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貴方に恩はありませんので、出奔させていただきます  作者: Hatsuenya


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10/10

風呂上がりのビールは、欠かせません。じゃないだろ

 読みに来て下さって、ありがとうございます。


 そして、やっぱりやらかすオルツァーさん。ミネちゃん、がんばれ。



 翌朝、やっぱり私は、オルツァーさんにギュッとされて目が覚めた。

 ジタバタしてみるも、オルツァーさんは目が覚めない。これって、昨日よりも酷くない?お酒臭いし、イビキもうるさいし。

 潰れる、潰れるって!中身……内臓が口から出る!


 ジタバタしている内に、本の少しだけオルツァーさんの腕が緩んだけれど、それでも、まだ抜け出せない。

 それでも本の少し上に抜け出せたので、私は頭を少し振り上げ、オルツァーさんの額に自分の額を打ち付けた。

 ゴンっと鈍い音がして、目から火花が散った。


 痛い……。もう、嫌。


 騎士ってのは、頭まで石頭なのか。こんな所まで鍛えてるんじゃ、ないわよ。


 そのまま私の顔が落ちると、とんでもない事に、キスしてしまったら泣けるので、頑張ってズルッと元の位置に戻ってオルツァーさんの胸に突っ伏した。


「ん……何だ?何か落ちてきたのか?」


 違う、違うから。


「ミネ、お前、寝相悪いなぁ。ほら、寝惚けてないで、じっとしてもう一眠りしろよ。まだ朝早いか、ら……な」


 そこで、再び寝るんじゃない!


「いや、寝惚けてるのは、貴方でしょうが!いいから、起きて……起きてってば。……起きなさいっ!!そして、私を、離せっ!」


 教授の中には寝起きが悪い教授も沢山いて、発表とか表彰式の日に彼らを起こすバイトも多々こなした百戦錬磨の私だけれど、ここまで苦労した敵は初めてだわよ。


 そうして、私は諦めた……もう、いい。どうせ、ここまで来たら、一緒だわ。寝る、おやすみ。



 気がついたら、1人で寝ていた。寝惚け眼で布団の中から半分起き上がると、ベッドの脇で、椅子の背をこちらに向けて腕と顎を載せてまたがって座り、私を眺めていたオルツァーさんと目が合った。


「何してんですか?」


「うん、寝顔を眺めてた。よく寝てるなぁ。疲れてるみたいだから、起こすのも偲びなくて。で、ここ、どうしたんだ?」


 自分のおでこを指差して、オルツァーさんは私を見た。


 うん、おでこが痛い。


 私は、自分のおでこに触れた。ああ、腫れてるわ。最低。


 もっと最低な事に、オルツァーさんのおでこは、何ともなかった。

 これは、もう、私の、やり損だわよね。腹立たしい。


「まったく、何処で打ったんだ?寝相、悪すぎだろう」


 腹立たしい。腹立たしい、腹立たしい。


 思わず、オルツァーさんに枕を投げつけた私は、絶対に、絶対に、悪くないと思う。


「八つ当たりは、よくないぞ」


 更に腹立たしい事に、非力な私の投げた枕を事も無げに片手でヒョイと受け取り、オルツァーさんはそれを抱き締めた。


 腹立たしい、実に、腹立たしい。


「誰のせいだと思ってるのさ。この、酔っ払い!」




 昨夜、私は、旅の疲れとローザさんの類い希なるゴッドハンドによるマッサージのせいで眠くなり、オルツァーさんが大衆浴場から帰るのを待たずに夕食を済まし、先に寝てしまったのだ。


 一方のオルツァーさんは、どうだったか。


「大衆浴場に入った後は、ほら、ここの特産のキンキンに冷えたビールだろう?エールは何処でも飲めるが、ビールは他の領では飲めないんだよ。

 シュワシュワとした舌を刺激する少しばかりの苦味とスッキリした喉越し。風呂上がりには、堪らないんだぞ。それを、大衆浴場の隣の屋台で、婆さんが氷雪魔法でその場で冷やして売ってるんだよ。

 ここでしか飲めないと思ったら、ついつい飲んでしまってな」


「何杯飲んだんですか、オルツァーさん」


「うーん、ジョッキで、駆け付け3、4杯?」


 そこまでは、覚えてるのか。へー、ほー、ふーん。


「で、宿に帰って来て晩飯を食って、で、『はい、こちら、約束のエールです』と、女将さんがエールを出してくれて……その後は、朝だった」


 これだから、男って奴は。いや、男に限らないわね。教授の中には、何度失敗しても懲りない女教授もチラホラ居たっけ。

 ああ、懲りない奴は、一生、懲りないのかも。


 昨日は『格好いいかも』『ちょっと素敵かも』何て思った私が、莫迦でした。

 所詮、オルツァーさんは、オルツァーさんだったのよ。


「私のこのおでこの腫れは、ですね。オルツァーさんが私をギュッと抱き潰しかけた時に、私が苦し紛れにオルツァーさんに頭突きをした証ですよ!」


 判ったか、この唐変木が。


 私は、自分の前髪を上げて、オルツァーさんからよく見えるように、オラオラとおでこを付き出した。


 反省しろ、反省を!



 私が自分のおでこに昨日作ったばかりの薬を塗って包帯を巻く間中、ひたすらオルツァーさんは『すまん、本当にすまなかった』と謝り続けた。2人で朝食を食べに階下の食堂に行く頃には、『旅の間中、今後は一滴も酒を飲まない』という約束を、私はオルツァーさんに取り付けた。


「あら、ミネちゃん。おはよう。って、おでこ、どうしたの」


 朝から元気なローザさんが、眩しい。


「聞かないで。名誉の負傷だから」


 本当、私の人生の汚点にしかならないから、聞かないで欲しいの。ぐっすん。


「ちょっと、あんた!一体、この子に何をしたの」


 私とオルツァーさんの朝食をドンドンっとテーブルに置くと、ローザさんは片手を腰に当て、片手をオルツァーさん側のテーブル上にバンッと打ち付け、身を乗り出して、オルツァーさんを睨み付けた。


「まあ、それについては、だな。反省はしている。そして、ミネは将来、立派な騎士になれる程、勇敢だって事だ。私は、本当に誇らしい」


 誇らなくて、いい。そして、私がなるのは、騎士じゃなくて、魔法薬剤師だから。人の将来を勝手に決めてるんじゃあ、ないわよ。

 その証拠に、もう既に、おでこに塗った薬が効いてきた気がするわ。

 私は、きっと、凄腕の魔法薬剤師になれるに違いないわね。


「おい、ローザ!そいつがお前の新しい恋人なのか。お前!ちょっと表に出ろっ!」


 更にややこしい事に、ちょいと日に焼けた色黒の旅装束の男が、オルツァーさんとローザさんの間に割って入り、オルツァーさんを睨み付けた。


 どちら様?ですか。





「オルツァーさんって、酒に強いかと思いきや、実は弱い?」


「ほら、風呂上がりのビールは、回りが速いんだよ。うん、うん」


「反省しない奴は、ただの莫迦ですからね」


「大人になったら、ミネも一緒に飲みに行こうな」


「遠慮します(私が不幸になる結末しか目に浮かばないわよ)」


「ミネが、冷たい」





 オルツァーの好きなモノ。犬、猫、鶏、そしてミネ。酔っ払うと本能で持ち帰るモノを決めている男、オルツァー。

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