第2話 首輪
小刻みに震える女性――小柄だし少女と言うべき?を目の前に僕は途方にくれていた。
僕「怪我は無い?」
僕の言葉に少女が体をビクリと震わせる。
どうやら急に話しかけられて驚いているようだ。
―困ったな。
こういう時に掛ける言葉なんかわかないよ。
魔王『女へ掛ける言葉一つ知らないのか?』
―うるさいな。
魔王『仕方ない。我の言うとおりに言うが良かろう』
自信満々の魔王の言葉を信じ、言われた通りに言う。
僕(魔王)「『賊は退治した。もう心配する事は無い』」
その言葉に少女が恐る恐ると言った感じでこちらを見る。
―いい感じだよ魔王!
僕(魔王)「『さぁ涙を拭くがよい。愛い奴よ。我が可愛がってやろう。苦しゅうない、近k――』おかしいから!」
僕の(傍から見たら)一人ツッコミに少女が再度、ビクッと体を揺らす。
また警戒心を抱かせてしまった。
まだ魔王は何か言ってるけど、役に立たないのが分かったので放置。
地味にうるさい。
どうしようか困っていたら、野盗を縛り上げた美人さんが戻ってきたので少女の事は任せ、僕は野盗の見張りに付く事にする。
生き残りは、僕が最初にナイフを刺したAと、美人さんが倒した5人の計6人か。
全員生捕りとか、さすが美人さん。
賊は全員、気絶させられて縛られてるので見張る必要が在るのかは疑問だけど、何もしないよりはマシだよね。
少しして美人さんに呼ばれる。
どうやら少女が落ち着いたらしい。
焚き火の光の中に、美人さんと毛布にくるまれた少女が居る。
毛布なんてどこにあったんだろう?と思ってたら、どうやら馬車の中にあったのを拝借しているらしい。
僕「落ち着いた?」
少女(コクリ)
僕の問いに一瞬、体を膠着させながらも小さく頷く。
その少女の姿に「あれ?」と思う。
焚き火の明かりに照らされる少女の後ろに、羽のようなものが見えるのだ。
魔王『ほう。妖精族の者か』
僕「妖精族…?」
妖精少女(ビクッ)
魔王『妖精族というのは精霊の森に住む種族で、滅多に外に出てくることは無い珍しい種族だ』
何でそんな種族がこんな所にいるんだ?
魔王『大方、人間にでも捕らえられたのであろう」
よく見ると、首に大きな首輪のようなものが付けられている。
妖精少女の体にサイズが合っていない。
魔王『封輪か』
―封輪?
魔王『あの首輪を付けられたものは魔力を封じられる』
美人さん「どうやら、彼女は住んでいた森の付近で囚われ、無理やり連れてこられたそうです」
どういうことなの?と美人さんに目を向けると、さっきの短い時間である程度、美人さんが話を聞いていてくれたらしい。
美人さん優秀すぎる!
―べ、別にその間の会話が面倒だったわけじゃ無いんだからね!
――――――――――
・名前は妖精少女
・妖精の森付近に居るところを人間に捕らえられてしまった。
・妖精の場所は良く分からない(外に出ることが無いので地理は理解してない)
・捕まって1ヶ月くらい(眠らされてたりしたので正確な日数は不明)
・どこに連れて行かれるかは不明。
・一緒に居た人たちは私を捉えた人たちの仲間(奴隷商人の一味らしい)
全部で7人(商人が1人、御者が1人、護衛が5人)
・皆の所に帰りたい
――――――――――
奴隷商人の一味は全滅していた。
少女に関してどうするかだけど…
魔王『ちょうどいい。珍しいから買おう』
―うん。だまれ。
僕「この子を家まで送って上げようと思うんだけど」
美人さん「わかりました」笑顔で即答
妖精少女(キョトン)
何を言われたのか分からなかった妖精少女は、僕の言ってる意味を理解し、驚きの表情を浮かべる。
僕「とりあえず封魔の首輪だけど、どうにかならないかな?」
美人さん「そうですね。本来なら鍵になるものがあるはずなんですが、奴隷商人はそれらしいものを持って無いようなので、鍵自体は本来の目的地にあるのかもしれません」
鍵が見当たらないのは困ったな。
魔王『なんでわざわざ外すんだ』
―煩いよ、魔王。
美人さん「無理に外すのは危険ですね」
首輪自体に魔力が込められており、正規の鍵以外で外そうとするのは、装着者の命に関わるらしい。
魔王『このまま飼えばいいではないか』
―だから少し黙ってね。
サイズの合わない首輪を無理やりつけられているその姿は、見ていて気持ちいいものじゃないので外してあげたいんだけどなぁ。
魔王『別に鍵なんて無くても外すことは可能だ』
―もういいかげんに…え?何だって??何て言ったの魔王!
