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(仮)  作者: イオン水
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第20話 独断専行

追撃が始まった。


追撃部隊は総数約9900

僕、美女さん、領主息子、兵数約2000

赤の騎士団 兵数約3900

白の騎士団 兵数約4000



斥候の情報では敗走した国王軍は10000の軍勢を大幅に減らしながらも何とか体裁を保って王都への帰路についているようだ。

戦闘後半刻(約1時間)程は死に物狂いで進んでいた様だが追撃が無いと判断したのか、今は速度は遅い。

一時いっとき(約2時間)程で追いつく予定だ。




斥候が王都へ戻る国王軍を見つけた。

悟られないように距離を開けて一旦停止する。



赤の騎士団団長「このまま行くか?」


白の騎士団団長「そうですね」


僕「今のスピードで行けば野営地はここ(地図上を刺す)あたりでしょうか?」


赤の騎士団団長「通常で考えたらそうだが、そこよりこの辺り(僕が指した場所より王都方面)だろうな」


僕「そこになると着くのは夜中では?」


赤の騎士団団長「それでもここまでは確実に行くだろう」


白の騎士団団長「そうだね。ここから先は有力貴族の土地だからね」



「自分達の勢力圏まで戻らねば安心して休むことも出来まい」と赤の騎士団団長が言うことに白の騎士団団長も頷く。

僕はその有力領主の領地の直前にある箇所を指を刺して聞く。



僕「ここは?」


白の騎士団団長「そこは小さな渓谷ですね」


僕「渓谷?」


白の騎士団団長「ええ、徒歩でも2~3刻も掛からずに抜けることが出来ます」


僕「幅は?」


白の騎士団団長「そこそこの広さがありますね。馬車がすれ違う程度には」


僕「有力領主の土地に入るにはここを通った方が早い?」


白の騎士団団長「早いですね。迂回だと一時(約2時間)は掛かります」


僕「じゃあここを通りますね」


赤の騎士団団長「通るな。確実に」


僕「では回りこんでここで待ち受けましょう」


赤の騎士団団長「何?」



僕は地図を指しながら説明する。


国王軍は渓谷に掛かるまでまだ時間はかかりそうである。

その間に両騎士団には回りこんで渓谷の出口に布陣してもらう。

そうして国王軍が渓谷に半ば入った辺りで僕達が国王軍の最後尾に奇襲を掛けるので、出口側から出てきた国王軍を両騎士団で襲ってください。



赤の騎士団団長「両騎士団が出口に行くよりは、分かれて挟んだほうがよいのでは?」


僕「いえ、確実を来たして行くには出口に多く配置するべきです」


赤の騎士団団長「どういうことだ?」



今の国王軍は予想しなかった大敗で士気が下がっている。

そんな状況では渓谷を抜けたら自分達の勢力圏だという事で気も緩みだすだろう。

そこに背後から敵が迫れば恐怖で「渓谷を抜ければ安全」という幻想に向かって我先にと入って行くことが予想される。

その恐怖の一押しには人数はそれ程必要ではない。



僕「精神的に弱っているその恐怖の一押しをするのにはそれ程の人数は必要ありません」


赤の騎士団団長「確かに」


僕「本当に怖いのは出口です。相手は死に死に物狂いで出てきますので」


白の騎士団団長「それでも渓谷に押し入るには少なく無いか?」


僕「すぐには渓谷内の敵には突入しません」


赤の騎士団団長「何?」


僕「狭い渓谷内は逃げ惑う敵で阿鼻叫喚でしょ。危険ですので相手の最後尾がわかる程度の距離を保ち進入します」


白の騎士団団長「それで?」


僕「敵が渓谷を抜けたら弓で攻撃してください」


赤の騎士団団長「それ程多くの弓は持ってきてないが」


僕「構いません。出口の敵を弓で射って出口を封鎖してください。そうすれば渓谷内で足が止まるでしょう」


赤の騎士団団長「なるほどな」


白の騎士団団長「中々辛辣な手を思いつきますね」


僕「そうですか?『獲物を前に舌なめずりは三流のすることだ』ってとある人が言ってました。その通りだと思います」



