第43話 第2次選考会・午後
白の騎士団団長「中々激しい選考会ですね」
赤の騎士団団長「ウチの入団テストよりハードだな」
白の騎士団団長「そうですね。よければ食後の運動がてら、うちの騎士団とやりませんか?」
赤の騎士団団長「我が騎士団もやってみたいな」
そういう二人に「選考会もあるのに無理ですよ」と僕が言うと美女さんが「昼以降は若は模擬戦を行わないのでいのでは?」と言う。
―美女さん、何を言うの!?
確かに午後からは候補者同士の模擬戦を行う予定だけど!
白の騎士団団長が「おお、じゃあ赤白両騎士団から選抜で班を作りましょうか」と赤の騎士団団長や副団長達と話を始める。
僕「…美女さんがそういうならいいですが、赤白両騎士団団長は無しで、班の人数は6人ですよ」
赤の騎士団団長「なんだと!?」
僕「当たり前じゃないですか。赤白両騎士団副団長も無しにしたいくらいです」
白の騎士団団長「そんな…」
どうしてもやりたいという赤白両騎士団団長に美女さんが「じゃあ、私達と組んで4人でやりますか」と笑顔で告げる。
4人vs赤白両騎士団選抜でやろうというのだ。
「面白そうだ」と両騎士団団長がノリノリで今度は対戦する赤白両騎士団選抜の人数を何人にするか、という話で盛り上がる。
「一人10人で40人」「さすがに多くないですか?」「じゃあ8人で32人」「キリ良く30というところですか」という事で30名になった。
朝の模擬戦から姫騎士候補生の実力に話が飛び、連れてきている騎士達なら何人で対応できるかの話になる。
赤の騎士団団長「9人の班なら3人だな」
白の騎士団団長「でも何戦もする事を考えると5人は要りますね」
僕「もし今の状態の疲労困憊の候補生なら?」
白の騎士団団長「9人の班なら4名で8班対応できないと困りますね」
僕「18人なら?」
赤の騎士団団長「そうだな。6名…7名だな」
僕「じゃあ7名の班を2つほど、午後から入れましょうか」
赤の騎士団団長「何?」
僕「男性騎士団の実力を肌で感じるのはいい刺激になると思うんですよね」
赤の騎士団団長「なるほどな
僕「もちろん、疲れている候補生との差を無くす為に模擬戦を2回ほどやってもらいますけど」
そういうと赤白両騎士団団長は二つ返事で頷く。
僕「ただし参加するのは赤白両騎士団選抜の中から平騎士団員のみにしてもらいますけどね」
僕の言葉に赤の騎士団団長が「なっ!」と声を発する。
白の騎士団団長は「他の騎士候補生の選抜試験に出る騎士団団長が何処にいるんですか」と苦笑いを浮かべる。
全くその通りである。
午後になった。
候補生から5名の脱落者が出た。
3名が貴族の娘で2名が市井の娘である。
これで貴族出身者は有力貴族の娘のみとなった。
残った候補者の一人に市井の娘がいた事に驚いた。
集まった候補生68名に午後の内容を伝える。
人数が減ったので再度17人一組で班分けを行う。
まずは僕と美女さんに赤白両騎士団団長の班と赤白両騎士団団選抜の班による模擬戦を見てもらう。
4対30の模擬戦。
騎士が30名隊列を組んでいるのは中々壮観である。
開始ししてすぐに突っこんでは来ず、2列横隊を維持したまま前進する。
前衛3人の美女さん、赤白両騎士団団長の前まで来ると1列目がそれぞれに当たっていく。
そして2列目が脇をすり抜け僕に向かってきた。
魔王『守る気ナシだな』
僕は向かってくる騎士達10名を迎え撃つ。
隙無く向かってくる騎士達にどう対処しようかと思ったら、向かってくる騎士達の肩越しに美女さんがこちらを見ていた。
5人相手にしながらである。
―美女さんがこちらを見ている…
魔王『「情けない姿を見せたらどうなるか分かるか?」という所か』
―ひぃぃぃ
向かってくる騎士達に対して手加減無しで向かう。
一番近い騎士に接近し打ち倒す。
