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(仮)  作者: イオン水
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第46話 娘

妖精姉「妖精少女の母は妖精女王です」


姫「え…え?」



それ以上の詳しい説明方法は無いとでも言うように妖精姉は黙る。

いや、確かに無いけど!



殿下「…何故、今、それを言ったのですか?」


妖精姉「今までの皆さんの妖精少女に対する対応を見て、言っても良いかと思いました」



そうやら妖精族が妖精少女をどうしても連れ帰えろうとした要因の一つにそういう事が関係していたようだ。

そして妖精少女が妖精族の女王の娘と知られると利用されるのは間違いないと思い、妖精少女にも口止めをし黙っている予定だったようだ。



―というか後者(言葉に表しにくい方)だった!


魔王『我は知っていたがな』


―なんだって!


魔王『妖精族の若者達の会話や、先程の妖精姉の妖精語での質問で聞かれたりしたからな』


―なんで黙っていたの!?


魔王『知っている必要があるか?関係あるまい』


―それも…そうだね


魔王『まあ、知った時の驚きを見てみたかっただけだがな』


―魔王!?


魔王『冗談だ。妖精族の若者の会話がしっかり聞こえたわけではないのだ』



「妖精少女」「妖精女王」という単語しか聞こえず、娘だとまでは思っていなかったらしい。

妖精姉の質問で〔妖精少女が妖精女王の娘と言う事もご存知なのですか?〕と聞かれて初めて理解したらしい。

ただあの場は知らない振りをしたほうが言いと判断し、解読できないと嘘を尽いた様だ。



―言ってくれたら良かったのに


魔王『言ったら少なからず驚きの反応をするであろう。それでは意味が無い』


―確かに…


殿下「何故そう思われたのですか?」



そう言うと妖精姉は説明をした。

本当に妖精少女が大事にされているし、姫と有力貴族の娘を見る限り絶対に妖精少女に対して酷い事は行われないだろう事。

殿下と話してみて国王も同じようにそんな事をしない人だと判断できた。

そして何より僕が妖精少女が妖精女王の娘だと知っていながら誰にもその事を話すつもりがない様子だった事等が、ここに居る人たちを信用出来ると判断したようだ。



妖精姉「先程の手紙にも妖精少女を妖精女王の娘と伝えた旨を記載しました」


殿下「…勝手な判断をして大丈夫ですか?」


妖精姉「勝手な判断ではありません」



妖精姉が言うのは先程届いた手紙に妖精女王の言葉も記されており「妖精姉が信頼に値すると判断するようなら真実を明かしてよい」とあったそうだ。

ただ何故そのような判断を妖精女王がしたのかまでは分からないそうだ。



―そうなの?


魔王『あったな』


―なんで言わないの?


魔王『真実が何か分からなかったからだ』


―でも妖精姉は嘘は言って無いって


魔王『「嘘」は言っておらん。ただ全てを申してなかっただけだ』


―ああ言えばこう言う…



妖精姉の言葉に翁が「妖精姉の申すとおりですかな?」と言う翁の言葉に頷く。



翁「何故その事を仰らなかったのですか?」


―そう言われても黙っていたのは魔王だから!



と言える訳も無く、仕方なく魔王が言ったとおり「真実が何か判断しかねた」と伝えた。

しかし翁が「貴方は妖精族の若者達の言葉で女王の娘である事を知っていたはずなのに?」



―さすが翁!するどい。



しかし僕は開き直って白を切りとおす事にした。



僕「それが真実と結びつきませんでした」


翁「何と?」


僕「僕にとって妖精女王の娘と言うのは左程重要な事では無かったので」


翁「重要な事では無いと?」


僕「はい」


翁「何故そう判断した?」


僕「妖精少女は妖精少女でしかありませんから」



それを聞いて翁が「他国の姫君を…」と言う。



僕「例えそうでも妖精少女は僕達の家族に違いはありません。今まで通り家族として守るだけです」



そう言うと姫も「そうですね」と頷いた。

「それに…」と僕は妖精姉の目を見て「妖精姉も言わないようでしたので、黙っている事が最善だと判断しました」と伝える。

それでも何か言おうとした翁を殿下が制する。



殿下「別に知ったとしても若の言うとおり何も変わりませんよ。それとも利用するつもりでしたか?」



殿下の言葉に翁は「ありません」とはっきりと言った上で



翁「ワシが言いたいのは王族の姫君としての扱いをしなくて良いのか、という事です」


僕「ああ、なるほど…妖精少女」


妖精少女「何?」


僕「姫様になりたい?」



僕の言葉に「ん~」と考える妖精少女に「今まで通り僕や姫や有力貴族の娘と一緒にはいることが出来なくなるけど」と伝えると「今のままが良い!」と元気に答えた。



僕「妖精姉はどうですか?妖精少女に対して王族の姫君として熱かったほうが良いですか?」


妖精姉「いいえ。妖精少女が望むままにしてあげて欲しいです」


僕「なら問題ないですね」



翁が頷く。

今まで通りで行く事に決まったが、もしその事を知った誰かが良からぬ事を仕出かす恐れもあるので、妖精女王の娘という事は口外しない事に決まった。

空の館は城の最深部に位置し、男子禁制で姫の騎士団も居るので僕の後宮(じゃないよ!住まいだよ!!)という事を差し引いても、この国で1・2を争う安全な場所だと言えるだろう。



