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(仮)  作者: イオン水
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第16話 大砦攻防戦

「―みなさん、無事帰ってきてください」

姫の演説が終わった。

本来なら1万近い人物に肉声が届くはずは無いが、妖精少女が風の精霊にお願いをして声を遠くまで届けてくれているらしい。

各所で敬礼の合図が掛かり兵士が敬礼をする。


次に妖精少女が呼ばれる。

いつの間にか殆どの兵が「妖精族は幸運を運ぶ」と言う噂を信じている。



最初は翁の妖精少女の立場を守る為の粋な嘘だった。

次に姫と王子の無事は妖精少女と出会ったお陰だという噂がたった。

そこから小さな噂が聞こえて来るようになった。

「出陣前に妖精少女に会った斥候部隊が敵陣深くまで入り込んだにもにも関わらず損耗0で帰還した」

「翁の部隊が当初から妖精少女を熱烈に崇めているらしい」

「妖精少女を馬鹿にした部隊が部隊を維持出来ない状態になったらしい」

「妖精少女に『頑張って』と言われた部隊が赤や白の騎士団と何回も出会っても死者0で戦果を上げている」




最初の斥候はたまたまだと思う。

翁の部隊は妖精少女へと言うより美女さんへの信仰だと思うけどね。

妖精少女を馬鹿にした部隊は不和を警戒した翁に解散させられバラバラの部隊に配置されただけ。

最後のは僕達の部隊で、両騎士団とヤラセを行ってるだけです。ありがとうございました。


こういう偶然と勘違いとこじ付けが殆どの兵士が信じだしていた。

もちろんずっと姫と一緒にいる事や人見知りする性質などから人目に滅多に出ないのも噂に拍車を掛けているらしい。




台に上がった妖精少女は王女の後ろに隠れながら「…頑張って」と一言小さく言った。

その小さな声が風に乗って端まで届く。

その声を聞いた兵士達が号令も無く敬礼をしていく。



魔王『新たな宗教が生まれるかもしれないな』


―ありえそうだから怖いよね。




その後、王子の挨拶があり「出陣」の掛け声と共に先発隊から随時出発していく。

僕達は遊撃なのでいつ出発とかは無いが、とりあえず王子の部隊と一緒に行くことにした。

さすがに万を越える数になると出陣も一苦労である。


続々と出発する部隊を見ながら王子と会話していると姫と妖精少女が来た。

2人の足元を転がるように子狼も一緒にくる。

周りの兵が敬礼する。



姫「気をつけてくださいね」


王子「はい。大砦で会いましょう」



姫は僕の方を向く。



姫「ご武運を」


僕「ありがとうございます」


妖精少女「頑張って!」


僕「ありがとう。妖精少女も子狼と一緒に姫をお願いね」


妖精少女「うん!」



妖精少女の頭をなでて言うと笑顔で頷いた。

すると近くの部隊から「出陣!」と聞こえてきた。

そろそろ僕達も出る時間だ。



僕「では行ってきます」


姫「…どうかご無事で」


僕「はい、必ず無事に戻ってきます」



見送る姫と妖精少女に手を振り、僕達は小砦を後にした。






――――――――――






晡時正刻ほじせいこく(16時頃)、日が傾きだした頃に小高い丘に立つ大砦が視界の先に見える。

進軍を一度止めて隊列を組む。



反国王軍 総数約11000


大砦攻略 約10000

本隊、王子、騎士隊長、兵数約4000

右翼、翁、兵士隊長、兵数約3000

左翼、現領主、領主息子、兵数3000

遊撃、僕、美女さん、兵数約200



小砦待機

姫、爺、妖精少女、兵数約1000




対する国王軍は大砦に篭るつもりらしい。

斥候の話では赤と白の騎士団は首尾よく大砦を離れたようだ。




国王軍、総数約14200


大砦内 兵士計、約10000

黒の騎士団、兵数約4000(殆どが戦闘放棄予定)

国王派領主軍、兵数約6000


大砦外、兵士計、約4200

赤の騎士団、兵数約1900(戦闘放棄予定)

