第21話 ルール違反
途中で補給部隊を回収しながら夜半正刻(0時頃)に大砦に入る。
前もって状況と帰還を伝えていたので大砦では受け入れ準備が行われていたようだ。
王子と翁と爺が僕達を迎える。
王子「状況はある程度把握しております。領主息子」
領主息子「はい」
王子「処分を検討します。それまで自室で待機を」
領主息子「はい」
領主息子が自室へと2人の兵士をに連れられて行く。
大砦への帰還の帰路の途中で領主息子と両騎士団を交えて少し話をした。
酷い内容だが領主息子は快くと言っては変だが引き受けてくれた。
翁が「申し訳ない」と頭を下げるのを止めて「その件で処遇にお話があります」と伝える。
翁はすぐに頷くと僕と両騎士団団長、美女さんを会議室に案内する。
「食事を作らせておるが?」という申し出に「まずはこの話を終わらせてから」と伝えた。
翁「領主息子の処遇だが、厳しい処分が必要だとワシは思っておる」
王子「翁!?」
翁が処刑もありえると言葉に含むのを王子が止める。
翁「王子、事は反国王軍の士気に関わる問題じゃ。身内だからと甘い処罰では反国王軍の結束を乱しかねん」
赤の騎士団団長「ここで甘い処罰をすると、独断専行をしても許される。結果、戦果を上げればよし、という風潮を生みかねない」
白の騎士団団長「その結果、反国王軍は内部から瓦解する」
僕「そうですね。ですがあまり厳しすぎるのもどうかと思います」
翁「でもそれでは他のものに示しがつかん!」
僕「領主息子はここまで来れた功労者の一人です。その戦功と差し引いて0にしましょう」
赤の騎士団団長「それでは周りが納得せんだろう?」
だから厳しく処罰するべきだと言うのだ。
僕「後から来たものより確実に戦功があるのですから、それが無かった事になるのは厳しいといえると思いますが」
白の騎士団団長「それでも、そういう事を理解出来ないものは多いんだよ」
僕「そうですか。では、財産を献上してもらいましょう」
翁「財産だと?」
僕「そうです。領主息子はどれくらい持ってますか?」
翁「領主息子本人のとなると、殆ど無いのではないだろうか」
僕「では翁と現領主に泣いてもらうしかありません」
翁「…それで領主息子が助かるなら安いものじゃ」
僕「どれくらいが妥当でしょうか?出来ればそこらの領主ではそうそう出せないぐらいが良いのですが」
翁「そうじゃな…領地の年収の半分と領地を幾つか…か」
僕「領地の年収は高い方?」
翁「中堅領主なみじゃな。有力貴族の4分の1程度じゃ」
白の騎士団団長「有力貴族は搾取してますからね」
僕「では土地はいいので年収の2倍としましょう。4年の分割で払ってもらいましょう」
翁「わかった」
僕「本来なら幾つかの土地と翁の領地の年収4倍の財産を没収の所を、今までの戦功を差し引いて年収4倍のみ。その上で領主息子は後方支援部隊への配属を言い渡す。と言う事でどうでしょう」
王子「それではもう戦功は立てれませんが?」
僕「そうですね」
王子「厳し過ぎませんか?領主息子の面子を潰しすぎの気もします」
白の騎士団団長「すでに領主息子には納得してもらってます」
翁「何と?」
僕「今回の件については今までの戦の勝利が起因していると思います」
王子「戦の勝利?」
僕「勝ちすぎました。それも殆どの被害を出さずと言っていいほどの」
赤の騎士団団長「それによる楽勝ムードが気の緩みを生み、相手を低くみるようになっている可能性がある、と言う事です」
僕「ですので、今回の件を逆に利用して気を引き締めます。『翁の所の領主息子ですらミスをすれば罰を受け、今後の功績を立てるチャンスをなくされる』とね」
王子「なるほど」
僕「当初から参加をし戦果を上げてても独断専行をしたらこれだけの罰を受けるんです」
白の騎士団団長「そうですね。言い方は悪いですが、本来ならそこまでの失敗ではありません」
