第35話 時代
朝食後、自室に戻り昼前まで一眠りする。
目が覚めると頭痛は軽減されていた。
部屋を出ると美女さんと妖精少女に会う。
どうやら姫と有力貴族の娘はまだ眠っているらしい。
3人で軽く食事を取る。
妖精少女「近くにね、おっきな湖があるんだって!」
僕「そうなんだ」
妖精少女「一緒に行こうよ」
その言葉に考える。
最近はずっと妖精少女の相手が出来てなかった。
もう戦争も終わり危険性は低くなっているだろう。
それに水の精霊とも意思疎通が出来る妖精少女は、やっぱりそういう場所が好きなのかも知れない。
僕「そうだね。ちょっと出かけようか」
そういう僕に妖精少女が「わーい」と喜ぶ。
そこに白の騎士団団長が「賑やかですね」と笑顔で顔を出した。
白の騎士団団長「昨日は結構な量を飲まれてましたが、もう大丈夫なんですか?」
僕「ええ、少し頭痛がしますがもう大丈夫です」
白の騎士団団長「それはお強い」
そう言うと「私はまだ少し体が重いです」と笑った。
白の騎士団団長「で、先程は何で盛り上がってたんですか?」
僕「近くの湖まで妖精少女を連れて足を伸ばしてみようかと」
白の騎士団団長「近くの湖ですか…」
そう言うと僕を見て「私もご一緒しても宜しいですか?」と聞いてきた。
「別にいいよね」と妖精少女に聞いたら「うん!」と元気に答えた。
白の騎士団団長「何人か騎士を連れて行きましょう」
僕「騎士を、ですか?」
白の騎士団団長「戦争は終わったとは言え、野盗などが居ないとも限りませんので用心の為ですよ」
そう言って笑うのを聞きながら「それもそうか」と思う。
朝食後に出かける事となった。
白の騎士団団長と共に来る騎士団のメンバーは10名。
意外と来た。
まあこれだけ居れば野盗ごときには負けないだろう。
―美女さんもいるし
魔王『野盗ごときなら美女一人で十分だな』
その通り過ぎて言葉が出ない。
妖精少女が僕の馬に乗りたがった為に一緒に乗る事になった。
2人乗りはあまりした事は無いが妖精少女は小さいので何とかなりそうだ。
大砦を出て一刻ほど走った場所に湖はあった。
僕「綺麗な水ですね」
白の騎士団団長「大砦で聞いた話では、湖の中に源水が幾つかある為に綺麗らしいですよ」
僕「なるほど」
妖精少女を馬から下ろす。
すぐい湖の淵まで行くと「お~」と湖を覗き込んでいた。
妖精少女の下げていた小さな布袋から2匹の子狼が顔だけ出して同じく湖を覗いている姿が微笑ましい。
湖に手を入れて「つめたい~」といっている妖精少女を見ながら僕は木の陰に腰を下ろす。
すぐに美女さんと城の騎士団団長が僕のそばに来る。
僕「あれ?他の騎士団の人たちは?」
白の騎士団団長「念のために周りを確認させる為に出しました」
僕「何か折角の休暇をすみません」
白の騎士団団長「構いませんよ。代わりに王都に着いたら一日休ませます」
「逆に何も無い大砦での休みより王都での一日の休みで幸運ですよ」と笑う。
妖精少女が僕を呼ぶので手を振り妖精少女のそばに行く。
湖を近くに寄ってその透明さに驚く。
結構な深さまで底が見えるのだ。
妖精少女「お兄ちゃん、あそこに家がある」
妖精少女が指差す方を見ると湖の底に建物が見えた。
僕「昔、村でもあったけど湖の底に沈んだのかな?」
妖精少女「ふしぎだね~」
僕「そうだね」
妖精少女「階段があるけど、誰があそこまでいくのかな?」
魔王『ほう、これは―』
―どうしたの?
魔王『あの建物から結構な力を感じるな。これは―精霊か』
―精霊?
魔王『この湖は力を持った精霊、それも中級クラスの精霊が居るかもしん』
―中級
魔王『よっぽどの事が無い限り大丈夫だと思うが、精霊に敏感な妖精少女には注意しておいた方が良いかもしれんな』
美女さん「妖精少女?」
美女さんの声に妖精少女を見ると、妖精少女は湖の底から伸びる階段に向かって湖を入ろうとしていた。
急いで僕は妖精少女の肩を掴んで引きとめる。
妖精少女「え?何?」
僕「どうしたの?」
妖精少女「うん。まだなんだ」
僕「妖精少女?」
魔王『これは…精霊と交信中かも知れんな』
―交信中?