そして足が止まった騎士達から距離を取るように離れる。
僕を囲もうとする騎士たちの一番端に立っている騎士を打ち倒し囲われる前に脱出する。
出来る限り全員の姿が視界に入るように後ろに下がりながら、一人突出している者を見つけたら倒す、という戦法を取り続けて半分の5人になった。
人数も減ったので5人の輪に飛び込む。
今まで囲まれるのを避けながら戦っていた僕が突っこんできた事に戸惑っている間に5人全員を打ち倒した。
それを待っていたかのように(待って居たんだろうけど)直後に美女さんが大将を討ち取って模擬戦が終了する。
白の騎士団団長が「今の模擬戦を見て何かを感じてもらえれば」と候補者達に言い纏めているが、後ろで赤の騎士団団長が「お前ら…もう少し頑張らんか!」と言っているので色々台無しである。
明日からの訓練を厳しくすると言う赤の騎士団団長の言葉に白の騎士団団長も「ウチも精進が足りませんね」と同意する。
がんばれ赤白両騎士団団員達。
くじ引きで再度班分けを行う。
午後は7名一班の騎士選抜と模擬戦を行う。
騎士選抜は2班あり、一定数模擬戦をこなしたら入れ替わる。
それ以外は朝のルールと同じである。
模擬戦が始まった。
当初こそ騎士団選抜が大将を打ち倒して勝利を収めていたが、すぐに時間制限一杯まで掛かる試合が出てきだす。
各班5戦ずつ行ったあたりで選考会は終了する。
美女さん「お疲れ様でした。これにて2次選考会を終了します」
美女さんの言葉に息も絶え絶えの候補者達から「お疲れ様です」と挨拶がちらほら聞こえてくる。
美女さん「今残っている候補者の皆さんは2次試験合格者となります」
その言葉に顔を上げる候補者達。
美女さん「2次は技術などではなくやる気を見させて頂きました」
だから最後まで残った全員合格なのだ。
美女さんは候補者達を見渡すと「二次合格おめでとうございます」とと言った。
それを聞いて安堵なのか脱力する候補者達を美女さんの言葉が襲う。
美女さん「ではこれから第3次試験を行います」
候補者達に戦慄が走る。
魔王『候補者達には美女は悪魔か何かに見えているだろうな』
―まあ午後に僕と美女さんが決めたんだけどね
美女さん「今から4日間に渡る合宿を行います」
これから野営用の荷物を担いで行軍し、野営を行う。
明日からは今日よりハードな選考会を行う事を伝える。
美女さん「もちろん、もう一時(約2時間)程で日が沈みだしますのでそれ程遠い場所ではありません」
そう言うと手に持った地図を広げて目的地を指す。
―どう考えても一時でいける距離ではありません、ありがとうございました。
美女さん「一刻後に野営の装備が支給され行動開始となります」
美女さんの言葉に誰も一言も発しない。
美女さん「途中でリタイヤされても困ります。もし辞退したい者がいたら今すぐ申し出てください」
呆然としているのか誰一人反応しなかったが、その中の一人が「辞退します」と手を上げるとと連鎖的に手が上がっていた。
美女さんは「そうですか。残念です。では辞退者はあちらへ。体の不調を感じる方はあちらへ」と辞退者一人一人に「お疲れ様でした」と微笑む。
半数以上が辞退を申し出て居なくなり、残りは29名になった。
残留者に有力貴族の娘も居る。
美女さんが3次試験を受ける候補者に立つように促す。
全員、疲労困憊という感じで立ち上がるが、何人かは立っているのもやっとのようだ。
「では3次試験を行いますのでこちらへ」と美女さんが29名を促して歩き出す。
城の中の一室へ案内する。
すでに赤白両騎士団団員により椅子が用意されており候補者達を座らせる。
美女さん「ではこれから3次試験を行います。これより辞退出来なくなりますが、宜しいですか?」
そういう美女さんに皆頷く。
