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予知能力

作者: 雪猫
掲載日:2026/10/24

「私は、予知能力者です」

7人を殺した殺人鬼は、

面会室で探偵にそう言った。


「期待させて申し訳ないですが、

あなたの頭脳を上回る程の頭脳は、

私にはありません。

子どもの時のエピソードも

隠しきれない天才的頭脳の証拠ではありません。

あなたとは違う。

私は凡人です。

ただ、完璧な予知能力があるだけです。


あなたの導き出す天才的推理の結果を

私は事前に『見ていた』のです」


信じられないと狼狽する探偵に、

殺人鬼は目を見て言った。


「あなたはもう、

私の言ったことが事実だと理解している。

私には分かるのです」


探偵は何度も否定した常識外の結論を

事実と認めない訳にはいかなかった。

それ以外、

今までの全ての辻褄が合う、理由は無いから。


直ぐに気を取り直し、探偵は聞いた。

「良いだろう。君が予知能力者であると信じよう。

だが、その場合、看過出来ない別の矛盾が生じる。


第1に、なぜ人を殺した?

世間や警察は、君を快楽殺人鬼のように扱うが、

君にその傾向はない。

毎回、『嫌がりながら』殺している。

本当は殺したくないのに殺している、

そんな殺害現場しかない。

予知能力者ならば、嫌なことは回避することが出来る。

そうではないか?


第2に、なぜ予知能力者の君は、死刑囚として牢屋にいる?

予知能力で、いつまでも私や警察から逃げ回ることが

可能だったはずだ。


どういうことだ?」


殺人鬼は、哀しそうに微笑みながら、答えた。


「さすが、話が早い。


まず第1の理由は、

私が予知能力者だからです。

そして、私がただの凡人だからです。


私はただ、死にたくなかった。

それだけです。


でも、この予知能力は、

私に逃れられない未来を見せた。

どんなルートを辿っても、

私は殺された。


彼らに。


私は自分が殺される前に、

彼らを殺すしか無かった。

正当防衛で、先に殺すしか無かった。

法の下では加害であっても。


一度殴られてから。危険が迫ってから。

それでは遅すぎた。

そこまで待っていると、

どんなルートを辿っても私は死にます。

私が生き残るためには、自分が精神的・体力的に

万全の時に殺さなくてはならなかった。

法が許すよりも、ずっと前に。


社会の隅で、私を精神的に追い詰め、

精神病院に追いやり人生を壊し、

私に自殺のルート以外残さない者。

物理的に、エスカレートしていく暴力で

私を殺す者。

私を疑い狙う、彼らの家族。


私は、予知能力を、

人助けに活かせる人間でもなければ、

自己犠牲を飲み込める人間でも

ありません。

死ぬのが怖い、ただの凡人です。


そして、第2の理由は、

あなたに捕まるこのルートしか、

私には生き残る道がなかったからです。


私は自分が生き残ると共に、

殺人が最小になる道を選びました。


そして、私が殺した内の1人、

あの国会議員は、強硬な死刑賛成派の法務大臣になり、

私の死刑執行を命令するはずでした。


代わりに、死刑反対派が法務大臣になります。

私に死刑が執行されることはありません」


探偵は驚愕した。

しかし、彼の話が事実だと分かっていた。

そして、面会の時間は終わった。


最後に彼は言った。


「信じてくれるのは、あなただけと分かっていました。

証拠を見せても、他の人は限定的に信じるだけ。


私の『他に打つ手が無く、やむを得ず』ということを

完全に理解してくれて、信じてくれるのは、あなただけです。

ありがとう。


あなたが存在しなければ、

私は倍の人間を殺さなければいけなかった。

あなたは最高の探偵です」


それが、探偵が彼を見た最後だった。


彼の言葉通り、

死刑が執行されることはなかった。



1年後、彼は紐で首を吊って死んだ。



彼は探偵に手紙を残した。


『この1年は、私の人生で初めて訪れた穏やかな日々でした。

やっと人生を終えられます。


あと少ししたら、私は罪の意識に苛まれ、自我が壊れます。

私は凡人です。

正当防衛と分かっていても、崩壊は避けられません。

だから、その前に死にます。

この終わりを迎えられることが、何よりも嬉しいです。


死ぬことは今も怖いです。

でも、これが私にとって唯一の最善の道です。


この世界は私にとって、とても難しいのです。


ありがとう。さようなら。



P.S.あなたの未来は、あなたが期待するよりは

仄かにですが、明るいでしょう』



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