第40話 キス
40話が41話になっていた為に、以降の話が全て1話ずつずれておりました。
殿下が戦後すぐに送っていた妖精少女への国の使者が戻ってきた。
魔王『おい』
それだけではなく使者は―
魔王『おい!』
妖精少女の故郷から何名かのお客さんを伴って―
魔王『無視をするな!』
―なんだよ、魔王
魔王『おかしいだろう?』
―何が?
魔王『その後をちゃんと説明しないとダメだろう』
―その後…?
魔王『ああ、面倒くさい。祝賀会から2日後の夜だ!』
―…人の情事には興味が無かったんじゃないの?
魔王『無い!しかし突っ込まねばいかん気がするのだ』
―なんだよそれ
取り合えず、姫と有力貴族の娘は僕の正式な奥さんとなった。
魔王『抱いたという事だな』
―わざとぼやかして話しているのに!
魔王『だが事実は変わるまい』
確かにそうだけど。
魔王『よかったな』
―?…うん。
まあ、そういう事である。
話を元に戻す。
妖精少女の故郷に出ていた使者がお客さんを数名連れて戻ってきた。
殿下との挨拶をしている所に入出した妖精少女はお客さんの集団を見ると「お姉ちゃん!」と走り出してしまった。
お客さんの集団はその声に振り返り走り寄って来る妖精少女を見止めると一人の女性が立ち上がった。
その女性に「お姉ちゃん!!」と飛ぶように抱きつく妖精少女と、その妖精少女を受け止めて抱きしめる。
―お姉ちゃん?
魔王『よくまあ、これだけの数の妖精族が出てきたものだ』
妖精族は集落付近の森の外に出るものは本当に珍しい。
それが男女合わせて5名も出てきているのである。
4名の男性と1名の女性の計5名の妖精族の男女は一頻り妖精少女との再会を喜んだ後に、一人の若者がはっと気がついたように殿下に「申し訳ありません」と頭を下げた。
どうやら自分達の世界から出ない種族ではあるが人族の身分制度などの理解はあるようで、今の行動は一国の王の前で行うべき態度ではないという判断はできるようだ。
魔王『別に特別人嫌いという種族わけでもないからな』
―そうなんだ
魔王『ただ人間が妖精族をさらったりする事があるので避けているだけだ』
謝罪する妖精族の若者に殿下は「構いません。久々に会うことが出来たんですから」と笑顔で頷いた。
そして「良ければ部屋を用意しますのでそちらでゆっくりとお話ください」といい「若、案内をよろしくお願いします」と言われた。
取り合えず頷いて「こちらへ」と5名の妖精族の若者と妖精少女を謁見の間から出るように促したが、ここで困った。
―案内するのはいいけど、何処にするか知らないよ!
すぐに美女さんが「こちらです」と先導してくれるのでついて行く。
そして談話室の一室に案内をする。
美女さん「お泊りになるお部屋は後ほど案内致します。とりあえずは夕食まではこちらでおくつろぎください」
そう案内して美女さんが出て行こうとしたので僕も付いて出て行こうとする所を「お姉ちゃん」と呼ばれていた妖精族の女性の膝に座る妖精少女が呼び止める。
妖精少女「お兄ちゃんも一緒にいようよ」
その言葉に僕が振り返ると妖精族の若者全員が僕を見ていた。
―何と言うプレッシャー
魔王『警戒心しかないのに中々の圧迫感だな』
妖精少女が「お兄ちゃん」となついている僕は一体何者だろうか、と皆が思っているであろう中に「お兄ちゃんは私を変な人から助けてくれて首輪も外してくれたんだよ!」という妖精少女の声が響く。
「どういう事なんでしょう?」と言う妖精族の若者の言葉に掻い摘んで説明する。
僕と美女さんが旅をしている時に野盗に襲われた商隊に出くわし、野盗を倒した。
だが生き残ったのは妖精少女のみで、妖精少女の風貌から奴隷商人の商隊だった事が分かった。
「家に帰りたい」という妖精少女を帰してあげる為に妖精少女の故郷に向かっている間にこの国の内乱に巻き込まれてしまった。
そしてやっと内乱が終わり殿下の好意で皆さんに連絡が取れた。
