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(仮)  作者: イオン水
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第24話 特使

日が落ちる頃に王都からの使者が来た。

降伏勧告の返答を携えてきたようだ。



広間の玉座に座る王子と姫。

脇にはそれぞれ翁と爺が立ち、その前に両騎士団が立つ。

僕は美女さんと脇に控えていた。


広間に入ってくる4人の人物。

そのまま進み王子と王女の前で膝を折り臣下の礼を取ると、その中の一人が「有力貴族の娘、国王の親書を持って参りました」と挨拶した。

無言で頷く王子。

赤の騎士団だが進み出て貴族娘から親書を受け取ると王子に渡した。

王子は無言のままその手紙を読むと「使者殿もお疲れでしょう。夕食の用意をさせますのでそれまでお休みください」と一言だけ言った。

それでこの会見は終わりである。


使者が退席すると王子が深いため息を付いて背もたれに体を預ける。

手紙を受け取った爺は一瞥すると「馬鹿らしい」と言った。

爺が受け取り内容を読む。



爺「降伏を受ける条件として以下の要求を提示する」


・王子と有力貴族の娘の婚姻

・身柄の引渡しから有力貴族のトップを外す事

・国王派の家(地位・土地・財産)・命の保障

・新政府には反国王派と国王派の半分ずつ就任



僕「こちらの条件と、それを断った後の降伏時の条件は伝えませんでしたっけ?」


爺「伝えましたな」


僕「なのに何でこんなに上目線な条件を出してくるんだろう?」


翁「状況が読めて無いだけじゃろう」


白の騎士団団長「こちらの降伏勧告を自分達の良いように解釈したのでしょう」


僕「自分達のいいように―?」


白の騎士団団長「『王都攻略が厳しいから降伏勧告をしてきた―』とでも」


僕「なるほど。では?」


翁「突っぱねるに決まってる」


僕「王子?」



黙ったままの王子に違和感を感じ呼びかける。

はっと顔を上げた王子は「受け入れることは出来ません」と言った。

違和感は拭えないが話は続いているのでそちらに意識を向ける。



白の騎士団団長「そうなると開戦ですね」


翁「そうじゃな。明日の朝にでも使者に伝え、そのまま王都へ向かおう」



全員がその言葉に頷き、明日に備えて各自の自室に帰る途中で「若」と王子に呼び止められる。

振り返ると「少しよろしいでしょうか」と言い先を行く王子の後を僕は付いていった。





王子と2人でテーブルを囲う。

部屋の作りは姫と似た感じだが若干質素だ。



王子「先程の国王軍からの使者の話です」



僕は王子に先を促す。



王子「受けた方が―良いのではないかと」


僕「受けた方がいい?」


王子「あ、いえ、一部です…けど」


僕「国王派の申し出のうち、新政府に国王派を、というのは受け入れられません。これは絶対です」


王子「はい」


僕「財産・土地の保障も無理です」


王子「はい」


僕「有力貴族のトップの首は…正直どうなんだろうね」


王子「え?」


僕「命まで必要なのかは疑問ですよね」


王子「…それは、やはり首謀者の命でしかこの戦は終わらない」


僕「なら答えは出てますね」



王子が驚いたように僕を見る。



僕「そうなると王子の引っ掛かってる事は領主娘との結婚」


王子「…別に結婚したいわけじゃないです」



そう言うと王子は黙り込んだ。

僕は王子の表情から真意を捉えようとして諦める。



―元々、僕に人の気持ちを量るのは無理だ


魔王『そうだな』


―そうだけど!



