第13話 願望
小砦は陥落した。
小砦の指揮官と生き残った領主達は投降。
どうやら小砦には450名の兵が居たらしいが生き残ったのは260名程だった。
犠牲者は殆ど領主の兵で、反国王軍が塀を乗り越えて来るのを止める事が出来なくなった時点で指揮系統が壊滅し混乱し各自が独自で動いた結果、同士討ちもあったようだ。
それに対して反国王軍は戦闘が終わった時点で動ける兵は3200。
戦闘中に来た元国王軍の領主達を取り込んトータルで3800まで膨らんだ。
犠牲の約600の内の7割が元国王軍領主の兵であった。
捕まえた領主は今度の対応として「国賊」として財産、領地、爵位は没収と伝えると膝を折って許しを乞うた。
それを無視しして牢屋へ送る。
小砦の指揮官は昔から小砦を守っている人物である。
本人は「生きて虜囚の―」とか言ってたけど、よくある「死ぬほうが不忠義だ!」というので自害は留まった。
ただ今の状況で小砦の指揮官に復帰するのは混乱を招くとして、指揮を副官に任せ自室に自主軟禁となった。
僕「その行動も自己満足だと思うんだけどな」
美女さん「そういう儀式をしないと動けない人もいるんです」
面倒な人は多い。
戦争は奇麗事だけじゃない。
小砦にいた領主の一族を捕らえに領地に兵を派兵する。
その兵は元国王軍領主の兵だ。
元々同じ国王軍だったのだから家族ぐるみの付き合いがる場合もあっただろう。
「これは踏絵じゃよ」と翁はいう。
国王軍に寝返るか反国王軍のままでいるかの踏み絵だ。
領地に向かう領主と兵に姫直々に言葉を与える。
姫「略奪や暴行は一切してはなりません。歯向かう者は仕方ありませんが領主の一族は国賊とはいえ丁重に扱ってください。わが部隊からも兵は同行します。略奪暴行があった場合はたとえ兵のしでかした事でも領主の罪になります」
翁「暴行略奪を行ったものは死罪、その者を抱える領主は財産と領地の一部を没収。領主が行った場合は財産、領地、爵位を没収の上で一族も同罪。国賊の一門を逃がした場合は国王軍に組したとして国賊と同じ扱い。匿った場合も同じく国賊と同じ扱い」
領主達が顔を青くして聞く。
翁「逃亡した国賊の一味を捕まえた者には誰でも褒章を取らせる。ただし過剰な暴行略奪を行っていたり、不正があった場合は死罪。これに関しては国中に触れを出す」
元国王軍の領主達は各領地へ行き今回の小砦に関わった9割近い国王軍の一族を捕らえてきた。
接収した領地には反国王軍の兵士が強盗などが入らないように警備に立った。
集めた国王軍の領主の一族は成人男性と子供の3つに分けられ、大人の男は砦の牢屋に入れ、大人の女と乳幼児、子供はそれぞれ後方の別の館に軟禁されて元国王軍派の領主の兵士に守られる事となった。
――――――――――
領主の一族を拘留するのが一通り終わった頃には翌日の昼になっていた。
一睡も出来ず顔を真っ青にしながら報告を聞いていた。
「少し休みます」の声とともにみんなが下がる。
だが休めるわけが無い。
今はそれなりの対応、軟禁は仕方ないとしても人として最低限が守られていたとしても、彼ら彼女らに待っているのは戦後の断頭台である。
幼い子供は助けれるかもしれないが、それでも親兄弟が殺されるというのは幼心にどれだけの傷を与えるか分からない。
せめてその日まで酷い目にあわないようにと思い「略奪暴行を絶対させないで下さい」と翁に頼んだ結果があの厳しい厳罰だ。
だが逆に言えばあそこまでしないとそういう事が行われる可能性が高いという事だ。
しなくてはいけない事だとしても罪の気持ちに押し潰されそうになる。
椅子から立ち上がることも出来ずに俯いていた視線の端に足が見えて顔を上げた。
一睡も出来なかっただろう事は顔色を見たらわかる。
報告を聞いた後に「休みます」と呟いた姫の顔は見えなかったが国王派の領主の一族の今後の事で胸が張り裂ける思いをしているのだろう。
敵の一族のみまで案じて「略奪暴行禁止の徹底」を姫は熱望していた。
