第14話 憧れ
約束の時間より早かったが、約束の場所に着くとすぐに一人の人物が近づいてきた。
赤の騎士団中隊長である。
彼は僕達を見ると一言「こちらへ」と言い、歩き出した。
少し離れた場所に案内され、そこで数人の人物と落ち合う。
赤の騎士団中隊長が「連れてまいりました」というと相手は頷く。
こちらを見るとまずは爺に挨拶して僕の方へ向くと「赤の騎士団副団長です」と挨拶した。
思ったより若く30代といったで赤の騎士団中隊長の方が年上かもしれないというのに驚いた。
僕も名を名乗る。
赤の騎士団副団長「話は伺いました」
魔王『なかなの手馴れだな』
赤の騎士団副団長「本来ならこの場に白の騎士団副団長も来る予定だったのですが、さすがに両騎士団副団長が大砦を出るのは不自然であった為に断念しました」
代わりに白の騎士団からは連隊長2人がきていた。
魔王が『今回もどの様に話を転がして楽しませてくれるか傍観させてもらう』とうれしそうに言う。人事だと思って!
赤の騎士団副団長「貴方の話は突飛無く、とても正気は思えない」
僕「―そうでしょうか?」
赤の騎士団副団長「敵を前に手を拱いているのは騎士団の規律に反する」
白の騎士団連隊長をみやる。
どうやら話は赤の騎士団副団長が担当するらしい。
その赤の騎士団副団長の目をしっかり見ながら告げる。
僕「敵と言うのは誰のことでしょう?」
赤の騎士団副団長「もちろん、貴方達反逆軍です」
僕達は反逆軍らしい。
僕「僕達は反逆軍ではないですよ?」
赤の騎士団副団長「では何だと?」
僕「国と民を憂いて奸臣を討つべく立ち上がった、いわば王国軍ですね」
相手が国王の地位、突き詰めればその周りの甘い汁を好き放題吸っている者達の地位を守る為の国王軍だとしたら、僕達は国や民の将来を思い立ち上がった王国軍である。
僕「まぁただの言い方の違いでしかないのでどうでもいいですけどね。それほどまでに僕の意見は実現不可能ですか?」
赤の騎士団副団長「可能不可能の話ではなく、騎士団の規律に反する言っている」
僕「規律とは?敵前逃亡や戦闘放棄がですか?」
赤の騎士団副団長「そうですね」
僕「敵とはなんでしょう?」
赤の騎士団副団長「……」
僕「いえ、この話はいいでしょう。時間もありません」
本当の敵は団長を捕らえている王国軍側という話をしても意味が無い。
そんな事はとうに理解しているはずだ。
それでも彼らはそれでも団長を案じ今の状況に身を置いているのだ。
僕「このままでは遠く無い未来に団長が処刑される可能性は?」
赤の騎士団副団長「…そのような事が無いよう行動しています」
僕「どのように?」
赤の騎士団副団長「戦で功績を立て、我らの存在意義を示し続ける事です」
僕「その結果、騎士団は疲弊していき脅威と看做されなくなり、結果団長は処刑される事になると」
僕の言葉に赤の騎士団副団長が口を閉ざす。
僕「どうせ黒の騎士団長辺りからも無理難題を押し付けて貴方方の戦力をそごうとしているんではありませんか?」
赤の騎士団副団長は微動だにしない為に何を考えているのか分からない。
僕「もし両騎士団が僕の案に乗ってくれたら、騎士団長を取り戻せるかもしれません」
赤の騎士団副団長が「案に乗った前提での作戦」に興味をしめす。
僕「まず聞きたいのは幽閉されている場所はわかりますか?」
赤の騎士団副団長「王宮の一の郭の館に軟禁されています」
僕「城の地下の牢だったり高い塔の上ではないんですね?」
赤の騎士団副団長「兵は多く配備され我々は一切近寄る事は出来ないが、さすがに我々を刺激しないように配慮はされています」
僕「そんなに多くの兵を配備されているのですか?」
赤の騎士団副団長「せいぜい50といった所で騎士団長は一の郭内だったらある程度の外出も許されているが、その場合は護衛と称した見張りが大人数付いて回るようですね」
僕「もし騎士団団長を助け出すとなると、相手は見張りの50人程度だけですか?」
赤の騎士団副団長「館の周りは50名しか居なくても何かあれば周りから倍以上の数が集まってくので、城外に逃げるまでに取り囲まれてしまうでしょう」
僕「一の郭に騎士団は上がれますか?」
赤の騎士団副団長「騎士団本部は二の郭にあり、日中は門が開いているので騎士団なら通れますが必要なければ行く事は無いですね」
僕「すでに騎士団長が処刑されている可能性は?」
赤の騎士団副団長「月に何度か、騎士団長の家の者が騎士団長の状況を報告してくれてます。その者は騎士団長の家に古くから仕える者なので信用できる人物です」
僕「ならよかった」
もし近寄れない場所だったり騎士団長が衰弱してると難しかったが何とかなりそうだ。
