第38話 騎士団
―試練は続く。
パレードから3日がたった。
僕と姫が婚約するらしいという噂がすでに蔓延している。
反国王軍内では周知の事実だったようなので、予想はされていたけど。
ただ婚約に関して賛成の風潮になりつつあるのは翁による工作が見え隠れしている。
―本人は知らないと言ってたけど
魔王『それは無いな』
礼儀作法とダンスの練習は毎日行われている。
式典の礼儀作法はそれ程難しいものではない。
奇抜な内容は無いし姫の騎士を授与される手順だけを覚えれば良いようなものだ。
ただその手順と言うのが僕がこの前やった姫に剣を捧げる行為で、それを大勢の前でやるのは少し恥ずかしい。
王子「そうですか?僕はいいと思いますけど」
姫「私もかっこいいと思います」
僕「あ、ありがとうございます」
白の騎士団団長「練習を見ている限りでは素晴らしいものに思えますが」
周りには好評らしい。
―やる方は恥ずかしいんだけどね。
それでもこれはまだマシな方だった。
ダンスの練習に比べたら。
有力貴族の娘「ほら、また下を向く!足元を見てはダメよ」
ダンスの練習は有力貴族の娘がしてくれる。
最初は姫が行う予定だったらしいが、僕がダンス未経験者と分かると姫より有力貴族の方が教えるのが得意と言う事で変わったのだ。
有力貴族の娘「間違えて私の足を踏んでもいいから、しっかりと前を向いて」
中々のスパルタである。
半時(約1時間)の練習で疲労困憊である。
これなら剣を振るっていた方が楽だ。
いつもなら冷やかし半分に現れる両騎士団団長も顔を出さない。
魔王『逃げたな』
―やっぱり!?
ずっと僕と有力貴族練習をにこにこ見ていた姫に声を掛ける。
僕「姫はダンスの練習をしなくてもいいんですか?」
有力貴族の娘「姫は幼い頃から習っているから、今更数日練習する必要なんか無いわ」
姫「それにダンスを踊るのは王子と若だけですから」
どうやらダンスはある程度決められたパートナーで踊った後は好き好きにダンスの誘いを申し込めるらしい。
姫は王子と僕以外で踊る気も無いので、すぐに上座に上がって見ている事にするらしい。
さすがにそこまで追いかける無礼は誰もしないだろう。
僕「有力貴族の娘はどうするの?」
有力貴族の娘「私は…お父様と踊った後は適当に申し込まれたのを受ける事になるわね」
僕「そうなの?」
姫「有力貴族の娘は大貴族の娘ですからね。未婚の貴族の子弟達が沢山申し込むと思うわ」
有力貴族の娘「面倒ですけどね」
僕「僕の奥さんと言うことで断る事は出来ないの?」
姫「まだ発表していない状態では難しいですね…」
なんだか物凄く嫌なので何か出来ないかを僕は考える。
有力貴族の娘「あら、独占欲?」
「ふふ…」と笑う有力貴族の娘の言葉に僕が抱えていたもやもやが晴れる気がする。
僕「そうだ、独占欲なんだ」
有力貴族の娘「え?」
僕「何か嫌だったんだけど、独占欲と言われたらしっくり来た。他の男と踊るのを見るのが嫌なんだ」
有力貴族の娘「え、な…」
「何ではっきりとそんな事を…」と真っ赤で言う有力貴族の娘に「僕の奥さんになる人だからね!」と言うと「独り言を盗み聞きしないで!」と真っ赤になって怒られた。
「私みたいに逃げる事が出来たらいいのに」と呟く姫に「それだ!」と僕は手を叩く。
僕「上座に登って姫と一緒に居ればいいのでは?」
有力貴族の娘「少し難しいわね」
僕「何で?」
有力貴族の娘「勝手に上がっていけば不敬罪だわ」
僕「勝手じゃなければいいの?」
有力貴族の娘「そう…なるわね」
僕「姫、踊る順番はどうなってますか?」
姫「私は王子と踊った後に若と踊って上座に戻るわ」
僕「王子の順番は?」
姫「一人目が私ね。二人目以降はその場に残って適当に来る踊りの相手を続ける事になるでしょうね」
僕「王子の2人目の相手を有力貴族に出来ないかな?」
姫「それは…翁達に聞かないと分からないわ」
僕「じゃあごり押しで入れ込もう」
有力貴族の娘「どういうつもり?」
僕「有力貴族の娘は一人目を僕、二人目を王子に踊ってもらうんです」
有力貴族の娘「…それで?」
僕「僕は姫と踊ったら姫を上座へ案内するように言われてます。有力貴族の娘は王子に上座に案内してもらえばいいんですよ」
「名案ですね!」と姫が声を上げる。
これで有力貴族の娘も煩わしい誘いを受ける事も無い。
有力貴族の娘「それは…ダメですよ」
有料貴族の娘が言うには未婚の王子がそのような行動を取ると王妃候補として騒がれてしまうと言うのだ。
さすがにそれはまずいのかな?と思っていたら姫が「聞くだけ聞いてみましょう」と言って部屋を出て行ってしまった。
有力貴族の娘「大変な事になったわ」
僕「そうだね」
有力貴族の娘「貴方が言い出したのでしょう!」
僕「でも有力貴族の娘が誰かと踊るのは見たくないから」
有力貴族の娘「―!も、もし王子が無理ならどうするの?」
どうしよう?
