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楽園から続く道  作者: 詠み人知らず


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覚醒

500PV、ありがとうございます。

 皆藤が戻ってきたのは、さらに遅い時間だった。

外の冷気をまとったまま、応接室の椅子に座る。


「二人とも、まだいたのか。」

「うん。」

綾子が答える。

輝幸は黙って頷いた。


 皆藤は、机の上の散らかった台本や原稿を見て、苦笑した。

「ナカジのか。台本を覚えていたのか?」

「考えてた。」

綾子が聞く。

「何を?」

「言葉について‥‥でも、まだ、ぼんやりしてるんだ。」

輝幸が応えると、皆藤は頷いた。

「ナカジの“言葉”が、今、ようやく世間に届き始めてる。ネタでも、平場でも、小説でも。だったら、少し言葉にしてみないか?アウトプットした方が、自分の中で整理できることもある。」

「私も聞きたい。」

綾子が続けた。


「わかったよ。」

輝幸は、自分の中で形になりつつある感覚を口にした。

「今まで、アヤコや他の人が俺の言葉を褒めてくれたこともあったけど、それでも、俺は、自分の中の言葉を信じられなかった。」

皆藤と綾子が頷く。

「平場でも、言葉を探そう、探そうって苦しんできた。でも、最近気づいたんだ。俺は小さい頃から沢山の言葉の中で生きてきた。だから、俺の中には、どんな人よりも、沢山の言葉があるんだって。」

皆藤の視線に力が入る。綾子も黙って聞いている。

「ネタも、平場も、小説も、同じ”言葉”から生まれている。でも、同じ”言葉”でもそれぞれ違う顔を持っている。小説では、文字で読んで、脳裏に光景が浮かんでくるような”言葉”、お笑いでは、端的で、核心をつく”言葉”がツッコミにキレを生む。」

「そうだな。」

皆藤が短く相槌を挟む。

綾子は相変わらず黙って聞いている。

「きっと、俺は自信がないから、自分の中の言葉をじっくり探して、時間をかけて、その状況に合う形として出力できる小説が、合ってたんだと思う。だから、小説では上手くやれた。でも、いつかアヤコも言ってたけど、ワードを出すまでの速度も、”キレ”の重要な要素であるツッコミでは、自信のなさが雑念になって、上手くいかなかった。」

皆藤が頷く。

綾子は、何か言いたげな表情だが、黙って聞いている。

「それが最近、小説で認められて、ツッコミでも認めてくれる人が出てきて、ようやく肩の力が抜けて、平場でも自然と言葉が出るようになってきたんだと思う。」

「そうか。」

皆藤が笑顔で頷く。

「だって、形は違っても、結局は俺の中にある言葉なんだから‥‥」


「‥‥」

皆藤は、それを聞いて、鳥肌が立ち、何も言葉にすることができなかった。

待ちに待った、輝幸の言葉さいのうが覚醒する瞬間に立ち会ったような感覚があったからだ。


何も言わない皆藤に代わり、今度は、綾子が口を開く。

「そうよ。ナカジの言葉ひょうげんには、普通の芸人にはない多彩さがある。そして、それは、小説にも活きている。それは、間違いない。でも、一つだけ異論がある。」

「異論?」

輝幸は、綾子を見た。

「ナカジの頭の中は、無数の言葉で溢れている。そして、それを多彩なツッコミに変えて、瞬時に出すことができる。小説の方が得意なんて認めない。ナカジの真骨頂は、絶対に”お笑い”よ。」

輝幸は、驚いた顔をした。

皆藤は、綾子の方を見て、笑顔で頷いた。


「よし、もう一度言うが、ナカジの言葉は世の中に認められ始めている。」


 皆藤は冷静に言った。


「だから、次の一手だ。」


 ホワイトボードの前に立ち、皆藤はペンを取った。


「次の、”キングオブマンザイ”、どうする?」


その言葉で、空気が一気に張り詰めた。

今年で、父と約束した三年だ。

父が納得する結果を出さなければいけない。

昨年は、綾子は多忙で、輝幸もそれに挑める精神状態ではなかったため、皆藤の判断で出場を回避していた。

輝幸の呼吸が、微妙に浅くなった。


綾子は、ペンを奪うように取って、ホワイトボードの文字に丸をつけた。

「出る。」

即答だった。

「そうよね?ナカジ。」

と、輝幸の顔を見て問いかけた。

「オヤジを納得させるには、キングオブマンザイで勝つのが一番だと思う。」

綾子と皆藤が頷く。

「これからも、アヤコの隣に立っているために、俺は出たい。」

綾子は、一瞬息を止め、驚いた顔をしたが、その後、頷いた。

皆藤が二人の言葉を受けて、宣言した。

「やろう。」

二人は、頷いた。

 


「じゃ、ネタ作ろ!」

綾子が、いつもの調子で言う。

「おいおい、もう深夜だぞ?今からやるのか?」

皆藤が、苦笑いしながら言う

「”鉄は熱いうちに打て” よ。」

綾子も笑う。


その夜、綾子と輝幸は久しぶりに、二人だけの空間に入った。

綾子が違和感を投げる。

輝幸が言葉を差し込む。

そんな中、輝幸は、ふと気づいた。

ネタ作りにおいても、以前より自然と言葉が出ていることに。


作業の途中、綾子がふと手を止めた。

「ねえ、ナカジ」

「なに?」

「怖くない?」


輝幸は、少し考えた。


怖い。

もちろん怖い。

賞レースは、父の家の匂いがする。

順位は、価値を決める。

失敗は、失望に繋がる。


「怖いよ。」

輝幸は正直に言った。

「でも、前より……逃げたいって思わない。」

綾子は、ほんの少しだけ笑った。

安心したように。


「じゃあ、いい。」


その一言が、輝幸の中で、静かに根を張った。


外はまだ暗い。

だが、事務所の中は、少しだけ温度が上がっていた。

いよいよ、輝幸の覚醒が始まりました。

応援、よろしくお願いいたします。

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