魔王『そうだ。見れない人間からしたら何を会話しているかも分からんがな』
何かに向かって話をしている妖精少女を見やる。
―気が触れたりしたとか、何か良くないものに取り付かれたりした訳じゃないんだね
魔王『まあ精霊との交信に精神が耐えられなかったら気が触れるし、精霊をコントロールできずに錯乱する事を乗っ取られた、という場合もあるがな』
―今はまだ無事なんだよね?
魔王『分からん。我も精霊は見えぬからな』
―じゃあどうにか辞めさせないと!
魔王『今の段階で止めるほうが危険だ』
中途半端な状況で手出しをするのは危険であると魔王に言われ、仕方なく妖精少女を見守る。
僕は美女さんと城の騎士団団長に「精霊と交信中らしいです」とだけ伝えた。
その間にも妖精少女の会話は続く。
「そうそう」「むずかしい」「そうかな?」等など。
中に「お兄ちゃん」という単語が出たが、それは僕の事なのだろうか?
どれくらい話が続いたのだろうか。
「うん、わかった。ありがとう、またね、バイバイ」と虚空に向かって手を振る。
すると波一つ無かった水面が神殿の真上辺りから波紋が一度だけ広がった。
話が終わったのかと妖精少女に声をかけようとしたら「うん!」と一際大きく妖精少女が頷いた。
そして僕を振り返り「お兄ちゃんどうしたの?」と言った。
それを聞いて僕は安堵の息を吐く。
僕「妖精少女が急に精霊と話し出すからビックリしただけだよ。湖の中に入っていくかと思って」
妖精少女「そうだ!すごかったよ~」
僕「どうしたの?」
妖精少女「大きな精霊さんが神殿から出てきて挨拶したの」
僕「へぇ~。大きいってどれくらい?」
それに手を一杯に広げ「これくらい」と言う(可愛い!」)
僕「それでどうしたの?」
妖精少女「神殿へ遊びにおいで、って言われたので行こうとしたら行けなくて、そしたら大きな精霊さんが水の精霊さんと仲良くなってないのかって聞いてきたの」
魔王『契約状況のことか』
妖精少女「うんって頷いたら紹介してあげるから、来れるようになったらまたおいで、って言われた」
僕「紹介?」
妖精少女「うん。大きな妖精と仲良くなった!」
そう言って笑う妖精少女に「よかったね」と頭を撫でてあげる。
嬉しそうに目を細める妖精少女。
魔王『紹介という事は中級以上の精霊か』
―何故?
魔王『自分より下の位のランクしか紹介出来ぬだろうからな』
僕「その精霊は下級なの?」
妖精少女「下級?」
僕「えっと、いつも回りに居るような」
妖精少女「違うよ」
僕・魔王「『何?』」
妖精少女「いつも周りにいるのはこれくらい(手を水を掬う感じ)」
僕「そんなに小さいんだ」
妖精少女「そして仲良くなったのはこれくらい(両手を広げる)」
魔王『もしかして中級か?』
僕「帰って行ったのと同じくらい?」
妖精少女「ううん。帰った精霊さんはもっと大きかった」
魔王『上級か』
僕「その大きな精霊が『またおいで』って言ったの?」
妖精少女「うん。精霊さんと一杯仲良くしたら水の神殿まで来れるようになるからって」
魔王『ほう。妖精少女は精霊に気に入られる才があるようだ』
―気に入られる?
魔王『言ったであろう。精霊に気に入られないと契約できないと。どうやら妖精少女は気に入られたらしい。だから「また来い」と言われたのであろう』
―なんで今すぐ契約しなかったんだろう?