僕「そういえば妖精姉もやっぱり姫になるんだよね?」


妖精姉「なりませんよ」


僕「そうなの?」



妖精族の子育ては人族と違いまとめて行われる。

そして小さな子どもの面倒を見るのが、一人前になる前の妖精族の若者達なのだそうだ。

妖精姉は妖精少女の年代を見ていた一人だから姉となるらしい。

妖精女王の娘もそれ以外の子どもも一纏めに面倒を見るというのは驚きである。



妖精姉「そもそも妖精女王の地位は妖精族は血縁による世襲ではありませんから」



妖精族は女王制だそうだ。

これは女性の方が争い事を起こさないだろうという事から始まったと予測されるが、遥か昔から女王制なので詳しいことは良く分かって無いらしい。

だが妖精族の歴史では女王制で問題がこる事は殆ど無く反対意見も出る事が無かったので今までずっと続いてきたらしい。

女王が絶対君主ではなく各集落が集まった際の議長のような立場であるのも要因の一つと言えるらしい。


そして女王は各集落から推薦された娘が代表となって、一人に決まるまで話し合いを続けるらしい。

例え途中で女王が不在になってもその事は変わらないと言う。

気の長い種族だ。



妖精姉「だからこそ議会がどれくらいで意見が纏まるか分からないんです」


殿下「なるほど」



殿下は妖精姉をみて頷くと「しかし―」と思案するように言った。



殿下「そうなると妖精少女が若の奥さんというのは問題あるのかな?」


僕「は?」


殿下「いえ、だって世襲制ではないとは言え妖精女王の娘で姫には変わりありませんし」


翁「そうなると外交の問題となってくるな」


―そこまでの話になるの!?


魔王『なるであろうな』


―いや、違うから!


僕「そもそもが妖精少女が僕の奥さんというのが間違いだからね!?」


姫「そんな事ありません。妖精少女も家族です」


僕「いや家族だけど奥さんじゃないよね?」


妖精少女「奥さんになるー」


姫「妖精少女もこう申しておりますし」


僕「意味分かってないだけだと思うよ!」


姫「そんな事ないですよね」


妖精少女「うん!お兄ちゃん達とずっと一緒に居る事!!」



妖精少女の言う事に「その通りですよ」と姫が頷く。

間違ってないだろうけど若干違うから!!



妖精姉「その事に付いては先程、妖精女王宛の手紙に記載させて頂きました」


僕「何て事を仕出かしてくれたんだ!!」


妖精姉「え、いや、さすがに本当にそうだとは書いてませんので問題は無いですよ」



その言葉にほっと胸を撫で下ろす。



妖精姉「ただ妖精少女の気持ちは固く、いずれそうなるだろうと」



「問題大有りだ!」と叫ぼうとしたが「手紙を確認するか伺ったのに確認なさいませんでした」と妖精姉に言われる。

ぐうの音も出ない僕が何とか言おうとする前に姫が「あっ!!」と声を上げた。



姫「妖精少女が妖精女王の娘という事は、妖精少女のご両親宛の手紙は妖精女王に届くという事ですよね!?」


妖精姉「そうですね」


姫「大変だわ…」



姫が呟く。

「これ以上何が大変なのですか?」と恐る恐る聞いてみると姫は先程、したためた手紙の内容を話した。


どうやら姫が妖精少女と出会ってからの妖精少女の事を書き綴ったらしい。

その中でどれだけ妖精少女が可愛く愛おしいかも書いたそうだ。



―何が問題なのだろう?



そして僕の事も妖精少女を最初に助けた人物である事や姫や有力貴族の娘を妻としている事を書いた後に、妖精少女も家族の一員として一緒に暮らしてる事を書いたらしい。



妖精姉「それの何処が問題なのですか?」


姫「いずれは妖精少女がもう少し大人になったら若の正式な奥さんとして迎えて本当の家族となりたいと書きました」


―なんてことするだー!


姫「そしていつか直接お会いしてお話しをし、若や私達を知ってもらえたらと思ってます、と書いてしまったわ」



一国の姫君が他国の女王に、しかも国交がまだ正式に結べているわけで無い状況で姫君がいうべき内容ではない。

その事に思い当たって姫は「やってしまった」と言っているのだ。

一同が「それはまずいかもしれない」と思い翁が急いで手紙を差し押さえる為に早馬を飛ばそうとしたの妖精姉の言葉が止める。



妖精姉「それなら同封した妖精少女の手紙に『姫は妖精女王が母君と知らずに妖精少女の母君宛に手紙を書かれました』と添えてあるので大丈夫かと」



例えその一文があってもそれは「同封された別の手紙」に書かれた内容であり、無視したらなかった事にされる程度のものである。

本当に大丈夫か?という表情の面々に「妖精女王はそこまで器量の狭い方ではありませんので、ご安心ください」と妖精姉が言う。



妖精姉「逆に妖精少女が大事にされていると分かり喜ばれるでしょう」



それを聞いて姫がほっと息をつく。



妖精姉「まあ若の奥さんになると言う件についてはどう思われるかわかりませんが」


僕「あ、う、あ…」



妖精姉が悪戯っぽく言うが僕は言葉にならない。

翁の行動を思い出し手紙を差し押さえる為に伝令を!と叫ぶも翁に「伝令は最速のものを選んだ、間に合わんよ」と言う。



―自分も早馬を飛ばそうとしたくせに!


