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(仮)  作者: イオン水
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第52話 帰還

王都を目指して帰路につく。

有力貴族の娘と美女さんは馬車に乗っての帰還だ。

有力貴族の娘は昼前に一度目を覚ました。

「あの子はどうなったのか」「あの後どうなったのか」を聞くとまた眠りに付いてしまった。

美女さん曰く「疲労困憊なので仕方ないでしょう」との事だ。

その美女さんは歩けるくらいには回復したが、大事を取って有力貴族の娘と共に馬車に乗ってもらったのだ。



王都に着いた。

出る前とは違い騎士団はボロボロだ。

出て行くときは華やかだった姫の騎士団の異様な姿に王都へ続く道の脇に居る人たちは声を上げない。

その中を僕達は背筋を伸ばし精一杯の虚勢を張る。


王城を抜けた。

馬を下りる僕に声が掛かる。

「酷い有様ですな」見ると祝賀会の時に文句を言っていた貴族の子弟達だった。

彼らは満身創痍の姫の騎士団員たちを見て「やはり急造の、しかも女騎士には魔物退治は荷が重すぎたようですな」と笑う。

僕は「その通りですね」と言うと一礼をして傍から離れる。

背後から「女に守られて自分は無傷か」と嘲りの声が聞こえた。




王都に帰還して一時(約2時間)程して謁見の間に呼ばれる。

姫の騎士団員で歩けるものは全員、僕と共に謁見の間に入る。

正面に殿下と翁、周りには僕たちをみる貴族や文官、武官達が並ぶ。

姫は居ない。有力貴族の娘に付いているのだ。

僕達は左右に人が並ぶ間を進み、殿下の前で跪く。



僕「姫の騎士団、ただいま戻りました」



僕の言葉に「お帰りなさい」と殿下が言う。

一部の貴族から「あんななりでよく戻れたものだ」と言う小声が聞こえてくる。

チラリと視線を向けると、なるほど左右に立つ人達は綺麗に二つに分かれている。

右が貴族達、左が反国王軍に居た領主や文官、武官達。

あからさま過ぎて笑いそうになる。

嘲りの声も右からのみ聞こえてくる。



殿下「よく無事に戻られました」


僕「ありがとうございます」



殿下が頷くと翁が前に進み出て宣言する。



翁「今回のゴブリン討伐の功により姫の騎士団団長に黄翼勲章を、副団長に白翼勲章、団員には黒翼勲章を授ける」



翁の言葉に右側からざわめきが起こる。

勲章は上から紫青赤黄白黒の6種類がある。

翼の文字が入っているのは国旗に翼が掛かれているからだろう。


勲章の授与の目安などは明確に無い。

しかし僕が黒と白を飛ばして黄色を貰うという事や、団員一人一人にまで渡すと言う事に右側から「どういうことだ?」「女なのにか?」「そもそもゴブリン程度に苦戦した奴らだろう」という声が聞こえてくる。

