第32話 会談
有力貴族「この、若者が。娘を?」
僕を見つめたまま何とか言葉を発した有力貴族。
その言葉に翁が「そうじゃ」と答えるのが聞こえてくる。
翁「王子の后にする事は出来ん。正室が居ない状況で妾にするのにも具合が悪い。なら有力貴族の娘の願いをかねる事が出来る相手は、姫の婚約者である若ぐらいだろう」
「それともワシの妾になった方がよかったか?」と笑う翁に有力貴族は何も答えない。
僕を見つめたままの有力貴族に何か言わないといけないと焦り「成り行きで…」と言ったら「成り行きだと!」と言う声が返ってきた。
翁「まあ成り行きではあるが、有力貴族の娘も納得しているぞ?」
有力貴族「娘が?」
王子「姫姉さまも納得してます」
有力貴族は経緯等を聞いている間は目を閉じていた。
そして聞き終わると体ごと僕の方を向いて「娘を、よろしくお願いします」と頭を下げた。
それをどうにか辞めさせて話が再開される。
有力貴族「家の断絶は覆りませんか?」
翁「覆らんな。ただ命は保障してやる」
有力貴族「命は助けると?」
翁「戦争の責任、という意味ではな」
有力貴族「と言いますと?」
翁「戦争の責任は家の断絶と領地の没収で償わせる」
有力貴族「……」
翁「その後、国を乱した罪により国の復興の責任を取らせて財産を出させる」
有力貴族「全てですか?」
翁「ほぼ全てじゃな。一部、生活するだけの金と生活の場所は用意する」
翁は前に僕と姫が話て決めた内容を説明する。
有力貴族はそれを黙って聞いていたが話し終わった翁の「だたし―」という言葉に
有力貴族「ただし?」
翁「領民などに対する罪を調べ場合によっては成人男子までの処刑もありえる」
有力貴族「…罪とは?」
翁「必要以上の重税を掛けていた者、領民を虐待していた者などは成人男性まで全員処刑じゃな。後はどれだけの事をしているかじゃ」
有力貴族「それは罪をかぶせて処刑されるだけでは」
翁「領民に決を取らす。有罪か無罪かのな」
その言葉に有力貴族は無言になる。
翁「善政を敷いておれば問題あるまい」
「それに降伏を受け入れなければ一族郎党皆殺しになるじゃろうしな」と脅す。
有力貴族「…殿下は?」
王子「三兄(第三王子)には退位していただき、その後は隠居していただく事になります」
もう家族が死ぬのは見たくありません、という王子。
翁「王妃も一緒にな。その後は城の奥で一生をすごしてもらう事になるだろう。もし子が生まれても王位継承権は与えられずに場合によっては里子に出される事となる」
第三王子は王位に付くと同時に国王派の主要貴族の娘の一人と結婚をした。
その相手も軟禁生活で一生を過ごす事となる。
有力貴族「…会合の場所と武装解除については、それで行けると思います。ただ降伏内容は殿下に伝える事はしても決定は会合での話し合いでさせて頂きたい」
王子「構いません」
翁「こちらは折れんがな」
有力貴族「それと会合場所に我が軍の兵も100名程度付かせて頂きたい」
翁「武装解除は行うぞ?」
有力貴族「……だめですか?」
翁「50なら許そう」
有力貴族「…それでお願いします」
会合が終わり再び礼をする有力貴族に翁が声を掛ける。
翁「時間を掛けて全ての館に細工をされても詰まらんしな。期限を区切ろうか」
有力貴族「いかほど?」
翁「どれくらい掛かる?」
有力貴族「話をするだけななら3刻程、意見を纏めるにはどれ程の時間が掛かるか」
その事を考えると憂鬱になるのか有力貴族がため息をついた。
翁「長い時間は待てぬ。半時(約1時間)だ」
有力貴族「せめて一時」
翁「…わかった。一時じゃ。半時毎に一の郭の門の前で鐘を鳴らす。2回目の鐘がなった時点で返答が無い場合は交渉は決裂じゃ。その後は全面降伏のみしか受けいれん」
今度こそ最終通告である。
これを蹴れば全員処刑以外の選択肢は無いと翁が告げる。
「私も之で終わらせたいと思っていますよ」と笑う有力貴族。
僕「一ついいですか?」
有力貴族「何でしょうか」
退室しようとする有力貴族を引きとめる。
僕「なぜ国王派に付いたのですか?」