首輪と言うのは奴隷商人のつけた魔法の首輪で、無理に外すと危ないので魔力で内部を破壊して壊した。
それを聞いた妖精族の若者達は口々に「ありがとう」と僕に礼を言う。
しかし本当はすぐにでも送らないといけないのに危険に巻き込んでしまったのである。
その事を謝罪すると「貴方がいなければ妖精少女はどうなっていたか分からない」と言った上で「精霊の導きです」と言った。
妖精少女が「かわいいでしょう」というと2匹の子狼を取り出すと、妖精族の若者から「狼の子だ…」と声が上がった。
僕は何故2匹の子狼が妖精少女になついているのかを説明する。
すると「そういう事でしたら仕方ありません」と頷いた。
どうやら狼は妖精族の中では守り神のような存在らしい。
いろんな考え方があるもんだ。
そうして美女さんが飲み物を持てくると美女さんにも全員が感謝の言葉を告げた。
美女さんは「気にしないで下さい」と言うと「姫様と有力貴族の娘様もご挨拶したいと申しておりますが宜しいでしょうか?」と尋ねた。
僕はすかさず「姫と有力貴族の娘は妖精少女と仲良くしてくれて、僕達が戦で不在の時には傍にずっといてくれたんです」と言うと妖精少女が「家族なの!」と言った。
家族の意味に首をかしげながら「妖精少女がお世話になった人なら」と喜んで二人を招き入れた。
入出した姫と有力貴族の娘が挨拶をする。
それに答えて妖精族の若者達が挨拶する。
妖精少女を膝に乗せている女性美女さんと同じぐらいの歳で「妖精姉」と言うらしい。
というより来ている全員が結構若いようだ。
妖精姉「妖精少女を良くして頂いて、感謝の言葉もありません」
姫「私達が妖精少女を好きで行っただけです。気にしないで下さい」
妖精少女「そうだよ!家族になったから」
妖精姉「家族?」
―あ、何か嫌な流れになってきた気がする
妖精少女「うん!全員お兄ちゃんのお嫁さんなんだ!!」
魔王『予想が当たって良かったな』
妖精族の若者達が妖精少女の言葉に固まりゆっくりとこちらを見る。
―何か前にも見たな、この風景
僕は冷静に「違いますからね」と言った。
姫と有力貴族が僕の奥さんであることは間違いないが、妖精少女と美女さんは冗談で言っているだけだ。
確かに僕達は家族として暮らしてはいるが、決して妖精少女に何かしていると言うわけではない。
姫と有力貴族、美女さんが笑いながら肯定してくれたので、誤解を解くのは簡単ではあった。
―疲れる事には変わりないけどね。
魔王がこの状況を楽しんでいる感じなのがむかつく。
妖精姉達はやはり妖精少女を迎えに来たらしい。
小声で妖精少女に何かを語りかけ、妖精少女も嬉しそうに頷いていた。
しかし妖精姉が何かをささやいた時に妖精少女は「お兄ちゃん達もだよね?」と唐突に言ったが妖精姉が首を振ると「や!」と大声を出した。
どうしたのか聞いたら妖精姉が「妖精少女に妖精の里に戻りましょう」と伝えたのだと言う。
宥めて梳かしても妖精少女は首を縦に振らない。
どれだけ言われても妖精少女はイヤイヤと首を振り続けている。
あまりの嫌がりようにそろそろ止めようかと思った時に魔王が叫ぶ
魔王『感情が高ぶりすぎている。危険だ!』
―え?
2匹の子狼が跳ね起きるように部屋の奥に走っていく。
と「やーーー!!」と叫んだ瞬間に何かが妖精少女から迸った。
とっさに姫と有力貴族を前から抱きかかえると力任せに座ってた椅子を乗り越える。
そこで美女さんが駆け寄ってきたので二人を渡すと美女さんは驚きで声も出ない二人を担いだまま壁際まで後退した。
振り返ると妖精少女から迸る力を5人の妖精族の若者がシールドを張って抑えているようだ。
妖精姉が良く分からない呪文のような悲痛の叫びが聞こえる。
魔王『聞こえていないな』
―どうすれば
魔王『妖精少女の力は強い。このままではシールドが破れるだろう』
―そうするとどうなる
魔王『この部屋が吹っ飛んで、妖精少女が力尽きるまで暴走するのだろう』
―どうすれば止めれるんだ!?
