第23話 公開処刑
僕の話を聞いた王子と翁と爺は無言で僕を見ている。
翁「姫は何と?」
姫「―それでも若と居たいです」
しっかりと答える姫。
顔が真っ赤なのは愛嬌だと思うのは惚れた弱みなのだろうか?
翁「王子はどう思われますか?」
問われた王子は我に返り考え出す。
王子「魔族も人族も元は一緒の種族なんですよね。なら王族同士の婚姻と言うだけなのでは?」
翁「しかしまだ王位をついではおりません」
王子「それを言うなら僕も姫姉さまもです」
翁「しかしその事はもう目の前まで来ております」
王子「その立役者が若です」
その言葉に翁が黙る。
王子「関係ないのに何の打算もなく手を貸してくれました」
翁「打算が無かったといえますか?」
王子「今ならはっきりと言えます」
翁「それは―」
王子「まず第一に地位や土地を求めないばかりか拒絶していた事。これは自分が魔族である事を差し引いても、そういう事に欲が無いと判断できます」
翁「……」
王子「それに姫に無条件で剣を捧げた事。王族である身でそんな事をするのは危険にもかかわらず、です。僕は若を支持します」
翁「…爺は」
爺「支持」
翁「早!もう少し考えい!」
爺「私は皆より少し長く若を見ている。その中で姫を任せれる御仁と判断した」
目の前で繰り広げられる僕への賛辞に、これは公開処刑なのでは無いかと思わざるを得ない。
何でこうなった。
王子「それに王族同士の婚姻は両国を結びつける事となりますしね」
そう笑う王子。
爺「して、聞いてばかりの翁はどう思うのじゃ?」
翁「…ワシも賛成じゃ」
その言葉に姫が「―――!」と聞き取れないが喜びの声のようなものを出す。
爺「賛成なら良いではないか」
翁「一人くらい反対意見を出すものが居ないと議論にならん!」
爺「面倒くさいのう」
爺が翁を茶化して笑うという不思議な光景を見る。
えっと、こんな簡単でいいの?
「まだお伝えする事が―」という美女さんの言葉に僕は婚約者の話もする。
翁「まあ王族なら仕方あるまい」
爺「そうですな。姫が第一王妃となるなら問題は無いです」
そういう2人に妖精少女が「私もだよ!」と笑う。
「は?」という2人に美女さんが笑顔で答えた。
美女さん「姫様のお許しを得て妖精少女は第2王妃になりました」
王子・翁・爺「「「は?」」」
美女さん「言葉の意味の通りです」
頷く姫が「美女さんが第3王妃です」と言うと3人は動かなくなった。
「ねー」と言い合う姫と妖精少女。
美女さんは「そういう事になりました」と笑顔で答える。
僕「―冗談ですからね」
僕の言葉に3人が息を吹き返す。
「危うく死ぬかと思ったわい」という翁に「冗談では言ってません」と姫が爆弾を落とす。
姫「ありえる未来です」
王子「姫姉さまはそれでよろしいので?」
姫「はい。妖精少女と本当の家族になれるんです。うれしい以外の気持ちはありません」
王子「はあ…」
「もちろん、美女さんともです!」と力説する姫に笑顔で「ありがとうございます」と言う美女さん。
―なんだこのカオス
魔王『おぬしが要因だな』
―でも原因は違うよね!
魔王『もう嫁に板ばさみか』
―それも何か違う
翁「と、とりあえず姫との婚姻は問題ないと言うことじゃな」
翁が話を纏めに掛かる。
王位継承争いで年に何ヶ月か留守にする事も伝えている。
「まあ王位は王子が継ぐから問題ないじゃろう」という翁に王子が何か言いたそうにしていた。
もしかして王位をこちらに押し付けるつもりだったのか?
正式な婚姻はすぐには無理だ。
だからとりあえずはこの戦が終わった後に婚姻を発表する事に決まった。
話も終わり皆で部屋を出て行こうとした時に「そういえば―」と美女さんが言った。
「腕の紐の本当の意味を知ってますか?」と。
僕「本当の意味?」
美女さん「桃色は姫のファンが付けている色です」
僕「え?」
美女さん「黒は若のファンです」
僕「え、だって、幸運とか無事とか―」
美女さん「ああ、あれは嘘です」
僕「は?」
美女さんを見ると「嘘です」と笑顔で再度言った。
姫を見ると真っ赤になり俯いている。
その腕に黒い紐があるのを見て、桃色の紐を進めたのが姫だと思い出し、本当の意味で理解する。
顔が熱い。
そんな僕を笑顔で見やり「ではそろそろお休みになられますか?」美女さんが僕に言う。
美女さん「若は戦続きでここ2日程寝て無いでしょうし、姫も昨日から一睡もして無いでしょう」
確かに寝てないかもしれない。
気が高ぶって気がつかなかっただけで物凄く眠いのかもしれない。
美女さん「それとも皆さんと食事にしますか?」
それはなんだか恥ずかしいのでとりあえず少し時間が欲しい。
そして眠い。
美女さん「お二人で寝ますか?」
その言葉に皆固まる。
妖精少女だけが「じゃあ私も一緒に寝る!」と元気に言ってる。
僕「は、はは、はははは、び、美女さんは面白い事を言うな―」
無理やりそういうと「とりあえず昼まで寝ます」と言うと姫の部屋を出て一人で部屋に戻った。
魔王『一緒に寝ればよかろう』
―出来ないよ!