僕は騎士団長救出作戦の方法を伝える。
僕「大砦は王宮から物資を運んでいると思います。多くの国王軍派の領主が集まったので、これは当たり前の事です」
頷く赤の騎士団副団長。
僕「しかも黒の騎士団も出てくるとなると大砦の蓄えではすぐに備蓄がなくなってしまうでしょう」
赤の騎士団副団長「それが?兵糧攻めでもするのですか?そちらにもそれほどの蓄えはあるとは思えませんが」
僕「ああ、大砦は両騎士団が手を結んでくれれば半日で落とせるので問題ありません」
赤の騎士団副団長「何ですって?いくら我らが手を結んで参加しなくても黒の騎士団4000と国王派領主軍で1万近い数が居るんですよ?」
僕「その話は後にして順番に話しましょう。まずは団長救出の話です」
赤の騎士団副団長「……」
僕「補給物資は大切です。奪われる事も考慮して騎士団が受け持っているのでは?」
赤の騎士団副団長「そうですね」
僕「それを使います」
赤の騎士団副団長「物資を送るなと?無理です」
僕「いえ、違います」
赤の騎士団副団長「では何を」
僕「王宮に戻る補給部隊に紛れて両騎士団の騎士を王宮にひそかに戻すのです」
赤の騎士団副団長「どうやって?」
僕「戦力を殺ぐ為に、きっと両騎士団は不利な状況で前線へと送られます」
赤の騎士団副団長「……」
棒「その戦いで一部の人は死んでもらいます」
赤の騎士団副団長「!」
僕「そうして死んだ人たちは隠れて潜み、補給部隊が帰るところに合流して王宮に隠れます。王宮にも騎士団の詰め所などで隠れれる場所はありますよね?」
赤の騎士団副団長「え、ええ」
僕「数は100名程度、できれば200名居れば大丈夫だと思います。数日隠れる場所はありますか?」
考えて頷く赤の騎士団副団長。
僕「僕達は騎士団が兵を王宮に送り込んで準備が出来たら大砦を攻め落とします」
赤の騎士団副団長「どうやって」
僕「そこでまた両騎士団に手を貸してもらいます」
訝しそうに眉を顰める赤の騎士団副団長。
僕「黒の騎士団のメンバーも元は両騎士団の団員だったと聞きます」
赤の騎士団副団長「ええ」
僕「取り込んでください」
赤の騎士団副団長「何?」
僕「一斉蜂起の仲間に取り込んでください。大砦攻略の際に黒の騎士団の一部と両騎士団にやってもらいたいことがあります」
赤の騎士団副団長「あからさまな裏切りは団長の身を危なくするので無理です」
僕「伝わらなければ大丈夫ではないですか?」
赤の騎士団副団長「というと?」
僕「大砦を攻める際は両騎士団は外からの大砦との挟撃を進言し出てください」
赤の騎士団副団長「進言しても無視されるかもしれない」
僕「黒の騎士団と国王派領主軍あわせて10000近くいます。その上で大砦に守られています。両騎士団が疲弊するのを望むので問題なく通るでしょう」
赤の騎士団副団長「……」
僕「両騎士団はそのまま大砦と王宮の道と僕達が包囲していない方面に隠れてください」
無言で先を促す赤の騎士団副団長。
僕「次に僕達が大砦を攻めだして幾許かした時に黒の騎士団達には騒ぎを起こして貰います」
赤の騎士団副団長「騒ぎ?そんなのすぐに取り押さえられてしまうでしょう」
僕「数人ならそうですが、黒の騎士団の大半は両騎士団の団員と聞きました。それにも関わらず少数しか取り込めませんか?」
赤の騎士団副団長「……そんな事は」
僕「では成功するでしょう。内容は『裏切りだ!領主が逆賊に内通しているぞ』です。そうして周りを煽りながら言いまわってもらいます」
赤の騎士団副団長「それでもすぐにばれてしまう」
僕「一時の混乱で構いません。そうして混乱した中で門の警備は自分達が行うと言い張り門を制圧してもらいます」
赤の騎士団副団長「……」
僕「その後。門を開けてもらい我々が突入して制圧します」
赤の騎士団副団長「黒の騎士団にいる我々の仲間の身の保障は?」
僕「大砦の一部、3箇所程度に安全箇所を設け、そこにいる黒の騎士団には手を出さないという方針で行きましょう」
赤の騎士団副団長「その事に対しての信頼は?」
僕「信じてもらうしかありません。我々も攻撃されないと信じて放置します。もし安全地帯の黒の騎士団の中に黒の騎士団長派が居た場合はそちらで制圧してもらえると助かります。立ちはだかる黒の騎士団は黒の騎士団長側として討ち取らせて貰いますが」
赤の騎士団副団長「戦場です。仕方ありません」
僕「門が開いて両騎士団と黒の騎士団の一部が放棄すれば、残りは国王派領主6000と黒の騎士団の残り。我々の軍は王子が合流すればそれ以上になる。しかも相手は混乱している。半日も持たずに大砦は落ちます。落ち延びる領主達は両騎士団で誘導して我々の軍隊にまで引っ張ってきてください」