僕の言葉に有力貴族は多くは言わず、ただ「今、この状況が全てです」そう言うと一礼して部屋を出て行った。
有力貴族が出て行った後に翁が口を開く。
翁「有力貴族が国王派に付いたのは人質でも取られたのであろう」
爺「元々、国王派の面々を見て国が荒れることを予想して政権についた常識派ですからね」
僕「それは是非…今後に欲しい人ですね」
翁「それは自分の義父に当たる人物の助命嘆願か?」
僕「え、いや、そういうわけでは―」
しどろもどろになる僕に「冗談じゃよ」と笑う翁は「ワシもそう思っておる」とだけ言った。
――――――――――
一時後、鐘がなる寸前で使者の旗が立ち出てきたのはまたも有力貴族だった。
会合の場所などの条件を飲む事と武装解除、王城までの門の開放を受け入れる旨を聞いてすぐに白の騎士団団長が騎士を率いて一の郭の門をくぐっていった。
さらに一時程立った頃、空が白み始めた頃に白の騎士団団長から準備が整ったという知らせが来た。
それを聞いた有力貴族は「では私も城に戻って伝えます」と言い、半時後までにお互いに顔を出す事を決め戻っていった。
「何だこれは」と国王派の一人が口に出す。
何だといわれても天幕だとしか言いようが無い。
会談の場所は館ではなく一の郭の広場に立てられた大きい天幕の中で行われる事となった。
天幕は2重に張られ中を伺う事は出来ないように出来ている。
周りの建物なども徹底して人払いをしており、全ての建物や家屋の屋根、城壁上に兵を配置して安全対策も考慮している。
翁「これなら互いに仕掛けのしようもあるまい」
そういう翁に誰かが何を言う前に有力貴族が「そうですな」と同意する。
会合に現れたのは国王と有力貴族の他に国王派の主要貴族が8名のようだ。
先程の使者は来て無いらしい。
対する反国王軍は王子、翁、僕、白の騎士団団長と6名の領主である。
赤の騎士団団長は「小難しい話は好きじゃない」と美女さんと警備の任に付き、現領主は他の反国王軍を率いて宿に控えている。
簡単な挨拶の後に会合は始まった。
が、始まってすぐに国王派の面々が騒ぎ出した。
国王派貴族A「何でこの大事な会合に良くわからない者がいるんだ!」
僕を指差して言う国王派貴族A。それに「そうだそうだ」と声を荒げる国王と有力貴族以外の国王派の面々。
翁「煩いぞ。ぴいぴい喚くな」
国王派貴族A「な…」
翁「それに会合は互いに10名までの参加と決めたが、誰が出るかまでは国王と王子以外は決まっておらん。こちらの面子に口出しする権限は貴様には無い」
国王派貴族A「なんて物言ですか!」
翁「逆に言わせて頂くと、その事すら理解できていない者がこの”大事な会合”に参加している事自体、疑問に思うが?」
そう言うと国王派の面々からの声が止んだ。
翁「未だに状況を把握出来ていない者を何故呼んだのかのう」
有力貴族「…まさかそういう訳では無いでしょう。若の立場を知りたいと思っただけだと思いますよ」
有力貴族がフォローに見せかけた皮肉を言う。
その言葉に安堵の雰囲気を出す反国王派の面々。
魔王『ここまで無能が揃うと逆に驚きだな』
有力貴族「この”大事な会合”は成功させなくてはいけません。その事はここに居る誰もが理解できていると思います」
そう言って言葉を区切った有力貴族は国王派の面々を見た後に国王を見て、
有力貴族「もし会合を壊すような発言や行為を行う人物はこの場から退出していただくようにしませんか?」
国王「そうだな」
王子「こちらもそれで構いません」
有力貴族の「無能は黙っとけ」と言う発言に国王と王子が頷く。
がっちりした国王と細身の王子はあまり似て居ないと思ったけど、薄く笑って頷くその姿はやはり血の繋がった兄弟と感じる。
翁の「では始めますかの」という言葉を皮切りに会合は始まった。
翁「まず降伏を受け入れると言う事で、その条件調整と言う事でよろしいですかな」
その言葉に頷く国王と王子。
翁「では、まず国王については退位していただいた後に王妃と共に隠居して頂く事になります。お子が生まれても王位継承権を得ることは無く、場合によっては里子に出される事もあります」
