革命
500PV、ありがとうございます。
エントリーは、拍子抜けするほどあっさりしていた。
「はい、終わり。」
綾子がそう言って、申し込み用紙を入れた封筒を閉じた。
「じゃあ、明日出しておく。」
皆藤がそれを受け取る。
それで、本当に“始まってしまった”感じがした。
皆藤が事務所のホワイトボードに「KOM 予選」と書き、二人に向かって話し始めた。
「まずは、ネタづくりだ。今のキングオブマンザイは準々決勝からYou Tubeで流れる。決勝の観覧に来る客は、お笑いファンがほとんだ。準決勝までのYou Tubeも見ていると思ったほうがいい。見たことがあるネタだと、どうしても初見のネタがハマったときのインパクトには劣る。もちろん審査は芸人の審査員がやるが、客の”ウケ”も大きく採点に影響する。決勝では、準々決勝、準決勝でやってないネタを用意できると強い。」
綾子は皆藤の言葉に頷いて言った。
「てことは、2本か‥‥今、2本、感触の良いネタがある。それに、あと新ネタを2本書いて、合わせて4本を劇場で叩いていこう。仕上がりをみて、そこから2本選ぶ。」
「よし。それでいこう。」
皆藤が応える。
輝幸も黙って頷く。
机の上には、新ネタの断片が散らばっていた。
綾子が切り取った赤裸々でシニカルな女性の心の断片。
輝幸が差し込んだ、多彩な言葉のスポットライト。
それらが混ざって、一本の漫才になりつつある。
「ナカジのツッコミを活かすために、設定はシンプルにして、切れ味のいいボケをテンポよく数撃っていく形にしよう。」
綾子は言う。
「責任重大だな。」
輝幸が言う。
「お父さんに見せつけてやるんだよ。ナカジの言葉を。」
そう言った綾子に、輝幸は、頷いた。
――ネタ作りが続く。
次第に、輝幸の頭の中から、父親の視線が、消えていく。
父親から“自分がどう見られるか”より、客に“言葉がどう届くか”に意識が集中していく。
‥‥‥‥‥
「この瞬間が楽しい。」
輝幸は、そう感じている自分に気づいた。
そして、なりゆきでお笑いを始めた輝幸は、このとき、初めて自覚した。
「俺は、お笑いが好きなんだ。」
自分は逃げ続けてお笑いに出会ったのかもしれない。
しかし、自分は、今、逃げでお笑いをやっているのではない。
自分が“好きなこと”を、仕事としてやっているんだ。
そう、気付いた。
――それは、彼の心の革命だった。
この物語のキングオブマンザイは、
予選→準々決勝→決勝の順で行われ、
決勝は、9組による一発勝負です。
現実世界のM1とはシステムが異なりますので、ご了承ください。