赤の騎士団団長「そうだな。兵を無駄に死なせた罪はあるが、本来なら今後の戦で取り戻せ、という所だな」
それを分かっていて領主息子に「処刑もありえる」と言い切る赤の騎士団団長も人が悪い。
僕「これは他の領主への警告と、今後降る領主達への警告です」
翁「今後降る?」
僕「今回の防衛と追撃で国王軍に対して圧勝を収めたと言えます。この状況を見たら降る領主もいるでしょう」
王子「それに対する警告とは?」
僕「今まで傍観してた者に対しては、今更来る事に対しての精神的重圧になるでしょう」
白の騎士団団長「一番の功労者である翁一族にもミスに対する処罰で財産の没収があるんです。今まで傍観していた者は焦るでしょうね。最初に『傍観している者には財産没収』と通達してますし」
僕「国王軍に付いていたものに対しても財産を差し出させ安くなりますね」
赤の騎士団団長「翁であれだからな。敵対してた者は我が身の命を守るために土地も財産もある程度出すだろう」
僕「そういう事です。領主息子を処刑してしまうと、逆に彼らに『今更行っても処刑されるだけかもしれない』という想いを抱かせかねません」
王子「なるほど」
僕「翁と現領主に関しては、戦後の功績で今回の件以上の物を得てもらえばいいでしょう」
王子「そうですね」
僕「そして僕に対する処遇ですが」
翁「そなたにもか?」
僕「指揮官としての責任は問いませんと。部下に行わせて―と言うのもありえますしね」
翁「むう」
僕「今までの戦功剥奪と、土地や財産の無い僕には戦後の土地の分配無し、でいいのでは?」
翁「なんと!?」
僕「元々、土地は貰わない約束ですし、痛くも痒くもないですね」
翁が唸るのを見て笑う。
僕「何かしらの理由を付けて押し付けるつもりだったでしょう。そうは行きませんよ」
爺「厳しすぎませんか?」
僕「厳しいくらいがいいんです。その分、良い働きには十分に報いてあげてください。信賞必罰です」
処遇については概ね決まった。
後は出撃の時期だ。
ずっと準備を行っていたお陰で明日の昼には準備が終わるらしい。
だが兵に休息を取らせないとまずい為に出発は明後日以降となった。
僕「そうだ、王都に降伏勧告を行ってみましょうか?」
爺「何?」
僕「勝手に暴走して処刑されても困るので、王子と有力貴族のトップの2人の身柄の引渡しと王都の無血開城で他の者の土地と財産の一部を認めると」
爺「土地と財産の?」
僕「土地と財産の、です」
翁「馬鹿でもさすがに自分の命に関しては気がつくだろう」
僕「では命も助けると言いましょう」
翁「だがヤツラに財産を残したら、また何をしでかすかわからんだろう」
僕「そうですね。ですので戦後に責任を取らせて没収しましょう」
翁「は?」
王子「待ってください。財産は一部認めるのでは?」
僕「はい。王都攻略時の接収は行いません。ですが、戦後の敗戦処理では罪を償う為に差し出してもらいます」
赤の騎士団団長「何と悪辣な…」
白の騎士団団長「言葉遊びではないですか」
僕「何か問題が?今の王都にいる顔触れで惜しむ人物でもいますか?」
翁「…おらんな」
僕「では良いではないですか。命は助けるのですから。財産を全て没収されても命が残るだけマシでしょう。それでも財産を残したい人は死んでもらって遺族に一部財産を渡しましょう」
赤の騎士団団長「一部?」
僕「ええ、女性と子供が一般家庭で1~2年間生きていくのに困らない程度に渡します。後は前に決めたように土地を耕して生活してもらえばいい」
赤の騎士団団長「男は?」
僕「え?拒否の場合は全員、処刑されているのでは?」
翁「確かにそうじゃが…」
僕「なら考えなくても良いじゃないですか」
王子「若…急に雰囲気が変わりましたね?」
僕「そうです―か?そうかも知れませんね。姫の騎士と決めた時から、この戦は他人事じゃなくなりましたから」