魔王『妖精少女の気持ちを落ち着かせる事だろう』
見て入間に妖精族の5人は押されるように妖精少女から離されていく。
―僕はどうしたらいい
魔王『呼びかけろ』
僕「妖精少女!!」
僕は何度も呼びかけるが声にならない叫びを上げ続ける妖精少女には届かない。
魔王『直接言葉をぶつけるしかない!』
―直接ってどうするのさ!?
魔王『妖精少女を捕まえて直接言霊を吹き込むんだ』
―捕まえるって、あの中に入れと??
妖精少女を囲むシールドの中に渦巻く何かを見る。
入ったらずたずたになるのでは無いだろうか。
魔王『今なら妖精少女までの距離は1歩くらいだ。時間が経てば距離は開くぞ!』
確かにじりじりとシールドが押されている。
魔王『今の内に妖精少女を捕まえるんだ!』
―どうすれば捕まえられる?
魔王『全身に魔力の膜を作って飛び込め。それで少しは耐えてるはずだ』
―わかった
魔王『足りないとズタズタになり、多すぎると自滅するから注意しろ!』
―分かったけど、今言われたく無かったよ!
魔王『妖精少女を捕まえたらすぐに言霊を吹き込め』
―どうやって?
魔王『口から直接吹き込む』
―それって、もしかして―
魔王『接吻だ』
―!?
魔王『驚く時間は無い。やれ!』
―どう吹き込むのさ!?
魔王『意識を込めた接吻で言霊を相手に送り込め』
―それで旨くいくのだろうか?
魔王『いかない場合は吹っ飛ぶだけだ』
それを聞いて決心する。
僕は魔力で全身を包む事を意識する。
魔王『それではまだまだ弱い!』
―っ!?
さらに魔力を込める。
魔王『それで足りるか分からんが、魔力を途切らすなよ!』
僕は心の中で頷くと魔力を途切らせないように歩き出す。
妖精姉「何をしているの!?危ないから離れ―」
その声に反応せずに歩いていくとシールドに手を伸ばす。
本来なら触れると大怪我をするだろうシールドに触れた手は、すり抜けるように中に入る。
と荒れ狂う奔流に手の皮膚が裂ける。
魔王『もっと魔力を込めろ!』
僕は無言で魔力を込めるとそのままシールドを越えて中に入る。
それを周りの妖精族の若者達が驚きと共に見つめる。
あまりの驚きに気が逸れたのだろう。
シールドの範囲が急に広がり、僕の上半身が急にシールドの中まで入り衝撃をモロニ浴びる。
僕「っ!!」
あまりの衝撃に声が漏れる。
すぐにシールドの広がりは止まる。
僕はそのまま止まらずに中へと進んでいくと妖精少女の方に触れようとした。
魔王『あまり外側に魔力を放出すると妖精少女を傷つける事になるからな!』
妖精少女が傷つくぐらいなら魔力を切ってやる!
その僕の思いが伝わったのか、魔王が笑う。
妖精少女の肩を慎重に掴んだ頃には僕の全身はシールド内に入っていた。
上を向いて叫び続ける妖精少女の両肩を掴む。
その間も刻々と魔力は消費されていく。
妖精少女の首輪を壊した時とは比にならない程の消耗だ。
掴んだ肩に力を込めると妖精少女を抱き寄せる。
それでも変わらず声にならない悲鳴を上げ続ける妖精少女に意識を込めたキスをする。
この後どうしたらいいのか分からない僕は妖精少女を抱きしめたままキスをし続けた。
妖精少女の全身から力が抜けるのを確認してキスをやめる。
いつの間にか周りを取り巻いていた奔流が止んでいる。
腕の中の妖精少女が少し身じろぎする。
僕「妖精少女…大丈夫?」
妖精少女「おに…いちゃ…ん」
僕「無事でよかった」
妖精少女「おにいちゃん…」
僕「何?」
妖精少女「ごめん…ね」
僕「ん?」
妖精少女「怪我…」
そう言うと泣き出してしまう。
その妖精少女の頭をなでると「全然痛くないよ」と笑う。
僕「妖精少女が無事ならこんなの全然平気だよ」
魔王『うそつけ』
―黙ってて!
