第42話 第二次選考会・午前
さらに数日が立った。
姫の騎士団の応募数は78名居たらしい。
思ったより多い。
第一次審査は書類審査になった。
僕「アイドルの選考会か!」
つい突っ込んだ僕に翁が「あいどる?」と聞き返す。
それでアイドルと言うのを簡単に説明をすると翁は「確かに似ておるの」と笑った。
翁「だがこの審査は応募した全員の素行調査も含まれております」
翁が言うのは兵士なら勤務期間や勤務態度、周りの評価を確認するだけで済むが、それ以外の応募は結構時間が掛かるらしい。
市井のものなら本人は愚か、親兄弟、本人の交友関係まで調べる。
冒険者の場合は冒険者組合に問い合わせを行い、冒険者としての経歴や本人の交友関係、噂まで調べるそうだ。
大げさな、と思ったけど「姫のお傍に仕える者だから、大げさに過ぎても足りないぐらいですな」と言われて納得。
ただ翁が僕に警護を使うのが何とも慣れないのでその事を言うと「若はもう王族ですからな」と言われた。
そこを何とか説き伏せて公式の場以外では今まで通りで行くようお願いをする。
翁は「その方が楽でいいがな」と言う。
選考会に関して「よろしくお願いします」と言うと「まかせておけ」と豪快に笑っていた。
そして書類選考が終わって78名が73名になった。
―殆ど通過かよ!
魔王『落ちた5名の素性が気になるな』
翁に聞いたら「幼子が1名、男が1名、素行が良くないものが2名、姫が1名」と言った。
―姫を守るための騎士ですから!
魔王『男だと?』
―まあ性同一性障害の人かも知れないしね
魔王『なんだそれは』
性同一性障害というものに関して僕が知っている事を伝える。
―まあ僕のいた世界では少しづつだけど、そういう人もいると受け入れられてきてはいたよ
魔王『なるほどな』
―ただ応募した男の人がそうなのかは分からないけどね
とりあえずは73名をどうするかだ。
美女さん「本来なら対戦試合を行ったりして決めますね」
僕「仲間を決める選考会で、行き成りそれで振るいにかけるのはどうなんでしょうか?」
翁「だが実力の無いものは採用できないと思うが?」
僕「そうでしょうか?」
僕の考えを二人に告げる。
本来の騎士なら剣の腕前も必要だろう。
でも姫の騎士団は姫を守る為だけの騎士で、他の騎士とは少し違う。
だから剣の腕以外でも能力のある人間は取り入れたい。
翁「他の能力とは?」
僕「そこまで深く考えてませんが剣一辺倒の騎士団にはしたくないですね」
翁「ふむ…」
そう言うと「なら面談しかあるまいて」と追うが呟いた。
面接を73名行うのか、結構ハードだな。
そんな事を思っていたら「ではこうしましょう」と美女さんが手を叩いた。
美女さん「全員と手合わせしましょう」
僕・爺「「手合わせ?」」
美女さん「はい。勝ち負け関係なく手合わせをすれば、相手の剣の腕以外も見れますね」
翁「なるほどの…」
僕「まって!…誰がするの?」
念の為に聞いてみたら2人が僕を見るし、魔王まで『決まっておるだろう』と言う。
―やっぱり僕がするんですね
美女さん「私も副団長として手伝いますよ」
―さすが美女さん!!
