第3話 戦士
旅の一日は日が高いうちに移動し日が落ちる前に野営する。
朝は美女さんに馬車の扱いを教わるが簡単そうに見えて中々うまくいかない。
妖精少女は馬車の中から興味津々と言う感じで見ている。
「一緒にやる?」と聞いたら小さく首を横に振って僕がやっているのをじっと見ていた。
昼からは馬車の中で妖精少女の首輪を外す特訓。
といっても手のひらに魔力を通せるようになる訓練だけど魔王が『そんなことも出来ないのか』『子供でも出来るぞ』『恥ずかしい』と言うのが煩い。
夕方頃に野営準備をする。
野営地は街道にある程度あるので通常はそこを使用する。
先客が居たり後から人が来たりする場合は要注意。
妖精少女の正体が妖精族と悟られないようにも注意しなくてはいけないけど、大体は美女さんによからぬ事をしようとする輩が出てくることがある。
誠意を持って告白する相手には笑顔できっぱり拒絶するだけですむけど、腕力にモノを言わせようとする相手には笑顔でねじ伏せる美女さん。(コワい!)
魔王『花が野花か食人花かも見分けれんと愚かな。あんなのに手を出そうとする気が奴の知れん』
貴方の従者ですよね?
食事の後は美女さんの剣術指南。これがハード。
美女さん曰く「疲れきったら夜中に何かあった時に対応できないので程ほどに」やってるらしいけど。
妖精少女はここでも興味深そうに見ている。
さすがに「一緒にやる?」とは聞かない。
その後は僕と美女さんが交代で見張りをし一日が終わる。
妖精少女も見張りをするつもりらしいけどすぐに船を漕いでしまう。(可愛い!)
――――――――――
領主の館を出て数日。
その間のエンカウントはモンスターとの遭遇が2回。
毛皮と食用の肉が手に入った。肉はその夜に美女さんが燻製にした。
途中に寄った村で一部の毛皮と燻製肉を物品と交換する。
その中に子供服も何点かあった。さすが美女さん。
無地のワンピースだけどよく似合っていて可愛い!
そして5日程たったある日。
魔王『やっとか』
魔力を宿した手を見つめて呆然とする僕
魔王『結構な時間がかかったな』
僕「やった…」
この日、やっと手に魔力が通せるようになったのだ。
魔王『ますは第一段階クリアだな』
やっと、これでやっと妖精少女の…第一段階?
魔王『うむ。これからその魔力をコントロールできるようにしないとな』
―まじですか!
魔王『次の段階は魔力を手のひらに集めるようにする』
ふむふむ
魔王『その後は魔力の強度を調節できるようにいて何とか首輪を無効化できる』
―なるほど
魔王『武器などに魔力を通せるようになったら完璧だな』
―武器に魔力!魔法戦士ですね!
魔王『まぁそこらの武器なんぞは魔力を通した瞬間に砕けるがな』
―意味無いじゃん!
魔王『うまく魔力を通せばなまくらでも少しくらいの切れ味や強度は上がるだろう』
―おお!
魔王『その脆弱な武器を壊さないように魔力が通せるようになれば首輪も外せるだろう』
―砕けるならそれで外しちゃえばいいのに
魔王『首輪に限定できない破壊は装着者も傷つけて場合によっては死ぬが?』
―練習大事だよね!
魔王『手のひらに集めることが出来たら後は微妙な調整をするだけなのであっという間だ』
―よし、がんばろう!
魔王『(多分な)』
―ん?何か言った?
魔王『何も言っておらん。さぁ始めるぞ』
もうすぐで妖精少女の首輪が外せると思うと修行にも力が入る。
魔王『力みすぎだ、もっと力を抜け!馬鹿者!!』
空回りでした。
――――――――――
数日後
空回りは続く。
魔力を手のひらに集めることが出来ない。
魔王は『魔力をボワっじゃなくホっっという感じにすれば出来る』と言う。
―意味がわかんないよ。
知識についてはちゃんと教えることが出来る癖に(口は悪く偉そうだけど)
感覚の話になるとなまじ苦労してない分、説明が出来ないらしい。
美女さんに愚痴をこぼしたら少し首をかしげ
美女さん「魔力は出せるのですからその魔力を手のひら全体ではなく手のひらの中心に意識をし、丸い石のようなものを掴む感じをイメージしてみてはどうでしょう?」
とアドバイスをしてくれた。
―その説明は分かりやすいけどそんな事でいいのかな?
とか思いながらやってみたら出来た。
掌に魔力が集まっている。
妖精少女はそれを珍しそうに見た後に自分の掌を眺めてた(可愛い!)
魔王『ほれみろ。言ったとりでできたではないか』得意げ
魔王の説明で出来たんじゃなく美女さんのおかげだからね!!
