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(仮)  作者: イオン水
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第18話 夜襲

翌日の夕方。

大砦の周りには国王軍がひしめき今にも怒号を上げて襲い掛からん状態だった。




なんて事は一切無かった。





本来なら夕方には大砦に到着するはずの国王派領主軍はまだ姿を見せてなかった。


何かの作戦で到着を遅らせているのかと探らせた。

もしかしたらまだ援軍が来るのかもしれない。

別働隊が回り込むのを待っているのかもしれない。


斥候を四方に飛ばし色々確認したが、どうやらただ単に進軍速度が遅いだけのようだ。

もしかしたらこちらを焦らして不安感や焦燥感を煽る為なのかもしれない。



―逆にそうであってくれ!



相手の意味の分からなさに良く分からない事を願う。


斥候から国王軍の到着が朝以降になるだろうという報告が入った。



爺「なんというか―」


翁「やはり奴らは無能じゃな」


僕「え?」


翁「時間を空ければ空けるほど程、こちらが準備を進めるというのが理解できておらん」


僕「何かの作戦とかでは?」


騎士隊長「その可能性は無いと思われます」


翁「ただの馬鹿なのじゃ。どうせ有力貴族の誰かが疲れただの何だの言って遅らせているのじゃろう」


僕「それなら一部の兵だけ置いて他は先に行かせるべきでは?」


翁「そこら辺が無能の極みなんじゃ」


爺「怖くて10000の軍勢を分けることが出来ないんでしょう」


魔王『そんな俗物を相手にしなくてはならんのか』


王子「有力貴族は国内でも屈指の兵数を持っているが戦闘自体はした事が無いものばかりです」


翁「だから戦の何たるかを知らん。逆に言えばこそが我々の付け入る隙となろう」




防衛の準備は夜通し行われたお陰でかなり充実した。

これも国王軍が夕方には現れると思われていたからである。


それがまだ来ない。


兵士の緊張感が肩透かしによって若干緩んでいる。



僕「もしかしてコレを狙ったとか!」


翁「現実をみよ。ただ遅いだけじゃ」


僕「ソウデスカ」


爺「でも兵士の緊張感が切れてしまったのはまずいですね」


王子「どうにか士気を上げる事が出来たらいいんですが…」



うむむ、と皆が考え込む。



僕「姫と美女さんと妖精少女が部署廻りしながら『頑張って』って言ったら上がりすぎてヤバイ事になりそう」



王子・爺・翁・騎士隊長・現領主「「「「「それです(じゃ)!」」」」」



僕の冗談で呟いた言葉に一斉に反応する。



―マジですか?


魔王『いや、士気を上げる策としては最善だろう』



すぐに姫と美女さんと妖精少女へ行ってくれる様にお願いをした。

姫は軍隊の指揮を上げる必要があると聞かされ2つ返事で了解した。

美女さんは笑顔で「それくらいなら構いませんよ」と答え、妖精少女は「お兄ちゃんが一緒なら」と頷いてくれた(可愛い!)



魔王『王子にも行かせろ』


―王子?