僕「王子―僕を(友人として)信じて話してください」


王子「そうですね。僕は若を(義兄として姫姉さまを任せることが出来るほど)信頼してます」



そういうと王子は「彼女を助けたいんです―」と呟いた。



僕「―彼女が好きなんですか?」


王子「―っ!…わかりません。違うと思います…」



王子の言葉を待つ。



王子「有力貴族娘は―僕の幼馴染なんです」



王子の言葉に僕は耳を傾ける。



王子「有力貴族は昔から王宮に出入りしてました。その関係で有力貴族娘とは子供の頃によく遊んだんです」



懐かしそうな顔をする王子を見やる。



王子「彼女から今の状況が想像できません」


僕「結婚が想像できない?」


王子「違います。このような状況を受け入れる女性ではない、です」




真っ直ぐ僕を見つめる王子



僕「―助けたいとは?」


王子「え?」


僕「有力貴族の娘の命を助けたいといいましたが、それはどのような意味を?」


王子「…それは」


僕「それならこのまま何もしなくても助かりますよ」


王子「え―?」


僕「戦後に処刑されるのは成人男性だけです。女性である有力貴族娘は助かります」



僕の言葉に王子が首を振る。



王子「―そうじゃ、そうじゃないんです」



僕は首を傾げたまま王子の声を聞く。



王子「僕は―」



そう言うと王子は固まってしまった。



僕「命が助かるだけでは無理だという。王子の言う助けるとは、どういう事を指すのですか?」



俯き黙る王子に僕はそれ以上の言葉を発さずに見る。

少し経って王子の部屋の扉がノックされる。

黙って答えない王子の変わりに僕が返事すると扉が開き美女さんが入ってきた。



美女さん「若、こちらにおいででしたか」


僕「どうしたの?」


美女さん「姫様がお呼びです」


僕「そう―王子」



僕の呼びかけに答えない王子。



僕「今の話の続きは食事の後にしましょう。それまで考えて居て下さい」



僕の言葉に王子が小さく頷いたのを確認すると「失礼します」と言って部屋を出た。






美女さんは何も聞かずに僕を姫の部屋まで案内している。

姫の部屋を美女さんがノックし扉を開ける。

「失礼します」と言って入った僕に2人の女性が迎える。

一人は姫でもう一人は――有力貴族の娘だった。

美女さんはそのまま扉を閉めて出て行ってしまった。

妖精少女と子狼は居ないようだ。

テーブルに案内され座った僕に有力貴族の娘が挨拶をした。



有力貴族の娘「先程はご挨拶が出来ずに申し訳ありません。有力貴族の娘と申します」


僕「こちらこそ、申し訳ありません。若と申します」



何故姫と有力貴族の娘は居るのか?

何故僕がここに呼ばれたのか?

状況が飲み込めず戸惑う。



姫「私と有力貴族娘は幼馴染なんです」


僕「は?」


有力族の娘「私は小さな頃から王宮に出入りしてたので、そのご縁で姫と仲良くさせて頂いておりました」



なるほど。

よく考えれば姫も王子も王宮に居たんだ。

王子の幼馴染と姫の幼馴染が同じでもおかしくない。



姫「小さな頃から一緒に遊んだり勉強したりしてたのです」


有力貴族の娘「懐かしいですね」


姫「有力貴族の娘は私達の中で一番勉強が出来たんですよ」


有力貴族の娘「そういう姫もかなり勉強されていたではないですか」



そういってお互い笑う。

仲は本当によさそうだ。



有力貴族の娘「…こんな事になるまでは姫には仲良くして頂きました」


姫「私は今でも親友だと思っております!」


有力貴族の娘「姫―ありがとう、ございます」



有力貴族の娘はそう言うと目に涙を浮かべた。



―悪い子では無いようだね


魔王『女はわからんがな』


―そ、そう?


