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過去の精霊  作者: 由城 要
第2部 New world story
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第2章 1


 子供達が精霊の召喚を競い始めた頃、俺もまた蛉人を探していた。アイルークのフィオよりも強い蛉人を。今思えばそれはジジイのデルヴァしかいなかったが……。たまたまジジイの寝室に入った俺は、見つけた。机の一番下の引き出しに入っていた、一枚の紙を。





  - 堕ちた蛉人 -





「はあぁぁっ!?」


 俺は思わず声をあげていた。サーシャが一緒ならば確実に射殺されかねないほどの大声で。周りの客達が何事かと一斉に振り返る。俺はテーブルを拳で叩いた。アイルークは相変わらず呆れた顔をしている。


「どうゆうことだよ!あの朴念仁が!?」

「昔は随分派手に遊んでいたらしい。まぁ、今はどうか分からないけど」


 アイルークのジトっとした目を受けて、俺は顔を顰める。これは喚び出して問いつめるしかない。勿論、こんな店の中で具現化させるわけにはいかねぇから、喚び出せるのは意識だけだが。

 俺は小声でヴァルナの名前を呼んだ。いつも通り、一度呼んだだけでは反応を示さず、二度、三度と呼んでやっと意識だけを喚び出せた。姿も影もないが、声だけ出てくれば会話は出来る。

 ヴァルナの声が気怠げに呟く。


『……なんだ、見つかったのか?』

「見つかったのはテメェの悪行だっ!」


 ヴァルナの意識がふとアイルークに向けられる。おそらく俺を通してある程度のことは見ていたんだろうが、アイルークの存在に気付くと、納得したように


『ああ……』


 とだけ言った。ああ、って何だよ、ああって!?っていうかヴァルナを見た時に『伝説によれば気難しい性格だ』って言ってたのはアイルークだろ!

 アイルークに視線を向けると、ため息をついてこちらを見た。


「確かに言ったけど……あれは男の魔術師限定での話」

「はぁ!?」

「ヴァルナ。お前のご主人様に本当のことを教えてやろうか?丁度此処に……被害者の一人がいるわけだし」


 被害者。その三文字に俺は震えた。まさかとは思うが、いや、そんなまさか……って、おい、アイルーク。なんでお前呪文を唱えてやがる。今、もの凄く聞き覚えのある名前を唱えてなかったか?俺の気のせいか?気のせいだって言えよ、オイ!!

 背中を通っていった寒気が殺気に変わった。思わず椅子から立ち上がろうとした体が見えない重圧で押さえつけられる。アイルークは苦笑を浮かべながら俺を見た。


「さて、と……これでお互い2対2だ」

「ヴァルナ……テメェ、まさかフィオにまで……?」


 姿は見えないが、確かに蛉人の気配がする。おそらくアイルークは俺と同じように意識だけを喚び出したらしい。重苦しい空気を感じながら、俺はヴァルナに問いかける。

 するとヴァルナは答える代わりに俺に向かってこう言った。


『あの時言っただろう。……終焉の地にて再会するとは、よほど業が深いようだ、と』


 あれは俺達の話じゃなくて、お前等の話だったのかっ!!









 全く、お前は何にも分かってないんだな、フレイ。……まぁ、仕方ない。フィオに話をさせるのは酷だから、俺から話すことにしようか。耳の穴かっぽじってよく聞いとくことだ。

 昔……といっても、俺たちなんか影も形もない大昔の頃。精霊の世界はジイさんの使役してた王デルヴァによって支配されていた。蛉人は精霊の中でも位が格上、つまり蛉人の王は精霊と呼ばれる種族全体の王になるわけだ。

 そんなこと分かってるって?んじゃ、デルヴァは何を司っていたか分かってるか?……『繁栄』、あとは?