白の騎士団、兵数約2300(戦闘放棄予定)




大砦の側でも塀の上に人が並ぶのが見える。


続々と編隊完了の知らせが届き王子の「前進!」と言う言葉にラッパが鳴り響き、至る所から「前進!」と聞こえ全軍がゆっくり進みだす。

四方に斥候隊が走り回り伏兵が居ないかを探し回る。

前進を続ける隊列の先頭に大砦からの弓が届くが、盾を掲げながらも前進を続ける。

ある程度進んだ所でこちら側からも弓が届く範囲に入り弓を打ち出した。

弓矢の応酬が続く中、右翼と左翼がそれぞれ展開をしだし大砦を包囲する。


数刻が過ぎても敵の応酬は激しく兵が大砦に貼り付けない。

兵の損害も決して少なくない。

このままでは消耗戦で負けてしまうために一度引く事にする。

もし敵が追撃に出てきたらすぐに反転し野戦に持ち込もうというのだ。

後退のラッパが鳴り響き兵をじりじりと下げさせる。

そのまま矢の範囲外に出ても敵は追ってこない為に一度大きく後退をして態勢を立て直す。




反国王軍(死者、怪我人で先頭離脱を引いた数)

本隊、王子、騎士隊長、兵数約3900

右翼、翁、兵士隊長、兵数約2850

左翼、現領主、領主息子、兵数2800

遊撃、僕、美女さん、兵数195


隊列の立て直し、矢などを補充すると、すぐに再度進軍する。


矢の応酬が再開されて数刻、日は陰り大砦の兵に数え切れないほどのかがり火が焚かれる。

大砦の上の兵は倒しても倒しても次々と沸き壁に張り付く事は出来ず、どれくらいのダメージを相手に与えているかが全く見えない。



日が陰って少しして変化が起きる。

大砦の塀の上が慌しくなり兵の補充に隙が出来る。



―きたか!



