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楽園から続く道  作者: 詠み人知らず


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35/35

奮闘

800PV達成、ありがとうございます。

準々決勝の会場は、雰囲気が違った。

照明が強い。

客の密度が高い。

カメラの数が、出演者に、露骨に“撮られる”ことを意識させる。


舞台袖で、輝幸は自分の手が震えているのを見つめていた。

それを見つけて、綾子が言う。

「震えてる。」

「うん。」

輝幸が応える。

「いいね。」

綾子は、言った。

「逃げてない証拠、だろ?」

輝幸が先回りしてそう言うと、

綾子は、笑顔で力強く頷いた。


輝幸達の一つ前は、「カリカリ梅」の出番だった。

レイの豪快なツッコミで、客席から笑いが起きる。

それを舞台袖で聞いた輝幸は、「流石だな」と感心する一方で、

「自分たちは勝ち上がれるのか?」と不安が膨れ上がるのを感じた。



ネタが終わり、袖にはけるレイたち。

輝幸のそばを通った。

輝幸は、レイが以前気さくに話してくれたことが頭に残っていたため、声をかけようとした。

レイと目があったが、その目は以前とは違っていた。

勝負をしている者の強い目だ。

輝幸は、その目を見て、出しかけた言葉を引っ込めた。

そして、気持ちを引き締め直した。


――輝幸達のネタが始まる。

予選と同じネタだが、予選より速く感じた。

予選の好感触が頭に残っており、序盤から力強い滑り出しだ。

予選より、客席から反応が返ってくる。


舞台を降りたとき、彼はこの種の大会で、初めて、勝っている“確信”を持った。

「あれで負けたら誰が勝ち残るんだ。」

元来自身のない輝幸でさえそう感じるほどの客の反応だった。


――結果発表。


準々決勝を通過するコンビの名前がランダムに呼ばれる。


輝幸はいつもと違い、自分たちのコンビの名前が呼ばれるのを疑いもせず、今か今かと待っていた。


――「アペリオ」

輝幸は、綾子と目を見合わせ、力強く頷き合った。


会場を出ると、出口で皆藤が待っていた。


「お疲れさま。どうだった?」

皆藤が言った。

「やったよ。」

綾子は淡々としていたが、目だけが少し光っていた。

「おめでとう。よくやってくれたな、二人とも。」

皆藤が、ねぎらいの言葉をかける。


輝幸は、ようやく興奮が冷めてきて、実感が追い付いてきた。

――準決勝。

あの場所にまた立てる。

2年前は、右も左も分からず、ただがむしゃらにやっていたら、気付いたら終わっていた。

だが、今回は違う、二人の実力で勝ち上がってきた実感がある。

2年前は、ここまで来たのは奇跡だった。

だが、今回は、ここからが勝負だ。



準決勝が近付くにつれ、輝幸の周囲の空気は重くなった。

取材の問い合わせ。

スタッフの視線。

SNSの反応。

「次」がある、という事実が、次第にプレッシャーになる。


その頃、輝幸の耳に、あるコンビの名前が入ってきた。


「ハルシネーション」

 楠木圭介、真田遊星の二人だ。


今、最も勢いに乗っている若手。

優勝した大会の映像が回り、二人の名前は、全国に広がっている。

対策のため、3人で、彼らの漫才の映像を見た際、皆藤が言った。

「圭介のボケ、さらに良くなってるな。」

綾子は短く頷いた。

「遊星も上手い。安定してる。」

輝幸は、彼らの名前を聞くだけで胃が冷えた。

大学時代、同じ選手権の舞台に立ったことがある。

圭介の爆発力。

遊星の冷静さ。

そして、二人が並んだときの完成度。


「決勝で対戦、あるかもな。」

皆藤が口角を上げて言った。


輝幸は、笑えなかった。

確かに自分は成長した。

だが、今の自分で、あの二人に勝てるだろうか。


その夜、輝幸は一人でスマホを開き、安藤信康が、輝幸についてコメントしていたYou Tubeを見返した。

あの「化ける」という言葉を何度も何度も。

自分に暗示をかけるように。


――化ける

――化けるなら、今だ

いよいよ、第一章も佳境、

手に汗握る漫才バトルパートが始まりました。

応援、よろしくお願いいたします。

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