魔王『少なからず女の兵士も居る。その為だ』


―なるほど



僕はすぐにその事を伝えると王子も一瞬困惑したが納得した。







部隊への激励は功を奏している。

というよりは上がり具合が過剰すぎて怖い。



幾つか部署を回って兵士達の上がり具合を見ると、何となく分類が見えてきた。

美女さんと妖精少女のファンの色の違いが凄すぎて際立っている。

多くは語らない。



さらに幾つか回って疑問に感じる。

兵士達が腕に付けている紐が気になる。

最初は気にも留めていなかったが、途中で気になったものの元の部隊の目印か何かだと思っていた。

だが殆どの兵が何かしらの色を付けている。

しかも数種類を付けている人も居る。

謎だ。



幾つか回った時に気が付いた。

色は全部で5種類のようだ。

もしかしたらまだあるのかも知れないが、今のところは見てない。



一時半(約3時間)程たって半分ほど回った。

残り半分である。



とある女性部隊で謎が深まった。

女性兵士と話をしていた所に王子が近づいてきた。

王子の笑顔にテンションが上がる水色をつけた女性兵士達。



王子「もうしわけありませんが、そろそろ次へ行かないといけません」


僕「もうそんな時間ですか」



女性兵士達に別れの挨拶をしその場を去ろうとして王子が木材の破片に足を取られる。

とっさに腕を掴んで倒れるのを防ぐ。



僕「大丈夫ですか?」


王子「ありがとうございました」


女性兵士水・女性兵士黒・女性兵士水黒「「「「「「―――――――!!」」」」」」



ものすごい超音波が飛んできて驚いて後ろを振り返ると女性兵士達が発狂してた。

なんか怖い。


と、良く分からないテンションのまま女性兵士水黒の一人が女性兵士水に黒い紐を手渡し、女性兵士水がそれを受け取り腕につけて女性兵士水黒にクラスチェンジした。

握手を交わす女性兵士水黒と新たに水黒になった女性兵士。

「水黒?黒水?」などとどちらでもいいような良く分からない事を話し合っている。



―何の儀式なの?というかいつも紐を持って歩いてるの!?



他の色の紐をつけていた女性兵士達も次々と水色と黒色の紐を受け取って付けている。

周りの部隊でも同じようなやり取りがなされている。

謎は深まる。




次の部隊に行く為に部隊を離れるときに注意深く兵士を見ていたら、どこの部隊でも激励の後に新たな紐の交換会が行われていた。

あれは兵士間のコミュニケーション手段なのだろうか?

この世界の流儀はまだよくわからない。



とある部隊では男性全員が黒だった。

姫や美女さん、妖精少女の激励も物静かに聞いている。

今までと違い落ち着いた部隊だ。

王子が挨拶し僕も「頑張ってください」と言い終わった後に「はっ!!」と全員が一斉に敬礼した。

全員話終わったからと言っていきなりそういう事されると焦る。

正直ビックリした。



騎士隊長の部隊は全員が赤だった。

美女さんの挨拶に全員直立不動で聞いている。

ますます反応が信仰っぽくなてきた。





全ての部隊を回り終わった。

どこの部隊でもやはり紐の受け渡しと握手が行われていた。



気になるのは姫がいつの間にか黒の紐をしていた事だ。

どうしたのか聞いたら「女性兵士の部隊で貰いました」としどろもどろに答えた。

どういう意味か聞いたら物凄く目が泳いでいた。

「お守りみたいなものですよ」と美女さんがいい「そ、そうなんでう!」と姫が噛んでいた。



僕「お守りですか。どういう意味があるんですか?」


美女さん「紐によって違うようですよ」


僕「そうなんですか。僕も何かつけようかな」


姫「!」


僕「何色がいいかな。黒が一番付けやすい色かな」


美女さん「願掛けのような物ですから色で選ばず内容で選ぶべきかと」


僕「何色が何かわからないですから」


姫「も、桃色なんてどうでしょうかっ!」


僕「どういう意味があるんですか?」


姫「え、えっと―」


美女さん「幸運を呼ぶんです」


姫「そ、そうなんです」


僕「姫のつけてる黒は?」


姫「――っ!」


美女さん「大切な人の無事を祈る、ですよ」


僕「なるほど、じゃあ桃色でいいか。後で誰かに貰おう」


美女さん「どうぞ」



「なんで持ってるの?」と思ったら姫が貰った女性部隊で貰っていたらしい。

それを腕につける。ミサンガみたいだ。

美女さんは妖精少女に「私達は姫と同じ黒にしましょうか」といい、嬉しそうに頷く妖精少女に付けていた。

子狼の首にも巻いていたが、危なくないのだろうか?