「手加減する余裕も無いですしね」と言う僕に両騎士団団長が頷く。



僕「そこを今度は僕達が背後から弓を射ってさらに混乱させます。その後に降伏を勧告します」


白の騎士団団長「今の状態で捕虜を取っても困るだけでは?」


僕「捕虜にしませんよ?大多数は武装解除の後に逃がします」


赤の騎士団団長「なに?」大多数という事は、領主などだけ捕まえるのか」


僕「正確には領主と領主の正規兵の指揮官クラスですね」


白の騎士団団長「それでも500近い人数になるのではないか?」


僕「そうですか。それは多いですね」


赤の騎士団団長「なら領主だけに抑えればよいのではないか?」


僕「出来るだけ兵がまとまる可能性を下げたいんですよね」


白の騎士団団長「いっその事全部斬るかい?」


僕「それが楽でいいんですが」



両騎士団団長が黙る。



僕「戦後、民衆を味方につけるにはちゃんとした処刑でないとダメだと思うんですよね。姫も望まないでしょうし」


赤の騎士団団長「ならどうする?」


僕「いっその事、全部の敵を渓谷に封じ込めましょうか」



渓谷は出入り口を塞げば逃げ道の無い牢獄になる。

武装解除し武器を取り上げた後に領主と指揮官は騎士団が身柄確保。

他の兵士達は渓谷内に監禁する。



僕「ここなら半日くらいで大砦から後発隊が来るでしょう。来たら領主達を受け渡して補給物資を受けて王都へ行きましょう」



これなら残存兵が王都に逃げ込むのを防ぐことが出来る。

すぐに両騎士団は敵に悟られないように迂回しながら目的地に向かった。






――――――――――






本隊は敵から少し離れた場所を進み、少数で敵の背後を追尾する。

やっと渓谷が見えてきた。

あそこを通過せずに回り込まれると作戦は失敗するのだが、どうやら通過しそうで一安心である。



領主息子「そろそろ行くか?」


僕「いえ、もう少し待ちましょう」


領主息子「何故?」


僕「渓谷にある程度入らないと、反撃される恐れが高くなります」


領主息子「なるほど」


僕「ある程度入ったら突撃します。当初の作戦目的は渓谷に敵を押し込める事です。深追いに注意を」



そう言い敵を見る。

まだこちらには気が付いていない。

どの兵士も疲労困憊という感じで俯き加減にたまに進んでは立ち止まるを繰り返していた。

「そろそろ―」そう告げたときに敵兵の一人が何気なくこちらを見ようとするのが見えた。

それを察して「突撃!」と叫ぶと敵の集団に襲い掛かった。



大声を張り上げ半包囲状態で敵に牙をむく。

2000の兵が扇状に突撃してくるのだ。

本来そのような事をすれば厚みが減りすぐに包囲を突破されてしまうが、相手は士気が下がり放心している所への襲撃で正常な判断も出来ない。



魔王『まあ、元々正常な判断が出来ていないようだったがな』



我先にと渓谷へ逃げ込もうとする敵兵を背後から斬りつける。

反撃しようとするものなど殆ど居ない。

一方的な虐殺の後に敵が渓谷に逃げ込んだのを確認し停止の号令を掛ける。


隊列を組みなおす。

前から兵士隊長、僕、領主息子、美女さんの部隊の順に各500で隊列を組む。



領主息子「是非、我を先発隊に!」



誰が先発になろうが作戦通りに動くのであれば問題は無い。

唯一あるとすれば敵に仕掛けるタイミングを間違えると大打撃を受けかねないという事くらいだが、それも敵が戻ってこようとするタイミングでいいのでさほど難しくない。


だが―と考える。

先日の夜襲の際の領主息子を思い出すと、任せるのには2の足を踏む。

状況判断が出来ないわけじゃないが、若干、目の前の事に囚われてる感がある。



領主息子「是非!」


僕「…作戦のタイミングを間違えるとこちらが崩れる可能性が高いですよ」


領主息子「理解している」


僕「何があっても敵がこっちに来るまで手を出したらダメですよ?」



頷く領主息子に再度念を押し任せる。



美女さん「大丈夫でしょうか?」