はっきり言うと王子が断るとは思わない。
なんだかんだできっとやってくれると言う確信がなぜかある。
ではもしダメだったらどうしようか。
僕「有力貴族の娘と踊り続けるしかないかな?」
その言葉に有力貴族の娘は「なにそれ」と笑う。
そんなに笑う事…だよね。
僕「それか踊った後に踊りの輪から外れるように誘うしかないかな?」
有力貴族の娘「バルコニーとかで2人きりで会話できるように?」
僕「そうだね」
有力貴族の娘「姫との婚約を発表した直後にそんな事をすると誤解されるわよ?」
僕「誤解じゃないし、問題ないよ」
有力貴族の娘が黙り込む。
どうしたのかと思って声をかけようとした時に姫が王子と翁をつれて戻ってきた。
姫が来るまでに簡単に話をしていたらしい。
すぐに「問題ありませんよ」と王子が言ってくれた。
―話が早くていいね。別に長々会話するのが面倒な訳じゃないけど!
魔王『何に対する物言いなんだ、それは』
翁「ただし上座の立ち位置を工夫せねばならん」
そう言うと翁は地図を取り出した。
祝賀会の行われるホールの地図らしく、色々書き込まれているところを見ると警備の場所を記した地図らしい。
工夫という程でもない。
ただ上座の数段下に椅子を用意して置くというだけだった。
どうやら元々そこには妖精少女と美女さんが待機している予定だったらしい。
妖精少女は実質何もしてないけど兵達の心の支えとして(勝手に)祭り上げられていたし、美女さんに至っては新興宗教の神になってる。
そして二人とも(僕もだけど)この国の人間ではなく、姫と王子を助ける為だけに手伝っていた客人でもあるので、このような待遇でも不満は少ないというのだ。
僕「王女だけ上では寂しくない?」
姫「確かにそうですね」
僕「一緒に座ったらダメなのかな?」
翁「そうはいかんじゃろう」
僕「そうですか?」
翁「王族だぞ?」
僕「でも王位に付く王子は無理でも姫なら問題ないのでは?その王子もダンスの相手で踊りっぱなしなんでしょうし」
翁「確かにそうじゃが」
王子「問題ないと思いますよ。全員、若の家族ですし、今から周知させるのもありでしょう」
その王子の言葉に翁が「確かにそれはあるな」と頷く。
それで王女は祝賀会の最初だけ王子と共に上座に居て、踊り終わった後は妖精少女達と同じ場所に居る事となった。
僕「王子は踊りっぱなしになるそうですが、大変ですね」
爺「仕方あるまい」
首を振りながら笑う。
王子が未婚と言う事で誰もが自分の娘を送り込んでくる事が予想される。
王子「まあ王族の定めと諦めます」
僕「王子の后か…王子には好きな人は居ないんですか?」
王子「…僕は国同士の結びつきを強くする為に他国の姫を娶る事は決まってますからね」
僕「そうなんですね…」
王子「相手は爺達が決めてくれますよ」
爺「まあ、そうなりますな」
「王族はそういうものです」と王子が言うので、そういうものらしい。
王子も受け入れているものを僕がどうこう言えるわけも無い。
王子「だからこそ姫姉さまが本当に好きな人と婚姻する事は嬉しいんです」
その言葉に姫が「ありがとう」と微笑む。
王子が「有力貴族の娘もね」と言う。
僕「有力貴族の娘も?」
有力貴族の娘「私も大貴族の一人娘ですから、どこかの大貴族の嫡男か王族の誰かに宛がわれていたでしょうね」
翁「王族も貴族も婚姻は家を強くする手段だからな」
「相手の顔を見るのは婚姻の席というのは良くあることだ」と言う翁の言葉に驚く。
―そうなの?
