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楽園から続く道  作者: 詠み人知らず


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呪縛

500PV、ありがとうございます。

 安藤がプロデューサーを務める深夜番組の収録があった日の夜、事務所の会議室のソファーに輝幸が一人座っていた。


机の上には、漫才台本と、小説の原稿と、バラエティー番組の台本が開かれ、乱雑に置かれていた。

輝幸は、それらを眺めながら、思考の海を漂っていた。


――自分の中にある無数の言葉たち‥‥

それを、その場にあった形に加工して、出力する。

笑いのための言葉と、文章のための言葉。

どちらも同じ「言葉」だが、顔が違う。

輝幸は、自分の中で輝幸はその違いを確かめるように眺めていた。

自分の中で掴めそうなきっかけを、手繰り寄せるように。


 綾子が事務所にやってきたのは深夜だった。

鍵の音。足音。鞄を置く音。そしてため息。

音だけで、彼女の疲労がわかった。

――音が重い。


「お疲れ。お茶でも淹れようか?」

綾子に気付き、輝幸が声を掛けると、綾子は軽く頷き、ソファに沈んだ。

スタジオの空気かおりがまだ身体に残っている。


お茶を一口飲み、綾子が言った。

「今日、安藤さんの番組、うまくいった?」

「……大丈夫。」

「大丈夫ってなに?」

「いや、なんか……」

輝幸は言葉を探した。

自分のツッコミで、笑いが起きた。

それを、そのまま言うのは気恥ずかしい。言えば嘘っぽくなる。

だから彼は、いつもの癖で言葉を軽くした。

「たまたま、ワードがでたよ。」

綾子は、何か言いたそうな顔で、少しだけ目を細めた。

「たまたま、ね。」


「ねえ。」

少しの沈黙の後、綾子はソファの背に頭を預けたまま言った。

「最近、ちょっと変わったよね。」

輝幸は、一瞬、呼吸を止めた。

「そうかな?」

「うん、自分ではそう感じないの?」

「今日の収録、なんか自然に言葉がでた。まぁ、たまたまかもしれないけど。」

「また、そうやって‥‥ナカジの言葉を認める人は確実に増えているよ?」

「ああ、アヤコも見た?安藤さんのYou Tube」

「なにそれ?何か言ってくれてたの?」

「俺のツッコミを買ってるって言ってくれてた。」

「そう…最近、結構番組に呼んでくれてるもんね。」

「ああ。」

「私も最近、いろんな人から言われるよ。小説も褒められたし、圭介も褒めてた。」

「圭介?」

「うん。ナカジのツッコミ、ヤバいって言ってた。」

輝幸は、声をあげた。

「嘘だろ?あいつ、いっつも俺のこと、避けるんだから。」

「認めてるから、慣れ合いたくないんだって。」

綾子は、苦笑しながら言った。


輝幸は、机の上の台本と、原稿に視線を落とした。

そこには、自分の名前が印刷されている。

否定しようのない現実。


「……信じていいのかな?」

ぽつりと言った声は、自分でも驚くほど弱かった。

「なにを?」

「俺の中にある、言葉を。」


綾子は返事をしなかった。

沈黙が落ちる。

彼はその沈黙が怖くて、続けた。


「俺、さ。期待させて、失望させるのが怖いんだ。」

輝幸の脳裏に、父の顔が浮かんだ。


綾子は、輝幸の方を見つめていった。

「失望なんてしないよ。」

「そんなこと、分からないだろ?」

輝幸は、机の上の台本を見つめたまま応えた。

「わかるよ。」

綾子は、輝幸の頭を見つめたまま続けた。

「仮に、またダメになってもいいじゃん。また頑張ればさ。」

「‥‥」

輝幸は下を向いたまま、応えない。

「そんなことで、失望して、見捨てたりしないよ。私たち、コンビなんだから。」

輝幸は、顔をあげた。

「でも、最初お試しでって‥‥」

「もう!そんな期間はとっくに終わってるの!」

「そうなの?言ってくれないと。」

輝幸は、少し笑った。

綾子も笑った。


少し間があり、綾子は真面目な顔で、口を開いた。

「成功するときも、挫折するときも傍にいるよ。コンビってそういうものでしょ?」

輝幸は、それを聞いて、胸が熱くなった。

そして、自分の心にまとわりついていた、父親の呪縛どろが、洗い流されていくのを感じた。

これから、輝幸の覚醒が始まります。

応援、よろしくお願いいたします。

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