僕「大丈夫だと信じたいです。ただ用心はしておきましょう」



領主息子の部隊が渓谷にゆっくり侵入していく。

渓谷の入り口を僕の部隊を中心に左右に美女さんと兵士隊長の部隊で包囲する。

後は結果を待つだけだ。



程なくして渓谷から伝令が飛んでくる。

確認すると領主息子の軍勢が敵と交戦を始めたそうだ、



僕「交戦?どういうことだ?」



聞くと領主息子は予定通り敵に近づき過ぎないように渓谷に入って行ったそうだ。

そうして駅軍の最後尾の動向を見張っていたらしいが、その内に敵兵が同士討ちを始めたらしく、それを見ていた領主息子は攻撃を始めたらしい。


美女さんに伝令を送り状況の説明と内部への突入を命じた。

兵士隊長にも状況を知らせる伝令を走らせる。

すぐに美女さんの部隊がいくのを見やってため息をついた。





兵の集団が飛び出してくる。領主息子の部隊だ。

やはりと言うか何と言うか、かなりの被害が出たようだ。

すぐにこちらに来た領主息子は悔しそうに「申し訳ない」と一言いう。

傷だらけの姿が惨状を物語っている。

ざっと見る限りでは深い傷は無い様だが後方で手当てを受けるように指示する。




美女さんの部隊が迫り来る敵を受けながら渓谷から出てきた。

後退する美女さんの部隊が左右に分かれた所に僕と兵士隊長の兵が弓を降らせる。

敵が怯んだところに兵士隊長の部隊が突っ込み、程度敵と交戦するとすぐに離脱した。

そこに僕の部隊と美女さんの部隊が弓を射かけ僕の部隊が突撃し、兵士隊長と同じくすぐに離脱し敵兵と距離を取る。

その攻撃は敵の勢いを削いだがすぐに渓谷から飛び出してきた。



僕「無理に当たる必要は無い!」



そういい向かってくる敵に当たる。

正面から受けずに部隊を少し左に寄せて敵の退路を作る。

そこに向かって逃走していく敵を見ながら向かってくる敵だけを倒す。


数刻で敵が方々へ逃走していく。

それを確認した後、すぐに兵を集め被害状況を確認する。


僕と兵士隊長の部隊はそれぞれ合わせて十数名の犠牲者で済んだ。

美女さんの部隊は領主息子を逃がした後に敵の猛撃を防ぎながら渓谷を撤退したために20名近い被害が出た。

そして領主息子の部隊である。

敵に突っ込みすぎたようで一時は囲まれてしまったようだ。

80名近い死者とそれに倍する重傷者を出した。


両騎士団が渓谷を抜けて合流した。

敵が居なくなったのでおかしいと感じたようだ。

状況を説明する。



赤の騎士団団長「何故計画を守らずに突っ込んだのだ?」


領主息子「敵が混乱で同士討ちを始めたので…」


赤の騎士団団長「それで好機だと思ったのか?タイミングが大事だと言われなかったか?」


領主息子「言われておりました」


赤の騎士団団長「それなのに突っ込んだと?」


領主息子「…はい」


赤の騎士団団長「その結果、敵を逃し味方に損害を与えたのか」



悔しさに震える領主息子から視線を外した赤の騎士団団長が今度の方針を聞いてくる。



赤の騎士団団長「どうする?」


白の騎士団団長「捕虜はいないし、先に進みますか?」


僕「ここは一旦戻りましょう」


赤の騎士団団長「何?」


僕「当初の目的では王都まで行く予定でしたが、状況がかわりました」


白の騎士団団長「状況ですか」


僕「大砦から後発部隊が向かってきていると思います」


白の騎士団団長「そうですね」


僕「本来ならそれを前線で待てばいいのですが、先程多くの敵を取り逃がしました」


赤の騎士団団長「それが補給部隊を襲うと?」


僕「可能性の話ですが」


白の騎士団団長「しかし補給部隊とはいえ護衛の兵もついてますが?」


僕「そうなんでしょうが、今回は急遽出撃したので準備が整ってません。僕達に出来るだけ早く物資を届ける為に随時、出発している状態です。そうなると一隊毎の人数が少ない可能性が高いですね」


白の騎士団団長「確かに」


僕「補給部隊の安全の確保もありますが、敗走する国王軍を一応は壊滅させました。ここは一度大砦に戻ってしっかりと攻城戦の準備をして出たほうが、王都攻略が少しは有利に運べるでしょう」