魔王『何故だ?』
―っ!
魔王『もう夫婦のようなものだろうに。何をためらう』
―色々あるんだよ!
魔王『―へたれめ』
―ごめんね!!
もう眠たいせいか良く分からなくなってきた。
ベッドに倒れ込むように―
――――――――――
目を覚ます。
日差しが高いのが分かるがまだ眠たくて起きずにまどろむ。
魔王『目覚めたか?』
―あ、うん―
魔王『そうか』
―何か変な夢―
魔王『夢じゃないんだがな』
魔王の言葉に覚醒する。
―夢じゃ、ない―
魔王『無いな』
―姫との婚約も?
魔王『現実だ』
―魔族と伝えた事も
魔王『全部現実だ。魔王だと言う事も伝えたのも全部現実だ』
―それじゃ…
魔王『妖精少女と美女を嫁にするのも現実だ』
―っ!
魔王『その上「この世の女全ては俺のものだ!」と叫んだのも全て夢じゃない』
―それは嘘だよね!
魔王『覚えて…無いだと!?』
え?どういう事?本当にそんな事言ったの?
昨日の出来事を必死で思い出す、
―やっぱり言って無いよね!!
魔王『だが妖精少女と美女を嫁にするのは現実だ』
―え?あれは皆の冗談だと思うよ?
魔王『そうだと良いな』
―え?ええ?
その時部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」と言うと美女さんが「お食事をお持ちしました」と入って来た。
テーブルに並べられる食事を見ながら美女さんを盗み見る。
―魔王が変なことを言うから意識しちゃったじゃないか!
魔王『そん事は知らん』
美女さん「どうかしましたか?」
僕「いえ…」
美女さん「それとも食べさせて欲しいのでしょうか?」
僕「は?」
美女さん「第3王妃として『あーん』とかした方がいいのでしょうか?」
僕「び、美女さん!?」
「冗談です」と笑う美女さん。
心臓に悪い。
美女さん「それは第一王妃である姫様が一番最初にするべきですからね」
美女さんの物言いにガックリと肩を落とす。
僕「美女さんまでその冗談に乗るんですか?」
美女さん「と言うと?」
僕「別にもう良いでしょう。僕を苛めてうれしいのですか?」
美女さん「それは―うれしいですが」
―うれしいんだ!
美女さん「まあ半分は嘘ですが」
僕「半分って―」
美女さん「第3王妃については構いませんよ」
僕「は?」
美女さん「構いません」
―何?どういうことなの?
魔王『そのままの意味だろう』
美女さん「今と変わりませんし」
僕「はい?」
美女さん「私は若の従者です。若に従いついて行くのみです」
僕「従者も王妃も同じだと?」
美女さん「若の所有物には変わりません」
笑顔で言い切る美女さん。
僕「美女さんが望むなら従者を続けなくても良いですよ?」
魔王『何を言う』
美女さん「どういうことですか?」
僕「美女さんを縛るつもりはありません。もしやりたい事が見付かれば従者を辞めても良いですよ」
その言葉に美女さんが少し眉を寄せた。
笑顔以外の顔は珍しい。
美女さん「もう―必要ないと?」
僕「そんな事は無いですよ!ただ美女さんは美女さんの―」
美女さん「では私は若につき従います」
そういうといつもの笑顔を浮かべた。
美女さん「第3王妃ですしね」
―もう勘弁してください
食事を取りながら美女さんに今の状況を聞く。
王都は動きがなく敗走した国王軍は殆どが自分の領地に戻たようだ。
こちらの準備はほぼ終わっている。
だが今日一日は兵の休日という事で、明日以降も大砦防衛で残るメンバー以外は半休暇状態らしい。
だから僕達も今日一日は休んでいて良いらしい。
―というか美女さんはいつ寝てるんだ?