そこからは物に魔力を通す特訓が始まった。
さすがに剣を駄目にするわけには行かないので石や木の枝などに魔力を通す。
最初はどれくらいの量なのか分からずにとりあえずちょっと力を入れたら
手のひらサイズの石が一瞬で割れたのにはビックリした。
数日が経つ頃には物の大きさ魔力の容量では無いことが分かった。
同じ場所の石でも物によって容量が違うのは不思議だ。
分かったからと言って壊さずに通せるわけではないけど。
魔王の説明は相変わらず良く分からない。
本当に感覚の説明は壊滅的に駄目だな。
駄目元で美女さんに聞いてみた。
美女さん「私は魔力自体はさほどありませんので良く分かりませんが」
僕「美女さん魔力はそれほどでもないんだ」
美女「ええ。ドラゴンを丸焼きにする程度にしかありません」
僕「そうか、ドラゴンぇえええええ?」
美女さん「冗談です」ニコニコ
―美女さん…冗談に聞こえないから。
美女さん「魔法に関しては嗜む程度なので詳しくはわかりません」
美女さん、この前「剣術以外は嗜む程度」って言ってたのに無理やり手篭めにしようとしたゴツイ男を3人素手で倒してたよね…?
美女さん「魔力を通すという感覚ではなく入れるという感覚なのでしょうか?」
僕「何が違うの?」
美女さん「そうですね。通すとなると流し込む感じをイメージするのですが、入れると言うのは」
とそこで目の前にある器を手に取り
美女さん「このように器に水を貯める感じなのではないでしょうか?」
器に水を注ぐ美女さん。
美女さん「一気に入れると水はこぼれてしまいます。最初は緩やかに次第に勢いをつけて入れます。そうしていっぱいになる前に止めるんですね」
水をぎりぎりまで入れる。
美女さん「ただ水をいっぱいまで入れてしまうと少し揺れただけでこぼれてしまいます。ですのでMAXまで入れるのではなくすこし余裕を持たせる感じで魔力を通せば壊れてしまう事も無くなるという事ではないのでしょうか?」
なるほど~
試しに横に転がる石を手に取り試してみる。
最初は少なめで徐々に満たしていく
石に魔力が通るのが感覚で分かる。
とすぐに石は割れてしまった。
妖精少女が割れた石を見て「おぉ~」と手をたたいていた(可愛い!)
美女さん「あら?だめでしたか?」
全然そんな事ありません。
いつもは一瞬で壊れていたものが少しでも魔力を通すことが出来たので
何となく感覚はつかめました。
魔王『だから何度もそういってたのに。これだから理解力の無い奴は』ブツブツ
―もうつっこまないよ?
――――――――――
さらに数日。
途中、立ち寄った村が野獣による作物の被害で困っていたので退治の依頼を受ける。
妖精少女は危ないので村に居たらどうか?という村長の申し出は妖精族だとバレと困るので連れて行くことに。
美女さんがいたらある程度の脅威なんか目じゃないだろうしね。
野獣は村の東の森から来るらしい。
数名の村人と日中に東の森を探してみたがそれらしいのは見つからなかった。
夜は村長の家を間借りする事に。
野獣は深夜に現れるらしいので村人と協力して見張りに立つものの何事も無く朝を迎える。
翌日は東の森から少し南のエリアを探すもののやはり野獣は発見できず。
途中でゴブリンを発見したので倒す。
村人曰く今までこの森でゴブリンを見たことは無いらしい。
ゴブリンは群れで行動する。必ず近くに巣があるはずだ。
今まで見たことが無いということはまだ巣が出来たばかりだと思われるが、放置をすると数を増やし必ず村に被害が出るので早めに潰しておくことに。
足跡を辿っていくと崖に穴を掘った巣らしきものを発見。
森からこっそり伺うと巣の前で5匹のゴブリンと2匹の狼が争っていた。
村人に物音を立てないようにじっとしている様に指示を出す美女さん。
狼はゴブリンに傷を負わせているようだが劣勢のようだ。
それでも引かずにゴブリンに向かっていく。
一匹の狼がゴブリンの喉に噛み付く。
その狼に別のゴブリンが手にした木の棒をたたきつける。
その後も両者の戦闘は続きいたが数の勝るゴブリンが勝利を収めた。
しかし2匹の狼もただやられた訳ではなく、2匹のゴブリンを倒し生き残った3匹も満身創意の状態だった。
そこまで見て僕と美女さんが飛び出す。
驚いたゴブリンはこちらに向かおうとするものが2匹、残り一匹は逃げようとしていた。
正面にいるゴブリンが一匹向かってくるのが見える。
僕はのっそりとした動きに注意をしながら接近。
振りかぶった木の棒を持つ腕を斬りつけた後にがら空きの体を斬り裂く。
美女さんを見るとあっという間に1匹のゴブリンを倒したいつもの笑顔で逃げるゴブリンを見ていた。
―あれ?何で逃がしたんだろう?