そう思って物凄い期待して美女さんを見たら「ちゃんと立ち会います」と言う。
僕「立ち会う?」
美女さん「ええ、実際に剣を振るうのは若のお仕事です」
僕「一人で!?」
美女さん「若なら一人でも十分いけます」
魔王『いつも通りお主に拒否権は無い』
美女さんの太鼓判と魔王の冷たい一言で僕が全員と直接剣を交える事となった。
――――――――――
さらに数日後、姫の騎士団の二次選考前日の夜。
姫、有力貴族の娘、妖精少女、美女さんと、ここ数日で(僕以外と)すっかり打ち解けた妖精姉とで食卓を囲んでいた。
姫「明日、姫の騎士団の二次選考なんですね」
僕「ええ」
姫「手合わせと聞いてますが…」
すでに候補者に向けて、二次選考は僕との手合わせと告知している。
単純な勝ち負けではないという事は伝えられているが、内容は手合わせ以外は当日となっている。
僕「姫、申し訳ありませんが有力貴族の娘も候補者の一人である限り、ここで内容は言えません」
姫「そんな…」
有力貴族の娘「私も他の候補者と同じ立場で挑みたいので構いません」
毅然と言う有力貴族の娘に妖精姉は首を傾げる。
妖精姉「有力貴族の娘は若の奥さんなんでしょう?なら選考無しで合格なのでは?」
僕「それはありえません」
妖精姉「何故?」
僕「僕の奥さんという立場と姫の騎士団の一員と言うのは別だからですよ」
妖精姉「身内でも贔屓しない?」
僕「ここで僕が有力貴族の娘を特別扱いで合格させると、今後、コネで入ろうとする者を拒否できなくなります」
そうなると姫の騎士団は貴族や豪商のような力ある娘に箔を付けるだけの騎士団に成り下がってしまうだろう。
それでは姫の騎士団を作る意味は無いのだ。
妖精姉「しかし若の奥さんである限りは実力で入ったとしても、やっぱりコネとして見られるのでは?」
僕「その可能性は否定できません。しかし騎士団の選考をしっかり行えば問題はありません」
選考内容に有力貴族の娘を優遇するような不正を行わず他の候補者達と同じ立場で試験を受けて合格すれば、騎士団の中から有力貴族の娘に不満を持つ者は出ないだろう。
それでも不満に思うよう器の小さい人は騎士団に必要は無い。
騎士団の仲間がちゃんと理解してくれているなら、例え騎士団以外の誰かが有力貴族の娘の事を悪く言ってもみんなで守れるのだ。
妖精姉「それでも力のある者はコネだと信じて娘を入れようとするのでは?」
僕「その為にしっかりと選考会を行うんですよ」
選考会をしっかり行っておけば、後々にコネで娘を入団させようとしても選考会と同じテストを受けさせればいよい。
僕「テストは生半可な気持ちで受かるようなモノは行いません。コネで来るような娘は到底無理ですよ」
美女さんも笑顔で頷いている。
因みに明日の二次審査は決まっているが三次以降はまだ決まってない。
ただ単に自分の首を絞めたかな?とも思わないでもないが、姫の騎士団について妥協したくないのは確かである。
姫「私も見学に行っても宜しいでしょうか?」
僕「かまいませんが…」
美女さん「さすがに直接は危険ですので、選考会の広場を見渡せる3階のバルコニーに席を用意させます」
姫「近くで見るのはだめですか?」
美女さん「素行調査は行っておりますし赤白両騎士団の騎士も手伝いに来てくださいますが、それでもどの様な者がいるかまだ分かりませんので」
それを聞いて姫が「そうですか…」と残念そうにする。
姫「せめて2Fで…」
美女さん「2Fですと投擲用の武器があれば十分姫に危害を加えることが出来ますし、協力者がいれば飛び移る事も可能です」
美女さん「私ならナイフで確実に仕留められますね」
魔王『3Fでも出来そうだ』
魔王の呟きが聞こえたかのように「3Fでも10回に9回は出来ると思います」と笑顔で呟いた。
それを聞いて姫が「分かりました」と頷く。
妖精少女「私も姫お姉ちゃんと一緒に見る!」
美女さん「わかりました。妖精姉様のも合わせて3席用意致します」
妖精姉は「私は別に…」と言っていたが妖精少女の「楽しみだね」という言葉に「え、ええ…」と何となく頷いていた。