魔王『まだ様子を見るべきだ』


姫「若をここに呼んだのは、有力貴族の娘と昔約束した事を守ろうと思って」


有力貴族の娘「約束―」


姫「有力貴族の娘、この若がわ、私の―王子様なのでしゅ!」


―噛んだ


魔王『噛んだな』



それを聞いた有力貴族の娘は何を言われているのか分からないようだったが、少しして意味を理解すると「ええええ~~~~~!」と声を上げて席を立った。



有力貴族の娘「お、お、お―」


姫「王子様」



恥ずかしそうに言う姫に僕も赤くなる。

それを見ていた有力貴族の娘は僕を睨むと「説明を―」と腹の底から出すような声を出した。



僕「えっと、何というか、気が付いたらそういう事になってました」


有力貴族の娘「気がついたらって何ですか!!」


姫「落ち着いて有力貴族の娘。これはもう皆納得してるの」


有力貴族の娘「みんな―?」


姫「王子も爺も翁も。今回の戦が終わった後に私達の婚約を発表する予定なの」



「キャッ」と頬を染める姫は可愛いが、僕を睨む有力貴族の娘が怖い。

「ぐぐぐ…」と何かを堪えていた有力貴族の娘は拳を振り上げると「これは今すぐ戻って兵を再編しなければ!!」と叫びだした。



有力貴族の娘「姫ちゃんを誑かす魔手から一刻も早く救い出さねば!!」



豹変した有力貴族の娘を姫が「まって、まって」と宥める。

少しして落ち着いた有力貴族の娘は「失礼しました」と席に座る。



姫「私が望んだことなの」


有力貴族の娘「姫ちゃんが?」



姫の呼び方が「姫ちゃん」になっているのにも気がつかない有力貴族の娘。

姫がそう呼ばれるのが嬉しそうなので言わないけど。



姫「私が憧れて…でも若は私を友人としてみていない事が分かってたの」



黙って話を聞く有力貴族の娘。



姫「でもとある事から私の気持ちが若に知られて、ダメだと思ったけど若が真剣に答えてくれたの」



「嬉しかった―」と呟く姫に僕は悶死しそうになる。

それを止めたのは「とある事?」という有力貴族の娘の低い声だ。



姫「赤の騎士団団長が口を滑らせてしまったようなの」


有力貴族の娘「それまで若は姫ちゃんの気持ちに気がついてなかったと?」


僕「う、うん―」


有力貴族の娘「あの(自主規制)!余計な事を―」


―え~!何この豹変振り!!怖い


魔王『やはり女はわからんな』


―そういう意味じゃなかったくせに!


姫「最初は『何でそんな事を言うの?』って思ったけど、若が気持ちを受け入れてくれたから、今は感謝の気持ちで一杯」



有力貴族の娘は僕を睨み殺す勢いで見つめ



有力貴族の娘「貴方は姫ちゃんの気持ちに気がついてなかったというけど、では何故戦争に参加してたの?」


僕「え?友人が危ないんだ。出来る事をしようと―」


有力貴族の娘「本当にそれだけ?姫に取り入って地位や土地を得ようと思ったんじゃないの?」


僕「そんな事無いよ!」


有力貴族の娘「本当かしら」


姫「本当よ」



姫の言葉に有力貴族の娘が「え?」と声を上げる。

姫は嬉しそうに、誇らしげに語りだす。



姫「若は本当にそういうのに興味がなったの」


有力貴族の娘「そうしてそう思うの?」


姫「国王軍が大砦に迫った時に私に剣を捧げてくれたの」


有力貴族の娘「それは兵士として当然―」


姫「若はこの国の人ではないわ。それでも私の笑顔を守りたいと言ってくれたの」


有力貴族の娘「……」


姫「たとえ友人としてでも嬉しかった」


有力貴族の娘「それが無欲とどう繋がって―」


姫「その時に土地も権力も要らない。ただ私を守るって」


有力貴族の娘「―!」


姫「その後も爺たちに戦後に国を支えて欲しいという事を言われたけど、その度に土地も権力も要らないと跳ね除けてるわ」



それを聞いた有力貴族の娘は僕に目を向ける。



有力貴族の娘「本当に―?」


僕「要りません」


有力貴族の娘「土地も?」


僕「土地の治め方なんか知りませんし」


有力貴族の娘「権力も?」


僕「土地も分からないのに国なんか―」


有力貴族の娘「お金とか―」


僕「まああるほうが良いですが、生活できる程度あれば」


有力貴族の娘「―何の為に戦ってるの?」


僕「最初は友人である姫を助けるため」


有力貴族の娘「最初は?では今は?」


僕「姫の笑顔を守るため」



恥ずかしくて「大好きな」とは言えなかった。

有力貴族の娘は顔を真っ赤にしている姫と僕を眺めるとため息をついた。



有力貴族の娘「―分かりました。貴方なら信頼できそうです」



そういうと有力貴族の娘はまじめな顔をした。



有力貴族の娘「本題に入りましょう」

新キャラ登場しました。

あまり増えると扱いきれなくなるのに…


タイトルを「(仮)」しました。

「無題」よりはマシだと思ったんですが、どっちもどっちでした。



誤字修正

言いように解釈 → 良いように解釈

少し立って → 少し経って

扉を空ける → 扉を開ける

扉を締めて → 扉を閉めて

もう時 → 王子

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