そう思ってると美女さんが村人を呼び寄せて指示を出す。
美女さん「数名私とついてきてください。ゴブリンの巣を潰します」
美女さんはここがゴブリンの巣じゃないと判断したようだ。
美女さん「残りはここで他に居ないか確認作業をしてください」
僕は居残り組みだった。
まぁもし他にゴブリンが残っていた場合に村人だけだと厳しい、信頼されてると思っておこう。
美女さん「妖精少女をお願いします」ニコニコ
そういうと数人の村人を引き連れてゴブリンの後を追った。
ゴブリンと野獣が本当に死んでいるのか確認をすると狼にやられたゴブリンは2匹とも喉を食い破られて死んでいた。
僕と美女さんが倒した2匹も即死のようだ。
2匹の狼のうち1匹はすでに死んでいたが、もう一匹は辛うじて息はしていた。
光を失いつつある目がそれでも僕を必死でにらんでいる。
魔王『ほう』
村人の話ではこの2匹が村を襲っていた野獣らしい。
村人は止めを刺して毛皮を剥ごうと話をしている。
魔王『トメロ』
―え?
魔王『あやつらを止めろ』
―毛皮を剥ぐことを?
とりあえず村人に止めを刺すことと毛皮を剥ぐことをやめるように伝える。
不満の声を上げるがどうにか納得をしてもらうことが出来た。
いつの間にか妖精少女が狼のそばに座って毛並みをなでていた。
血で自分の服が汚れる事は気にならないようだ。
そんな妖精少女を見ていた狼の目の光は弱っていき小さく鳴くと動かなくなった。
魔王『こやつらは戦士だ。戦士の身を汚すような事はするべきではない』
―そういうものなの…かな。
狼の死体を埋める穴を掘らないとと思ったところで洞窟の中から小さな声が聞こえた。
見ると狼の子供が2匹、洞窟の入り口から飛び出した。
どうやらここは狼の巣でゴブリンから子供を守っていたらしい。
村人達が「狼だ」「子供だ」「まだ残っていた」と騒ぎ出す。
小さいうちに殺してしまおうという村人達に声がかかる。
妖精少女「この子たち殺しちゃうの?」
全員の目が妖精少女を見る。
妖精少女「殺しちゃうの?」
不安げに見上げてくる。
村人が「仕方ないんだよ」という風なことを説明するが納得されるわけもなく
妖精少女は2匹の子狼を抱き上げる。
妖精少女「かわいいそう」
どうしたものかと思ってるところに美女さんたちが戻ってくる。
どうやらゴブリンの巣があったようで、5匹ほどいたけど全部倒し巣を潰してきたらしい。
さすが美女さん。
子狼に関しては話を聞いた美女さんは少し首を傾げたが、妖精少女に「ちゃんと責任を持てますか?」と聞く。
頷く妖精少女を見て「私達が責任を持って連れて行くので任せて欲しい」と笑顔で村人に伝えた。
「村長に相談しないと」としどろもどろになる村人。
美人さんの笑顔つよ!
2匹の親狼を丁重に埋葬したいという魔王の意見を聞いた美女さんは狼の巣に2匹の遺体を入れて崩すのはどうかと提案してきた。
狼の巣が別の野獣の巣になる事もないし埋葬も出来るというのだ。
―力技だなぁ
魔王『戦士の身が汚されることの無いようになるなら問題は無い』
―いいんだ。
狼の巣に他に何もいない事を確認。巣はそれほど大きくも深くもなかった。
親狼2匹の遺体を巣の奥に横たえた後、美女さんが洞窟の入り口上方に剣を走らせる。
それだけで入り口が崩れ埋まる。
魔王は小さな声で何かを呟いていた。
魔族に伝わる戦士を送る言葉らしい。
入り口は完全に埋まった。
洞窟全体を考えると中は空洞が在るかも知れないが、無理に掘り起こそうとしたら崩れて危険なのでもう使用されることは無いだろう。
子狼は妖精少女の腕の中で大人しくしている。
どうやら親狼の血の匂いが子狼を安心させているようだった。
村に戻って村長に狼の脅威がなくなった事とゴブリン退治を説明。
驚きの後に村長はゴブリン退治の謝礼が出せるほど蓄えが無いと申し訳なさそうに切り出した。
通常、ゴブリンの巣を潰す依頼となると規模にもよるが野獣退治の報酬の数倍もする。
僕「いえいえ。かまいません。我々は皆様が安心して暮らしていける事が最大の喜びです」キリッ
なんて事を僕が言えるわけも無く
美女さん「いえ。狼はゴブリンとの戦闘で果てました。我々はその後にゴブリンを倒しただけ過ぎませんので先のお約束の報酬でかまいません。ただその代わりと言ってはなんですが2匹の子狼は私どもにお任せください」
それでよろしいですね?と僕をみる美女さんに頷く。
―全く問題ないです。
村長も村人も僕達にすごい感謝をしていたけど、それよりも2匹の子狼について妖精少女が喜んでいたのがよかった。(可愛い!)
魔王『我の眷属として立派に教育してやろう』
得意げに2匹の子狼を見て言ってるけど、懐いてるのは妖精少女にだからね?
数日が立つ頃 → 数日が経つ頃
物の多きが魔力の容量では → 物の大きさ魔力の容量で
体をな切り裂く → 体を斬り裂く