魔王『間に合わなくても、事が国同士の問題なら飛ばす他あるまい』


―じゃあ飛ばしてよ!


魔王『お主の事程度なら飛ばす必要も無いという判断だろう』


―皆酷いや



どんよりとしている僕に妖精少女が「元気を出して」と頭を撫で、姫も「大丈夫ですか?」と心配そうに覗き込んできた。

2人の優しさが染み渡る。



―やっぱり僕には家族しか居ないんだ!



僕は姫と妖精少女と今はここに居ない有力貴族の娘の4人で田舎でひっそりとと優しく暖かい家庭を築いていくんだ!と心の中で叫ぶ。



魔王『いや、だからその妖精少女を妻にするという事が問題となっているのだろう?』


―そうだった…


魔王『しかもその火種に薪をくべたのは姫だな』


―確かに!!



現実逃避したくて適当なことを想像していた僕に魔王が容赦なく突っ込む。

一人反省会をしている僕を尻目に殿下が「取り合えずは妖精女王からの返答を待つしかないですね」と言い話は終わった。







空の館に戻ると僕と姫と妖精少女と妖精姉は応接室に集まった。

美女さんは姫の騎士団の訓練に戻って今は居ない。

椅子に腰を下ろすと僕は深いため息を付いた。



姫「お疲れですか?」


僕「まあ色々ありましたからね」


妖精姉「妻にするという事を妖精女王に伝えた事ですか?」


僕「それが一番の悩みの種ですね」



僕はそう言うと頭をかいた。

別に妖精少女が嫌いなわけでも無いが、奥さんとして迎えたいかと言えばそうではなく、妹のような存在だ。

娘を持った事が無いのでさすがに娘とは言えない。



僕「そもそも妖精姉は僕が妖精少女を奥さんとして迎える事に賛成なのですか?」


妖精姉「賛成も反対もありません」


僕「どちらでも無いと?」


妖精姉「決めるのは妖精女王です」


僕「妖精族の婚姻は親が決めるんですか?それとも妖精女王?」



僕の言葉に「どちらでもありませんよ」と首を振る妖精姉。

妖精族同士なら特に問題なく当人達の問題でしかないが、僕が人族(実は魔族だけど)である事が問題らしい。

他種族との婚姻に加えて妖精少女が精霊王から言葉を掛けられる程の使い手という事が問題をややこしくしているらしい。

妖精女王の娘というのはそれに比べると些細な問題なのだと言う。



妖精姉「そもそも他種族との婚姻は無い事ではありません」


僕「そうなの?」


妖精姉「はい。何かの偶然で妖精族の里に紛れ込んだり、または外に出た妖精族が別種族と家庭を持つ事はごく稀にあります」


僕「そうなんだ」


妖精姉「まあ他種族といっても人族か魔族が殆どで、それ以外の種族とは無いといっても過言ではありませんが」


僕「魔族でもいいんだ」



「人族も魔族も私達からしたら違いは左程ありません」と言う。



姫「でも他種族とのロマンスなんて素敵ですね」


妖精姉「実際はそうでも無いようですが」


姫「どうしてですか?」


妖精族「妖精族と人族、魔族は時間の流れが違います」



人族は100年も満たない時間しか生きられない。

妖精族は百数十年~二百数十年。魔族は長いもので数百年生きる。

その時間の流れが圧倒的な絶望感となることが多い。


その事を聞いて姫が息を呑む。

姫のそして妖精少女や有力貴族の娘と僕の関係に置き換えて、何れ残されていく僕に何かを思ったのだろうか。



姫「でも、二人の愛の結晶が生まれれば!」


妖精姉「人族と魔族の間では元々同じ種族だった為に子が成せ易いですが、妖精族との間には殆ど成す事が出来ません」


―そうなの?


魔王『まあ全くと言うわけでは無いが、少ない事は確かだろうな』


妖精姉「まあゼロではありませんけどね」



姫の気持ちをおもんばかってか妖精姉が付け加える。

それを聞いても姫は何も言わなかったが。



妖精姉「何にせよ、妖精少女がその気である限りは、後は妖精女王の判断次第です」


―うん。まず妖精少女に考え直すように説得しようよ。



姫が「やはり手紙の返答を待つしか無いんですね」と妖精少女の頭を撫でる。



―妖精少女は僕達の家族なんだ。どうにか守らなければ


魔王『そうだな』



嬉しそうに目を細める妖精少女を見やり、妻に迎えるとかではなく何かしら現実的な方法で妖精少女を守れないかを考えていた。

誤字修正

妖精女王だと知っていながら → 妖精女王の娘だと知っていながら

松しかない → 待つしかない

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