その言葉に国王派からざわめきがもれるが、発言するものは居なかった。
そもそも事前に話を通しているのだ。今更だろう。
国王「…わかった」
翁「では次ですが、国王軍に付いた者たちの処遇ですが―」
翁が条件を伝えると国王軍派から「認められない!」と言う言葉が多数上がった。
国王と有力貴族は黙って聞いている。
翁「認められないと言う。ではそなた達の条件は?」
国王派貴族A「家と財産と命の保障です」
想像していた通りの答えが返ってきた。
翁「何一つ失わず、何を持ってこの度の敗戦の責を償うと?」
国王派貴族A「復興に対する支援にて」
相手も此方のいう事を予想して来たのだろう。
だがそれは此方も同じだ。
翁「復興の支援と言うが、それはどれくらいの期間を見ているのじゃ?まさか一回や二回で済むとは思っておらんだろうな?」
国王派貴族A「今後5年に渡り―」
翁「10年だ」
有料貴族「―支援を続けて、何ですと?」
翁「10年だ。5年は短い」
国王派貴族A「…では10年で」
しぶしぶ頷く国王派貴族A達に翁は一年毎の出資額を伝える。
翁「もちろん各領主毎の金額だ。全一律、分割も認めず年度毎に一括で払ってもらう」
その言葉に色めき立つ国王派貴族達。
その額はここに居る大貴族達でも領民に重税を課しても集まるかどうかの額であった。
翁「払えない場合は土地を国に売って払ってもらう。ちなみに新政府は各領主が領民に掛ける税の上限を決めるでな。好き勝手に住民から徴収は出来なくなるぞ」
国王派貴族A「それでどうやって払えと言うんですか!」
翁「それは頑張ってとしか言えんな」
国王派貴族A「そんな無責任な!!」
翁「責任?何故そんな物をワシらが取らねばならん」
そう言う翁に国王派貴族達は言葉を無くす。
翁「責任を取るのはお主らであろう。我々の条件を飲まずに復興支援で購うと言ったのはお主等だ」
国王派貴族A「そうは言っても額が大きすぎます」
翁「必要なのだから仕方あるまい」
国王派貴族A「もう少し減額を!」
翁「お主等は馬鹿か?」
国王派貴族A「何を!」
翁「ワシらはわしらの出した条件を基にした降伏しか受け付けぬと言っているのを、お主等が哀れなので条件を聞いて取り入れてやっているの過ぎん。それを、アレはいかん、コレはいかんと言える立場だと思うのか?」
国王派貴族A「そ、それは…」
翁「これ以上の妥協は無い。我々の条件を飲むか、復興財源を払っていくか、だ」
一瞬で奪われるか、年々奪われていくか。
どう算出しても10年間、お金を出し続ける事に耐えれる貴族は無い。
翁「因みに復興支援が行えない領主は契約不履行で処刑となるがな。今すぐどちらか決めろ」
そんな大事な事を即決できないという国王派貴族達に翁が言う。
翁「だから馬鹿だと言うのだ。今まで散々伝えてきただろう。それでも考えて来なかったのはお主等が無能だっただけだ」
「そうじゃろ?有力貴族よ」という翁に「そうですね」と頷く有力貴族。
有力貴族「私はすでに国王派の言い分での全面降伏しかないと思います」
その言葉に国王派貴族達は声を荒げる。
それを見やって、
有力貴族「では降伏は無かった事にして戦い、全員で死にますか?」
国王派貴族A「それは…」
有力貴族「それに殿下も即答されたのですよ?殿下ほどの重責ある方が答えを出せる程の時間、貴方方は何をなさっていたのですか?」
翁「そうじゃの。今、答えを出せていない者は現実を理解していない愚か者だけだろう」
国王派貴族A「な、何て言い草ですか!」
翁「そうか?今のこの状況で、自分達の命も家も財産も守った上に数年、国に金を出したら丸く収まると考え、それ以外の代案を考えてこない程度の理解力なんじゃろ?」
そう言うと国王派貴族達は黙ったが、その一人が何かを思いついたように口を開く。
国王派貴族B「では、この度の敗戦の責任として国の要職に就いていた者の首をつけましょう」
国王派貴族達はそれ程の要職に就いていなかったのだろうか?
そもそもその程度の人物が参加しているのは何故だ?
