第15話 新兵器
赤の騎士団服隊長との密会の帰り。
僕「これで大砦はなんとかなりそうだけど、問題は王都か―」
爺「そうですな」
僕の呟きに爺が答える。
まだ大砦攻略を攻略していない状態で別の事を考えるのは良くないとだとは分かっている。
でも次の展開を考えておかないと行き詰ってしまう。
僕「王都を攻めるこれと言う手が思いつかないんですよね」
爺「手ですか―」
僕「このままだと兵力では相手に勝る事が出来るだろうけど、王都に篭もられて攻めあぐねてしまう」
爺「そうなると長期戦になりますな」
僕「王都はどれくらいの間、篭城できると思いますか?」
爺「そうですな、月の満ち欠けが2周するくらいは持つやも知れません」
約2ヶ月と言ったところか。
僕「それだけ時間を掛けるのは厳しい?」
爺「こちらの兵糧の問題などはどうにかなるとして兵の士気の維持と隣国の状況がどうなるか―」
僕「隣国が攻めてくる可能性が高い?」
爺「さすがにそれだけ時間を掛けると来られても防ぎようがありませんからな」
僕「出来るだけ短期で決着をつけないとダメなのか」
王都の状況を知らない状態で考えても何も思いつかない。
―戻ったら情報を集めよう
そう決めると帰路を急いだ。
――――――――――
翌日の夕方に王子達の軍勢約6000が小砦に合流し、これで合計11000程になった。
すぐに王子と騎士団長を含めて現状と明日以降の確認が始まった。
王子「お待たせしました」
姫「道中大丈夫でしたか?」
王子「途中、白の騎士団に阻まれましたが、途中で撤退していったので大した被害も出ずに済みました」
みんなと挨拶をした王子と騎士隊長に赤白両騎士団との密約と大砦の攻略について説明すると「なるほど、それでですか」と納得がいった様だ。
大砦の今の戦力は黒の騎士団が到着して15000程になっていた。
現状は大きな戦闘は起きておらず、小康状態となっている。
赤白騎士団の戦死偽装は順当に進み王都にある程度送る事は出来ているようだ。
王子「では大砦攻略は明後日決行という事でいいでしょうか?」
翁「そうですな。あまり時間を掛けると相手が攻めてくるやも知れませんしな」
やれる事はある程度やった。
後は実行するのみである。
話し合いは手短に終わり解散となる。
皆が席を立つ中、疑問に思った事を爺に聞く。
僕「明後日の大砦の編成を聞いて思ったのですが、攻城兵器の話は無かったのですがどれくらいあるんですか?」
騎兵や槍兵などは記載されているが攻城兵器の話は出なかった。
爺「こうじょうへいき、ですか?何でしょうかそれは」
僕「城を落とす為の武器と言うか道具です」
爺「そういう物となりますと、丸太は予備も含めて2本、大槌は数本、後は梯子を数十台という所ですね」
僕「それだけですか?」
爺「少ないですかな?大体こんなものですが」
僕「数ではなく、他に何か無いんですか」
爺「他と言われましても―」
どうやら他には無いらしい。
それならもし作れば戦を優位に進める事が出来るかもしれない。
出て行こうとする王子と王を呼び止める。
僕「攻城戦の兵器などは無いと伺いました。作って使えば王都の攻略が有利に進むかも知れません」
王子「へいき?」
僕「城を落とす為の武器です」
王子「落とすと言うと?」
僕「門や壁を壊すようなものです」
翁「丸太や大槌のようなものですかな」
僕「いえ、大きな岩を飛ばしてぶつける道具です」
翁「大きな岩を?」
僕「応用すれば油の入った樽などを投げる事も出来ますね」
翁「それはどういったものですかな」
僕は木のスプーンに小石を乗せ、スプーンをしならせて小石を飛ばす。
僕「原理はこれです。これを大きく作れば子供くらいの岩なら飛ばせるようになると思います」
それを聞いた爺は工兵長と数名の工兵を呼び出した。
工兵長達が来るまでの間に魔王に確認をする。
―この世界には伸び縮みする素材と言うのはある?