魔王『我は煩いのであろう。黙っておるから好きにするよい』
―ごめんなさい。もう煩いなんて(あまり)言わないから機嫌を直して!
魔王『……』
―本当にごめんなさい。魔王様の力を見誤っておりました。
魔王『……』チラリ
―さすが魔王様、博識!僕らに出来ないことを平然としてしまう!!
魔王『……』ニヤリ
―そこにしびれる!あこがれる!!
魔王『……』テレ
―優しい魔王様。どうか無知な私めに、魔王様のすばらしい英知をお与えくださいませ!!
魔王『…仕方がないな』ニヤニヤ
―この魔王ちょろすぎ!!!
魔王『何かいったか?』ギロリ
―イエイエ。メッソウモアリマセン。
「で、一体そうすればいいの?」と無理やり話を逸らす僕。
魔王『簡単な事。我の魔力を持って、首輪の魔力を相殺してしまえばよかろう』
―でも僕、魔法使えないよ?
魔王『魔法は関係ない。直接首輪に触れて魔力を注入するだけで無効化できる』
おお!
そんな事が出来るなんて、魔力とはとても便利なものなんだね。
魔王『はずだ』
―確信じゃないのかよ!
魔王『お主がちゃんと魔力を出せるか分からぬからな。我がするなら確実なんだが』
―な、なるほどね。
美人さんと妖精少女に「首輪は何とかなりそうだ」と伝えると、妖精少女が伏せていた目を僕に向けた。(可愛い!)
ただ、僕自身もやったことが無いので、ぶっつけ本番じゃなく少し練習する時間が欲しい、という事も伝える。
そして「妖精少女を元に居た場所に送っていく予定だ」と言うと妖精少女は「お願いします」と小さな声で言ってきた。(本当に可愛い!)
――――――――――
縛り上げていた野盗の一人を起こして、尋問する。
妖精少女は馬車に居てもらっている。
いたいけな少女に、尋問風景など見せるべきじゃないだろう。
尋問は美女さんがする事になった。
―僕は尋問なんて出来ないからね
魔王『へたれめ』
―その通りだけど、煩いよ!