魔王『そうだな。会ってみたら物凄い幼子だったり年寄りだったりと言う事もある』
王族も貴族も大変だ。
王子「だから幸せになってくださいね」
そう笑う王子に僕はしっかりと頷いた。
いい感じ(?)で話が纏まって、後は本番を迎えるだけ。
だと思ったら、そんなことは全然無かったぜー。
ダンスの練習は熾烈を極めた。
有力貴族の娘が嬉々として僕に叱咤しダンスが一応の形なり姫とも練習を始める頃には前日になっていた。
本当にここ数日は大変だった。
僕の物覚えが悪い所為なのか一日の大半をダンスに費やした。
それに付き合う有力貴族のパワーは大したものだ。
そして空いた時間で寸法を何回も取られたり試着をさせられる。
どうやらパレードでの黒尽くめを姫がいたく気に入ったそうで、僕は黒で統一しようという事に決まったらしい。
王子「姫の騎士団が設立されたら、騎士団メンバーも黒尽くめ決定ですね」
僕「はい?姫の騎士団?なにそれ?」
王子が言うには姫の騎士と言うのは僕しか居ない。
そして王子から任命されて殿騎士団にも所属せずに新たになるとと言う事は、騎士団を作っても問題ないという事らしい。
冗談だと思って翁を見たら「作れるぞ」と言われた。
僕「でも作ってどうするんですか?」
翁「姫と後宮を守ればよかろう」
僕「そうなると女性騎士団となりますが?」
姫「女性騎士団って素敵ですね」
王子「面白いかもしれませんね」
どうやらこの国だけではなく。何処の国にも女性騎士団は無いらしい。
そもそも兵として女性が勤務している事はあるが、騎士に任命される事はありえない。
女性でも頑張れば騎士になれるというのは画期的な発想らしい。
―そうか、まだこの世界では女性の地位はそんなに高くないのか
魔王『おぬしの世界は違うのか?』
政治を司ったりしている事を伝えたら魔王が驚いていた。
やっぱりこの世界はそうらしい。
僕「女性騎士団…ですか」
姫「作ってみませんか?」
僕「姫が望むなら構いませんが、雇うお金が出来るかどうか」
翁「騎士団を設立したら国から規模に応じてある程度出るぞ?」
魔王『面白そうだな』
全ては出ないし大きくすればするほど出ると言うものでもないらしいが幾らかは毎年出してくれるようで、そこが領主の私兵と騎士団の違いらい。
そして足りない部分を実費で補えばいいらしい。
僕「では作りましょうか…って簡単に出来るかな?」
姫「そうですね…」
王子「志願を募って選考会でも開きますか」
僕「そこまでやっていいのかな?」
爺「騎士団だからの。変な者が入り込んでも困るからな」
それでも何人の志願があるかも分からないらしい。
もしかしたら0の可能性もあるし、志のある女性がこの機会を逃すまいと沢山集まるかも知れない。
そればかりはやってみないとわからないらしい。
有力貴族の娘「私も志願してもいいですか?」
姫「有力貴族の娘?」
有力貴族の娘「それとも若の奥さんになる人物が騎士団入りするのはまずいでしょうか?」
王子「どうなんでしょうか?」
翁「そうじゃのう…実力以上の待遇を受ければ周りの者が納得しまいが―」
「周りも何も一人もおらんから大丈夫じゃろうよ」と翁が言う。
選考会に参加して実力でなれば良い。
僕「有力貴族の娘、本当に出るの?」
有力貴族の娘「私も剣は使えるわ。美女さんにも教わってるし」
美女さん「中々優秀な生徒です」
僕「怪我だけしないようにね」
有力貴族の娘「必ず受かるわ」
そう頷く有力貴族の娘。
僕「実力至上主義で騎士団内の立場を決めるけど、有力貴族には是非僕の補佐として頑張って欲しいからね」
有力貴族の娘「実力至上主義なら美女さんが騎士団団長じゃない」
僕「たし…かに!」
翁「いやいや」
僕が姫の騎士に任命されたから騎士団が成立されるので、若以外に団長はありえないと言うのだ。
余程の事が無い限りは一代限りの騎士団になりそうである。
まあ今はそんな将来の話をしても意味が無いので、とりあえずは騎士団に人が集まるかどうか、である。
僕「まあ姫と後宮…僕達の住まいを守るための兵だから20名程度の騎士団でいいのかな?」
翁「まあ最初はそんなものだが、体裁を保つ為に1000くらいにはならんとな」
僕「そんなに!?」
どうやら住居だけでなく式典の警備などにも借り出させるので、それくらいは要るらしい。
確かにたった20名って住居だけならまだしも式典では周りしか警備できない。
僕「となるとしっかりとした形を作らないとダメですね」
王子「最初は若が副団長を一人決めて以下騎士団という形でいいと思いますが」
魔王『美女を副団長にすればよいだろう』
―そうだね
僕「副団長は美女さんに頼めるかな」
美女さん「私ですか?」
僕「うん」
美女さんは少し考えて
美女さん「そうなると若が出かけるときに私が騎士団を見る為に残る事になりませんか?」
僕「そうか…う~ん」
王子「それはさらに下の者を育てて任せれば問題ないかと思います」
僕「それでいいの?」
爺「まあ姫のというか若の私兵のようなものじゃからな。問題あるまい」
そういう事ならと美女さんが副団長に妖精少女が「私も!私も!」と言う。
それを聞いて「妖精少女が私の騎士の一人なんて素敵」と言うので「姫の騎士団団長補佐」という名誉職に付いてもらう事になった。
姫の騎士団として女性騎士団を発足する事は就任式の際に同時に発表する事に決まった。
そこで公募する事を伝えて後日に選考会を行うのである。
選考会の内容とかについても後日話合う事となった。
誤字修正
不経済 → 不敬罪
なるそうでうが → なるそうですが
一台限りの → 一代限りの
湯量貴族の娘 → 有力貴族の娘
規模に規模に応じて → 規模に応じて
変な物が張り込んでも → 変な者が入り込んでも
回りも何も → 周りも何も
王子「最初は王子が → 王子「最初は若が
若の言葉に「」が抜けていたのを修正