 ……おいおい、お前さ、ジイさんの話聞いてたか?というより、お前、預言書集めてたくせに知らなかったのか。

 デルヴァは『繁栄』と『時間』を司っていた。じゃなきゃあんな預言書、いくら天才と言われたジイさんでも作れる訳ないだろ。お前のバカさはよく分かった。いや、よく分かってた。

 ……とりあえずそれは置いておこう。

 そのデルヴァの王妃、それがフィオだ。『風』を司る蛉人は多々存在したが、その中でも彼女は強く、美しかった。勿論、今も気高く麗しいけどね。

 二人の結婚に精霊界は多いに盛り上がった。それはそれは盛大に婚儀の準備が行われた。様々な妖精や精霊が祝福に訪れ……それはそれは幸せな婚儀になるだろうと言われていた。

 でも婚儀の前夜、ある悲劇が起った。美しき精霊の色香に誘われた不届き者が彼女の元に忍び込み、花嫁を手篭めにしてしまったことだ。

 ……フレイ。内輪もめは後にしてくれないか。

 兎に角、その一件でデルヴァは怒り、不届き者を地中深くの牢獄へと堕とした。……聞いてるか?

 まぁ、確かに精霊は術者と契約すれば死後もまた自分に転生できる。記憶は一応持ち越してはいるけど、ヴァルナにとっては前世の話かもしれないな。

 大丈夫、フィオも当時ならともかく、今すぐ捕えて術者との契約を出来ないようにして牢獄に繋いだり、死なない程度に永遠にいたぶるようなことはしないって言ってるよ。彼女にとっても前世のことだからね。

 ヴァルナが堕ちた蛉人と呼ばれる所以は諸説あるけど……これが表向きには一番の理由だ。聞いた話じゃ、昔は鉄砲玉だったらしいじゃないか。確かに『樹』と『生命』を司るお前にとっては、デルヴァは相性の合わない相手だったのかもしれないな。

 ……。

 さて、と。それじゃあ、俺たちは先に帰ろうか、フィオ。しばらく見苦しい内輪もめが続きそうだ。レディじゃなくても、男の言い訳は見ていて気分の良いものじゃないよ。

 じゃあ、お先。









 朝焼けの空が砂漠を照らしていく。徐々に熱風が汗を誘う時間になってきた。馬の前方にオアシスと見間違うような逃げ水が浮かんでいる。

 ふと周りを見渡すと、山かげが見えてきた。トゥアス帝国のすぐ近くだ。ネオ・オリの領土の端まで来たんだと、僕は改めてそう思う。


「もうすぐですね」


 僕がそう言うと、先を馬で歩いていた先生が振り返った。


「よく分かったね。地図がもう頭に入ったのかな?」


 僕は曖昧に笑ってみせた。ここまで来るのに3日、休んでいる時も眠る前も、常に地図を見ていたせいだ。喜んでいいのか、とても複雑な気持ちだ。

 先生と僕は国境の付近を通ってここまで来た。辺境と呼ばれる地域の部族に話を聞いて回り、情報収集にあたっている。でもやっぱり、詳しい話は出てこなかった。

 馬の手綱を操りながらふと視線を横に向けると、山の麓に人影が見えた。もしかしたら商隊かもしれない。


「あ、フリッツ先生、あそこに商隊がいますよ」


 僕が指をさすと、先生は少し背伸びをしながらそちらを見る。数人の人と、馬、そして大きな荷物。先生は目を細めると、馬の手綱を引いて進行方向を変えた。


「話を聞いてみよう」


 歩みが早まる。僕も後に続くようにして左手で手綱を操った。

 山の麓にはかろうじて緑が残っていた。といっても、砂と砂の間に雑草が顔を出しているくらいのもので、木が生えているわけでもないけれど。

 商隊に近づいていくと、彼らはこちらを見て目を丸くした。馬に水を与えていた屈強そうな男の人が、汗を拭きながら立ち上がる。


「なんだなんだ……今日はやけに人に会うな」

「お忙しいところすみません。少し話を聞いて回っていまして……」


 男達は全員でざっと20人くらいいそうだった。それぞれが周辺に散らばって携帯食料を齧ったり、馬の毛並みを整えたり、少ない日陰に横たわったりしている。

 先生が話しかけた男の人は奇妙そうな顔をして首を傾げた。


「なんだ。お前達もあの学者とかいう男の連れか?」

「学者?」


 僕が首を傾げると、男の人は後ろを親指で指し示した。見ると、後ろの方で他の商隊の人に話しかけている人がいる。服装はロングコートを羽織っていて、後ろで一つに纏めた髪が特徴的な男の人だった。ふと、先生の顔色が険しくなる。