翁「ふむ」
僕「今後、姫に害する可能性がある存在は潰しておきたいんですよ」
「頼りになると言うか恐ろしいと言うか」と呟く翁。
僕「領主達から接収した土地で今回の戦功に応えて、財産で国の復興に当たる。いい事尽くめじゃないですか」
王子「そうなのでしょうか―?」
本当の所はそうでもないとは思う。
でもそれは王子や翁達が戦後の状況を見ながらやっていけば良いと思う。
赤の騎士団団長「無血開城を受けない場合は?」
僕「通常通り王都を攻めるしかないでしょう。投石器を使って外壁一枚壊した後にさらに厳しい条件で再度呼びかけましょう」
赤の騎士団団長「厳しいとは?」
僕「そうですね。身柄の引渡しに有力貴族のトップとその3等身までの男子の身柄の引渡しにしましょう。そしてその他の者は土地は没収で財産の一部と命の保障で。それで受け無い場合は―」
翁「場合は?」
僕「城壁をさらに一枚壊してもっと厳しい条件を突きつけます。前の条件に身柄確保は有力貴族の何名かも追加します。これは今の国の要職に付いている人物などで良いでしょう。王達が5名ほど選んでください」
翁「わかった」
僕「そして他の者は財産を全て没収。これに応じない場合は以後の降伏は受け入れないものとして女子供も含めた一族郎党処刑」
僕の物言いに一同言葉を無くす。
それを見て僕は笑いながら言う。
僕「これまで言えば相手も折れると見込んでの事です。別に女性や子供を殺したいとは思ってません」
王子「よかった…」
僕「でも仕方ない場合は処刑しかありませんけどね」
王子「……」
僕「王子、僕は姫との約束で命を守れる人は守ると言いました。でもそれは『守れる人』です。相手がそれを拒否した場合は仕方ありません」
王子を真っ直ぐ見る。
僕「戦の旗頭として、王族として決断しなければならない時もあります。その時に躊躇した結果、大切な人や多くの者が死ぬかもしれません」
王子「国の為に多少の犠牲は仕方ないと?」
僕「仕方ないと言うのではなく、やるんです。時間を掛ける余裕があり、全員助けるいい方法があるらなそれを選べばいいだけです。戦後、貴方が国を背負うのでしょう?」
王子「僕が…」
―あれ?違うの?
てっきり王子が国王になると思って居たので翁に聞く。
僕「戦後は王子が国王になるのでは?」
翁「そうですな」
王子「そんな!第3王子を差し置いて僕なんかが!」
僕「その第3王子が国を荒廃させたんです」
王子「それは周りの有力貴族が―」
翁「それでは国民は納得しません」
王子「では第3王子はどうなるのですか!?」
他の者と一緒に処刑されると思ったのかもしれない。
王子が顔を真っ青にして叫ぶ。
僕「通常は退位の後に幽閉でしょうね」
翁「そうじゃな。国王であった者を処刑はできぬ。生涯幽閉となるじゃろう」
王子「そんな…」
僕「王子が国王にならない方法がありますよ?」
王子「それは!?」
僕「姫に押し付けるのです」
王子「え―?」
僕「姫に押し付けなさい。そうして姫には他国から婿を貰えば国同士のつながりも強化でき一石二鳥です」
王子「そんな事は出来ません!」
僕「何故です?」
王子「―っ!」
僕「王子は王になりたくないと言う。でも姫が婿を取って国を治めるのは出来ないと言う」
王子「……」
僕「ならいっその事、反国王軍は解散しましょうか」
王子「なんで…」
僕「戦後に誰も治めない国よりは悪政でも今の方がマシでしょう。我々の大儀も無くなりますし」
皆は僕と王子のやり取りを見守る。
翁「他にも方法はあるがな」
呟く翁に皆の視線が集まる。
王子「どういう方法ですか?」
翁「若が姫と婚姻を結べばよい」
何を言っているんだこの爺さんは?
まじめな話をしている状況でそんな茶化す事を言うとは!
爺が「おお」と言いながら手を打つ。
王子「それだ!」
―それだじゃないよ!
