第30話 王都攻城戦
大砦を出て1日半、晡時初刻(15時頃)王都が見えてきた。
本来ならもっと早めに着ていた場所なのだが、いろいろな外的要因により時間がかかった。
といっても数日の違いだが。
―その数日の所為で僕は大変な目に…
もういいんだけどね。
やっぱりあの時王都に向かっていれば、と思わないでもない。
そういう思いを振り払い王都へ目を向ける。
王都まではまだ距離があるが隊列を組む。
反国王軍 約15000
本隊、王子、翁、僕、美女さん、兵数約4700
前衛、騎士隊長、兵数約1200(大砦後に仲間になった領主軍)
投石部隊、現領主、兵数約1000、投石機100台
右翼、赤の騎士団、兵数約4000
左翼、白の騎士団、兵数約4100
バラして運んでいた投石機がすぐに組み立てられる。
投石機1台に石を積んだ馬車1台、兵が10で一集団である。
投石機が組みあがると、進軍を開始し、速度を合わせて王都を目指して進みだした。
王都の面前まで来る。
国王軍の人数は不明だが、篭城策を取るようだ。
王都から弓が届かない場所で停止をし、隊列を組みなおす。
双方からラッパが鳴り戦闘が開始される。
前衛と両騎士団の一部が前進し弓を射掛ける。
城壁に並ぶ弓兵の数は圧巻である。
弓矢の応酬が続き、双方に少なからず損害を出し始めた頃に翁が投石兵に指示を出した。
放たれた投石は仲間の頭上を越えて城壁に当たる。
一つでは城壁に小さな傷を残す程度だがいくつも当たる事により大きく揺らすようで、城壁上の弓兵がバランスを崩すのが見える。
しかも投石は数個で一箇所を狙っている為に城壁に与えるダメージは中々なもののようだ。
城壁の門を狙って飛ばされた岩の一つが門に直撃をする。
その一つで門に多大なダメージを与えたようだ。
それを見て反国王軍の兵士が歓声を上げ勢いを増すのに反比例して城壁を守備する兵は初めてみる攻撃に動揺を隠せず指揮系統が乱れる。
そこに各所から「押し込め!」という号令が上がる。
投石が飛んでこない箇所の城壁に兵士が張り付き梯子を掛ける。
城壁からも兵士を引き剥がそうと弓を射掛けたり岩を落としたりするが、反国王軍の士気は高く次々と城壁に張り付く。
それと時を同じくして投石機より放たれた岩が門を破壊した。
そして門の後ろに控えていた兵を何人か巻き込みながら城壁の中に転がっていく。
城壁が開かれたのを見た騎士団長が突撃を命ずる。
盾を掲げて突撃する騎士団隊長の部隊。
すぐに城門付近は敵味方入り乱れた混戦となる。
それを見た右翼の赤の騎士団団長が動く。
待機していた部隊を城門付近へと移動させると、城壁の上に居る弓兵に山のような矢を射掛ける。
そして城壁の上の弓兵をある程度排除すると赤の騎士団全軍へ突撃を命じた。
城門を抜けさせまいと必死で抵抗を続けていた城壁守備隊も赤の騎士団の参軍に戦線を維持できずに崩れる。
そのまま王都へと雪崩れ込んだ騎士団隊長の軍と赤の騎士団は城門付近を制圧するとすぐに城壁上の制圧に掛かる。
それと平行してすぐに王城への血路を確保する為に大通りの進軍を始めた。
翁は城壁上に赤の騎士団の団員が登り制圧し始めたのを確認し、投石機の解体を命じる。
組み立てたままでは移動に時間が掛かる上に、高さ的に城壁を抜ける事が出来ないからだ。
城壁上がある程度制圧されたのを確認すると白の騎士団団長は部隊を2つに分けると、敵が逃げ出してきても対応が出来るように、正門以外の2つの門が見える位置に配置した。
王都を進む軍は予想以上に苦戦を強いられていた。
王都の家はどこも窓や扉を厳重に閉めている。
大通りの横道に部隊が潜んでおり横から襲撃されたり、家の屋根から弓兵が現れたりするからである。
それだけならまだしも、中には火を使ってくるものまでいる。