左側からは一切何の反応も無いという事は、状況を知っているのだろう。

女性で勲章を授与されるのは今回が初めてのようだ。

翁が「白の騎士団団長、報告を」と言うと、白の騎士団団長が「はっ!」と言うと用紙を広げ内容を読み上げる。



白の騎士団団長「姫の騎士団団長以下30名、国境の森にてゴブリンと遭遇。これを撃破し捕まっていた子どもを救出、巣の壊滅を行いました」



その後にゴブリンの数が告げられる。



白の騎士団団長「ゴブリンロード2、ゴブリンシャーマン2、ホブゴブリン17、ゴブリン31匹、巣に居た子ども12匹、全て死亡確認。巣を破壊しました」



ゴブリンロードとゴブリンシャーマンが2匹ずつと聞いてざわめいてた声が消える。

それだけの規模のゴブリンに魔法を使うシャーマンが2匹も居るのだ。

領主軍程度ではそうそう手出しの出来る規模ではない。

そして放置をしていれば数を増やして更なる脅威になっていたに違わない。

それを31名で立ち向かい、死者0で壊滅させたのだ。

とてもじゃないが満身創痍を笑える状況ではない。

とはいえ、美女さんが居なければ今頃全滅に近い状態だったのは間違い無い。


翁がざわめきが消えた事に満足そうに頷くと「姫の騎士団団長、前へ」と言うのを聞いて僕は立ち上がり前に出る。

殿下の前に着くと再度膝を折った。



殿下「姫の騎士団の働きに黄翼勲章を授ける」



そう言うと立ち上がった僕に黄翼勲章をつける。

この場では僕だけだが騎士団員全員に後で送られる。

勲章と言うのは名誉でもあるが、将来の保障にもなるのだ。

勲章があれば退役後の年金も増えるのだ。

僕だけなら断っていたが団員にも出るなら喜んで受け取る。

離れる間際に殿下が「本当にご無事でよかった」と心から言ってくれた事の方が勲章より嬉しかった。



殿下「何か望みはあるか?」



殿下の言葉に「ありません」と短く伝えた。

それで謁見は終了である。


姫の騎士団の活躍と勲章授与はすぐに国中に知れ渡った。

満身創痍ながらも気丈に馬を進めていた姿と知らされた功績、勲章授与に姫の騎士団の名声は上がったようだ。

だが少なからず妬みも買った様だ。

注意をするべきかもしれない。







――――――――――






王都帰還から3日、ようやく有力貴族の娘も歩けるくらいにはなった。

しかし大事を取って姫の騎士団への減退復帰はもう数日後となる。

そして美女さんの素性を姫と有力貴族の娘に明かすこととなった。

とは言え、どこまで話すかは美女さんに任せる予定だけど。

妖精少女には話しても構わないだろうが妖精姉には今は黙っておくべきだと言う判断をし、2人には席を外してもらっている。



美女さん「私は勇者なんです」


―ぶっちゃけた!


魔王『全部言ったな』



姫が「ゆうしゃ?」と首を傾げる。

有力貴族の娘はあまりの事に言葉が出なかったらしい。



有力貴族の娘「勇者と言われると…どこのでしょうか?」


―どこの?


魔王『勇者と呼ばれるのは何人か居るのだ。そして勇者にも格が在る』



勇者というのはどこぞの権力者が認定して初めてなる。

その認定した者の力や数により勇者としての格付けがあるのだ。

逆に言うと影響力も何も無い小国の王が認めても、他からは相手にもされない事もあるのだ。



美女さん「恐れ多くてあまり好きな呼び名ではありませんが、『神の御遣い』と呼ばれてました」


有力貴族の娘「か…」


魔王『因みに「神の御遣い」は最高クラスだな』


―まじですか!


