奮闘
800PV達成、ありがとうございます。
準々決勝の会場は、雰囲気が違った。
照明が強い。
客の密度が高い。
カメラの数が、出演者に、露骨に“撮られる”ことを意識させる。
舞台袖で、輝幸は自分の手が震えているのを見つめていた。
それを見つけて、綾子が言う。
「震えてる。」
「うん。」
輝幸が応える。
「いいね。」
綾子は、言った。
「逃げてない証拠、だろ?」
輝幸が先回りしてそう言うと、
綾子は、笑顔で力強く頷いた。
輝幸達の一つ前は、「カリカリ梅」の出番だった。
レイの豪快なツッコミで、客席から笑いが起きる。
それを舞台袖で聞いた輝幸は、「流石だな」と感心する一方で、
「自分たちは勝ち上がれるのか?」と不安が膨れ上がるのを感じた。
ネタが終わり、袖にはけるレイたち。
輝幸のそばを通った。
輝幸は、レイが以前気さくに話してくれたことが頭に残っていたため、声をかけようとした。
レイと目があったが、その目は以前とは違っていた。
勝負をしている者の強い目だ。
輝幸は、その目を見て、出しかけた言葉を引っ込めた。
そして、気持ちを引き締め直した。
――輝幸達のネタが始まる。
予選と同じネタだが、予選より速く感じた。
予選の好感触が頭に残っており、序盤から力強い滑り出しだ。
予選より、客席から反応が返ってくる。
舞台を降りたとき、彼はこの種の大会で、初めて、勝っている“確信”を持った。
「あれで負けたら誰が勝ち残るんだ。」
元来自身のない輝幸でさえそう感じるほどの客の反応だった。
――結果発表。
準々決勝を通過するコンビの名前がランダムに呼ばれる。
輝幸はいつもと違い、自分たちのコンビの名前が呼ばれるのを疑いもせず、今か今かと待っていた。
――「アペリオ」
輝幸は、綾子と目を見合わせ、力強く頷き合った。
会場を出ると、出口で皆藤が待っていた。
「お疲れさま。どうだった?」
皆藤が言った。
「やったよ。」
綾子は淡々としていたが、目だけが少し光っていた。
「おめでとう。よくやってくれたな、二人とも。」
皆藤が、ねぎらいの言葉をかける。
輝幸は、ようやく興奮が冷めてきて、実感が追い付いてきた。
――準決勝。
あの場所にまた立てる。
2年前は、右も左も分からず、ただがむしゃらにやっていたら、気付いたら終わっていた。
だが、今回は違う、二人の実力で勝ち上がってきた実感がある。
2年前は、ここまで来たのは奇跡だった。
だが、今回は、ここからが勝負だ。
準決勝が近付くにつれ、輝幸の周囲の空気は重くなった。
取材の問い合わせ。
スタッフの視線。
SNSの反応。
「次」がある、という事実が、次第にプレッシャーになる。
その頃、輝幸の耳に、あるコンビの名前が入ってきた。
「ハルシネーション」
楠木圭介、真田遊星の二人だ。
今、最も勢いに乗っている若手。
優勝した大会の映像が回り、二人の名前は、全国に広がっている。
対策のため、3人で、彼らの漫才の映像を見た際、皆藤が言った。
「圭介のボケ、さらに良くなってるな。」
綾子は短く頷いた。
「遊星も上手い。安定してる。」
輝幸は、彼らの名前を聞くだけで胃が冷えた。
大学時代、同じ選手権の舞台に立ったことがある。
圭介の爆発力。
遊星の冷静さ。
そして、二人が並んだときの完成度。
「決勝で対戦、あるかもな。」
皆藤が口角を上げて言った。
輝幸は、笑えなかった。
確かに自分は成長した。
だが、今の自分で、あの二人に勝てるだろうか。
その夜、輝幸は一人でスマホを開き、安藤信康が、輝幸についてコメントしていたYou Tubeを見返した。
あの「化ける」という言葉を何度も何度も。
自分に暗示をかけるように。
――化ける
――化けるなら、今だ
いよいよ、第一章も佳境、
手に汗握る漫才バトルパートが始まりました。
応援、よろしくお願いいたします。
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