――――――――――
二次選考当日。
姫の騎士団の候補者73名は城にある兵の訓練場広場に集められた。
その中には有力貴族の娘もいるが選考会が始まってしまえば一人の候補者として扱う。
美女さん「では姫の騎士団の2次選考会を始めます」
美女さんはそう宣言すると今回の選考会の趣旨を説明する。
全員にくじを引いてもらい一班9~10名に班分けをし紅白に分かれて模擬戦を行う。
各班、一人の大将を選び、大将は鉢巻を巻くいておく。
模擬戦毎に大将を変えるのは構わないが、戦闘中の交代は認めない。
攻撃は木剣のみで飛び道具や魔法、精霊魔法等の類は使用不可である。
勝敗は相手大将を討ち取るか、一定時間後に決着が付かない場合は生き残りの多い方が勝ちである。
大将の交代は認められていないために、鉢巻が外れた場合も負けとなる。
戦死判定は一人につき一人の判定者が付き行い、旗が揚がった方の色の候補者は戦死となる。
2人の判定者(自分と相手)の戦死判定が合わない場合は両方相打ちで戦死となる。
A(赤)とB(白)が戦った場合の両判定者の判定。
両方、赤を上げたら赤の戦死。
両方、白を上げたら白の戦死。
赤と白で分かれたら両方の戦死。
旗が揚がらない限り戦闘続行。
判定員の判断は絶対であり異論は認めない。
判定員は赤白両騎士団の連隊長と大隊長達が行い、毎回ランダムで決める。
模擬戦の立会い人は赤白両騎士団副団長2名が行う。
美女さん「赤白両騎士団の全面協力の下で行います」
美女さんがそういうと白の騎士団団長が「どうも」と挨拶をし、赤の騎士団団長は目礼だけした。
まさに赤白両騎士団の全面協力である。
しかもこれだけではなく、両騎士団から各数十人の騎士団員が手伝いに来ているのである。
白の騎士団団長曰く「騎士団員の勉強になると思って」
赤の騎士団団長も同じ考えらしく、互いの騎士団から次代を担うだろう数十人を厳選して連れて来たらしい。
美女さん「では、午前中は私と若のペアと総当りで対戦してもらいます」
その言葉に候補者から動揺が伺える。
一部は「2人で?」という反国王軍に関わってない市井の者や冒険者。
残りの大半が僕と美女さんをある程度知っている反国王軍の兵士だったもの達である。
美女さん「私達の大将は若が行います。判定員は赤白両騎士団団長にお願いします」
「お二人なら皆さんも判断に納得なさるでしょう」と美女さんが微笑む。
赤白両騎士団団長が頷くのを確認して「ではクジを引いてください」と言った。
全員がくじを引き番号順に並ぶ。
1~8が横に並びその後ろに9~16が横に並ぶ。
全員並んだ縦の列が班になり、そうして8つの班が出来上がる。
美女さん「模擬戦の順番は一番先頭の人の数字の若い班から対戦となります。一通り終わればまた1から。それを午前中は繰り返します。戦闘の勝敗は関係ありません」
勝敗ではなく模擬戦を通して協調性ややる気などを見るのだ。
美女さん「各模擬戦を時間一杯に行えば3周くらいですが、何戦出来るか楽しみです」
魔王『ほう』
―美女さん?
魔王『美女は「どれくらい耐えれるのか?」と挑発したのだ』
―だよねぇ!
なんて事言うの!?って思ったが、それを聞いた候補者達がやる気を出してくれたようなので、まあいいかと思う。
美女さんは「1刻、作戦会議に時間を取ります」と言うと一時解散を告げた。
白の騎士団副団長の「始め!」言葉で模擬戦が開始される。
僕達は赤で美女さんを前衛、僕が後衛に立つ。
白側の1班のメンバーは7人が前衛、3人が後衛で大将を2人で守るつもりのようだ。
7人の内3名が美女さんに張り付き4名が僕の方に突っ込んでくる。
と美女さんに張り付いた3名が崩れ落ちる。
すぐに白の旗が3本揚がる。
僕に向かおうとしていた4名が驚きで足が止まった瞬間に僕は自ら突っ込んで2名を倒す。
慌てて僕に向かおうとする残りの二人を倒した時には、美女さんは走り抜けて後衛に肉薄すると大将を含む3人を打ち倒していた。
一斉に白い旗が揚がり「そこまで」という声が掛かる。