――――――――――
野盗E「うぅ…」
美女さん「目が覚めましたか?」ニコニコ
野盗E「一体何が…はっ」
野盗Eは縛り上げられているのを理解し。、声を荒げた。
野盗E「一体どういうつもりだ!」
美女さん「私の質問だけに答えてください」ニコニコ
野盗E「俺たちを誰だと思ってるんだ!こんなことして、タダで済むと思うなよ!!」
美女さん「一体誰なんですかね?何が起こるんでしょう?」ニコニコ
顎に手を当て、ちょこんと首を傾げる美女さん。
野盗Eは「どうだ!」とばかりに自分達の名前を言うが、そんな名前を僕たちが知るわけも無く、美人さんは笑顔のまま。
美女さん「で、その由緒正しき野盗さんは、全部で何人くらい居るんですか?」ニコニコ
野盗E「聞いて驚け。全部で100人を超す大盗賊団だ!」
美女さん「あらあら」ニコニコ
野盗E「さっさとこの縄を解かないと、俺らの仲間が容赦しないぜ!」
美女さん「そうなんですか~」ニコニコ
野盗E「へっ今更怖気付いても遅いからな」
美女さん「で、本当の所は何人なんですか?」ニコニコ
野盗E「だから100人を超す…」
美女さん「別に本当の事を言わなくてもいいですよ?いずれ、自分から言いたくて仕方なくなると思いますし」ニコニコ
野盗E「へ?」
美女さん「別に貴方に聞かなくても、他にも聞く相手はまだ居ますから」ニコニコ
その後の美女さんの拷問については、多くは語るまい。
ただその結果、野盗E・F・Gが精神的に少し陽気になった。
―陽気ナノハイイコオダヨネ
魔王が『美女だけは怒らせないようにしよう』と呟いたのに、僕も心の中で盛大に頷いた。
――――――――――
美女さんの「誠意溢れる説得」で聞き出した内容をまとめる。
・本当の人数は19人(ここに居る人数を抜いたら残り9人)
・近くの山の中腹に拠点がある
・2ヶ月ほど前に、別の土地からここに流れてきた
・いつもは、この街道を通る商隊や付近の村を襲っている
・別働隊の9人は近くの村を襲っている
・親分は妖精少女の髪を掴んでいた男(最初に倒しちゃったよ)
――――――――――
それだけ聞くと、美女さんは野盗に当身を入れて気絶させてしまう。
―笑顔がむっちゃくちゃ怖い。
奴隷商人の馬車は、馬も無事で使えるようなので使わせてもらう事にする。
人が乗る箱部分と、その後ろに奴隷を入れるだろう牢屋部分が連結していたので、生き残った野盗を縛ったまま後ろの牢屋部分に押し込む。
少し考えて一応、奴隷商人と護衛の死体も一緒に牢屋に突っ込んだ。
―もしかしたら商人の死体から何か分かって、他の奴隷が助かったりするかもしれないからかな?
とか思って美女さんに聞いたら「大丈夫でしょうが、私たちが商隊を襲ったと勘違いされるのを防ぐためです」と言われた。
前の箱に僕と妖精少女が乗り込み、美女さんが御者をする事になった。
僕たちが乗り込んで座ると、馬車はゆっくりと動き出した。
――――――――――
夜が開けた。
日が昇って少し経って、騎乗した兵士10人に出会う。
騎乗した兵士達に話を聞くと、彼らは野盗を討伐する為にきた領主の兵だと答えた。
丁度よかったので、馬車の後ろの牢屋の話をすると、死体と野盗は引き受けてくれた。
妖精少女については、奴隷商人に連れられていた奴隷の少女で、元の村が僕たちの向かう方向と一緒なのでついでに送る旨を伝える。
当初は「自分達が」と言っていた騎乗した兵士達も、最終的には美女さんの笑顔の前に「お願いします」と言っていた。
―美女さんの笑顔、最強ですね。
まぁ、妖精少女が僕たちに懐いていたのもあるかもね。(主に美女さんにだけど)
妖精少女の羽は、毛布に包まって隠していたので大丈夫。
恐怖に今だ怯えた少女を演出(殆どその通りだけど)
褒美も出るし、出来ればこのまま館まで野盗と死体を運んで貰えないか、と言われ美女さんが快く了承。
「妖精少女が居るのに、大丈夫なんですか?」と後で聞いたら「あそこで断ると、不振に思われますから」と笑顔で言われた。
納得。
野盗と戦った場所、アジトの場所、残りの野党の人数、近隣の村に被害が出ている可能性を伝える。
その話を聞いた騎乗した兵達9人は、残党狩りを行うために、馬を駆ってあっという間に見えなくなった。
僕たちは後に残った一人の兵士と共に領主の館へ向う事となった。
――――――――――
昼前に領主の館に到着。
そのまま、兵士に案内されて領主に面会する。
領主「野盗討伐に協力してくれたらしいな。感謝する」
―50代のダンディーなおじ様きたこれ!
