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過去の精霊  作者: 由城 要
第3部 Elementar story
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第4章 1


 そこで見たものを説明するのはとても難しいことだった。鉄格子を武器に変えたあの力。まるで手品でも見ているかのようだった。

 漆黒の瞳はこちらを振り向くことなく、男達に向けられている。その背中がサーシャ・レヴィアスと重なって見えた。





    - 黒の閃光 -





「お、見えてきたじゃねーか。あそこが本拠地か?」


 サクさんに手綱を奪われた僕は、向こうに見える建物に目をやった。砂漠の中にも時折木造の構造物がある。話によれば、それらは遊牧民が一つの季節を過ごすための仮の住まいらしい。

 そして、前方に見えるあれがおそらく、ブルネラという人がアジトに使っている集落。

 僕は広げた地図を適当に仕舞い込んだ。後方の兵士達にそれを伝えると、後続が僕らの馬を追い抜いていく。


「おおっ?……なんだ、お弟子くんは行かねえのか?」

「……」


 僕の役目は案内のみだ。サーシャさんからも、命を落とさない程度に、と釘を刺された。実際のところ、兵に加わっても戦力にはなれない。

 でも。僕はレイテルパラッシュを握りしめる。


「っ……行きます!」

「威勢がいいねぇ。んじゃ、ちっと急ぐか」


 サクさんが手綱を操り、軍の後ろについていく。二人分の体重を乗せている分だけ速度は出ないけれど、先陣の中に加わることはできた。

 剣を引き抜いて、静かに呼吸をする。相手が相手なだけに降伏はしてくれないはずだ。生死を賭けた戦いになるのは目に見えている。

 集中を高める僕の後ろで、前方を見ていたサクさんの緊張感のない声がこぼれた。


「……あっちゃー、遅かった……」


 思ってもみない言葉に、一瞬僕の思考が停止する。咄嗟に顔をあげると集落でもひときわ大きな家の前に男達が集まっていた。

 でも彼らの視線はこちらではなく、家の扉の前に向けられている。

 馬に乗った僕らにはその中心にいる人物が見えた。黒髪の、女の人。スラリとした体躯に白い顔をしている。肌の色と対照的な髪の色が印象的だった。

 彼女は男達の中心で何かを放り投げた。それは本当に一瞬で、彼女が持っていたものが何なのかさえ分からなかった。


「!」


 でもその刹那、僕はある予感を感じて叫ぶ。


「止まってくださいっ!!」


 僕の精一杯の大声で、何人の兵士達が減速してくれただろうか。後ろでサクさんが額を押さえたのが気配で分かった。

 彼女の頭上から黒い鉄の塊が回転しながら落ちてくる。慣れた手つきでそれを掴み取ると、その人は周りを取り囲む男達に向けた。

 中心から除く空洞。ぽっかりと開いたその穴を見たとき、僕の脳裏にある記憶が浮かび上がる。冷たい光を放つ、黒く細長い銃身。見覚えがある。あれは一体何処で……。


「……っ!」


 即座に背中に寒気が駆け上がって、次の瞬間轟音が辺りを埋め尽くした。銃声はけたたましく連続し、その度に彼女の周りを取り囲んでいた男達が倒れ込む。


(そうだ、あれは)


 僕は息を呑んで、その女の人を見ていた。


(アタランテで……トゥアス帝国で、見たことがある……!)









「……今の音は」


 男達の戦々恐々とした様子に、シエルラ・サンタクルスの手が止まった。半開きになった扉から外の様子を覗き見る。

 襲ってくる敵を撃退しながら地下から出ると、予想通り建物は包囲された状態だった。彼女は自分が先に外へ出ると言い残し、男達の勢いが収まるまで出てこないようにと釘を刺した。

 確かに彼女の言葉は正しい。男達の役目は、三大戦士である僕をここに拘束すること。先に姿を現したのが僕なら、彼らは全力でかかってくるはずだ。

 コンコン、と扉を外から叩かれる。シエルラは視線を敵に向けながら、声だけをこちらに投げた。


「迎えが来ているぞ、三大戦士」


 僕は扉を開いた。足並みの揃わない男達の向こうに、見慣れた軍服の集団が見える。それを見た瞬間、胸に突かれるような痛みを覚えた。

 おそらく今ネオ・オリの城下は戦場になっているはずだ。三大戦士一人の人質によって人員が少ない状態での戦いになるだろう。それをわざわざこんな場所まで兵を裂くということは……。

 眉間に皺を寄せた僕の脇で、シエルラ・サンタクルスが静かに笑った。


「あの陛下は年のわりに出来た人間だな」


 夜を連想させる瞳が遠くを見つめて呟く。


「一か十かを問う奴らより、よっぽど分かりやすい。どれ一つとして捨てるものはないと言いたいんだろう」

「それは……!」


 だからと言って、この状態でその選択は博打だ。切り捨てることが出来るこの状況で、僕に救出の人員を裂いたのは爪が甘いとしか言えない。

 シエルラは肩をすくめてため息をついた。手に持っていた銃器をぐるりと回転させると、再び元の鉄格子の形に戻った。


「だが、その選択は民に、国民に受け入れられるだろう」

「この賭けに勝てば、の話です」

「ああ。だから言っただろう?」


 シエルラは背中を向けたまま言う。


「陛下はこの戦いの勝利を信じ、その先の未来にお前が必要と判断した」


 ただそれだけのことだ、と。

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