これは何とか守られたようだが、処刑は免れない。
今も立ち上がることも出来ず項垂れている姫が心配で近づいて行った。
姫が顔を上げる。
いつもは白い肌も今は血の気が失せた様に真っ白だ。
姫「大丈夫ですっ」
僕が声を掛ける前に姫が口に出す。
僕「全然、大丈夫そうに見えません」
姫「分かってます。仕方ない事なんです。大丈夫です」
自分に言い聞かせるようににいう姫。
座る椅子の手すりを硬く握り締める姫のに手を添える。
僕「姫はどうしたいですか?」
姫「私がどうしたいかじゃありません。しなくてはいけない事で―」
僕「しなくてはいけないのは分かりました。姫はどうしたいですか?」
姫の目が泳ぐ
僕「ここには僕の他には誰も居ません。心の内を吐き出しても誰も文句は言いませんし言わせません」
姫「―っ」
僕は姫の言葉を待つ。
姫「――たい―す」
唇が震える。
姫「助けたいです」
その一言を吐き出すと堰を切ったように言葉が溢れる。
姫「みんなを助けたいです。殺したくない死んで欲しくない。小さな子に家族全員が殺される思いもさせたくない。一緒に暮らせるようにしてあげたい。でもどうしてもできない―」
僕「やりましょう」
姫が止まる。
僕「出来る限り助かるよう一緒に考えましょう」
姫「え―」
僕「国王軍に加担した者は基本的に助ける事はできません」
呆然と聞く姫
僕「ですので国王軍に参加した人を助命できる方法を一緒に考えましょう」
姫「……」
僕「もしかしたら状況的に仕方なく国王軍に付いた人で、復興に必要な人材もいるかもしれません」
姫「そう、ですね」
僕「状況を見て助けましょう」
姫の目に色が戻る。
僕「でも状況なんて曖昧ですね」
姫「え、ええ」
僕「基準も曖昧で線引きが難しい」
探るように僕を見る姫
僕「なのでいっそ、全員助けましょう」
姫「は?」
何を言ってるのか分からないと止まる。
僕「国王派への加担は領地と財産と爵位の没収です」
姫「そうです」
僕「ではそこまでして命を取る必要はありません」
姫「でも状況がそれを許さないのです―」
僕「そうですよね。なので処刑しなければならない人だけ処刑します」
どういうことか分からない姫に説明する。
僕「まず全員、領地と財産と爵位の没収を行います。これは決定です」
姫「はい」
僕「その後、彼ら一族には最低限の家と畑を元領地のどこかに用意し一領民として今後は生活してもらいます」
姫「……」
僕「新しい領主は今回の戦で貢献した人の中から信頼の置ける人をつければ言いと思います。そうすれば褒章の問題も一挙解決しますしね」
そんな事でいいのかな?と考える姫。
僕「領民から搾取や圧政を行っていた元領主は、元領主と…一族の成人男性は処刑をするしか無いでしょう他の女性と成人前の男子はその場での生活は危険なので離れた他の領主の土地で一領民として生活してもらう事になります」
姫「成人男子もだめですか」
僕「本来なら子供以外全員と言われるのです。仕方ありません」
姫「―ッ」
僕「圧政を敷くことなく領民を守っていた元領主は、自分の元土地で数年間の開墾を行い、その後に何かしら理由をつけて領主に復帰してもらう。処刑も無し」
姫「!」
僕「ただし復帰の事は言わない。領地は代理で誰かが治める…と後々揉めるかな?」
姫「―国王の直轄地という扱いなら問題ないと思います」
僕「じゃあそれでいきましょう。いい領主だったかは領民が判断してくれます。これで殆ど処刑せずに済むかも知れません」
そういうと姫は大きく見開いた目から涙を流した。
力が抜けて縋って来る姫を受け止めながら言う。
僕「まだです。まだ現実ではありません。これから翁を納得させないと。それが出来ないと実現しません。一緒に頑張って説得しましょう」
姫は何度も頷きながらも涙を流し続ける。
魔王『黙って聞いていたが、面白い事を考えるな』
―どう思う?
魔王『後々の事を考えると一族郎党皆殺しが良いと思う』
―それは姫には出来ない
魔王『だろうな』
―無理だと思う?