領主って、もっとぼってりと不健康に太っていて、無駄に威張ってると思ってた。
魔王『まあそういう輩は腐るほど居るがな』
―やぱりいるんだ!
領主には、僕はとある地方貴族の三男であり、美女さんはその従者で、見聞を広げるために冒険者をしながら旅をしていると伝えた。
領主の言葉に、美女さんが如才がない対応をしている。
―いいのかな、任せきりで。
魔王『人間界の事は、美女に任せておけば間違いなかろう』
―意外と信頼してるんだね。
魔王『……』
―あれ?照れちゃってるの?ニヤニヤ
魔王は『煩い』と一言いったきり、黙り込んでしまった。
そんなやり取りをしている間にも、美女さんと領主の話は続く。
領主「褒美は何が良い?」
美女さん「頂けるのでしたら、奴隷商人の馬車を」
領主「あれでいいのか?」
美女さん「はい。旅に馬車があると便利ですので」
領主「ふむ」
美女さん「あと、出来ることならばもう一つお願いしたい事が」
領主「それは?」
美女さん「奴隷の少女は、私たちが村まで送らせて頂きたいです」
領主「私の方でも送り届けるつもりだったのだが?」
美女さん「奴隷の少女も私に懐いておりますし、ちょうど彼女の村の方面に向かいますので」
妖精少女が、美女さんを不安そうに見上げてギュッと服を掴む(可愛い!)
それを優しい微笑で見つめる美女さん。
魔王『綺麗だが、薄ら寒いモノを感じるのは何故だろうな?』
そうだね、と心で頷いた瞬間に美女さんがチラッとこちらを見たのと目が合った。
―全然何も思ってませんよええとても素晴らしい笑顔に僕は神に祈りを捧げる勢いで――
と良く分からない言い訳を、心の中で一心に唱え続ける。
―こ、心が読めるの?美女さん!
魔王『ナニモイッテマセンヨー』遠い目
魔王の声は聞こえない筈なのに、同じく言い訳をする魔王。
その姿勢を「弱い」とは言えない。
領主「ふむ。確かに懐いているようだな」
妖精少女と美女さんを見て呟く。
領主「よし分かった。その少女の事はそなたらに任せよう」
美女さん「ありがとうございます」
領主「他に何か望みはあるか?」
そういう領主に、美女さんは僕を見つめる。
―ああそか。
僕「特にありません」
一応、僕が主人なのか。
魔王『一応じゃなく、主人なんだがな』
全然そんな気にならないね。
その後、領主の「今日は泊まっていって欲しい」という申し出に「期日の迫った届け物があるので」と辞退。
「では風呂は無理でも、お湯を沸かすので、身を清めては」というのには、美女さんが笑顔で「ありがとうございます」と答えた。
1刻後。
スッキリした僕が部屋で待ってると、美女さんと妖精少女が戻ってきた。
妖精少女の衣服は、領主さんが「子供用は無いが詰めて使ってくれ」と幾つかの服をくれたので、それを美女さんが簡易で詰めたのを着ている。
ゆったりとした服のおかげで、羽を隠す事が出来ているようだ。
なんていうのかな。
―身を清めて着替えた妖精少女は、本当に妖精のように可愛い!(妖精だけど!)
魔王『ホウ、これは将来有望な逸材だな』
―将来とかじゃなく、今でも十分な逸材だからね!
その後、簡単な食事をご馳走になった後、領主に挨拶をし館を後にした。
1話で魔王で魔族の後継者争いがどうこう言う話が出ましたが当分は関わって来ません。そもそもそこまで話が続くかどうかも分かりません。
とりあえず言えることは「可愛い!」
12/7/6修正 句読点・行間・一部文章を変更。
誤字修正
ナイフを指した → ナイフを刺した
持って内容なので → 無いようなので
陽気ナナノハイイコオダヨネ → 陽気ナノハイイコオダヨネ
要請のように可愛い → 妖精のように可愛い