すぐに周りにいた赤白両騎士団の騎士達が1班のメンバーに駆け寄り怪我の具合などを確認しながら模擬戦エリアから連れ出す。
開始1分未満で終了である。
他の候補者からざわめきが上がった。
模擬戦前の作戦会議中に美女さんから「候補者は人数差から気を抜いていると思うので気を引き締めましょう」と言われた。
第一班は見せしめとして一瞬で叩き伏せられたのである。
もちろん、全員次の模擬戦に影響を及ぼさないように打ち身程度に抑えている。
「次、第2班!」という掛け声の下で2班がフィールドに入る。
「はじめ!」の合図で9名の内、8名が美女さんに殺到する。
美女さんは8名を捌きながら次々と倒していく。
それを横目に僕は飛び出すと相手の大将に迫る。
予想はしていたようで剣を構えたが僕は剣を叩き落すと喉元に剣を突きつけた。
すぐに「そこまで!」という掛け声が掛かる。
やはり開始1分未満である。
次の班は剣を握った事の無い市井出身の娘が大将を勤めていた。
というよりは剣が使えないので大将に追いやられたのだろう。
全員が大将を守り打って出てこない。
僕と美女さんは回り込んで左右から挟撃するとあっという間に防御は崩れた。
唯一驚いたのは剣を初めて握るような市井の娘が独りになっても降伏せずに僕に向かって来た事である。
もちろん素人の剣など問題になるわけも無く難なく剣を叩き落したが、向かってくる勇気は中々だと思う。
その後も各班は他の班の戦いを見ながら戦術を考えて立ち向かってきた。
2週目は相手の出方を伺いながら対応したので1週目よりは対戦時間がかかる。
それでも数分といった所だったが…
全班各2回づつ対戦を終わった時点で始まって半刻(約1時間)と言った所だ。
美女さん「2回ずつ終了しました」
美女さんはそう言うと若干息の上がっている候補者達を見て「どこか打開策を見出した班はありますか?」と聞いた。
しかしどこの班も思いつかないようで声を上げない。
美女さん「わかりました。では1と2、3と4、5と6、7と8のそれぞれ2つの班を統合して引き続き行います」
一つの班18~19名になる。
1刻の作戦会議の後に若い番号順から模擬戦を行う。
1つ目の班は開始直後に大将を除く18名全員が向かってきた。
「いさぎが良いですね」という美女さんはいつもの笑顔で集団に飛び込むと触れるを幸いに片っ端から打ち倒していく。
次々と揚がる白い旗。
このまま美女さんが倒してくれたら楽だなと思ったら三分の一ほど倒した後に僕と目を合わせた美女さんが引いた。
そして候補者を引き連れたまま僕の方に向かってきた。
魔王『楽はさせてくれないようだ』
―そのようだね
美女さんは僕の横を通る時に「サボったらダメですよ」と僕にだけ聞こえるように言うとさらに下がっていった。
美女さんと共に向かってきた候補者達は大将である僕を見逃す訳も無く僕をそのまま取り囲もうとする。
僕は前面の的に突っ込むと3人の候補者を打ち倒し囲みを抜ける。
すぐに振り返り向かってくる9名を近い順に対処する為に剣を構えた。
昼間近になり休憩となる。
息も絶え絶えに地べたに崩れ落ちる候補者達の前に立ち「では昼食と休憩をはさみます」と美女さんが言う。
最初から最後まで笑顔の美女さんに候補者達は恐怖を覚えるかもしれない。
―僕は怖いよ
魔王『我も怖い』
さすがに僕も肩で息をしながら汗を拭う。
―立ってるのが辛いなぁ
だが候補生の前だから見栄を張ってなんでもない風を装う。
魔王『息も絶え絶えで装えてないがな』
―それくらいは許してよ
美女さん「もし姫の騎士団を辞退したいと考える場合は、昼の選考会が始まるまでに申し出てください」
美女さんが「以上です」と言うと回りの騎士達が「昼食の用意はあちらです」と候補者達を案内していた。
僕と美女さんも赤白両騎士団団長と副団長達と共に食事を取る為に移動した。
誤字修正
考ええお → 考えを
生残り → 生き残り
私達の対象 → 私達の大将
3週くらい → 3周くらい
数分といた → も数分といった
対象は → 大将は
午前中ですは → 午前中は
裁き → 捌き
応募者数の間違いを修正