妖精少女「でも…でも…」
それでも自分を責めようとする妖精少女に「家族を守るのは当たり前だよ」と頭を撫でた。
妖精少女は何も言わずに泣き続ける。
それを優しく撫でながら周りを見ると、皆が僕達を放心したように見ていた。
やはり大事にならずにすんでみんな安心したんだろう。
姫「…キスした」
僕「は?」
妖精姉「キスした」
美女さん「しましたね」
僕「え?え?」
有力貴族の娘「舌を入れた」
僕「そこまでしてないよ!」
あれ?何この空気。
無事に収まってよかったって思うところじゃないの??
妖精姉「何もして無いと言っていたのにためらう事も無くしましたね」
姫「本当は私達の知らないところでキスをしてたのかも」
美女さん「あらあら」
有力貴族の娘「妖精少女はあんなに可愛いのだから、仕方ないと言えば仕方ないけど…」
僕「いやいやいやいや」
その反応おかしくない!?
僕「ああするしか無かったんだよ!?」
有力貴族の娘「本当かしら?」
妖精姉「妖精少女に近づけるならキスでなくてもいけた筈です」
―あれしかなかったんだよね魔王!?
魔王『我は「驚く時間はない、やれ」とは言ったがな』
―魔王ぅぅぅ!!
妖精姉「別にあそこまで魔力を扱えるなら、妖精少女に魔力を送ってどうにかする事も出来たはずです」
魔王『それはさすがに危険を伴うがな』
僕「それは危険も伴うからあの場合は使えないよ!だから言霊を吹き込んだんだよ!?」
有力貴族の娘「言霊?」
僕「そう!」
妖精姉「言霊を…キスで?」
―なんて説明したらいいんだろう、魔王お願い!
魔王『ああ言霊は嘘だ』
僕「言霊はう―」
―ええええええ!!!!!
魔王『ただ接吻で妖精少女の意識を呼び寄せただけに過ぎん』
―だって言霊がどうこうって
魔王『だから嘘だ!』
魔王の言葉に呆然とする。
姫・有力貴族の娘・妖精姉「「「う?」」」
僕「う―うまく…送る為にあの場は仕方なかったんだ!」
魔王『「仕方なかった」言い訳の常套句だな』
―魔王の所為じゃないか!!!
魔王『でもそのお陰で妖精少女は落ち着いただろう』
確かにそうだけど納得いかない。
言い出したのは魔王で騙された僕も悪いけど、魔王の事を妖精族の若者の前で言うわけにはいかない。
どう言えばいいんだろう、と悩んでいると姫と有力貴族の娘が噴出した。
有力貴族の娘「あの状態でそこまで考える余裕が無いのは分かってるわ」
姫「そうですね。結果的にちゃんと収まりましたし」
「傷の手当てを…」という姫と有力貴族の娘の顔が笑っている所を見ると、魔王の差し金と言うのは分かってて面白半分に僕をからかったらしい。
―勘弁してください。
妖精少女を助ける為にシールド内に突入するより、みんなから妖精少女へのキスを責められるほうが精神的に何倍もキツかった。
誤字修正
身長 → 慎重
野党に → 野盗に
開きこまれてしまった → 巻き込まれて
無理い → 無理に
そうやら → どうやら
継げた → 告げた
目にも見たな → 前にも見たな
余りの → あまりの (数箇所修正)
交代した → 後退した
振り帰ると → 振り返ると
優勢姉 → 妖精姉
言葉だ → 言霊
魔力の消費は消費されていく → 魔力は消費されていく
本流 → 奔流