魔王『するんだろう?』
―そうだね
少ししたら姫が寝てしまった。
疲労に緊張感が切れたせいだと思うけど、困った。
と思っていたらドアが開いて美女さんがと爺と翁が入ってきた。
僕が寝ている姫を抱えているのを見て爺が「よかった」と言う。
姫を部屋に運んで寝かせる。
心配そうに姫を覗き込んでいるの妖精少女の頭を「大丈夫だよ」と撫でる。
僕が部屋を出た後に美女さんが寝やすいように衣服を緩めて寝やすいようにしてくれる手はずになっている。
「姫を見てあげていてね」と妖精少女に言うと僕は部屋を後にした。
部屋を移して先ほど姫と話していた内容を話す。
大体は聞こえていたようで翁は険しい顔をした。
―説得は難航しそうだな
翁「わかった」
僕「はや!」
翁「姫のたっての要望だしの。出来ない事でも無いしの」
「少し詰めて考えてみよう」と翁は言うと部屋を出て行った。
どうやら翁の説得はうまく行ったらしい。
後は王子だが、王子なら賛同してくれる気がする。
確証は無いけど。
とりあえず僕も寝てないので一眠りしようと部屋へと向かった。
――――――――――
夕方に国王軍の領主の兵、約2500が現れる。
小砦を見下ろす小高い丘の上で陣を敷いていた。
小砦を攻めるには兵力が足りないが何もせずに引き返すのも癪で、一体どうしようといった所か。
長い間そうしていた国王軍の領主はとりあえず一戦交えて撤退しようという判断になったのか兵を2つに分け城を包囲しようとした。
だが決断に時間を掛けすぎた。
僕と美女さんは100騎程連れて小砦を気が付かれない様に出ていた。
離れた場所で国王軍派の領主が2つに兵を分けるのを見て小さな集団の方の背後に回りこむ。
国王軍が小砦を両方から包囲を狭めて行くのを見ながら時期を計る。
小砦からの弓が届く範囲に近づく直前に、流れ矢に当たるのを嫌った領主と取り巻きが動きを止め、兵の隊列から分かれる。
兵士が盾で矢を受けながらじいじりと小砦に近づき別のものが矢を射返す。
領主達と兵が少しは離れた所で僕達は声を出さずに飛び出した。
無言で馬を駆る。
領主達は幾つかに集まっているようで、その一番外側の集団に僕は50名ほど引いて突っ込む。
美女さんも反対側の端の集団に50人で襲い掛かって居る所だろう。
相手は20ほどの集団でこちらに気付いておらず、気が付いた時には肉薄していた。
すれ違いざまに兵士3人ほどを斬り倒し領主らしい人物を1人馬から叩き落す。
振り返ると20名は制圧されていた。
生き残りは5人。
素早く周りを見渡し、10人の兵に死んだ領主の遺体を一人の兵に馬に乗せるようにいい、生き残り5人を武装解除と捕縛して連れ去るように指示をし、残りの兵を伴って少しは離れた場所の領主の集団に襲い掛かった。
恐慌に陥った一人の領主の撤退指示により小砦を包囲していた半分の兵が連鎖的に撤退しだす。
その撤退の音を聞いた反対側の領主達も体勢を崩したところに小砦から飛び出した2000の兵が襲い掛かった。
すでに崩れていた国王軍側の領主軍は支えきれずに数を半数以下にしながら撤退していった。
討ち取った領主とその一門の人間は15名。20名近い者達を捕らえた。
捕らえられた者たちは身代金を払うので釈放しろと騒ぎ立てた。
しかし元々国王軍に組した領主は戦後に財産と土地と爵位は没収だと通達しているという話をすると、顔を顔を真っ青にして心を入れ替えて反国王軍に下ると言い出した。
その嘆願に翁は「状況も読めない愚か者は必要ない」と縛られたままの領主達を牢屋へ入れるように命じた。
今回捕まえたり討ち取った領主達は国王軍派の支配地の領主が多く一族を抑える事は出来ていないが、領主も兵も居なくなりよっぽどのことが無い限りもう出ては来ないだろう。
国王派領主軍を圧倒的に撃退した事は瞬く間に伝わった。
国王派で近くまで来ていたが心変わりをしてこちらに付く領主も出てきて、数は5000程に膨れ上がった。
斥候に出ていた兵から続々と「大砦に領主軍が集まっている」という情報が入る。
大砦のもともとの人数は焼く1000。
集まった国王軍派の領主たちは約6000。
7000近い兵が集まっているようだ。
日が落ち辺りが暗くなる頃に赤と白の騎士団が大砦に入ったと知らせが届いた。
その内の一人の斥候が周りに気が付かれない様に翁に言葉を伝え何かを手渡す。
部屋に姫と爺と翁と領主と僕と美女さんが残る。
「姫宛に預かったようです」と手紙を差し出した。
聞けば斥候途中に騎士団の斥候と出会い戦闘になって取り押さえられたらしい。
どこの所属かと聞かれ黙っていると、その騎士団は姫に必ず渡して欲しいと手紙を渡し開放してくれた。
姫が封を開けるとさらに封筒が入っていた。
短く「若殿へ。人定初刻(21時頃)あの場所で待つ」と書かれていた。
相手は赤の騎士団中隊長で「あの場所」と言うのは話をした場所だと思われる。
みんなに説明する。
「一人で行くのは危険だ」と言う意見が出たが相手も少数だろうし、他の領主に悟られても面倒なのでからこちらも少数で行くと伝えた。
一番「危険です」と言っていたのは姫だったが、美女さんと爺が付き添うという話で納得してもらった。
黄昏正刻(20時頃)に美女さんと爺と翁の兵士隊長他3名ほどの兵を連れ立って、斥候の為という建前で小砦を出た。
誤字修正
450名の塀が居たらしいが → 450名の兵が居たらしいが
反横行軍 → 反国王軍
取り込んトータルで → 取り込みトータルで
皇帝の直轄地 → 国王の直轄地
すでい崩れていた → すでに崩れていた
領主軍派 → 領主軍は
体制を崩した → 体勢を崩した
という情報がは入る → という情報が入る
あの場所からで待つ → あの場所で待つ
描かれていた → 書かれていた
一部、間違っていた時刻を修正。