偶々(たまたま)かもしれない。

はやる気持ちを抑え門の上の敵兵に弓を射る。


門の周りが騒がしくなったと思った瞬間に巻き上げ式の橋が倒れてきて門が開きださす。



僕「突撃!城門を確保しろ!!」



僕の号令に遊撃部隊が弓を捨て剣を抜き盾を掲げて門へと馬を走らせる。



僕「仲間が来るまで門を死守しろ!」



門を閉じようと来る敵兵を斬りつけながら叫ぶと半数の兵を連れて奥へと進む。

あっという間に敵が押し寄せてくるが敵は混乱しているようで統制が取れていないようだ。

部隊毎に向かってくる敵を斬り奥へと進んでいると後ろでひときわ多いな鬨の声が上がった。

騎士隊長が2000程引いて門へ突撃してきた。



騎士隊長「若と美女殿に遅れるな!」


兵士「応!」



押し寄せる騎士隊長率いる兵隊で門の中は溢れかえる。



騎士隊長「無抵抗の者は武装解除だけして無視しろ!歯向かう者には容赦はいらない!」



元々、兵力的に無抵抗な人間を全員相手にする余裕は無い。

もし無抵抗な敵を無駄に斬ってまた完全に敵に回られると数で負けるので武装解除だけして最低限の兵で見張る事に決まっており通達はしている。

だが戦場で興奮して忘れる兵も居るかもしれないので念を押しているのだろう。



騎士隊長「旗を持っている奴は塀の上の弓兵を処理しろ!」



門が先に破れた場合など城壁などに上って敵を倒すが、その際に日が落ちた後などは味方に弓で射られないように合図を送る為に旗を用意したりする。

すぐに左右の壁へ200ずつくらいの兵が登っていく。


混乱の為に立ち向かう敵は少なく2枚目の門の向こうに逃げようとする者が殆どだった。

だがその門も半分近くが閉まりかけている。

その門へ向かって走りながら僕は力の限り叫んだ。



僕「このままでは我らの味方が門の中に閉じ込められてやられてしまう!門が閉じる前に味方と合流するんだ!」



門を閉めようとしていた相手がぎょっとしたように後ろを振り返って身構える。

その男は何かを叫ぶと近くの男に斬りかかった。

どうやら僕が叫んだ言葉に疑心暗鬼になって、たまたま目に付いた相手を敵だと認識したようだ。

その相手も自分が斬りかかった相手が敵と内通していると勘違いをし、お互いの仲間同士で仲たがいを始めたようだ。

その間に距離を詰めた僕は半分閉まった門に無理やり突入した。




周りの敵を斬り伏せながら30名の兵にを守るように伝えさらに置くに進む。

しかし砦の建物の門は硬く閉ざされてしまっている為に仕方なく広場の敵の排除を行っているとすぐに後続の兵が雪崩込んできた。


すぐに砦の上の兵へ弓が雨のように打たれ、門を破壊する丸太が届く。

門は何回か丸太が当たると切れ目を大きくしていった。

そこに向かって丸太を打ちつけながら周りから大槌で門を叩く。

壊れた門の間から槍を突き出して応戦しようとしてくるがある程度隙間が大きくなった時に勢いをつけて丸太が門にぶち当たると片方の門が壊れて開いた。


すぐに敵が門からの侵入を防ごうと門へ殺到してくるのを見て弓矢を門へ向かって一斉に放つと臆したのか敵の足が竦んだ。

その間に突撃を命じると兵士達が門の間から内部へとなだれ込む。



僕「一般人と投降するものは傷つけるな!歯向かう者は一般人だろうと兵士だろうと容赦する必要は無い!」



僕は建物内部に入り、内部の人間に聞こえるように叫ぶ。

周りで部隊長が同じように周りの敵兵に聞こえるように叫んだ。



僕は美女さんと数十名の兵をつれて上の階へと上がる。

上に上がると数人の兵が廊下を塞ぐように立っていた。



僕「今、投降するなら命はとらないが?」



そう言うと頷き指示通り剣を鞘に収め床に置くと壁に向かって膝立ちになり手を頭に載せた。

兵士に剣を回収させて後から来た兵に階下へ連れて行くように指示する。


さらに上の階に上ると階下とは構造が違う広いフロアに黒の騎士団と思われる騎士が30名ほど待ち構えていた。

投降を呼びかけたが無視したまま何も言わずにこちらに剣を向ける。



僕「投降しないと?」



無言のままこちらを見つめる黒の騎士団団員達。



僕「では交渉決裂ですね。行きます」



そういった瞬間に美女さんが黒の騎士団の中に飛び込んで1人斬り倒す。

僕もすぐに飛び出して2人きりつけるとそのまま先に抜けて振り返る。

美女さんも同じ考えだったようで、これで黒の騎士団は僕・美女さんと他の兵に挟まれた状態になる。

あまりの事に呆然としたままの黒の騎士団が「投降する!」と剣を床に落として手を上げる。



僕「は?」


黒の騎士団A「投降する」


僕「何故今更?」



そういうと彼は美女さんに斬り倒された奴を指差して「…黒の騎士団副団長だ」と言った。



―弱!副団長弱!!



決して弱い訳ではないんだろうけど美女さんの相手では無かっただけという事か。



僕「では全員、武器から離れて頭で手を組んで床にうつ伏せになるんだ」



兵士達が武装解除を行うのを横目に見ながら黒の騎士団Aに話しかける。



僕「黒の騎士団長と他の領主は上か?」


黒の騎士団長A「…そうだ」


僕「この騒ぎに降りても来ないが、逃げた後か?」



僕の質問に首を振る。



黒の騎士団A「…上に居る」


僕「どれくらい?」


黒の騎士団A「黒の騎士団長と領主のお気に入りが合わせて20名といった所だ」


僕「待ち伏せか」


黒の騎士団A「―い――ている」


僕「は?」



黒の騎士団Aの言っている意味が分からず聞き返す。



黒の騎士団A「酔い潰れているッ!」



吐き捨てるように言う黒の騎士団A。

どうやら黒の騎士団団長は来てからずっと酒を飲んで居たらしく、反国王軍との戦闘が始まった時も「ヤツラの足掻く様を見ながら飲むのも一興と」と領主達とお気に入りの部下を呼んで酒盛りを始めたらしい。