魔王『契約の条件があそこの神殿にあるのだろう。だが妖精少女は水の精霊との契約を結んでおらず神殿まで行く力が無い。だからまた力がついたら来いと言ったのであろう』
―なるほど
僕は魔王の言ったことを美女さんと白の騎士団団長に伝えた。
驚く白の騎士団団長と笑顔の美女さん。
魔王『どれ程の力が使えるか聞いてみよ』
僕「妖精少女は精霊と仲良くなって何が出来るの?」
妖精少女「ん~(何も無い空間を見つめ)水を出せる」
僕「水?」
妖精少女「うん。一杯出せる」
魔王『ほう、水を出すか。やはり中級だな』
―下級は近くに水があれば使える程度だ。水を出すとなると中級以上だろう。
僕「すごいね。一杯出せるの?」
妖精少女「出せるみたいだけど、出すと疲れるからやめなさいって言われた」
僕「じゃあ出し過ぎないように気をつけないとね」
その言葉に「うん!」と言う。
妖精少女「後ね、小さい怪我なら治る?」
魔王『治癒系か!』
僕「すごいね!」
僕に誉められえ嬉しいのか「うんうん」と笑顔で頷く妖精少女。
僕「どんな傷でも治るの?」
妖精少女「ううん。えっとね、ん~難しい。傷を水で覆って直す力を早めるだけらしいから、大きな怪我は無理だって」
魔王『治癒ではなく回復促進か。確かにそれだと自然治癒しないレベルの怪我は治らんな』
僕「それでもすごいね」
妖精少女「これも使いすぎるとすぐ疲れるから注意してだって」
僕「そっか。気をつけないとね」
僕が頭を撫でるといつも通り目を細めて笑う。
僕「さっきの大きい精霊、上級精霊に会える様になったらまたこようね」
妖精少女は「うん!」と元気に呟いた後に「でも―」と言う。
妖精少女「でも上級精霊?じゃ無いって」
僕「そうなの?」
妖精少女「うん。王だって」
僕・魔王・白の騎士団団長「「『は?』」」
妖精少女「王だって言ってるよ」
魔王『まさかの精霊王だと!?』
僕「…妖精少女が仲良くなったのは?」
妖精少女「ん~中級って言ってる」
魔王『そ、そうか、安心した』
―魔王が驚くってよっぽどだね
魔王『精霊王だぞ!歴史上に現れたのも数える程の存在に妖精少女が気に入られたのだ!』
しかも精霊王からの申し出である。
魔王が興奮するのも無理は無いらしい。
僕はすごい事だとは思うけどいまいち実感が無い。
魔王『お主は全く…とりあえずこの事は隠した方が良いだろう』
―何故?
魔王『膨大な力を手に入れるかも知れない器だぞ?どこから狙われるかわからんだろう』
―そうか
魔王『まあ精霊と契約自体はそう少なくないので問題無いが、精霊王と話をした事や「来い」と言われた事は妖精少女がもう少し大きくなって判断できるまで隠した方が賢明だ』
それを聞いて僕は美女さんと白の騎士団団長に伝える。
それを聞いた白の騎士団団長は「それがいいですね」と頷いた。
妖精少女にも黙っているように言うと「姫お姉ちゃんや有力貴族お姉ちゃんにも?」と言う。
それに「二人には良いけど、それ以外の人は絶対ダメだよ。二人に話す時は僕も説明するから一緒に言おうね」と言い、妖精少女がしっかり頷くのを確認した。
僕「あの神殿があんなにはっきり見えるなら、だれかに悪用されないかな?」
魔王『今まで話にもあがらなかったんだ。何かしらの対処方法があるのだろう』
妖精少女「なんかね。精霊の力で見えなくするんだって」
―精霊万能説浮上。
魔王『そこまで万能ではないがな』
とりあえず大砦に戻る事を決め、騎士達が戻ると大砦に向けて帰還した。
途中、騎士の一人に「わざわざついて来てもらって確認までしたてらったのにトンボ帰りで申し訳ない」という事を伝えると「気にしないで下さい」と笑って答えてくれた。
大砦に戻ると姫と有力貴族の娘が立っていた。
二人は帰ってきた僕を見ると「宜しいでしょうか?」と笑顔で伝え「お話がありますのでお部屋まで」と言った。
僕も妖精少女の件で話があったので丁度いい。
美女さんにこのまま姫の部屋に行く事を伝えると「分かりました。お茶をお持ちしますので頑張ってくださいね」と言われた。
―頑張る?妖精少女の契約の件かな?
魔王『お主は本当にめでたいな』
―何がだよ
魔王『まあすぐ分かる事だ。気にするな』
―そういう含みのある言い方って好きじゃないな
魔王『そうだな。「まずは謝れ」としか言いようが無い。例え自分が悪くなくても、だ』
全く持って意味が分からない。
悪くないのに謝るとか、どんだけ気弱なんだよ。
―そう思っていた時代が僕にもありました。
魔王『言った通りであろう』
僕は姫と有力貴族の前に土下座をさせられていた。
誤字修正
更新中 → 交信中
要人の為 → 用心の為
変わりに → 代わりに
着いて来て → ついて来て
表現変更
あの湖は → この湖は