家屋に燃え移るとあっという間に大火事になりかねない。
そういった者を虱潰しに対処していくのが大変なのである。
赤の騎士団団長は思った以上の敵の抵抗に苦虫を潰しながら大隊長を2人呼び出すと各自大隊を率いて裏路地と家屋の上に居る兵の掃討を命じた。
王子率いる4700の兵は城門付近には近づいたものの、王都の中に入ることはしない。
もちろん一緒にいる僕も同じように城門付近で待機である。
戦況は刻々と伝えられているので把握できている。
大通りをすすむ部隊は敵の反撃に遭いつつも着実に一の郭の門へと進軍は続けている。
概ね戦の勝敗は決している。
一の郭の城壁まで肉薄し王都を制圧するのは時間の問題だろう。
―問題は今まで何もしていないって事だよね
魔王『楽で良いではないか』
―それはそうだけどね
近くでで命のやり取りが行われているのに見ているだけと言うのは辛いものがある。
死にたいわけでも殺したいわけでもないけど。
だが『見ているのも将としての義務である』という魔王の言葉に我慢するしかなかった。
―別に将になりたいわけじゃないのに
大通りの先の一の郭の門が閉じられるのが犇めき合う兵の向こうに見える。
出来るだけ味方を回収していた様だが、さすがにその為に一の郭を開けっ放しには出来ない様でとうとう門を閉じた。
それを確認し赤の騎士団団長は指示を出す。
指示を受けた赤の騎士団副団長が「門は閉じられた!投降するならよし、抵抗するなら容赦はしない!」と敵兵に呼びかける。
一の郭に逃げ損ねた敵兵はすでに戦う気も失せているようで次々投降して言った。
王都の残り2つの門が開け放たれる。
そこから王都へ入った白の騎士団はすぐに王都内に残る敵兵捜索に動き出す。
「住民への暴行略奪は行わない」「投降する兵士に対する命の保障」「国王軍を匿う、もしくは協力する者は厳罰に処す」と行った内容を触れて回ったのである。
一時(約2時間)程の捜索で国王軍兵約1200と領主3名が捕縛された。
本隊が王都に入る。
一の郭から少しはなれた所にある豪華な宿が一時接収され仮本部となり、そこに入る。
近隣の建物も同時に接収され、両騎士団で守られている。
捕縛された領主3名は同じ宿に軟禁した。
約1200の兵は武装解除の後にいくつにも分けて監視中である。
翁「さて、王都は攻略できたがこの後が問題じゃな」
王子「本当に有力貴族が門を開けてくれるかですね」
騎士隊長「二の郭に有力貴族の旗が翻っているのは確認できましたが…」
赤の騎士団団長「もし何もない場合は、このまま普通に攻略するだけだ」
翁「それはそうじゃな。とりあえず先の王都制圧による被害は?」
騎士隊長「前衛部隊は約450名の死傷。動けるのは750名ほどです」
赤の騎士団団長「赤の騎士団は120名程死傷。動ける兵3800」
白の騎士団団長「白の騎士団は50名程の死傷。動ける4000の内、1000が現在王都治安維持に動いておりますので、実質3000程度」
赤の騎士団団長「そうだな。赤の騎士団からも500程ここの警備を行っているので、実質3300程度だな」
翁「それに本隊の4700で…12000程か。被害も思った以上に少ない。圧勝と言っても良い成果じゃな」
通常の王都攻略ではもっと被害が出ていてもおかしくなかっただろう。
投石機がうまく門を破壊してくれたのと、それにより敵兵が動揺してくれたお陰だろう。
翁「さて、今後の方針じゃが…」
白の騎士団団長「夜に有力貴族が決起して門を開ける事を前提で動きますか?」
今も一の郭との間では絶え間なく弓矢の応酬が行われてはいる。
だがそれは本格的な戦闘ではなく、敵に対する牽制と嫌がらせのようなものだ。
「そうじゃの」と言う翁に僕は手を上げて発言を求める。