僕「何を言ってるんですか。この国の人間でもなく何処の誰かも分からない者を王位に付けてどうするんですか」
翁「それはそれ。今回の戦での最大の功労者はお主であろう。姫の危機を助けたしな」
僕「それならずっと守ってた爺が上でしょう!」
爺「それでも今までの勝利は全て若の作戦のお陰ですからな」
僕「周りが認めませんよ」
翁「そうでもない。『姫の騎士』として十分に名が知れ渡っておる」
王子「頼る先も無い姫の窮地に駆けつけその身を守り通し、軍勢を集め今までの勝利の立役者として認知されてますね」
僕「何で昨日の今日でそんな通り名が通ってるんですか!」
翁「戦後に『姫の騎士』の立場を確立する為にと思い、触れて回ったのじゃ。まさかこうも役に立つとは」
呆然と翁と王子と爺を見る。
何でこの人達はこんなに笑っているんだろう。
僕「…姫を政治の道具にするのは感心できません」
翁「先程、お主は『他国から婿を取れ』と言っていたではないか」
僕「それは王子に発破を掛ける為の方便です。もしその方向に動いたら、そんな事が無いように動くつもりでした」
翁「それは何故じゃ?」
僕「政略結婚などさせれません!」
翁「おかしな事を言う。王族の結婚は政略結婚が基本じゃ。貴族間ですら似たようなものぞ?」
棒「姫には笑顔でいて欲しいのです。姫の意に沿わない結婚はさせれません」
翁「意に沿えばよいのか?」
翁が邪悪に(というしか形容が無い顔で)笑う。
姫は「国のため」と言われれば受けるだろう。
それくらいに責任と優しさの溢れた人だ。
僕「姫なら自分の気持ちを押し殺して受ける可能性が高い」
翁「そう思うなら何故、お主が娶ろうとしない?」
僕「だから姫の意に沿わない事をさせたくないと言っているでしょう」
翁「意に沿えばいいのじゃな?」
僕「丸め込むのは無しですよ!それじゃ意味が無い」
翁の笑顔の裏にあるものが読み取れない。
だが決して良いものではないような気がして必死で翁の道を塞ぐように言葉を紡ぐ。
元々、なんでこんな話になったのだろう?
魔王『気がついていないのはお主だけだ』
―何か分かってるなら教えてくれ!
魔王『……』
―魔王!
僕と翁が言い合ってると赤の騎士団団長が「まさか―」と呟く
赤の騎士団団長「まさか本気でそこまで姫の気持ちに気がついて無いだと?」
部屋が静かになる。
赤の騎士団団長の方を見ると横で白の騎士団団長が「あちゃ~」という感じで顔を抑えていた。
僕「―はい?」
赤の騎士団団長「本気で姫の好意に気が付いていないのか?と聞いてる」
そういう赤の騎士団団長を白の騎士団団長が押さえつける。
赤の騎士団団長「何をする。一度ちゃんと確認したいと思っていたんだ!皆もそうであろう!!」
白の騎士団団長「例えそうでも、直接聞くのはルール違反です!」
赤の騎士団団長「何故だ!面倒なのは好かぬ!」
白の騎士団団長「それでもこの場合はルール違反です。もし貴方が自分の気持ちを他人に勝手に言われたらどう思いますか!」
赤の騎士団団長が「う、うむ…そうか」と言って席に座る。
―姫が好意?誰に?
理解が及ばない。
白の騎士団団長「本当に申し訳ありません。こういう形でお伝えするのは不本意ですが、こうなっては仕方ありません。貴方の意見をお聞かせ願いたい」
僕「―え、あ、その…赤の騎士団団長の勘違いでは?」
何か言おうとする赤の騎士団団長を手で制して言葉を繋ぐ
白の騎士団団長「そんな事はありません。みんなそのように認識しております。気がついていないのは貴方だけだ」
白の騎士団団長の言葉に周りを見る。
王も爺も王子も僕が見ると頷く。
視線を彷徨わせて美女さんに縋る様に見ると笑顔で口を開いた。
美女さん「気がついていないのは若ご本人だけですよ」
魔王『ちなみに我も気がついていたが?』
―ええええええええええ
いきなりの展開(おぬしの中だけでな)に僕はどうしていいか分からなかった。
赤の騎士団団長がやってくれました。
こんな方法で姫の気持ちに気が付く予定ではなかったのですが、若が朴念仁を通り越して植物に成らないように考えたらこのタイミングとなりました。
丁度いい汚れ役もいましたし。いい意味で!
話は元の予定を大幅に超えて行ってます。
何処へ向かうのでしょうか?
そろそろタイトルも決めたいのに何も思いつかない。
終わるまでに決まると…いいね。
誤字修正
戦功に答えて → 戦功に応えて
菜穴井方法がありますよ → ならない方法がありますよ
面倒なの好かぬ → 面倒なのは好かぬ
一部、王子のセリフが僕になっていた部分を修正