姫が後ろを向いて小さくガッツポーズをしていた。

妖精少女と一緒がうれしいらしい。






その夜にいつもの面々で食事を取っていた時の事。



翁「若は桃色をつけているんですか」



翁が僕の腕の紐を見ていう。

隣で姫が「カチャ」と食器を鳴らす。めずらしい。



僕「ええ幸運の色だと聞いたので」


翁「ほう。幸運ですか」


僕「はい」


翁「黒は?」


僕「たしか、無事を祈る?」


美女さん「大事な人の無事を祈る、ですよ、若」


僕「それです」



翁は姫を見て「なるほどのう」と言った後は、別の事を話し出しこの話題には触れなかった。






――――――――――







翌日の日入にちにゅう初刻しょこく(17時頃)になって国王軍が現れた。

国王軍は大砦の横を流れる小さな川のあたりに集まると陣を引き出した。



爺「あんな所に陣を引くとは」


爺「おおかた水欲しさでしょうな」



場所としては悪くないが大砦から近すぎる。

自分達の数が圧倒的に多い事と大砦から弓が届かない距離という事を考慮しているらしいが、本来ならありえない距離である。



僕「舐められてますね」


翁「それもあるが、やはり馬鹿なのじゃろう」


僕「届きますね」


翁「届くな」


僕「夜にでもやりましょうか」


翁「今じゃなく夜とは人が悪い」



翁が「それがいい」と笑った。

すぐに主だったメンバーが呼ばれる。

国王軍の居場所を確認し投石機が届く距離なので夜中に打ち込むと言う話をする。



翁「夜なら敵も何が起こったかわかりにくく混乱するじゃろう」


僕「ついでに夜襲も掛けましょう」


騎士隊長「しかしそれはこの前、無謀という結論に至ったのでは?」


僕「この前と状況は変わりました。投石機の混乱に紛れれば十分可能だと思います」



一同が考え込む。



爺「しかし投石機で石が飛んでくる状態では味方も危ないのでは?」


僕「撃つ数を決めたらいいんですよ。各2発撃ったら突入等とね」


爺「ふむ」


僕「一撃離脱で離れたら砦に合図をし投石をまた始める、という感じで」



この方法なら投石機にやられる危険はある程度は危険は減る。



王子「確かに今のうちに出来るだけ削っておいた方がいいと思います」


翁「これで崩れてくれれば、万の兵が一夜でやられたという情報で我が方に乗り換えるヤツラも出てくるかも知れんな」



王子の「やりましょう」の一言で夜襲決行が決まった。







夜襲は僕と美女さんと領主息子、騎士団長が行く事になった。

兵は多すぎてもばれる可能性がある。

僕、美女さんと領主息子、兵士隊長の2組に分かれて各200名ずつ兵を率いる事になった。






夜中の間に小分けにして兵と大砦外に出る。

そのまま2手に分かれて国王派領主軍の左右に陣取る。


鶏鳴初刻けいめいしょこく(2時頃)、予定の時間に差し掛かる。

後は混乱し出したら突入するだけである。



じりじりと時間が過ぎるのを待つ。

見付からないように少し距離をあけて待機しているのでもしかしたら声が聞こえないかも?などと思っていたら「どん」という鈍い音と共に人の悲鳴が聞こえてきた。


それを合図に僕達は馬を駆る。

無言で馬を走らせ国王軍の陣に乗り込むと、そのまま声を出さずに手当たり次第に斬り倒しながら陣を進む。

人もテントもかがり火も。

何でもかんでも剣でなぎ払いながら無言で走り、そのまま国王軍の陣を通り抜け追いつかれないように遠くへ逃げる。



合流地点に向かうと領主息子の部隊は先に居た。

ドンという鈍い音が聞こえてくる。

どうやら投石を再開したようだ。


領主息子が再度の夜襲を提案してきた。

2回も来るとは思っていないはずで今なら混乱もしているので大打撃を与えるはずだ、と言うのが言い分である。


確かに理屈は分かるけど僕は否定した。



領主息子「なぜですか?」


僕「投石中で石が飛んでくる中に突っ込むのは危険です」


領主息子「大砦に伝令を送り止めてもらえばいい」


僕「伝令を送り戻ってくるのを待っている間に敵は撤退するよ」


領主息子「伝令を送ってすぐに出ればいいではないか!」


僕「それはタイミングが不確定すぎる」


領主息子「投石が止まったタイミングで行けばいい」


