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貴方に恩はありませんので、出奔させていただきます  作者: Hatsuenya


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14/20

何処からともなく現れるのは、止めて下さい

 読みに来て下さって、ありがとうございます。


 オルツァーさん、孤軍奮闘中です。



 オルツァーさんのお腹の虫の野生の勘が無かったら、恐らく私は、オルツァーさんが敵の気配で起きた時には、何処かへ連れ去られた後だっただろう。


 怖い、怖い。


 野生の勘、万歳。お腹の虫、万歳。


 小さな影が自分の手首をサッと翻すと、その手の中に短剣が現れた。


「退け」


 ただそれだけ言うと、小さな影は、オルツァーさん目掛けて短剣を突き出した。オルツァーさんは、それを自分の剣の刃で受けると、ぐいっと押し返して、反対の手で、抱き寄せていた私を、後ろに押しやった。


「何か、こいつは得体が知れねえ。ミネ、ちょっと下がってろ」


 オルツァーさんは、そのまま相手を蹴飛ばしてベッドを下りると、力任せに押し倒した。

 ドアが開けられ、オルツァーさんにナイフが飛んできた。ドアから入って来た2人の男達が、オルツァーさんに向かって行った。


 オルツァーさんが咄嗟に飛び退いた隙に、小さな影が、闇の中に消えた。


「ガキには荷が重すぎたか」


 男の1人がそう言って、ユラリと剣を手に持ち、オルツァーさんに対峙した。もう1人もオルツァーさんに剣を向けた。

 私は、オルツァーさんとの手筈通り、荷物を抱えて逃げる用意をする。

 靴はキレイに拭って履いて寝ていたので、いつでも窓から飛び出せる。勿論、オルツァーさんに抱えて飛び降りて貰う手筈だけど。


 問題は、闇に消えた小さな影。あれが、何時また何処からか現れても不思議は無い。


 怖い。怖い。


 何なんだろう、あれは。


「ああ、あんた。俺を怖がってるね」


 私の目の前に影が現れ、小さな男の子の声が聞こえた。

 ベッドの上で窓際に後退った私を、影が掴もうと手を伸ばした。


 何?これ。


 何?


 子供?


「ミネっ!」


 オルツァーさんが、男達を薙ぎ倒し、小さな影に向かって手を伸ばす。


 私は更に後退って


「障壁反発」


 魔術を使った。教授達の実験が失敗した際に飛んできたモノや、怒って向かってくる魔獣をはね飛ばす為に使っている魔術。

 これならば、得体の知れない生き物も撥ね飛ばせる。


 小さな影は案の定、撥ね飛ばされ、オルツァーさんに向かって飛んでいった。


「うっ」


 何、今度は。


 後ろから、私は、誰かに後ろ襟を掴まれ、首が軽く締まった。


 振り向くと、そこにあった筈の窓は無く、ただ暗い闇があるだけ。


 嫌だ。今度は、何なの。


 私は、グイッと何かにそのまま引き寄せられる。


「ミネっっ!!」


 オルツァーさんは、撥ね飛ばされてきた小さな影を掴むと壁に放り投げた。後ろに引き摺られる私は片手をオルツァーさんに差し出し、オルツァーさんは私に手を伸ばし……。


 暗闇が、私を包んだ。


 これは。この魔力の感触は。


 暗闇から一転して、私は、明かりの灯る部屋へと引き摺り出され、抱き締められた。


「ミネルバ。僕のミューズ。やっと見つけたよ」


 何てこと。振り出しへ戻ってしまったじゃない。


「アレグサー教授。私は、もう年頃の女の子なんだから抱っこしちゃダメって、言ったでしょう。

 ちょっと、レガスさん。とにかく、これ、引っぺがして下さい」


 いつの間にか、アレグサー教授は新しい魔術を完成していたのね。何て厄介な、人騒がせな魔術だわ。

 教授の助手のレガスさんは、残念ながら教授を私から引っぺがしてくれず、教授は、そのままソファーに座り込んだ。


「もう、大変だったんだよ。最初はミネルバを探しに行こうと思ったんだけど、ミネルバが何処に行ったのか全然判らなくて。

 しょうがないから、ミネルバの魔力を辿る事にしたんだ。

 で、どうせなら今開発中の魔術で、辿ったミネルバの魔力を捕まえて本人ごと時空間に引っぱって、ここに連れて来たんだよ。

 本当、僕って天才だよね」


 さっきのアレか。私のあの魔術を辿って、ここまで私を引き寄せたのね。


「ミネルバが急にいなくなるから、こっちは大変だったんだよ。上手く考えが纏まんなくて、実験は失敗するし、更にそれを収拾しようとしてミネルバのいつもの魔術を真似しようとして失敗して、危うく大惨事だよ」


 教授がペラペラと喋っている間に、レガスさんは私の荷物を取り上げ、お茶の準備をしていた。


「教授、とりあえず、下ろして下さい。私は何処にも行きませんから。少なくとも、今は」


 真夜中のお茶会が始まった。私は教授の隣に座らされ、私の向かい側のソファーにはレガスさんが座った。

 レガスさんは、お茶を飲みながら、私を上から下まで眺めて怪訝な顔をした。

 他所の研究室の助手達にモテモテのイケメンが、台無しだわね。


「それにしても、どうしたんだ?その格好は。さっき見た時は、教授がミネルバの弟を間違えて捕まえてしまったのかと思ったぞ」


 私に弟は居ませんてば。


 とりあえず、元の場所に戻して欲しいって言ったら、我が儘ですか?


 



「あ!最後のバイト料貰ってなかったんで、下さい」


「えー。最後のと言わずに、ずっとここに居てね。ミネルバ」


「新しいバイトを雇ったんだが、教授は気に入らないんだとさ」


「だって、人の喉に食べ物を突っ込もうとするし。オマケに、スープが不味い」


「あ、スープでしたら、私が開発したスープの素を使えば誰でも美味しいスープが作れますよ。幾つか持ってるんで、買って下さい」


「それは買うとして。取り敢えず、何がどうなったか私達に説明しろ。そこからだ」





 必要は発明の母なので、ミネルバを探す為だけにアレグサー教授は新しい時空間魔術を開発したようです。


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