刮目
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一方、綾子は、別の場所で輝幸に関する流れが変わってきていることを知ることになった。
ある情報番組の収録後、TV局の廊下で、細身で長髪の男性に声をかけられた。
「加納さんですよね。」
相手が名乗る前に、彼女は気づいた。
過去に芥川賞を受賞した、芸人兼小説家の恒吉直彦だ。
「あなたの相方の小説、読んでます。」
その言葉に、綾子は一瞬、反応が遅れた。
「……え?」
「いい意味で、芸人っぽくない。あれは、真似できない文章です。」
綾子は、思わず笑ってしまった。
驚きと、どこか誇らしさが混じった笑いだった。
「彼、あなたの作品の大ファンなんです。是非、本人に直接言ってあげてください。あなたから言ってもらえれば、自分の言葉に自信が持てるようになるかもしれません。」
「…なるほど、彼は今、そういうときですか…
ああいう人は、時間がかかる。僕もそうだった。」
その言葉が、妙に胸に残った。
またある日、綾子は、大学時代の仲間たちと、バーで酒を飲んでいた。
そこに、癖のある黒の短髪に、切れ長の目、やせ型で長身の男がやってきた。
――楠木圭介だ。
かつて、企画でユニットを組み、ダブルボケで綾子とともに大学お笑い界の話題をさらった男。
圭介達のコンビ「ハルシネーション」は、少し前に大阪で行われた若手の登竜門といわれる漫才大会で優勝し、勢いに乗っていた。
「久しぶりだな。」
「ほんとだね。」
「会社設立に、初年度からキングオブマンザイ。相変わらず頭のネジが飛んでいるな。」
「ありがとう。」
「うん。皮肉が全く通じないな。」
「ははは。芸人にとっては、誉め言葉だよね、それ。圭介こそ、優勝だなんてすごいね。」
「まぁ、俺たちは順当だろ。」
「うわ~。相変わらずだね。」
二人は、笑い合った。
酒が進み、何気なく圭介が言った。
「しかし、お前の相方のツッコミ、ヤバいな。」
綾子は、グラスを持つ手を止めた。
「え?」
「いや、大学の漫才選手権で初めて見た時から思ってた。こいつは、持ってるモノが違うって。まぁ、本人にその意識はなさそうだけど。」
圭介は笑った。
「え?っていうか、あいつと圭介がしゃべってるの見たことないけど、知り合いだったの?」
「いや、まともにしゃべったことはない。」
「それなのに認めてるの?」
「あいつが乗っているときのツッコミをみたとき、鳥肌がたったよ‥‥
そして、火が付いた。」
「いや、あんたボケじゃん。」
「それでも、凄いもんは凄い。わかるだろ?」
「だったら‥‥」
「だからこそ、あいつとは慣れ合わない。」
「なんで?」
「俺はあいつと慣れ合いたいんじゃない‥‥フン」
「何それ?」
「酔いすぎたな‥‥だが、俺だけじゃない。遊星も意識してるよ。口には出さないけどな。」
圭介の相方――真田遊星の名前が出た瞬間、綾子は妙に納得した。
圭介とは真逆で、大きくてガタイのいい体形で、短髪にひげの厳つい見た目に反し、冷静で、安定したツッコミ。
誰もが認める完成度の高い技術。
だが、輝幸のツッコミには、別の種類の煌めきがある。
遊星にはない、同じ芸人の心を震わせる煌めきが。
綾子は、それに気づいているのが自分だけではなかったことに驚いたが、
圭介の言葉に、素直に頷くことはできなかった。
輝幸のことを人前で褒めることに全く慣れてなくて、
妙に恥ずかしくなって、適当にごまかすことしかできなかったのだった。
これから、輝幸の覚醒が始まります。
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