僕「それだけでは止まったのが夜襲の為なのかたまたまなのかが分からない」


領主息子「削れるうちに削らないと!」


僕「それは分かります」


領主息子「なら!」


僕「でももう遅いです」


領主息子「何と?」


僕「今から向かっても敵は移動してしまってますよ」


領主息子「何故分かるんです?」


僕「領主息子は岩が飛んでくる所にいつまでもいますか?」


領主息子「だからこそ急ぐのです」


僕「だから間に合いませんよ。もう投石も止まってますし」



そういう話をしている間に石の落ちる鈍い音がなくなっている。



領主息子「なぜ止まった?」


僕「暗闇で国王軍の撤退は分かりにくいですが、明日の篭城戦もあります。石を無駄撃ちしない為にちょっと早いかなくらいで止めたんでしょう」


領主息子「美女殿はどう思われる」


美女さん「若の意見に賛成です」



領主息子に無言で指名された兵士隊長も「同じです」と短く答えた。

その意見を聞いて「やはり自分はまだまだ思慮が足りないな」と言うと「わかりました。戻りましょう」と領主息子は笑顔で言って帰路についた。


夜襲メンバー総勢400名のうち未帰還者25名、負傷者14名。

一万の陣営に飛び込んでこの結果なら上場だと言えるだろう。

後は日が昇った後の相手の損害予測だけだ。






斥候から国王軍の現在の位置が伝えられる。

どうやらある程度大砦から離れたようだが未だに撤退せずに残っているようだ。


日が昇り国王軍の陣営後が見えてくる。

意外と陣営は天幕などが綺麗に残っていた。

確かに石が押しつぶした場所や夜襲で通り抜けたであろうあたりは無残な状況だが、それ以外の場所は天幕などが綺麗に残っている状態である。

どうやら投石と夜襲の混乱が恐怖を呼んで連鎖的に撤退していったようだ。


国王軍の場所を確認しすぐに兵を出して国王軍が置いていった補給物資をある程度大砦に運び込む。

本当は全部回収したいが国王軍が戻ってきては元も子もないのでもっていけない分は火を放つ。

これで国王軍の物資は大幅に減り短期決戦を挑むか撤退しか無くなるだろう。


陣営に残っていた死体から夜襲と投石で1000~2000くらいは死んだようだ。

国王軍の残りは多くて9000。

対する僕達は6500。

まだまだ厳しい状況は変わらない。






昼前に国王軍が来た。

昨日見たときより若干、みすぼらしく感じるのは昨日の夜襲のイメージの為だろうか。

一部の兵が陣営後の中を回っていたがすぐに国王軍本隊へと戻っていった。

もしかしたら置きっ放しの物資を期待していたのかもしれない。



すぐに国王軍から前進のラッパが聞こえていた。

やはり短期決戦しか無いという判断だろう。



翁「やはりすぐに来たか」


爺「諦めればいいものを」


翁「さすがに何もせずに逃げ帰るとまずいという頭が働いたのかの」


爺「頭に血が上ってるだけで無いといいが」



国王軍が隊列を組んで向かってくる。

こちらの矢が届くかどうかあたりで盾を掲げて一気に走ってくる。



翁「頭に血が上っていたようじゃ」



兵士隊長の「撃て!」の合図と主に矢と投石を撃ち始める。

矢は前に走る雑兵に降り注いだ。

しかし投石は雑兵を飛び越えて少し奥に落ちると敵を巻き込みながら小坂を転がって止まった。


どうやら国王派領主軍の正規兵の一部に当たったらしく明らかに距離を取り出した。

雑兵と正規兵の間が開く。




数刻がたった。

矢と投石で国王軍は未だに塀に近づけないでいる。



―このままなら行けるかもしれない!



誰もがそう思った瞬間に物見やぐらの兵が「敵影発見!」と叫ぶ。

仰ぎ見ると物見やぐらの兵が領主軍の方を指差していた。



「領主軍右後方より接近する部隊があります。数不明、1000以上はいる模様!」



ここに来ての敵への増援は大砦にいる者に大きな衝撃を与えた。

誤字修正

開ければ開ける程 → 空ければ空けるほど

こそが → そこが

部署周り → 部署廻り

気になたもの → 気になったもの

何かしろの色 → 何かしらの色

機能見たとき → 昨日見たとき

少し置くに落ちる → 少し奥に落ちる

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