屋台と言えば、これでしょう
読みに来て下さって、ありがとうございます。
追っ手が、かかっているのに、結構呑気なミネとオルツァーです。
オルツァーさんが毎年実家に通っている旅程を変えたからか、その日は誰も私達を襲って来なかった。
馬を止めて休憩する際は、昨日と同じく薬草を摘んで薬を何種類か作り、すっかり売り切れてしまった枕をもう幾つか作っておいた。
「今日は、早めに町に着くからな。昼飯が終わったら休憩は無しだぞ。大きな町だからな、ちょっとそこで買い物をしていく」
その町は、王都ほどではないけれど、確かに大きな町だった。お店の数も多いが、それ以上に市場が盛んで、色んなモノを売る屋台が数多く連なっているらしい。
どんなだろう。少しばかり、ワクワクしている。
お祖母様に学園の寮に入れてもらう前に、一度だけ買い物に連れて行ってもらい、宿屋にも泊めてもらった。
「いいかい。いざと言う時の為に、よく覚えておくんだよ。人生、何が起こるか分からないからね」
まず、王都では、宝飾品を買ってくれる店で、お祖母様はネックレスを1つ売った。売ったお金で、古着を売るお店でドレスを買ってもらい、選び方を教えてもらった。
食料品や日用品の買い方、食堂の利用の仕方、町の歩き方、宿屋の選び方。
その日は宿屋に泊まって、翌日、最後に乗り合い馬車の使い方を教えてもらい、「いざと言う時は、これをお売り」と当座のお金と共に指輪をもらった。
「学長には、しっかり話をしてあるからね。雑用のバイトを紹介してくれるから、しっかり自分で生きていくんだよ」
それが、お祖母様に会った最後だったわね。元魔法薬剤師だったお祖母様は、魔法の基礎も、魔法薬の作り方や料理に裁縫まで、全部、小さかった私に教え込んだ。私が1人で『しっかり生きていける様に』。
「随分と考え込んでいるようだが、どうした?ミネ」
宿で市場に行く用意をしながら、オルツァーさんが私に言った。オルツァーさんは、平民服に着替えている。町中では、騎士服だと目立つものね。
逆に、道中は騎士服だと普通の盗賊は寄って来ないんだって。
まあ、私には無理だけど。
「枕が5つとも売れたからな。ミネの軍資金は、ばっちりだ」
そう、オルツァーさんの言う通り、またもや枕は完売。宿のご主人に女将さん、息子、お爺さんとお婆さんにまで、お買い上げいただきました。3つは前回と同じ条件で、後の2つは宿代と同額の現金で。
「私は、ここで上司に土産の酒を一本買って帰るんだ。ミネは、どうする?お祖母さんに何か買って行くか」
「うーん。何が良いんでしょうか?会った事が無いので、何が好きなのか知らないんですよ」
オルツァーさんが、怪訝そうな顔になった。
いや、だって、こんなに遠いんですよ。って、ああ、そうか。
「ミーシャさんは、正しくは私の大叔母なんです。すいません。初対面の人に詳しく説明するのもなんだったもので。亡くなった祖母に、大叔母の所に行くように言われたので、こうして大叔母を訪ねに行く途中なんです」
「まあ、あの時は、私とは初対面だったしな」
そして、どう見ても、怪しい人でした。今は、ちょっと信用してるけど。
人間、誰しも全面的に信用しちゃいけないって、お祖母様も言ってたし。
「この町には、一度だけだが仕事で来た事があるんだ。案内は、私にまかせておけ」
どちらにしろ、私は町には不馴れなんで、お任せしよう。付いて行きますとも。
「迷子にならない様に、しっかり手を繋いでおけよ。なんだったら、肩車でも良いぞ。肩車、してやろうか?」
いくら頑健な騎士とは言え、長時間の肩車は無理でしょう?大体、私、そこまで小さなチビッ子には、見えないわよ。多分。
「ほら、遠慮しないで。肩車ぐらい軽い軽い。ちょっとしたトレーニングみたいなもんだ」
人を、トレーニングの重石代わりに使わないで下さい。
私は、肩車されてしまう前に、オルツァーさんの片手を握った。
「よしよし、迷子にならない様に、しっかり手を握っておけよ。まずは、屋台からだ」
私の手をしっかり握ったオルツァーさんは、嬉しそうにはしゃいで、屋台に向かって歩いて行った。
食べ物屋や雑貨や色んな屋台を覗いた私達は、串焼き肉を頬張りながら歩いて行った。
「オルツァーさん。串焼き肉、美味しいです。このタレ、どうやって作ってるんでしょうか」
「確かに旨いな。今日の店は、当たりだ。今日の私達は、運がいい」
丸くて甘い黄色っぽい焼き菓子も、色んな果物の入ったジュースも美味しかった。
屋台で買って、歩きながら食べるから、格別に美味しいのかもしれない。オルツァーさんも楽しそうで、子供の様にはしゃいでいた。
いつもと違って、何か可愛らしい気がする。
「ほら、ミネ。あっちの屋台では、芋を揚げてるぞ。食べてみるか」
そう言って、オルツァーさんは私の手を引っ張って、次々と屋台を覗いて行った。
途中の路地で、そんな私達をジッと見ている小さな男の子に目が行った。
その男の子の後ろには男が2人立っていて、その内の1人は、男の子の肩に片手を置いて、何事かを男の子に囁いている。
男の子は、私達をひたすら睨みつける。
「ミネ。決して、路地には近づくんじゃないぞ。悪い奴らがいるからな」
ああ、あんな風な人達ね。
何故だろう。心が、ざわついた。
「そう言えばオルツァーさん。最初は自分の事を『俺』って言ってたのに、今は『私』って言ってますよね」
「ああ、ミネの教育上、よろしくないと思ってな。そう言うミネだって、最初は『僕』って言ってたのに『私』って言ってるよな」
「お互い、地が出てきたんじゃないですか?あ、でも、私の場合は本来『私』が第一人称ですが、オルツァーさんの場合は『俺』が第一人称ですよね。
別に、オルツァーさんは自分のことを『俺』って言っていいんじゃないでしょうか?」
「いや、何と言うか、その。格好付けたいんだよ。ちょっとな」
「そうなんですね。(格好つけるも何も、第一人称以外は、地が出てると思うけど)」
ミネの前では、ちょっと格好つけたいオルツァーさんでした。
ラブラブまで程遠い……。




