を無い者を振るいに掛ける為に脅しているのだ。
「次に」と美女さんが言う。
騎士団のルールの厳しさに付いてだ。
まず休暇の日は基本的に寄宿舎で待機をし、必要がある場合は外出申請が必要である。
出せば毎回通るわけでもなく、親兄弟の呼び出しであろうが認可が降りない事もある。
次に恋愛に関する事だ。
姫の傍で警護するという立場上、自由に交友関係を作る事は許されない。
特定の誰かと会う場合や婚姻も許可を必要とする。
厳しいようだがそれだけの立場になるのだ。
その他にも厳しい騎士団のルールが上げられる。
「これを聞いて無理だと思ったものは申し出てください」と言ったが立つ者は居なかった。
それを見た美女さんが隊を分けるために全員の名前を呼んでいく。
出来るだけ知り合いと違う隊に入れるためだ。
各隊96名をさらに6つに分けて16名の分隊にする。
寄宿舎は今回は1Fに候補者、2Fを姫の騎士団員を寝起きさせて候補者へは2Fへ上がる事を禁止した。
そして4名一部屋で部屋割りを決めて行った。
その後、再度全員が広場に集まる。
これからが1ヶ月に渡る第二次試験の始まりである。
美女さんが第一隊が半休暇と伝えた。
見張りは寄宿舎の入り口を6つにわけた分隊で丸一日警備するのだ。
一つの分隊二時(約4時間)程なので対した事は無いのだが、その間は無言で立って居ないといけない為に素人には結構大変である。
翌日以降は第二、第三と順番に行う。
美女さん「4日に一度各隊の姫の騎士団隊長を集めて会議を行い勤務態度や適性を確認し、姫の騎士として適さない場合は落選する事もあります」
「だから皆さん頑張ってください」と締めた。
すぐに姫の騎士団団員が揃って敬礼をする。
そして第一隊長の号令の下、それぞれの分隊が割り振られた箇所へ姫の騎士団員と共に向かっていく。
座学は隊長が初日は敬礼などを教える事になっている。
そして残った第二~四隊は訓練である。
しかし最初の4日間、各隊で3日ずつは基礎訓練と簡単な素振りのみである。
もちろん姫の騎士団員も行いながら候補生の監督に努める。
未経験のものには辛いだろうが、今まで姫の騎士として短い期間なりに訓練を受けてきた団員にはこなせるだろう。
昼を挟んでもさらに訓練を行う。
夕方に「今日はここまで」と言うと候補者達はその場に座り込んだ。
騎士団員が「まだ終わってない!」と候補者達に告げる。
何とか立ち上がった候補者を確認し姫の騎士団団員が「敬礼」といい全員が行う。
僕と美女さんが館に戻ると「今日はこれまで」という声と各隊隊長の声が飛び交うのが聞こえた。
夕食の後は各隊は交代で風呂に入る。
最初の数日は慣れるまで夜は休むという事を通達している。
逆に言うと数日後には夜にも何かしら行うのだが、さすがに初日と言う事で殆どの候補者が今すぐ寝たいと言う感じである。
因みに僕は空の館で寝泊りする。
さすがに正式団員でもない候補者である若い娘が沢山いる所に男が寝泊りするのはまずいだろうという配慮の元だ。
これ以上、なし崩し的に奥さんが増えても困るのである。
こうして姫の騎士団の選考会は始まった。
誤字修正
切っても → 斬っても
公いう事を → こういう事を
下りて言った → 降りて行った
5枚以上 → 5倍以上
とは言え休暇は外出は出来ず → とは言え休暇は外出出来ず
一部、寄宿舎の説明がわかりずらい文章になっていた為に訂正。
それに伴い僕の台詞を一部変更し、寄宿舎3Fの説明を「予備室」を「予備の寝室」と変更。