僕「一の郭も攻略しましょう」
翁「ほう」
僕「有力貴族の決起は深夜と言う話です。それなら一の郭を攻略するくらいの余裕はあるでしょう」
白の騎士団団長「ここで無理をして一の郭を攻略する意味は?」
僕「一つに兵の士気が高く、相手の士気を下げる事が出来る」
赤の騎士団団長「確かに我が軍の士気はかなり高いが」
僕「二つに相手に城壁に篭っても無駄だという意識を植え付ける」
王子「というと?」
僕「投石機による攻撃は弓の範囲外から門を破壊します。門が破られれば数に劣る国王軍は進入を防ぐ事は出来ない」
白の騎士団団長「確かにそうですね」
僕「それにこの手はもう一の郭の門でしか使えません」
翁「何と?」
僕「地図では良く分かりませんが、実際に王城を見ると結構な高い位置に立ってます」
王子「元々小高い丘に立てられましたからね」
僕「そこなんです。一の郭の門の前は大通りが走っているので投石機を3台ほどは並べる事は出来ますが、二の郭以上は地図を見る限り2台置けるかどうかです」
白の騎士団団長「それでも2台あれば十分では?」
僕「通常ならそうですが、二の郭の門までは一本道でも曲がりくねっており、結構な急勾配だと思われます」
赤の騎士団団長「そうだな、敵の侵攻を遅らせる意味もるからな」
僕「坂がきつい場合は投石機を使う事が出来ません」
王子「何故です?」
僕「岩を投げる際に後ろに引っ張るのですが、それにより後ろに重さが掛かって発射する前に投石機が倒れます。そのような無様な弱点を晒す訳にはいきません」
翁「なるほどの。だがそれでも一の郭を攻めるより、有力貴族の内通を待ったほうが良いのでは?」
僕「確かにその方が門も壊さずに済むのでいいのですが、実際に門が開いたからと言って城内までたどり着けるかは疑問なんです」
翁「何故じゃ?」
僕「一の郭の門から二の郭の門まで結構な距離があります。そして二の郭の門から三の郭の門までは、一の郭から二の郭までよりは近いとは言え急勾配と言う事もあり時間が掛かるでしょう。その距離を抜ける間に門を再度閉じられてしまいかねないのです」
白の騎士団団長「その時間を短縮する為に一の郭を制圧しておくと?」
僕「そうです。まあ有力貴族の兵が僕達が城に届くまで門を維持し続ける事が出来る程居るのなら別にいいんですけどね」
赤の騎士団団長「居ても100~200程度だろうな、一~三と城の門を開けるには少し足りないか」
その足りない時間を一の郭を攻略する事で時間を短縮しようと言うのだ。
白の騎士団団長「攻める理由は納得しましたが、有力貴族がどう動くかですよね」
もしこちらが一の郭を攻撃するのを見て焦って門を開きだすと同じ結果と言うより、普通に深夜に行うより悪い結果になる。
僕「有力貴族という人物はどの様な人ですか?」
翁「有力貴族は政治家としては有能だが、戦の経験は殆ど無いな…成功は半々と言ったところか」
僕「半々ですか?困りましたね」
半々では賭けに出るには確立が低い。
せめて有力領主と連絡が取れたらいいのだが、それは無理だ。
やはり有力領主が門を開けるのを待つしかないか。
翁「やはりせっかく門を開けてもらえるのに無駄に破壊する必要も無かろう」
僕「確かにそうですね」
有力領主の内通を待つことに決まった。
夜に向けて準備を始めた。
結果から言おう。
夜に合図の火矢が上がる事は無かった。
ちょっと短めですが、すぐに次をUPする予定です。
誤字修正
投石器 → 投石機
閉じられっるのが → 閉じられるのが
改宗 → 回収
何もなかい場合は → 何もない場合は
場内 → 城内
近いととは言え → 近いとは言え
損害だを → 損害を
始めてみる攻撃 → 初めてみる攻撃
巻き込見ながら → 巻き込みならが
望郷略奪は → 暴行略奪は