魔王『どんなものだ?』
―強度があり、引っ張ると急激な勢いで元に戻るような奴
魔王『そういうのは無いな』
―そうか、ありがとう。
現れた工兵長達に「今から若の話を聞いて作れるか言ってくれ」と言うと話を促した。
僕は先ほどと同じようにスプーンで小石を飛ばす。
僕「これを大きなサイズで作ります」
工兵長「大きくとはどれくらい?」
僕「スプーンの部分だけでも人の2倍」
工兵長「そんなに?」
僕「それくらい無いと大きなものは飛ばせません」
工兵長「大きいのはいいとして、飛ばす勢いはどうやって作るんですか?」
僕「錘でつけます」
工兵長「錘をどうするのですか?」
僕「スプーンの柄の部分の下の方に棒を通します」
僕は説明をしながらスプーンの柄に木の枝をあてる。
僕「これで木の枝を持てばスプーンは回ります。木の枝を左右から支え、自由にスプーンが自由に回転するようにします」
工兵長「ふむふむ」
僕「スプーンの柄の部分の方に錘をつけます。錘の重さは飛ばすものの2倍はいるでしょう」
工兵長「なるほど!それで物を載せた後に錘の重さで飛ばすんですね」
僕「ええ、柄と錘が床に付かない様にするといいかもですね」
工兵長「ふむ」
僕「それとスプーンの物を乗せる方は紐で引けるようにしてください」
工兵長「そうですね、。そうしないとなかなかスプーンをおろせません」
僕「そうして紐を引く方法は巻き取り式にしましょう」
工兵長「巻き取り式ですか」
僕「その方が人の手で引くより力強くひけるしね。小砦の跳ね上げ式門と同じ構造でいいと思います。あれに少し手を加えれば」
工兵長「手とは?」
僕「あのままでは引いた後に元に戻らないようにしないといけません。それを勝手になるように細工が必要です」
工兵長「ほう」
僕「歯車を2つ重ねて一方は逆に回らないように細工します。そうすれば勝手に戻る事も無いでしょう」
工兵長「その状態だと飛ばす事も出来ないのでは?」
僕「逆にしか回らないようにした歯車を横に滑らせるようにして、発射のときに横に移動させればいいんです」
工兵長「なるほど!」
僕「横に滑らせたり戻す方法も考えないと手をはさむと危ないですけどね。そこら辺は無ければ無いでしかたありません」
工兵長は「考えてみます!」というと他の工兵たちとあれこれ話し出した。
翁が「どれくらいでできる?」と聞くと「試作品は今晩中にと」工兵長は言った。
工兵長「でも試し打ちをしたり改良したりで数日は必要です」
翁「明日の大砦攻略には間に合わないか」
工兵長「はい」
僕「大砦は攻略法があるので必要ないでしょう。王都攻略までに間に合えば」
工兵長「それまでにはいくつか作るようにします。とりあずは今から製作にとりかかります」
そういうと工兵たちは部屋を飛び出した。
明日の朝には試作機が出来るらしいので、とりあえずは明日にその出来を確かめようと言う事になった。
――――――――――
翌朝、兵器の試作品が出来ていた。
すぐに小砦のすぐ横の広場から平野に向けて試し打ちが始まる。
岩は小砦に常備している岩を飛ばす。
飛んだ距離にさほどの誤差が無い事を確認をした後に棒を取り外す。
どうやら長さの違う棒が何種類かあるようだ。
その後何個か飛ばした後に一番飛んだ長さを選ぶ。
次は距離を測り大きな岩に向かって飛ばす。
何回か外した後に直撃した岩を確認。
岩にヒビが入っているのを見て工兵長が頷く。
工兵長「数を作って同じ場所に何発も打ち込めば壁も崩せそうです」
翁「距離は最大どれくらいだ」
工兵長「岩が転がる範囲で良いなら弓の範囲外からでもいけますが、壁に当てるとしたら弓の射程内に入るしかありません」
翁「射程は変えれるのか?」
工兵長「距離を伸ばす事は無理でも引く長さを変える事で短めに飛ばす事も可能です」
翁「なるほど。王都攻略までにどれくらい作れる」
工兵長「作り自体はさほど難しくありませんので慣れれば一日十何機かは作れるでしょう。持ち運び用に組み立て式にします。これにより数も運べるでしょう」
翁「そうか。それに平行して飛ばす為の岩も用意するようにしよう。すぐに作成に取り掛かってくれ」
工兵長「はい!」
今日中だけでも数機は作れるので試しに大砦に持っていくか?という話も出たが、出来るだけ敵に新兵器の情報を知られないほうが良いという話になった。
僕は弓の範囲から出れないと聞いて岩を取り付けたり発射したりする人が矢から身を出来るだけ守れるように盾を付けるようにお願いした。
この案に工兵長は「わかりました」と頷いてくれた。
――――――――――
大砦の攻略を明日に控え小砦内は忙しくなる。
忙しくなっているのに全然忙しくない僕。
―なんで皆あんなに忙しそうなんだろう
魔王『明日の戦に向けて準備があるからだろう』
―なんで僕は忙しくないんだろう
魔王『ああいう者の殆どがああやって準備をしている雰囲気を出しているんだ。実際には戦の準備などする必要が無い者ばかりだ』
―何の為にそんな事を?