有力貴族の娘「『神の御遣い』は力ある魔王と戦って相打ちになったと発表された記憶してますが」


美女さん「そうですね。因みに若の中に居るのはその魔王です」


姫・有力貴族の娘「「え…」」



2人が驚きの顔で僕を見る。

魔王は『ふん』と得意げだが僕はどうして良いか分からずに頭をかく。

2人とも僕が魔族である事は知っているし、魔王であることも伝えていた。

しかし今の僕からは「魔王だった」と言う事までは現実味が無かったのだろう。

『神の御使い』と対立していた噂の魔王というのも想像だにしなかったのだろう。

僕ですら魔王がそんなに凄かったというのが想像出来ない。



姫「『神の御使い』が何故、戦った魔王の従者をしているのですか?」


美女さん「その呼び名は好きでは無いですし、今は若の従者でしかありませんので今まで通り呼んでください」


姫「え、あ、はい。では…美女さんは何故?」


美女さん「まあ服従の魔法を掛けられていたというのもありますが、権力争いの道具にされるのが嫌になったのもありますね」



美女さんはそう言うと「しがらみが増えると大変です」と笑った。



有力貴族の娘「では私を治療したのは神聖魔法の…」


美女さん「はい」



有力貴族の娘が「ありがとうございました」と詰まりながら言った。

あの時の自分は決して助からないと解っていたらしい。

美女さんは「封印を解いてくれた若のお陰です」と美女さんは言うが、そんな事は無い。



僕「美女さんのお陰ですよ。本当にありがとうございました」



姫も「ありがとうございました」と続く。



姫「有力貴族の治療の件があるとは言え今、私達に勇者である事を伝えるのは何故でしょう?」


美女さん「一つは神聖魔法を使った事によりいずれは知られるだろう事」



それを聞いた有力貴族の娘が自分のドレスを固く握り締めるが「気にしないで下さい」と美女さんが微笑みかける。



美女さん「そしてもう一つが服従の魔法の効果が弱まった事ですね」



神聖魔法を使う為に僕が封印の一部を解除した事を説明する。

封印解除の方法は言わないで置こう。



美女さん「だから今後の身の振りように付いてお話するべきかと」


姫「今後…」


美女さん「はい」


有力貴族の娘「美女さんは…どうなさるおつもりですか?」


美女さん「私はこのまま若の従者で居たいと思います」



美女さんの言葉に僕は驚く。

まさか今のままで居たいと言うとは思わなかった。



姫「なら特に問題ないのではないでしょうか?」


有力貴族の娘「いえ、勇者が魔王の従者をしていると知られると大問題ですよ」


魔王『裏切り者のレッテルを貼られかねんな』



その言葉に美女さんは「それはたいした問題ではありません」と笑う。

自分の神聖魔法が使える限りは信仰を疑われる事も無いというのだ。

それよりも問題は美女さんの生存が知れ渡った際の各国の動きだ。



美女さん「間違いなく私の身柄の引渡しを要求するでしょうね」


有力貴族の娘「引渡し…犯罪者ではないのですから」


美女さん「引渡しが良くないなら保護と言いましょうか。少なくともこの国の保護下に居る事を認め無い国は幾つも出てくるでしょうね」


魔王『勇者を抱えると言うのは一種のステータスだからな。格の高い勇者をそうそう他国に手放す国など居ない』


―どうやってどの国の庇護下にあるかを決めるのさ


魔王『一番最初に認定した国が基本的にはそうなるが、そこが小国の場合は大国が奪うこともある。美女ほどのクラスになれば数カ国で共同だろうな』



美女さんの価値は各国にとってそれだけ高いのだ。

そこらの王族よりVIPである。



美女さん「他国に知られた際にここに居られるだけの理由が必要になるのです」


姫「居たいと言うだけじゃダメなのですか?」


美女さん「残念ながら」



それで済むなら迷わないだろう。

美女さんは「とりあえずは国王殿下にもお話しないといけません」と言う。



美女さん「国王殿下達が私の保護を断ったらそれで話はおしまいなんですけどね」


僕「そうなったら仕方ありません。国を出ましょう」


姫・有力貴族の娘「「え」」



2人に僕は「もちろん2人も一緒に」と伝えると姫はすぐに、有力貴族の娘は姫が頷いたのを確認して頷いた。


確かに殿下が無理だと言えばそこで話が終わる。

まずは殿下にも話すべきだと言う事となり、すぐに殿下の下へと向かった。





部屋に入ると殿下と翁、爺、有力貴族が数名の文官と話し合っていた。

僕は「少しお話宜しいですか?」と殿下に言う。



殿下「丁度休憩する所なので大丈夫ですよ」