「だーかーらっ。ちっと背が高めの、目がこんなんな黒髪の女!ムスっとしてて長髪で……え、見てない?あー、分かったよ。もし見かけたら相方が探してるって伝えといてくれ。……おっと」


 日陰で寝転んでいる人にそう言った彼は、立ち上がると僕らを見て目を丸くした。先生が疲れたようにため息を吐く。


「おんやぁ、こんなところで会えるとは……偶然、偶然」

「貴方はサク・クロヴァーラですか。こんなところで一体何を?陛下が許可を下ろした調査の地域から随分逸れているように見えますが……」


 先生の知り合いだろうか。でも、陛下の許可とか、調査の地域とか、学者とか……なんだか仕事上の知り合いみたいだけど。サクと名乗った男の人は、腰に帯剣をしていた。剣士なんだろうか。体格はロングコートに隠れて見えないけど、手首の太さからすると、結構な筋肉がありそうだ。


「えっと……?」


 僕がそう言うと、サクさんはこっちに気付いたように目を留めた。


「へぇ。三大戦士が従者一人で遠出たぁ、珍しい。……ん?あ、そういやルヴァの代表も綺麗なレディを連れてたな」


 ルヴァの代表と、綺麗なレディ。あ、テレジアさんとサーシャさんのことかな?

 先生がため息を吐いて僕を紹介してくれる。


「彼はクリフ・パレスン。私の元教え子で、貴方の言う女性の同行者です。……クリフ君、彼はサク・クロヴァーラ。学者連合の人間で、調査の為に辺境をまわっているんだ」


 学者連合。聞き覚えのある言葉に僕が驚いた声を上げようとしたその瞬間、僕の驚きを更に上回る声でサクさんが叫んだ。


「マジでかっ!あの美女、男がいるのかっ」

「え、えぇっ!?ち、違いますよ!僕はそうゆうのではなくて……」

「……あれ、そうなのかい?いつの間に彼女とそんな関係に?」


 先生の言葉に僕はブンブンと首を横に振った。サーシャさんに男の人がいるなんて想像もつかないくらいありえないことだと思う。そして変に誤解されてしまうと困る。だって僕じゃなくて、フレイさんが多分……ごにょごにょ。

 僕の言葉にサクさんはまた大きな声で言った。


「何っ!?男を二人も侍らせてんのか!さすがあれだけの美人はやることが違うな……」


 は、侍らせ……えっと、どっちかというとお尻に敷かれてるって言った方がいいような。先生はなんだか納得したように頷きながら独り言のように呟く。


「へぇ……それは面白いな。調査が一段落したら一度屋敷に寄ろうかな」


 そ、それは……フレイさんのトラウマが刺激されてしまうのでやめて下さい……。

 フレイさんは未だに預言書の一件で三大戦士に殺されかけたことを根に持っている。もし先生まで屋敷に連れて帰ったら、確実に拳が飛んでくるはずだ。

 あわあわしてる僕を見ていたサクさんが、我に返ったように手を叩いた。


「ま、美女の話は置いとくとして。……三大戦士様は見なかったか?俺の護衛」

「護衛……?」


 サクさんは僕の方を見て言った。


「ああ。ちっと背が高くて、黒髪に黒い目をした長髪のやつ。肌の色は白っぽくて、可愛げのない顔した……シエルラ・サンタクルスって女だ」


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