美女さん「ではまず皆さんに自己紹介をしてもらいましょう。名前と志望動機で構いません」
「志望動機が選考基準になりませんので、どんな内容でもかまいませんよ」と言う。
何故自己紹介?と首を傾げる面々に「これから4日間一緒に生活する仲間ですからね」と美女さんは言うと端に座っている候補生を指名した。
一人一人自己紹介をしていく。
志望動機は様々だ。
「姫様のお役に立ちたいとずっと思っていた」という兵士。
女性が認められる数少ない場だと感じて応募した者。
いつまで冒険家業が続けられるか分からないので定職に就こうと思った者。
純粋に騎士に憧れていたという者。
驚いたのが市井の娘が残っており「私でも頑張れば何か出来るかと思って」と言っていた。
有力貴族の娘は「姫様を守りたい」と言っていた。
中には「美女さんに憧れて」と言っていた者もいた。
全員の名前と志望動機を来た美女さんは「ありがとうございます」と言うと「若」と僕を呼んだ。
僕はみんなの前に立つと「3次試験合格おめでとうございます」と言った。
何を言われているか分からないという顔の面々に「3次試験の合宿は嘘です」と伝える。
僕「3次試験はどんな環境でも騎士として命令に従う気概があるか。絶望的な状況でも諦めずに居る事が出来るか、等を見させて頂きました」
僕の言葉が少しずつ理解できてきたのだろうか。
候補者達がざわめきだす。
美女さんがすかさず「静かに、話は途中です」と言いざわめきを止める。
僕「まあそれは建前で根性をみさせていただきました」
僕は全員を一通り見渡すと「合格です。姫の騎士団として一緒に頑張りましょう」と言った。
静まり返る部屋に美女さんの「おめでとうございます。これからよろしくお願いします」という言葉が響く。
それを聞いてやっと実感が沸いたのか、喜びで横の候補者達と抱き合うものや泣き出すもの表現は様々だ。
喜びを表現する候補者達が落ち着くのを待って美女さんが口を開く。
美女さん「今日は城に部屋と食事を用意しております」
5人部屋となるがゆっくり休むように言う。
「明日、朝食後にまたここに集まってください」と言うと解散を伝えた。
――――――――――
夕食の席に有力貴族の娘は居ない。
なぜなら姫の騎士団の候補者として他の候補者達と用意された部屋で休む事になっている。
妖精少女「有力貴族のお姉ちゃんが居ないと寂しいね」
姫「そうね。でもすぐに戻ってくるわ」
僕「すぐは無理ですよ」
姫「そうなんですか?」
姫にこれから数日の訓練などを経てやっと姫の騎士団見習いとして姫と面会を果たす。
だから少なくともそれまでは有力貴族の娘は戻ってこれないし、戻ってきても勤務中は一騎士団員に過ぎないので特別視は出来ないと言う事を説明する。
姫はそれを聞いて「そう…なんですか」と寂しそうに言った。
同じく寂しそうにしている妖精少女の頭を妖精姉が慰めるように撫でていた。
翌日、29名の姫の騎士団候補者達は昨日の部屋に集まった。
美女さん「今から貴方達は姫の騎士団見習いとなります。まずは姫の騎士団という立場を理解してもらう為に説明を行います」
美女さんはそう言うと姫の騎士団の説明を行う。
あくまでも僕が姫の騎士という立場に任命された副産物として出来た騎士団である為に、僕が引退したりした場合は解散する事になる一代限りの騎士団である。
僕は執政と同じ立場に序されている為に姫の騎士団に命令できる立場にある者は国王殿下と姫様と執政だけである。
もし不当な命令などを受けた場合は団長である僕か副団長の美女さんに申し出る事。
ただしあくまでも姫の騎士団として守られているだけで、決して騎士団員に権力がある訳ではない。
美女さん「分かっているかとは思いますが勘違いしてしまうような事があり、姫の騎士団員として相応しくないと判断された場合は、騎士団として処罰いたしますので注意してください」