赤の騎士団団長「そうすると1日から2日程王都へ行くのが遅れるが?」


僕「今更遅れても王都の戦力が大幅に増える事は無いと思います。逆にこちらに降る領主等出てくるのでは無いかと」


白の騎士団団長「確かに、国王軍が一方的にやられて残るは王都のみですしね」


赤の騎士団団長「領主息子の件はどうする?」



領主息子は静かに話を聴いていた。



僕「そうですね。翁に委ねましょう。翁ならまさか命までは取らないでしょう」


白の騎士団団長「命令違反と独断専行、それによる危機存亡と」


赤の騎士団団長「その場の現場指揮官による採決で死罪になってもおかしくないな」



皆の言葉に領主息子が反応した。

そこまでとは考えてなかったのかもしれない。



赤の騎士団団長「軍隊における命令違反はそれ程重いものだとやっと気がついたのか?」


領主息子「状況により判断するのはいけないのですか?」


赤の騎士団団長「状況判断を読み間違えて勝手に行動したのがいけないと言っている」


領主息子「それは…今回は結果的にそうなったのであって、状況的に判断は間違ってなかったと思います」


赤の騎士団団長「そんなこともわからない愚か者なのか!!」



領主息子の言葉に赤の騎士団団長が叫ぶ。



赤の騎士団団長「誰の目から見てもこの結果になる事は予想できるだろう!」


白の騎士団団長「そうだね。だからこそ最初から作戦を組んでいたんだし」


領主息子「なぜそう言えるのですか!」


白の騎士団団長「まず立地。両脇を渓谷に囲まれて逃げ場が無い空間である事」


赤の騎士団団長「そこを襲われたら死に物狂いで逃げようとするに決まっている。しかも片方の出口は我々両騎士団が抑えているのだ。暴発する方は反対側に決まっている」


領主息子「では作戦通りにしても同じ結果だったのでは無いですか!」



赤の騎士団団長が「起きなかった事について言うのも馬鹿馬鹿しいが」とため息をついて



赤の騎士団団長「暴発が予想されたからこそ近づかずに追撃し、敵が戻る気配を感じたら弓を撃てと言っていたのだ!」


白の騎士団団長「そうすれば敵との距離も保てるし「相手に近づく前に殺される」という事実から気力も削げるからね。そこに投降を呼びかける手はずだったんだよ」


赤の騎士団団長「どちらが被害が少ないか想像できるか?」



無言で俯く領主息子。



赤の騎士団団長「若の作戦に誰も異を唱えなかったのは、それが効果的で味方の損害も少ないと予想されたからだ」



「他に言いたい事があれば大砦で聞こう」そう言うと赤の騎士団団長は「一時的に領主息子の指揮権剥奪が必要でしょう」と僕に言う。

僕は頷いて領主息子の軍勢を美女さんの指揮下に置く事と、領主息子も美女さんの下に付く事を伝えた。



僕「では戻りましょう。今から戻れば夜中には大砦に戻れるでしょうから」


魔王『今回の領主息子の独断は今までの戦果が状況が生んだのかもしれないな』


―どういう事?


魔王『勝ちすぎなのだ。小砦も、大砦も、防衛線も』


―勝ちすぎ…


魔王『本来ならもっと苦労している戦いばかりだ。小砦では騎士団の攻撃は無かった。大砦は内通者が門を開けた。防衛線は相手が戦を知らない馬鹿だった』


―その勝ちすぎて気が緩んでいると?


魔王『緩んでいると言うよりは相手を安く見すぎているな』


―その結果が無謀な独断専行


魔王『逆にこの程度で済んでよかったとも言えるな』


―もっと酷い状況も予想された?


魔王『それこそ大きな戦で全軍が崩れるくらいの事はあったかもな』


―そうなると、この件を気を引き締める事に利用するしかないね


魔王『処刑するか?』


―それは…したくない


魔王『出来ないのではなく?』


―そうだね。出来ないと言ってもいいかもしれない。命は助けたい。


魔王『甘いな。甘すぎる。いつか痛い目を見るぞ?』


―そうかもしれないね


魔王『かもではない。確実だ』


―出来るだけ気をつけるよ。とりあえずはこの件については翁に任せるよ。


魔王『責任転嫁では無いか?』


―そう言われても仕方ないけど、でもここで斬るのは良くない気がする


魔王『どういうことだ?』


―旨くいえない。ただ斬るのが嫌なだけかもしれないしね


魔王『ふむ―』



それっきり魔王は黙ってしまった。

僕はそっとため息をついて空を仰いだ。

勝ち戦が続いているにも関わらず、気分は敗戦者だった。

誤字修正

確実にたして → 確実を来たして

杯背後から → 背後から

員人数 → 人数

赤の医師団 → 赤の騎士団

王都方面)だりうな → 王都方面)だろうな

すぐに美女さんの部隊いくのを → すぐに美女さんの部隊がいくのを

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