そういう殿下に僕は「大事なお話です」と言うと、何かを察した翁が文官たちに「呼ぶまで待機」と伝え部屋から追い出した。

全員が退出するのを確認すると美女さんの正体を明かした。

4人とも驚きで言葉も出ない。



僕「出来れば美女さんがこの国に居る事を認めて欲しいのですが」


翁「…もし無理だと言ったらどうすするのじゃ?」


僕「美女さんと共に姫と有力貴族の娘を連れて国を出ます」


翁「姫もじゃと!?」


僕「2人は僕の妻ですからね」



僕の言葉に姫が嬉しそうな顔をする。

喜んでくれるのはありがたいけど今はそういう状況じゃないからね。



翁「姫を…」


殿下「翁、ちょっとまって」



そう言うと「無理だと言った場合の話だから」と殿下が翁を止める。



殿下「僕は美女さんを受け入れないとは言っていない」


翁「しかし、現実問題…」


爺「それをわかった上で、どうすれば美女殿がわが国に居るだけの理由を作れるかの段階の話ですな」


殿下「その通りです」



そう言うと4人とも考え込んでしまった。



有力貴族「王妃になってもらいますか?」


翁「確かにそうすればわが国に居るだけの十分な理由になるが…」


殿下「僕には無理です」



殿下が笑顔で「美女さんは僕にはもったいない」と言う。

翁は「身分的に釣り合わないとは言いませんが」と



翁「美女殿本人がその気で無い場合は無理でしょう」



「折角殿下の后問題も一挙解決できそうな妙案なのだが」と残念そうに言った。

その言葉に「申し訳ありません」と美女さんが頭を下げる。



爺「他に何かありますかな?」


翁「他国を黙らす方法…やはり婚姻が一番なのじゃがな」


殿下「さすがに美女さんが納得してない婚姻は出来ませんよ」



そう殿下が言うと「納得ですか…」と美女さんが言った。



美女さん「若の奥さんの一人になりますか」



その言葉に僕の「いやいや!」と言う僕と姫の「名案です!」という姫の声が被る。



姫「元々、美女さんと妖精少女も若の奥さんでしたし」


僕「違うよね。ただ言ってただけだよね??」


有力貴族の娘「予定通りですね」



今まで黙って成り行きを見守っていた有力貴族の娘も「家族の会話」になったとたんに姫の援護をしだす。

というか、有力貴族の娘はそれで良いのかを聞いたら「美女さんを尊敬してますから」と言った。

意味がわからない。



有力貴族の娘「美女さんと家族になれるのは嬉しいです」


美女さん「ありがとう」



美女さんは有力貴族の娘に微笑みかける。

姫が「本当の家族になるのだから私の事も様を付けずに呼んでください」という言葉に首を振ると



美女さん「あくまでもこの国に居る為の方便としての妻です」


姫「そうなんですか…」


美女さん「それでもダメですか?若」



美女さんの言葉に詰まる。

確かにこれしか方法が無いし、名目で良いなら良いとは思う。



僕「それで他国を黙らせる事が出来ますか?」


翁「まあ少し弱い気もしますが、継承権第二位の姫婿の妻なら言い様はありますな」


僕「名目上なんですよね」


美女さん「事実上でも構いませんよ?」


僕「いやいやいや」


美女さん「冗談です」



「若には好意を抱いておりますが、さすがに妻にとなると…」と美女さんが言う。

何だろう。

物凄く安心したのにちょっと納得できない感じ。


ああアレだ。

好きでもないのに勝手に好きだと周りに決められて、それが本人の耳に入った上で「良い人だとは思うけどごめんなさい」と言われた時のような気分だ。



魔王『微妙な例えだな』


―まあ有力貴族の娘の時のようになし崩し的にならなくて良かったよ


殿下「では美女さんは若の奥さんと言う事で発表しましょうか」


僕「もうするの!?」


翁「後で美女殿の正体がばれた時に言うより、今から言っていたほうが後々有利じゃ」



美女さんの「それで構いません」と言う言葉で即発表と決まった。

世間では僕は好色扱いされるのだろう。



魔王『世間などどうでもよいでは無いか』


―まあそうだけどね。



「美女さんの信者に殺されるかもしれない」と言う僕に「私が望んだ事にしてもらって結構ですよ」と美女さんがそう言ってくれたので、それでお願いした。

この件に関しては魔王の『へたれ』と言う言葉を甘んじて受ける。

美女さん信者はそれだけ脅威なのだ。

誤字修正

余り → あまり

有料貴族の娘 → 有力貴族の娘

段階のはない → 段階の話

行ってただけ → 言ってただけ

回りに → 周りに

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