翁「…要職に就いてた者はここに来ていないのか?」
有力貴族「私以外は敗戦の責任を問われて解任されました。今ここにいる人たちが代行してます」
翁「そうか」
そう言うと翁は「首だけもらってものお」と呟いた。
国王派貴族B「ではその者の土地を一部国に返還させましょう」
翁「そうじゃのお…」
翁はここに居る国王派貴族の面々を眺めて言った。
翁「有力貴族はいいのか?おぬしの首と土地が無くなるが?」
有力貴族「…それで戦が終わるなら」
翁「そうか。では、今まで要職に付いてた者は打ち首と土地の返還」
そう言った翁に国王派貴族Bが頷く。
翁「そしてここに居る今の要職に付いている者達は一族郎党全員処刑の上で全て没収。他の国王派は領地に見合った復興支援を10年、という所で妥協しよう」
国王派貴族B「そんな!」
翁「おかしいか?国王派の殆どの家も財産も守られるぞ?」
国王派貴族B「我々の一族は皆殺しですか!!」
翁「そうじゃ?」
国王派貴族B「何故!?」
翁「我が身可愛さに他人を売るような輩はいらんからな」
ガックリと項垂れた国王派貴族Bに翁は「では次の話は―」と進めようとした。
国王派貴族A「待ってください!」
翁「何じゃ?」
国王派貴族A「まだ話し合いは終わってないです」
翁「先程代案を出されて決まったじゃろう。反論も無かったしな」
国王派貴族A「国王派貴族Bが勝手に言っただけです。我々は同意して無い!」
そもそも国王派貴族Bが言った時点で何も言わなかった事が同意になるのにそんな事を言う。
翁「ほう」
国王派貴族A「ですので話し合いは終わってない!」
翁「国王派は決まっても居ない個人的意見を勝手に述べるような輩をこの"大事な会合”に参加させているのか?」
国王派貴族A「ぐっ」
翁「とりあえず勝手な事を言って”この会合を”惑わした国王派貴族Bには退出してもらおうかの」
国王派貴族B「なっ!」
翁「勝手な発言だったんじゃろ?」
翁の言葉に頷かざるを得ない国王派貴族B。
すぐに兵が呼ばれ国王派貴族Bは退出させられた。
翁「では、勝手な物言いで"大事な会合”を乱した者は、当初の決まり事にしたがって退出してもらった」
"大事な会合”と毎回強調する翁は人が悪い。
そして「勝手な発言」と言う言葉を取り上げて退出させる事により、これ以上の無駄な反論をする機会を国王派貴族達から奪った。
翁「では聞く『我々の条件での全面降伏』か『10年いわたる復興支援』か選べ」
即答できない相手に「そうそう―」と言うと
翁「もう一つ『国王派貴族Bの勝手な発言』も候補に入れるか」
国王派貴族A「……」
翁「後日返答はありん。今決断するか、物別れに終わり戦うか、じゃ」
それでも何も言わない国王派貴族達を見やって有力貴族が手を上げた。
翁が名を呼ぶと、
有力貴族「確認なんですが、確かそちらの降伏の条件に『領民による領主の裁判が行われ、無罪となった場合は命と家の存続とある程度の土地と財産の保有を認める』とありましたが」
翁「そうじゃな。命以外の全てを没収するかは領民に決めさせる。伝えた書状に書いておったのですでに見ていると思ってわざわざ言わなんだが?」
有力貴族「いえ、ありがとうございます」
そう言って発言を終えた有力貴族が座ると周りの国王派貴族達が色めき立った。
魔王『馬鹿どもばかりで話がうまくまとまりそうで何よりだ』
反国王派の申し出を受ければ領民による裁判で助かるかもしれない。
日頃から忠誠を誓わせている領民達である。
必ずや無罪になるだろう、という考えを持ったのだろうと言う事が国王派貴族達の顔からうかがえる。
中には微妙だと思っている者も幾人かはいるが、絶望的に思っている者は居ないようだ。
国王派貴族達は小難しい顔(魔王に言わせたら『馬鹿顔』)をしながら「有力貴族殿の意見に従う」とだけ伝えた。
それを聞いた有力貴族は国王に「宜しいですか?」と伺いを立て、国王が頷くのを見て「全面的な降伏を受け入れます」と言った。
ここに半年近くに及んだ内乱は終結した。
戦争終結しました。
話の流れ上、こういう形になりました。
当初の予定ではこういう終戦は迎えない感じでしたが、この結末の方が良かったような気もします。
22話の後書きに「話が一段落したら後書きに、当初の予定とどう違うのかが後書きにでもちょこっと書けたらと思ってます」と書きました。
しかしそういう話をするのは無粋の様な気持ちになりましたので、申し訳ありませんが、書くのを控えたいと思います。
誤字修正
前一律 → 全一律
一喝で → 一括で
上弦 → 上限
要職に付いて → 要職に就いて (数箇所修正)
頷かざるを獲ない → 頷かざるを得ない