そうして今はもう皆酔いが回って剣も十分に振れない状態のようだ。


すぐに兵を上に上がらせて確認をさせると証言通り黒の騎士団団長と領主達が酔い潰れて居た為に苦も無く全員を拘束した。

それを確認して黒の騎士団長と領主達の身柄の拘束と戦闘の終了を告げる。

すると兵が窓に駆け寄り反国王派の旗を掲げると先頭終了のラッパを鳴らす。

すぐに至る所から勝利の歓声が聞こえて来た。




――――――――――





戦闘が終わって時間は深夜になったが大砦は慌しく人が動いている。


戦闘終了後、主だった人物が砦最上階に集まった。

どうやら全員無事だったようだ。



大砦攻略後戦力


反国王軍 総数約10000 → 総数約8,200(重傷者約300名、軽症者多数。)

死者約1800





それに対する大砦防衛だった国王軍は


国王軍、総数約14200 → 総数約10550(重傷者1600、軽症者多数)

死者2550、逃走者1100

戦闘放棄者約8000名



大砦内 兵士計、約10000 → 約6350


黒の騎士団、兵数約4000 → 兵数約3850(内、約3800が元赤白騎士団)

国王派領主軍、兵数約6000 → 兵数約2500


大砦外、兵士計、約4200


赤の騎士団、兵数約1900(戦闘放棄)

白の騎士団、兵数約2300(戦闘放棄)




投降拘束した兵だけでも約6350名。

全員を国王派領主軍と黒の騎士団と黒の騎士団(元赤白騎士団員)で別々に10名ほどに分けて兵舎(6人部屋)に監禁した。





翌日の朝に美女さんと領主息子が兵2000を率いて姫と妖精少女を迎えに大砦を出る。

兵数が重傷者を抜いて5900ちょっとと厳しくなるが、姫をいつまでも兵数の少ない小砦に居てもらうのは心許ないので仕方ない。


昼過ぎに元国王派の領主が大砦より王宮側の領地を総兵数1500程の兵で落とし、国王派の領主達の身内の身柄を確保して回る。

もちろん、前のときと同じく暴行略奪に対する刑は重くしている。

ただ今回は王宮から兵が来たらすぐに逃げるようには言っている。

赤白両騎士団団長が王都から逃げる為の牽制はしっかりしないといけない。

もちろん国王軍派の領主への脅しもあるけど。




翌日の昼前に大砦のバルコニーに立つ。



―やっと大砦攻略か


魔王『やっとだな』


―まだ王都があるのにこの兵数でどうにかなるんだろうか


魔王『そなたの言っていた新兵器もある。やるしかあるまい』


―そうだね



遠くをぼんやりと眺めながら魔王と取り留めない会話をしていた。

ここで姫達の軍勢が見えるのを待っているのだ。



どれくらい時間が経っただろうか。

大砦内部の広場が騒がしくなる。。


眼下に3騎の馬が大砦に飛び込んでくるのが見える。


入り口で兵士達に止められた3騎は下りるももどかししそうに兵士と何かを言い争っている様だ。

そこに兵を連れた騎士隊長が現れて3騎の兵に話を聞いていたが、周りの兵に幾つか指示を出すと何人かの兵がうまやへ走っていく。

3騎の兵は馬から下りると騎士隊長と兵達に囲まれて砦の中へと足早に入って行った。


騎士隊長と3騎の兵が砦内に消え、厩へ走った数名の兵が騎乗して大砦の外へ飛び出していくのを確認すると僕は状況を確認する為に翁の元へと向かった。

誤字修正

殆どが強戦闘放棄予定 → 殆どが戦闘放棄予定

先頭離脱 → 戦闘離脱

炊かれる → 焚かれる

合図が係り → 合図が掛かり

国王運は → 国王軍は

先に敗れた場合 → 先に破れた場合

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