赤の騎士団副団長「それで?」
僕「取り囲んで武装解除の後に捕らえます。両騎士団が味方のところまで送ります。といえば信じるでしょう」
赤の騎士団副団長「…騎士団長救出の方法は?」
僕の話を聞いていた赤の騎士団副団長は、大砦の話が一段落したら聞いてきた。
僕「それは両騎士団に行ってもらいます」
赤の騎士団副団長「方法は?」
僕「大砦から王宮の間の道を塞ぎ、大砦と王宮からの伝令は全て捕まえてください」
赤の騎士団副団長「それで?」
僕「騎士団から伝令に扮して偽の情報を伝えます。それは大砦が伝令を送らなくてもです」
赤の騎士団副団長「ほう」
僕「内容は増援を求める伝令といった所でしょうか」
赤の騎士団副団長「それでは兵が来てしまって大砦が落とせないのでは?」
僕「来るまでに十分落とせます」
赤の騎士団副団長「……」
僕「大砦を取られると喉元にナイフを突きつけられるのと同じなので、王宮から慌しく出兵の準備に入ると思います。その混乱を狙って団長を守る警備の兵に入れ替わって団長達を連れ出してください。その際に危険ですが身代わりで残る人物が必要です」
赤の騎士団副団長「……団長の身代わりなら喜んでなるでしょう」
僕「連れ出してもすぐに外に出るのは危険です。ですので団長は隠れていてください」
赤の騎士団副団長「すぐに城を抜けた方がいいのでは?」
僕「出来そうならいいですが城を抜け出せない場合もあるかも知れません。もしもの為に、その後の脱出の機会は我々が作ります」
赤の騎士団副団長「どのように?」
僕「大砦を奪った僕達は大砦の先の領地を攻め、王国軍に加担した領主の一族の身柄を拘束します。殆どの者が領地には家族を残し兵は少ししか居ないでしょう。そこに2~3000の兵で攻めます。もちろんわが軍は略奪暴行は死罪としてますので行いませんが、手向かう場合は斬り捨てていいと伝えます」
赤の騎士団副団長「自分の領地を守る為の兵に紛れて城を脱出するという事ですね」
赤の騎士団副団長の言葉に頷く。
僕「はっきり言ってザルと言っても良い程の作戦です。殆どを両騎士団にお願いしている上に、方針は伝えましたが細かい『隠れる場所』や『どうやって警備兵と入れ替わる』など、色々な部分を丸投げしてます」
赤の騎士団副団長「……」
僕「そもそも両騎士団が拒否したら一つも実行できない辺りがもうダメですね」
赤の騎士団副団長「……」
僕「だからお願いするしかありません。一緒に手伝ってください」
赤の騎士団副団長「……」
僕「団長を取り戻すついでで構いません」
僕を見つめていた赤の騎士団副団長が「いいですか?」と呟く。
僕「なんでしょう?」
赤の騎士団副団長「この国の者では無い貴殿がここまでする理由は?」
僕「姫に出会ったから、ですかね?」
赤の騎士団副団長「?」
僕「偶然なんですけどね。でも姫と友達になったんです」
赤の騎士団副団長「……」
僕「……」
赤の騎士団副団長「…それだけ、ですか?」
僕「え?ですけど?」
他にどう言えばいいんだろう?
何か言わなきゃと思い、考えて思いついた事を言う。
僕「姫の手を取って国を救う為に戦うって、囚われの姫を救う事の次ぐらいに子供の頃に憧れた状況じゃないですか?」
白の騎士団連隊長が「確かに―」と呟いたのが意外と大きく響いた。
その声に騎士団のメンバーが笑う。
赤の騎士団副団長「確かに!私も昔は憧れたものです!」
豪快に笑うと赤の騎士団副団長の張り詰めていた気配が和らいだ。
赤の騎士団副団長「実は貴方の案に乗る事は決定していました」
―なんという驚きの事実!今までの緊張感を返せ!!
赤の騎士団副団長「だが私自身も貴方の人となりを見たかったためにああいう態度をとらせてもらいました」
失礼な態度で申し訳ありません。という赤の騎士団副団長。
赤の騎士団副団長「それがまさか団長救出まで考えているとは」
僕「穴だらけの計画ですけどね」
赤の騎士団副団長「確かにそうですが、我々の用意していた方法と組み合わせれば実現可能だと思います」
僕「では―!」
「手を組みましょう」と頷く赤の騎士団副団長。
あまりのうれしさに差し出された手を飛びつかんばかりに掴んでいた。
その後、連絡の取り方や決行日を決めると互いの陣に向けて戻った。
サブタイトル付けてみました。
誤字修正
打つべく → 討つべく
だった聞きます → だったと聞きます
すですけど → ですけど
場外に逃げるまでに → 城外に逃げるまでに
繭を潜める → 繭を顰める
一斉放棄 → 一斉蜂起
伝令をは全て捕まえてください → 伝令は全て捕まえてください
わが軍派 → わが軍は