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(仮)  作者: イオン水
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第37話 二者択一、二者一択

食事の席で爺と白の騎士団団長に有力貴族の娘を正式にめとる事を伝える。

「わざわざ言わなくても」という有力貴族の娘に「心配掛けたからね」と言う。

嬉しそうに頷く爺と「それは良かったですね」とさわやかに笑う白の騎士団団長。

姫も優しく微笑んでおり美女さんと妖精少女はいつも通りだ。

穏やかな時間が流れる。



白の騎士団団長「では父君に挨拶に行かないとダメですね」


僕「挨拶!?」



白の騎士団団長の一言に僕と姫と有力貴族の娘に電流が走る。



爺「そうですな」


有力貴族の娘「別にそんなのはいいです!」


爺「いやいや、良くないでしょう」


僕「やっぱり行かないとダメだよね」


姫「私も行かないと!!」


有力貴族の娘「姫ちゃんはいいの!」


妖精少女「私も!」


姫「そうね。家族全員で行かないと」


有力貴族の娘「姫ちゃん、それ違うから」


白の騎士団団長「やっぱり定番のアレですよね。『娘はやらん!』とガツーンといくアレ」


僕「ぼこぼこですか!?」


姫「私も!?」


有力貴族の娘「姫ちゃんは私が守るから!」


僕「じゃあ僕は有力貴族の娘を守ればいいのかな?」


姫「私も守ってください!」


僕「じゃあ陣形は僕が先頭に立って、その後ろは真ん中を姫で左右を爺と白の騎士団団長、最後尾を有力貴族の娘が固める1・3・1のインペリアルクロスで」


有力貴族の娘「陣形って何ですか!?」



有力貴族の娘のツッコミが響き渡る。

新たな立ち位置を手に入れたようだ。



魔王『求めてないだろうがな』


―そうだよね







―――――――――







王城の門を潜る。

先頭の騎士が門に差し掛かっただけで何かが爆発したような音がする。

何だと思ったら歓声らしい。

何千何万という人が声を上げると人の声には聞こえないようだ。

姫の馬車と共に僕も門を潜ると一際歓声が大きくなる。

馬車の通り道は赤の騎士団と翁の兵達により市民が入らないようにされているが、その外側は人で溢れ帰っている。

道はもちろん建物の各窓も全て開かれ何人もの人が乗り出している。

そして巻かれる…花びら?

黄色い花びらが雨のように降り注ぐ。



―どうやら市民には受け入れられているようだね


魔王『まあ姫は人気らしいからな。この熱狂を見ると「婚姻発表をしたら暴動」というのは強ち嘘で無いかもしれない』


―怖いことを言わないでよ


魔王『腹は括ったんだろう?それぐらいで引くなよ』


―引かないよ


魔王『がんばれ』



声援と花びらの量は城に近づくにつれて益々大きくなる。

城まであと少しという所で騎士の間から抜け出し馬車に近づくものが居た。

とっさに剣の柄に手を掛けた僕に魔王が『幼子おさなごだ!』と叫ぶのが聞こえ、柄から手を離し近寄ってきた影を捕まえて馬に引き上げる。

僕が止まった事により馬車も止まり、それに釣られて全体が止まる。

すぐに周りの警備兵が寄ってこようとするのを手で制し相手を見ると、妖精少女と同じくらいの歳の小さな女の子が急に馬の上に抱き上げられて目を白黒していた。



僕「急に飛び出したら危ないよ」


小さな女の子「ごめんなさい」


僕「急にどうしたの?」


小さな女の子「姫様にこれをあげたかったの」



そう言って差し出したのは数輪の黄色い花だった。



僕は「だからって飛び出したら馬に蹴られて危ないから、今度からはダメだよ」



そう言うと馬を馬車に寄せる。

何事だろうと心配そうに見ている姫の窓の傍に拠ると「姫にプレゼントを持ってきてくれたそうだよ」と伝えた。

姫が馬車の扉を開けると周りの兵が護衛に寄ってくる。

馬車の上から小さな女の子が差し出した黄色い花を「ありがとう」と受け取った姫は大事そうに胸に抱くと「お花のお礼よ」と綺麗な黄色のハンカチを少女の手首に巻いてあげた。