美女さんの言葉に皆が頷く。
それを見届けると続きを話し出す。
姫の騎士団は姫と僕に忠誠を誓う集団である。
姫の騎士団の見習いとなった全員、今までの身分は関係なく横並びになる。
元の身分が貴族だろうが平民だろうが関係なく、今後の頑張りを見て立場を決めていくというのだ。
まあ貴族は有力貴族の娘だけだが。
美女さん「他は赤白両騎士団と同じような規則となります」
姫の騎士団の宿舎で寝泊りをし、一日の大半を訓練や警備に費やす。
休みの日も基本は宿舎で準待機状態でしかなく、外出などにも許可が必要となる。
美女さん「ここまで聞いて辞退したい人は居ますか?これが最終となります。今後は姫の騎士団団員として、除隊も自由に出来なくなります」
見渡すが誰も何も言わないのを見て美女さんは頷く。
美女さん「では訓練は昼から始めます。午前中は姫の騎士団の制服を作る為にみなさんの寸法を測らせて頂きます」
そう言うと扉が開いて針子が数十人入ってきた。
僕は寸法測りがが始まる前に部屋を後にした。
姫の騎士団選考会から数日。騎士団員達の訓練も進み、ある程度形になった。
騎士団は7~8名一班とし4つの隊に分け各隊で実力から隊長を決め、有力貴族の娘もその一つの隊長になった。
そして姫との顔見せを行った。
やはりというか何というか、姫の騎士の制服は黒ずくめである。
夏は暑いだろうなと思ったが、それまでには涼しい服が用意されるのだろう。
姫が「折角の女性騎士団なのですから、華やかなのがいいです」といい制服はドレスがいいと言っていたが、僕と美女さんで「それでは勤務に差支えがある」という話をして納得してもらった。
そして服のデザインは色々上がったが「僕がズボンとスカートを足せば良いのでは?」と適当に言ったのが採用され、ヒラヒラの多い制服となった。
さすがというか何というか美女さん含めて30名の女性が黒尽くめとは言え、ヒラヒラした服を着ているのは華やかではある。
一応、剣を抜いたり動き回るのには邪魔にならないように出来ているが、僕も着ろといわれたら騎士団解散を宣言しなくてはいけないだろう。
一時的に姫の騎士団の詰め所は空の館の中になった。
空の館が元々後宮だった為に、後宮で働く侍女たちの部屋が沢山ある。
その中から入り口に一番近い部屋から数部屋を騎士団の部屋とした。
後宮に勤める侍女も身分は高いものだったようで、部屋は2人部屋だが結構な広さを確保してので、そこに寝具を入れて4人部屋にした。
有力貴族の娘が僕の奥さんである事はすでに団員に伝えている。
今までの訓練でも特別扱いは行っていない上に、隊長にも実力でなった為に今の所は特に問題は無いようだ。
空の館に移っても騎士団員として行動し、休みの日に姫や僕たちと食事をする程度である。
昼食時、有力貴族の娘の話をした時に団員からが「姫の騎士団団員は団長の奥さんになるんですか?」と言われた。
さすがにそれは無いと言うと「残念ですね」ととある騎士団団員が冗談を言い、まわりの団員もそれを笑った。
休憩中に冗談が言い合えるぐらいは騎士団団員と良好な関係が築けていると言えるのだろう。
―言えるよね?
魔王『いきなり29人増えるのか…大変だな』
―いやいや、増えないから!
姫の騎士団の勤務は隊単位で行動となる。
1日目と2日目が訓練、3日目の朝から4日目の朝まで24時間警備。
警備明けの4日目が休みとなる。
このサイクルを4つの隊が日をずらして行っている。
少しずつ騎士団の様相を呈してきた。
誤字修正
簿義戦 → 模擬戦
訓練が厳しくすると → 訓練を厳しくすると
高所派の皆さん → 候補者の皆さん
2鉄横隊 → 2列黄隊
対象 → 大将
1時 → 一時
付こう → 就こう
今度の → 今後の
回りの → 周りの