魔王『不安だからだ。ああやって明日への心構えなり諦めを付けていくのだ』
―やっぱりみんな不安なんだね
魔王『まあ上に立つものは本当に色々忙しいんだがな』
―うん、僕は上に立つものじゃないからいいんだ
魔王『美女も色々忙しそうだな』
―…うん、僕は上に立つものじゃないからいいんだ
その時、美女さんが部屋に入ってきた
美女さん「若、ちょっと手伝ってもらっていいですか?」
僕「もちろん!」
美女さんに連れられて廊下を歩く。
―やっぱりやる事があるっていいよね!
魔王『そうだな―』
廊下を進み扉の前に立つとノックをし「若をお連れしました」と言葉を掛けるする美女さん。
中から「どうぞ」という声と共に中に入る。
あれ?ここは―姫の部屋?
中に入ると王子と爺と翁がいた。
どうやら姫に何かを言っているようだ。
妖精少女が姫の横に腰掛けて姫を心配そうに見ている。
何でこんな所に呼ばれたのだろう?
爺「おお若、忙しい中わざわざ済みませんな」
魔王『忙しくないがな(うるさいよ!)』
僕「いえ、どうしたんですか?」
爺「姫が今回の大砦攻略に参加すると言い出されまして」
今回のというより今後の戦は姫は出陣しない事になっていた。
出陣する兵士達に激励を送った後は後方で待っていてもらう事になっていたのだ。
それが何故か前日になって自分も行くと言い出して聞かないらしい。
王子「姫姉さまの説得をお願いします」
僕「は?」
王子「姫姉さまの説得をお願いしたいんです」
翁「ワシらは準備があるでな」
爺「また来ますのでその間、説得をお願いします」
美女さん「さ、妖精少女も一緒に手伝ってください」
妖精少女「うん」
そういうと子狼を抱いて皆出て行ってしまった。
―あるぅえ?
魔王『はめられたな』
―だよね!
腰を下ろして俯く姫を見る。
とりあえず向かいにある椅子に腰を掛ける。
僕「姫」
ビクッとする姫。
なんで怯えてるんだろう?
僕「姫、何で今更行くと言い出したんですか?」
姫「……」
僕「前に話し合ったときには残る事に納得してくれたじゃないですか?」
姫「……」
僕「姫、(友達の)僕にも言えない理由ですか?」
姫「…大砦攻略で多くの兵が危険に見舞われ帰らぬ事もあると思うと、私だけが安全な場所に居られません!」
僕「そうか―でもね、姫。姫が戦場に出るとその分だけ守る為に兵が裂かれる。そうなるとどうなるか分かりますか?」
姫「―」
僕「大砦を攻める人間が減ります。その分、戦が伸びて傷つき倒れるものが増えます」
魔王『極論だな』
―そうだけどね。仕方ないよ。
姫「それでも―」
僕「それを分からない姫じゃ無いと思うんだ」
姫「でも―」
僕「その上で我侭を言う本当の理由は何なんですか?」
その言葉に姫が声を詰まらせる。
僕「本当の所が分からないと僕は賛成も反対も出来ません」
姫が言いよどむ。
僕「僕は姫の味方で居たいと思う。でも危ない目にもあって欲しくないと思う」
姫「…みんなが心配だからです」
姫が話すのをゆっくり待つ。
姫「王子が、爺が、翁が、美女さんが、わ、若が―」
―そうか、優しいからこそ心を痛めて悩むのか。
「姫」と呼ぶと顔を真っ赤にして俯く肩がピクッとゆれる。
僕「大丈夫です。(僕達は)必ず貴方の元に帰ってきます」
姫「えっ?」
僕「貴方を悲しませるような事が無いよう、必ず(みんなで)!」
そう伝えると顔を真っ赤にしながら「―待ってます」と姫は呟いた。
僕「姫が無事を祈ってくれるだけで(兵士達は)それを励みに戦えるのです。笑顔で送って笑顔で出迎えてください」
魔王『またか?またなのか?』
魔王が何か言っているが良く分からない。
姫は「――」言葉に出来ない声を出しコクコクと頷く。
分かってくれた姫に一安心をし「爺たちを呼んできましょうか」と席を立とうとした時に姫が「あっ」と呟く。
―ん?何か言いたいのかな?