姫「我が国では黄色は幸福を表すんです」


僕「今度は嘘じゃないんだね」



そう笑う僕に姫はキョトンとしたがすぐに腕の紐に思い至り「そうですね」と微笑んだ。

そうして少女の頭を撫でると「ありがとう。でも危ないから飛び出してはダメよ」と微笑んだ。

馬車の扉が絞められ窓越しに姫が手を振っている。

その姫に手を振り返す小さな女の子を連れて脇によると母親なのか姉なのか、若い女性が駆け寄ってきた。

必死で謝る女性に「姫は全然怒ってませんよ。逆に小さな女の子の心からの贈り物に感激し、自らのハンカチを小さな女の子に送られました」と伝えると、小さな女の子が「これ!」と手に巻かれたハンカチを女性に見せた。



僕「ただし姫は小さな女の子が飛び出した事は危ないので怒ってました。でも小さな女の子がもうしないと約束したのでこれ以上の罪には問われません。安心してください」



そう言うと小さな女の子を馬から下ろし女性に預ける。

そして「もしこの小さな女の子から姫のハンカチを奪い取るような輩が居たら城に申し出てください。犯人を見つけ出し厳罰に処しますにで」と笑いながら言う。

あまりの事に恐縮しまくっている女性を笑わせようと思って言ったけど、あまり効果は無いようだった。



魔王『いや、効果的だぞ』


―そう?


魔王『あれだけ回りに聞こえるように言ったのだ。奪う輩はそう出まい』


―本当に居るんだ!!


魔王『姫の私物だぞ?好事家がどれだけの金を出すか』


―そういうものなんだ



「またね」と手を振る小さな女の子に手を振り替えしながら馬車の横に戻るとパレードの行列は再度動き出した。

姫と小さな女の子のやり取りを見ていた人達から、見ることが出来ずに何故止まっているのか分からない人に説明が波のように広がる。

それを知った人は知らない人に大声で伝え、そのまま姫への歓声を上げ続けと言う事が繰り返され、あっという間に大歓声になる。

誰もが姫の優しさに熱狂していた。

隊列が止まる前と後ではものすごい違いだ。



―鼓膜が破ける


魔王『こまく?』


―音を拾う膜だよ。耳の中にある


魔王『そんなのがあるのか?』


―え?知らないの?


魔王『知らん』


―そっか。こっちの世界は医療技術がそんなに進んでないんだったね


魔王『お主の国では違うのか?』


―ここよりはかなり進んでいると思うけど、僕自身にその知識は無いからね。伝える事は出来ないよ。


魔王『それは残念だ』


―全くだね



そんな話をしていると一の郭の門が見えてきた。

王都の市民は一の郭の門の前までしか居ないのであそこを潜ると凱旋パレードは概ね終わりを告げる。


無事に姫の乗る馬車は城の門を潜った。

馬車から降りた姫を王子と翁が出迎える。



王子「お帰りなさい。姫姉さま」


姫「…ただいま」



姫が感極まったように笑い泣きで言う。

この顔のために僕は頑張って居たと胸を張って言える。



王子「若もお疲れ様です」


僕「王子こそ、疲れているようですが?」


王子「戦後処理で色々と」



そう笑うと爺が「昼食を用意してますので」と先を促したので皆で向かう。

部屋に入ると有力貴族が居た。

部屋に入った自分の娘を無視し姫に臣下の礼をとる。

姫がその挨拶に「私は良いので有力貴族の娘に…」と言うと「ありがとうございます」と言い「無事でよかった」「お父様こそ」とお互いに短く言った。

どうやらさすが親子というか似たもの同士らしい。

昼食が運ばれて来てみんなで食事をする。


食卓には王子、僕、姫、妖精少女、有力貴族の娘、美女さん、翁、赤の騎士団団長、白の騎士団団長、有力貴族、現領主、領主息子、翁とぐるりと並んでいる。

というか領主息子、久しぶり!