美女さん「食事の後はどうしますか?」
僕「そうですね。明日に備えてもう少し休みます」
美女さん「添い寝しましょうか?」
僕「えええ!」
美女さん「冗談です。それも第一王妃の姫が先です」
僕「―心臓に悪いのでその冗談は辞めてください」
「分かりました。控えます」と美女さんは笑顔で答えて、僕が食べた食器を片付けると部屋を出て行った。
僕は食事後すぐというのに疲れがぶり返し横になるとすぐに眠ってしまった。
途中、部屋の扉がノックされた。
起きようとしたが疲れが酷く目を開けることが出来きない。
訪れた相手は何かを呟いたがよく聞こえない。
入り口で立っていたが静かに部屋に入ってくる。
そして僕の隣に立つと「寝ているんですか?」と微かに聞こえる声で呟いた。
「起きていますよ」と言おうとしたが体がいう事を効かず声に出せなかった。
相手は少し笑って僕を見下ろしていたが寝ていると確信したのか、僕の恐る恐る前髪を触りだした。
そのうちに大胆になってきたのか最初は恐る恐るだったのが堂々と触るようになる。
すると耳元で「ふふ…」と笑う声が聞こえる。
どれくらいそうしていただろうか。
不意に触るのをやめたかと思うと、そっと頬を触りすぐに部屋を出て行ってしまった。
僕は結局、疲れに勝てず最後まで起きる事が出来ないまま再度眠りに落ちた。
夕方に目が覚める。
久々にゆっくり寝た為か体が痛い。
夕食まではまだ時間がありそうだ。
体をほぐしてどうしようか迷迷う。
―今日一日寝て過ごしたし、少し体を動かすかな。
そう思い剣を持ち館の脇のちょっとした広場で剣を振るう。
体が熱くなり薄っすらと汗が出てきた頃に声を掛けられる。
白の騎士団団長「稽古ですか」
振り返ると白赤両騎士団団長が歩いてきていた。
僕「今日一日、寝て過ごしてしまったので、晩御飯までに少しおなかをすかそうかと」
白の騎士団団長「よければ手合わせしますか?」
赤の騎士団団長「それなら俺と!」
僕「えと…では軽く。まず先に言われた白の騎士団団長と…」
全然軽くなかった。
飄々として物腰の柔らかい感じの白の騎士団団長だが、そこはやはり騎士団団長。
流れるような剣捌きで隙が無い。
僕もそれを受けながら合間を見ては攻撃し返すが、全ていなされる。
お互い一歩も引かずに剣戟を打ち重ねていると不意に「そこまで!」と声が掛かった。
赤の騎士団団長「いつまでやっている。次が控えているんだ」
赤の騎士団団長がそういって白の騎士団団長を押しのけて前に出てきた。
白の騎士団長は肩をすくめると「続きはまた今度」と言って下がった。
赤の騎士団団長が剣を構える。
僕もすぐに剣を構えた所に白の騎士団団長の「はじめ」の声が掛かる。
赤の騎士団団長の剣は性格に似合わず力任せ一辺倒ではない。
こちらもさすが騎士団団長といった所だろう。
「なかなかやるな」「これならどうだ」等といいながら結構騒がしい。
それに白の騎士団団長が「あなたは手数より口数が多い」と言われて「うるさい」と返していた。
赤の騎士団団長ってもっと硬派なイメージだっただけに驚きもひとしおだ。
赤の騎士団団長と剣を合わせていると白の騎士団団長が僕に話しかけてきた。
白の騎士団団長「姫と婚約したそうですね」
僕の剣が揺れる。
僕「な、な―」
赤の騎士団団長「俺も聞いたぞ」
タイミングをずらされた僕は必死で赤の騎士団団長の剣を受ける。
赤の騎士団団長「まさかいきなり婚約まで行くとはな」
僕「な、何で―」
白の騎士団団長「翁に聞きました」
僕「え、あ―」
白の騎士団団長「安心してください。知っているのは一部の人間だけです」
赤の騎士団団長「発表は王都攻略後に落ち着いてからにする予定だそうだ」
もう2人の言葉に翻弄されて僕は剣筋が乱れ赤の騎士団団長の剣を受けるので必死だ。
赤の騎士団団長は「ふっ」っと笑うと距離を取って剣を収めた。
それを見て僕も剣を収め息をはく。
物凄く疲れた。
赤の騎士団団長「心を乱しながらも我が剣を受けきるか。さすがだな」
僕「心を乱した時点で負けてますけどね」
僕はやさぐれながら言う。
「確かに」と笑い声を上げた赤の騎士団団長は急にまじめな声を出すと「お前の事も聞いた」と僕を見て言った。
白の騎士団団長も真剣な表情で僕を見ている。
これは僕にも分かる。
魔族という件の事だろう。
赤の騎士団団長「だからと言ってお前への評価は変わらない」
そう言うと赤の騎士団団長は僕の肩を叩きながら大きな声で笑った。
白の騎士団団長も「僕も同じ意見です」と笑顔で言ってくれた。
それに対して「ありがとうございます」とだけ僕は答えた。
2人の気持ちがうれしくてそれだけを言うので精一杯だった。
赤の騎士団団長「戦が終わって落ちついたら茶化し無しの真剣な仕合をしよう」
そういう赤の騎士団団長に僕は頷いた。
誤字修正
僕のせりふが「」ではなく『』となっていたのを修正
繭 → 眉
反休暇状態 → 半休暇状態
正確に似合わず → 性格に似合わず
白の騎士団軟調 → 白の騎士団団長