放って置いときましょう
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ミネ、ちょっぴりオルツァーを見直しました。
その辺の蔦を引っこ抜いて強化し、私達を襲ってきた奴らを繋げて縛っておいた。
「防火強靭」
ショボいけど火魔法を使う人が居る様だから、蔦は防火もしておこう。
まあ、確かにファイアーボールを連発するより、射かけた矢に火を灯した方が魔力も少なくて済むわよね。
「ミネは、魔術を沢山知ってるな。小さいのにスゴいな」
小さいけれど、17歳ですから。言えないけど。
「器用貧乏なんです。魔力は多くて、適性魔法も多いんですけど、大技が使えなくて。どれも、生活魔術程度なんです」
「因みに、ミネの1番の大技は?」
「お風呂を沸かせます」
「はい?」
「土魔法で穴を作って固め、水魔法で水を出し、火魔法でお湯にします」
「うん。確かに3種類の魔法が使えないと、出来ないな。ミネは、魔法で攻撃は出来なくても、便利そうだな」
「まあ、使い様によっては、色々出来ますけどね。さて、こいつら、どうしますか?このまま置いときます?」
私の問いかけに、オルツァーさんは、私が水網で捕縛した1人の髪を引っ掴んで、無理やり顔を上げさせた。
「お前ら、誰に、何を頼まれた?」
「お嬢様に、その、お前を王都に連れ戻せと」
「何処のお嬢様?」
「オベロン商会の頭取の。正攻法では、ムリだろうから、人海戦術でも何でもして、連れて来いと言われた」
オルツァーさんは、男を乱暴に押しやり、地面に打ち付けた。そして、頭をかきながら、私の方を向くと、疲れた顔をして溜め息を吐いた。
「すまん。私の追っ手だ。出立の準備をして、急いで馬に乗るぞ」
大きく頷くと、私は急いで馬の方に走った。何か知らないけれど、旅を急いだ方が良いみたい。
「おい、お前ら。エルミラに、『オルツァーは、お前と結婚する気は無い』と言っておけ!じゃあな」
私は、オルツァーさんに馬に乗せてもらい、オルツァーさんは私の後ろに乗って、馬を走らせた。
私達を襲ってきた奴らは、ゴロゴロ転がったまま捨て置かれる事になった。
バイバイ!魔獣に食べられない様に、気を付けてね。足は縛ってないから、多分、大丈夫。頑張って逃げて。
「済まんな、巻き込んで。てっきり、お前の追っ手かと思ってたが、私の追っ手だった。ちょっとばかり、しつこい女がいてな。私が砦に帰ったら、あいつも諦めるだろう」
ふうん。女の人に、追っかけられてるんだ。ふうん。
何か、ちょっと釈然としない。
ふうん。そうなんだ。
何だか、モヤモヤした気持ちを心の中に抱えながら、何故かちょっと腹立たしくて、無理やりオルツァーさんに凭れかかり、走る馬に身を任せた。
オルツァーさんは、私の頭に顎を乗せて、ちょっとばかり元気がなかった。
ふうん。ふうん。
気まずい雰囲気が、昼食の休憩まで続いた。
そろそろお腹が空いただろうと、オルツァーさんが言い出して、その辺の野原で馬から降りた。
馬はオルツァーさんに身体を拭いてもらい、川の水を飲んで草を食んだ。
私は、辺りに生えていた食べれる草や干し肉、川の水を鍋に入れて火にかけた。
元気が無い時は、薬草入りのスープに限る。
「これでも私は貴族だからな、親同士が決めた婚約者が居たんだ」
馬の世話から戻ってきたオルツァーさんは、宿の女将さんに作って貰った丸パンにハムやらチーズやらを挟んだサンドイッチを取り出し、ボソボソと話し始めた。
あー、辛いんなら、話さなきゃ良いのに。
でも、多分、オルツァーさんは、誰かに聞いてもらいたかったんだと思う。
「ふうん。そうなんだ」
私は、小さな声で相槌を打つと、オルツァーさんにマグカップに入れた熱々のスープを渡した。
「熱いから、気を付けてね」
「おう。ありがとうな。はい、これはミネの分だ」
女将さんの作った丸パンのサンドイッチは、大きかった。オルツァーさんの手の中にあった時は、大きいとは思わなかったけれど、私の手の中にあると、ずいぶんと大きい。
ふうん。オルツァーさんの手は、大きいのね。
あの大きな手で剣をふるって、私を守って敵を倒したの。
あの時は、随分と格好よかったわね。
「で、その婚約者にだな、ある日、いきなり『好きな男が出来て、お腹にその人の赤ちゃんが居る』と言われたんだ」
え!?