今度こそ穏やかな時間が流れる。



白の騎士団団長「皆さんで食卓を囲むのもこれが最後かもしれませんね」


翁「そうじゃな」


僕「そうなんですか?」


爺「王族と食卓を囲むなどと言う事は滅多にありません」


赤の騎士団団長「戦場という特殊な環境であったからこそ行われていたに過ぎぬからな」


僕「そうなんですか」


白の騎士団団長「でも若は王族になるので王子や姫と今まで通り食事が出来ますよ」



「私は?」と聞く妖精少女に「妖精少女も若の奥さんだから大丈夫」と笑う白の騎士団団長。

いつの間にか既成事実になりそうだからその冗談をあまり言わないで欲しい。



王子「そう言えば前に話をしていた城の上にある離宮ですが、とりあえずは部屋は常に手入れされていたようで今日の晩からでも入れますよ」


姫「そうですか」


王子「たださすがに婚約発表前の若が入ることは出来ないので、離宮に渡る通路にある部屋を仮住まいとしてください」


翁「初めて内部を見たが、中々すごい設備じゃったぞ。どうやってるのか水を上までくみ上げているようだしの。食料を運び込めばあそこだけで篭城が出来そうじゃ」


僕「すごいですね。なら火をたけばお湯が沸かせますね」


翁「火を絶やさなければいつでも入れる風呂もあったからの」


白の騎士団団長「それはすごい。さすが後宮」



この世界はお湯を沸かして貯めて入ると言う事はあまりしない。

個人宅ではせいぜい水で体を拭くか川で水浴びをするか。

お風呂は大都市に大衆浴場がある程度である。

個人で風呂を所有しているのは王族か大貴族くらいである。

小さな領主だと蒸し風呂があればいい方である。



王子「取り合えずどの部屋もすぐに使えますので好きな部屋を選んでください。どの部屋も素晴らしい感じでしたよ」



それを聞いた姫は「楽しみですね」と有力貴族と妖精少女に言う。



翁「そういえば、有力貴族の娘は若に嫁ぐのか?」



その言葉に有力貴族が止まる。



翁「もう嫁が無くても良くなったが?」


僕「それなんですが、有力貴族の娘と話し合って娶る事にしました」


翁「ほう」


僕「後はお父さんである有力貴族殿に認められるかどうかです」


翁「じゃ、そうだが?お父さん」


有力貴族「私は翁のお父さんではありません。若、なぜ尋ねられるのですか?王族になられるのだ。よこせと一言いうだけで済むでしょう」



有力貴族の言葉に「それは違うと思います」と僕は言う。



僕「物じゃないんです。よこせ、で終わらしていい問題じゃない」


有力貴族「しかし王族というのは人を物扱いできる立場にあるのです」


僕「僕は王族じゃない。王族は姫です」


有力貴族「その姫と婚姻なさるのだ。そうしたら貴方は王族の一員です」


僕「だとしてもそういうやり方は好きじゃない」


有力貴族「私がダメだと言ったらどうするんですか?」



その言葉に有力貴族の娘がピクッと揺れる。



僕「認めてもらうまでお願いし続けるのみです」


有力貴族「何故そこまで娘を?」


僕「有力貴族の娘が好きだからです」



姫が「いいなぁ」と呟くのが聞こえ笑いそうになる。



有力貴族「貴方は姫と結ばれる。その上で娘まで欲しいと?」


僕「姫ももちろん大好きです。でもそれだけじゃダメなんです」


有力貴族「何がダメだと?」


僕「もう有力貴族の娘も僕達の家族の一員なんです。居なくなるなんて考えられない」



そういう僕に姫が「そうです」と頷く。

ぱっとこっちを見た妖精少女の頭を撫でながら「もちろん妖精少女も家族よ」と姫が言う。



有力貴族「有力貴族の娘自身はどう考えている?」


有力貴族の娘「家族になりたいです」



しっかりと目を見つめ返して言う有力貴族の娘。

その娘を見つめていたがふっと笑うと



有力貴族「元々跳ねっ返りな所があった上に、今は私が国賊のレッテルを張られてしまった所為で嫁ぎ先も困る状況でした。逆にこちらからお願いしたいくらいの好条件です」



有力貴族の娘が反論しようとするのを手で制して「娘をよろしくお願いします」と呟いた。



王子「別に国賊等と思ってませんよ」


翁「そうじゃ。有力貴族が居なければ国はもっと荒れていただろうしな」


有力貴族「そう言っていただけるだけで身に余る光栄です」


王子「有力貴族には論功で国の安定に尽力したとして章を与えるつもりです」


有力貴族「受け取れません」


翁「受け取るしか選択肢は無い。今の状況で辞退する事が王子に与える影響を考えれば、断る事も出来舞い」



通常なら「自分には身に余りすぎる」と辞退する事は悪い事ではなく、場合によっては謙虚さが賞賛に繋がる。

しかし有力貴族は国王派に付いて居たにも関わらず拒否すると言う事は王子の治世を拒否するのと同義語だ。

そんな事をすれば向かう先は断頭台である。



―遠まわしの脅しかよ!



