貴方がお持ち帰りした者です
新連載、始めました~。
辺境砦の騎士オルツァーと男装の魔法薬剤師見習いミネルバのラブコメ珍道中。20話~30話程度の予定です。
心を空っぽにして、お付き合い下さい。
朝だ!目覚めて横を見ると、ゴツい男が立っていた。
騎士服に身を包み、髭を剃ったその姿は、イケメンには、ちょっとカスった程度の若い清潔感溢れる騎士様だ。
「よお、坊主、起きたか。おはよう。
で、お前誰だ?何で俺のベッドにいるんだ?」
私は、貴方に昨夜お持ち帰りされた者ですが、何か?
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宿屋の下にある酒場では、柄の悪い連中が騒いでいた。この町にある宿屋はここ1軒。
ここに泊まるしか、ないよね。泊まれるもんなら。
「おい、坊主。1人か?母ちゃんや父ちゃんは、どうした?」
「お祖母ちゃんに、会いに行くんだよ」
まだ若そうな厳つい男の人が、エールのジョッキを持って、私の前に座った。こういう店は混んでるので、相席はいつもの事。
相手は、酔っ払い。こういう時は、はぐらかすに限る。嘘は言っていないしね。
問題なのは、部屋だ。生憎、今日は宿屋が満室で空き部屋がないらしい。宿屋のおかみさんに交渉して、酒場が終わった後に片付けを手伝って酒場の隅で寝かせて貰う事になった。
「宿代はタダか……」
旅は、まだまだ長い。節約は、大事だよね。
「何か言ったか?坊主。おっ!おねえちゃん、串焼き3本と、パンとシチューな。後、エールも追加」
勢いのある返事があって、すぐに酔っ払いの前にお代わりのエール、シチュー、串焼き肉が並んだ。
「ぼく、ごめんね。今日は客が一杯でさ。店を閉めるのが遅くなりそうなんだけど、大丈夫?」
恰幅のいい、宿屋の娘さんが、私の分のシチューもテーブルに置いて、私に話しかけた。
「うん、大丈夫だよ。僕、見かけより年取ってるし、頑丈だから何処でも寝れるから」
「何だ?何の話だ?」
「いえね、お客さん。今日は満室なんで、この子の泊まる部屋がないんですよ。だから、この後、ここで寝て貰う事になってて」
途端に、男が怪訝そうな顔になった。ドンッと、エールのジョッキをテーブルに打ち付けると、ギロリと娘さんを睨んだ。
弾みで飛び散ったエールを、娘さんが慌て布巾で拭った。
あ、エール、勿体な。
「何だって!?こんな年端も行かない坊主を店の隅で寝かせるだと?危険だろう」
外や廏で寝るよりは、ずっとマシだと思う。うんうん。
男は、串焼き肉を1本、私の前に差し出した。
……何?
「奢ってやる。食え」
「あ、ありがとうございます?」
何だか判らないが、貰っておこう。美味しそうだ。
「風呂は入ったのか?」
「え?うん」
串焼き肉は、タレが絡んで美味しかった。シチューは、アツアツで肉団子が入っていて、野菜の旨味が出て滋養たっぷり。パンは、芳ばしく中はもっちり。シチューに浸けると更に美味しい。ウマウマ。
酔っ払いは、同じくガツガツと串焼き肉2本とシチューにパンを平らげると、エールをもう一杯頼んだ。
何杯目だ?別に、いいけど。
「お客さん、もう随分飲んでるけど、大丈夫?」
「何、大丈夫、大丈夫。おあいそな。それから、こいつ、私の部屋で寝かせるから」
はあっ!?
「お客さん、酔っ払ってます?」
「こんな年端も行かないガキをこんな所で寝かせれる訳に行かんだろ?部屋に連れて行く。
心配すんな。男色でも、変態でもないから。ちょっとばかし酔っ払ってるが」
「え?でも、お客さん」
「追加の寝具も要らん。こいつ、小っこいから、一緒にベッドで寝れる」
え?ちょっと待って。え?
酔っ払いは、新しく来たエールを一気に飲み干すと、ガンっとジョッキを勢いよくテーブルに打ち付け、私を小脇に抱えて大股で歩き出した。
咄嗟に何とかカバンだけは引っ掴んだ私を誉めて欲しい。
「ちょっと、おっさん!」
「おっさんは、未だ若いからな~」
いや、そうじゃない。そうじゃないから。
宿屋の娘さんは、呆気に取られたまま私を見送った。
いや、助けてよ。ヘルプミー。
「ちょっと、おっさん。誘拐って、知ってる?酔っ払ってても、勝手にお持ち帰りしちゃいけないってのは知ってる?」
「……すまん」
「で、今回が初犯?」
「いや、いつもは」
「いつもは?」
「猫とか、犬とか?後、鶏?」
「よく、奥さんに怒られないね」
「独身なんで……でも、ベッドのシーツが泥だらけになるので、寮のメイドには、怒られます」
「反省した方が、良いよ?」
反省したから、風呂に入ったかどうか聞いたと、言う落ち。シーツを泥だらけにしなかったら、OK?
この話は、連載中の『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』から派生した物語になります。
こちら単体でも楽しめますが、世界観、裏話が気になる方は、そちらも読んでいただけると、嬉しいです。