魔王『……』
魔王の呆れる雰囲気を感じ立ち上がるのを辞める。
きっと「僕が気が付いていない何か」を見落としているはずだ。
今ここで立ち去るのは良くないらしい。
―でも見落としているんだろう。姫の何かかな?
姫を見ると俯いてはいるがこちらをちらちら見ている。
でも決して真っ赤な顔を合わせようとはしない。
―どういう意味の態度なんだろう。
深く注目する。
―顔が真っ赤で恥ずかしそうにこっちを盗み見てる。そして僕が出て行こうとすると何か言おうとした?
そこで僕はひらめいた!
―そ、そうなのか?
僕「と、思いましたが爺も準備に忙しいといってましたし、後で来るといってましたので急ぐ必要は無いですね」
その言葉に姫が顔を上げる。
僕「時間もありそうですし、よければお話しませんか?最近姫と殆ど話す機会も無くて残念に思っていたんです」
真っ赤な顔をこくこくと頷く姫。
―やぱりそうか!うれしいな!
魔王『一応、何に気が付いたか聞いてみようではないか』
―姫は待つと決め手も怖いし不安なんだ
魔王『…それで?』
―だから独りになりたくないんだ!
魔王『……そこから導かれた答えは?』
―僕を友人としてた頼ってくれている!!
魔王『ナンダッテー!』
本当にうれしい!
うれしさが溢れた僕は笑顔があふれ出してにやけ顔が止まらない。
「話そう」と言っても話題が見付からないのか視線を泳がせる姫
僕「姫、別に何でもいいんです。時間はあります」
姫「は、はい」
僕「僕は(爺たちが来るまで)ここに居ます。話す言葉を無理に捜す必要尾ありません。無言でもいいじゃないですか。ゆったりした時間を過ごしましょう。思いついたら何でも話せばいいんですよ」
僕は出来るだけ姫がリラックス出来るように話しかける。
本当はここでいろんな話題で話を盛り上げることが出来たらいいんだけど、現実世界で女の子と話した事が皆無に近い僕には引き出しの中が空っぽだ。
実際は僕自身が沈黙に耐えれないからああ言っただけだ。
―こういう時はどういう話をしたらいいんだ!
魔王『だから何でもいいんだろう?』
―そうだけど取っ掛かりが無いよ。
沈黙が部屋を包む。気まずい。
容量の少ない脳味噌をフル回転させて思いついた事を口に出してしまう
僕「妖精少女は―」
―なんで用事も無いのに部屋から連れ出されたんだろう?
魔王『…馬鹿か?』
この質問はダメらしい。
別のを、と思ったら姫が「え?」と反応した。
えーと。
僕「―最近どうですか?」
姫「最近?」
僕「あ、え、姫に任せきりになってるので元気にしてるかな?とか迷惑あけてないかな?とか」
姫「迷惑なんて事は全然ありません。妖精少女と居ると心が暖かな気持ちになります。逆に一緒に居れて嬉しいです」
「私、昔に妹が欲しかったんです」と微笑んだ。
姫の笑顔に選択が間違えてなかったと思ってほっとした。
その後はものすごく弾むという訳でもないけど会話が長時間途切れる事も無く、ゆったりとした時間は爺たちが来るまで続いた。
誤字修正
攻略に付いて → 攻略について
納得が行った → 納得がいった
そういうのとなりましと → そういう物となりますと
出来きますね → 出来ますね
逆にしか魔わらに歯車を → 逆にしか回らないようにした歯車を
無視でも → 無理でも
急ぎそうだな → 忙しそうだな
時間を掛けるのは気厳しい → 時間を掛けるのは厳しい
こうじょうせんへいき → こうじょうへいき
ええ、柄と錘のが → ええ、柄と錘が
古兵長 → 工兵長
兵が裂かれる → 兵が割かれる
大砦を守る人間 → 大砦を攻める人間