有力貴族「…分かりました」


翁「そして内務大臣もやってもらうからの」


有力貴族「それは―」


王子「今からが国の本当の大事なんです」


翁「それを見捨てると?」



有力貴族に拒否権など最初から無い。

元々翁もお願いではなく断定で語っていたしね。



白の騎士団団長「論功として言えば前に話していた領主息子はどうしますか?」


領主息子「は?自分ですか?」


赤の騎士団団長「ああ若が姫と結ばれたのは領主息子のお陰というやつだな。それを言うと我の功績も大きいだろう?」


白の騎士団団長「女性の気持ちを勝手に口に出す罪は100回断頭台に登っても償いきれませんけどね」



赤と白の両騎士団団長の言葉のやり取りに戸惑いながら「えっと、私が何か?」という領主息子。

やっぱりあの件を引きずっているようで、前より大人しくなっている。

白の騎士団団長が領主息子の手柄、簡単にいうとミスのお陰で大砦に戻る事になり、そのお陰で姫の気持ちに気が付いた若が姫と婚姻する事になった、と説明を受ける。



白の騎士団団長「それに有力貴族の娘が特使として来たのに出会えたのも領主息子のおかげかもしれませんね」


王子「確かにそうですね。あそこで大砦に居なければ今の展開は無かったかもしれません」



あのまま進軍して出会っていた場合は進軍を優先して使者を放置していた可能性が高いからだ。

そうなると実力行使での王都攻略になり、もっと被害も大きくなった上に有力貴族とこうして食卓を囲む事も無かったかもしれない。

その話を聞いた領主息子は首を振り「偶然です」と自分はそんなものを受け取る立場ではないと言う。



王子「いえ、受け取ってもらいます」


領主息子「しかし…」


白の騎士団団長「あの時のミスですが、本来ならあそこまで厳しい処罰を受ける程のものではありませんでした」


赤の騎士団団長「そうだな。せいぜい行っても戦果取り消しでも十分おつりが来る」


王子「でも連勝に緩みがちな軍を引き締める為に人身御供としてああいう処罰にしました。申し訳ありません」


領主息子「いえ、その話は爺からの手紙で伺っておりましたので恨んでおりません」


爺「差し出がましいとは思いましたが、一つのミスで腐って欲しくありまえんでしたので。翁はそう言うのは送るような奴ではありませんし、他の方は立場的に無理でしたしね」


王子「爺、ありがとう」


領主息子「功を早って同断戦功した上に大きなミスを犯したのは確かですし。前に美女殿に言われた事を全然理解していなかったとゆっくり考える事が出来ました」


翁「それが分かっただけ十分成長できたじゃろうな」


王子「ですので本当は戦果に対する論功なのです」


翁「拒否権は認めない」



翁が言い切ると領主息子は「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。



王子「若にもありますよ」


僕「は?」


王子「ただ若は何もいらないと言い張ると思ったので、褒章はお金と姫の騎士の地位だけにしました」


翁「当初の約束通りにな」



僕がほっと胸を撫で下ろすと翁は悪そうに笑って言う



翁「論功の最後に姫自信による姫の騎士の叙任式を行うつもりじゃ」


僕「は?」


翁「あの時の姫への件の誓いが素晴らしかったのでな。あれを少し変えて行う予定じゃ」



そういう翁に姫が「それはいいですね」と手を叩く。

有力貴族が「私も見てみたかったんですよ」と言うのを聞きながら僕は呆然としていた。



王子「論功授与式は僕の戴冠式の後に行う為に武器の携帯は出来ません」


翁「なので若が最初に捧げていた剣をこちらで用意しておいて姫がそれを若に授けると言う形にする予定じゃ」


王子「宝物庫にある一品を若に上げますよ」


僕「ちょっと待ってください!見世物は嫌です!!」


王子「見世物ではありません」


翁「まあ見せるんだがな。若が姫の騎士だという事を国内の全ての者にな」


僕「いやいや…」


姫「若は嫌ですか?」


僕「え、いや」


姫「嫌ですか?」


僕「そんな事は無いですが…」


姫「ではやってくださいますか?」


僕「あの、その」


姫「『はい』か『うん』で答えてください」


―どっちも肯定だから!というか何処で知ったのそのネタ!!



姫の台詞に笑う面々。



魔王『どうせ拒否権は無いんだ』


―そうだったね。忘れて居たかったよ



僕はしぶしぶ「はい…」と答えた。

誤字修正

守ればいいのなか → 守ればいいのかな

言うようですが → いるようですが

進化の礼 → 臣下の礼

娘自信 → 娘自身

棒是 → 呆然

有力貴族を守れば → 有力貴族の娘を守れば

湯力貴族の娘 → 有力貴族の娘

竜主息子 → 領主息子

前に美女殿荷 → 前に美女殿に

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