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貴方に恩はありませんので、出奔させていただきます  作者: Hatsuenya


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12/19

屋台と言えば、これでしょう

 読みに来て下さって、ありがとうございます。


 追っ手が、かかっているのに、結構呑気なミネとオルツァーです。



 オルツァーさんが毎年実家に通っている旅程を変えたからか、その日は誰も私達を襲って来なかった。

 馬を止めて休憩する際は、昨日と同じく薬草を摘んで薬を何種類か作り、すっかり売り切れてしまった枕をもう幾つか作っておいた。


「今日は、早めに町に着くからな。昼飯が終わったら休憩は無しだぞ。大きな町だからな、ちょっとそこで買い物をしていく」


 その町は、王都ほどではないけれど、確かに大きな町だった。お店の数も多いが、それ以上に市場が盛んで、色んなモノを売る屋台が数多く連なっているらしい。


 どんなだろう。少しばかり、ワクワクしている。



 お祖母様に学園の寮に入れてもらう前に、一度だけ買い物に連れて行ってもらい、宿屋にも泊めてもらった。


「いいかい。いざと言う時の為に、よく覚えておくんだよ。人生、何が起こるか分からないからね」


 まず、王都では、宝飾品を買ってくれる店で、お祖母様はネックレスを1つ売った。売ったお金で、古着を売るお店でドレスを買ってもらい、選び方を教えてもらった。

 食料品や日用品の買い方、食堂の利用の仕方、町の歩き方、宿屋の選び方。

 その日は宿屋に泊まって、翌日、最後に乗り合い馬車の使い方を教えてもらい、「いざと言う時は、これをお売り」と当座のお金と共に指輪をもらった。


「学長には、しっかり話をしてあるからね。雑用のバイトを紹介してくれるから、しっかり自分で生きていくんだよ」


 それが、お祖母様に会った最後だったわね。元魔法薬剤師だったお祖母様は、魔法の基礎も、魔法薬の作り方や料理に裁縫まで、全部、小さかった私に教え込んだ。私が1人で『しっかり生きていける様に』。



「随分と考え込んでいるようだが、どうした?ミネ」


 宿で市場に行く用意をしながら、オルツァーさんが私に言った。オルツァーさんは、平民服に着替えている。町中では、騎士服だと目立つものね。

 逆に、道中は騎士服だと普通の盗賊は寄って来ないんだって。

 まあ、私には無理だけど。


「枕が5つとも売れたからな。ミネの軍資金は、ばっちりだ」


 そう、オルツァーさんの言う通り、またもや枕は完売。宿のご主人に女将さん、息子、お爺さんとお婆さんにまで、お買い上げいただきました。3つは前回と同じ条件で、後の2つは宿代と同額の現金で。


「私は、ここで上司に土産の酒を一本買って帰るんだ。ミネは、どうする?お祖母さんに何か買って行くか」


「うーん。何が良いんでしょうか?会った事が無いので、何が好きなのか知らないんですよ」


 オルツァーさんが、怪訝そうな顔になった。


 いや、だって、こんなに遠いんですよ。って、ああ、そうか。


「ミーシャさんは、正しくは私の大叔母なんです。すいません。初対面の人に詳しく説明するのもなんだったもので。亡くなった祖母に、大叔母の所に行くように言われたので、こうして大叔母を訪ねに行く途中なんです」


「まあ、あの時は、私とは初対面だったしな」


 そして、どう見ても、怪しい人でした。今は、ちょっと信用してるけど。

 人間、誰しも全面的に信用しちゃいけないって、お祖母様も言ってたし。


「この町には、一度だけだが仕事で来た事があるんだ。案内は、私にまかせておけ」


 どちらにしろ、私は町には不馴れなんで、お任せしよう。付いて行きますとも。


「迷子にならない様に、しっかり手を繋いでおけよ。なんだったら、肩車でも良いぞ。肩車、してやろうか?」


 いくら頑健な騎士とは言え、長時間の肩車は無理でしょう?大体、私、そこまで小さなチビッ子には、見えないわよ。多分。


「ほら、遠慮しないで。肩車ぐらい軽い軽い。ちょっとしたトレーニングみたいなもんだ」


 人を、トレーニングの重石代わりに使わないで下さい。


 私は、肩車されてしまう前に、オルツァーさんの片手を握った。


「よしよし、迷子にならない様に、しっかり手を握っておけよ。まずは、屋台からだ」


 私の手をしっかり握ったオルツァーさんは、嬉しそうにはしゃいで、屋台に向かって歩いて行った。


 食べ物屋や雑貨や色んな屋台を覗いた私達は、串焼き肉を頬張りながら歩いて行った。


「オルツァーさん。串焼き肉、美味しいです。このタレ、どうやって作ってるんでしょうか」


「確かに旨いな。今日の店は、当たりだ。今日の私達は、運がいい」


 丸くて甘い黄色っぽい焼き菓子も、色んな果物の入ったジュースも美味しかった。

 屋台で買って、歩きながら食べるから、格別に美味しいのかもしれない。オルツァーさんも楽しそうで、子供の様にはしゃいでいた。

 いつもと違って、何か可愛らしい気がする。


「ほら、ミネ。あっちの屋台では、芋を揚げてるぞ。食べてみるか」


 そう言って、オルツァーさんは私の手を引っ張って、次々と屋台を覗いて行った。


 途中の路地で、そんな私達をジッと見ている小さな男の子に目が行った。

 その男の子の後ろには男が2人立っていて、その内の1人は、男の子の肩に片手を置いて、何事かを男の子に囁いている。

 男の子は、私達をひたすら睨みつける。


「ミネ。決して、路地には近づくんじゃないぞ。悪い奴らがいるからな」


 ああ、あんな風な人達ね。


 何故だろう。心が、ざわついた。






「そう言えばオルツァーさん。最初は自分の事を『俺』って言ってたのに、今は『私』って言ってますよね」


「ああ、ミネの教育上、よろしくないと思ってな。そう言うミネだって、最初は『僕』って言ってたのに『私』って言ってるよな」


「お互い、地が出てきたんじゃないですか?あ、でも、私の場合は本来『私』が第一人称ですが、オルツァーさんの場合は『俺』が第一人称ですよね。

 別に、オルツァーさんは自分のことを『俺』って言っていいんじゃないでしょうか?」


「いや、何と言うか、その。格好付けたいんだよ。ちょっとな」


「そうなんですね。(格好つけるも何も、第一人称以外は、地が出てると思うけど)」





 ミネの前では、ちょっと格好つけたいオルツァーさんでした。

 ラブラブまで程遠い……。



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