思わず、飲んでいたスープを吹き出さなかった私は、偉い!
と言うか、何ですか?それ。
「いやぁ、ビックリしたな。あの時は。騎士になる試験に受かって、喜び勇んで婚約者のエルミラの所に報告に行ったら、報告する前に、とんでもない報告をされたよ!
それまで、エルミラの事は結構好きだったんだが、一気に醒めたよ。
晴天の霹靂とは、この事だったね」
いえ、私の方こそ、ビックリしました。
「エルミラは大人しそうな見かけなのに、結構、気が強くてね。そこが気に入ってたんだが。
お腹の赤ちゃんの父親は侯爵家の嫡男でな、婚約者も居たんだよ。で、エルミラは夜会で、その婚約者の令嬢と喧嘩したあげく『私のお腹の中には、貴女の婚約者の赤ちゃんが居るのよ』と騒ぎだしてな。
大騒ぎだよ」
カラカラと笑って、オルツァーさんは丸パンに噛り付き、スープを啜った。
「このスープ、旨いな。何か、腹の底から力が湧いて出るみたいだ。ありがとな、ミネ」
私は、コクりと頷いた。
「それでだな。危うくその騒ぎに私も巻き込まれる筈だったんだが……婚約者の為に王城の騎士試験を受けたのに、婚約破棄された傷心の私は、既に阿呆らしくなって全てを捨てて砦の叔父の元に走っており、危うく難を逃れた。
と言う訳だ。
いやぁ、危なかった、危なかった」
一息ついて、パンを食べながら、オルツァーさんは、その後は、淡々と話を続けた。
「騒ぎの張本人の侯爵家の嫡男は、赤ん坊の事を認めず、仕方がないから、エルミラは私の子だと言い張ったんだが、生まれて来た子は、髪色も瞳の色も侯爵家の嫡男にそっくりで、私には髪色も瞳の色も似ても似つかない。
まあ、当然だな。私は、エルミラに手を出してないんだから。
お?ミネ、そんな辛気臭い顔をするなよ。何だ、パンをしっかり食べろよ。大きくなれないぞ」
「大きすぎるよ、このパン。もう、お腹一杯」
「じゃあ、私が貰おう」
私がパンを差し出すと、オルツァーさんはパンにガブリと噛り付いた。
あ、私の食べ差しなんだけどな。
ちょっと、恥ずかしい気がする。
「どうした、ミネ。大丈夫か?顔が赤いぞ」
さあ、どうしたんでしょうね?よく判らないけど、顔がちょっと熱い。
「まあ、さっきの話なんだが、生まれた子供だけ取り上げられたエルミラは、私が王都に戻る度にしつこく言い寄ってくるんだよ。『私の事が好きなんでしょう?結婚してあげるわ』ってな。
冗談じゃない。その度に断ってるんだが、しつこくてね。
ミネ、今日は、巻き込んでしまって、悪かったな。本当に、申し訳ない」
ふうん。そうなんだ。
婚約破棄された昔の婚約者に言い寄られて迷惑してるのね。ふうん。
私は、何故かちょっと上機嫌になって、オルツァーさんにスープのお代わりをよそってあげた。
「ミネの作ったスープは、本当に旨いな。女の子だったら、求婚者が殺到するぞ」
一見、能天気そうに見えるオルツァーさんが上機嫌でスープを平らげた。
ふふん。
「昼飯ちゃんと喰ったからか、ミネは、えらく機嫌がいいな」
「そうですか?気のせいです」
「私は、ミネの作ったスープが旨かったので、機嫌がいいぞ。また今度、作ってくれな」
「いいですよ。料理は、得意なんです。教授に作って、無理やり食べさせてましたから」
「無理やり?」
「研究に夢中になると食べないので、一口サイズの料理を作って、教授の口の中に隙を見て放り込んでました。スープは、手に持たせると自分で飲んでましたね」
「大丈夫か?その教授」
「日を追う毎に、教授が生きてるか、だんだん心配になってきている所です。アレグサー教授と仰る方なんですが」
「超有名な時空間理論の魔術研究者じゃないか!」
「他の時空間に住んでるんじゃないかと思う時が、時々ありますけどね」
学園の研究塔は、魔窟です。




