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楽園から続く道  作者: 詠み人知らず


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26/41

波及

450PV、ありがとうございます。

 輝幸達が、事務所を立ち上げて、3年目を迎えた頃、輝幸の小説が、思いがけない速度で広がり始めた。

 輝幸は、テレビ局の廊下や楽屋で、スタッフに声をかけられることが増えた。

「小説、読みました。」

「意外でした。」

「続き、楽しみにしてます。」

その“意外”という言葉に、悪意はなかった。

ただ、これまでの彼のイメージが、静かに更新されているのを感じた。


しかし、平場での輝幸は、相変わらず安定しなかった。

沈黙する日もある。

そして、空回りする日もある。


 ある日、輝幸は、深夜のバラエティー番組のひな壇に呼ばれた。台本をみると、その日は、芸人にまつわる「お金」がトークテーマだった。輝幸は、父親が社長であるため、「実家が金持ちのボンボン」イジリをされることも多かったため、そういった狙いでのキャスティングなのだろうと思った。輝幸の他に、9人のお笑い芸人がゲストで呼ばれていた。その中には、輝幸達が準決勝で敗れたキングオブマンザイで決勝に進出し、2位になったコンビ「カリカリ梅」のツッコミ、「紫蘇乃しその レン」の名前もあった。輝幸は、決勝戦をTVでみて、自分にはない、豪快なツッコミに圧倒された。台本を読みながら輝幸は、「レンさん出るのか。楽しみだな。」とつぶやいた。

 番組が始まり、番組MCのベテラン芸人、常田宗司つねだそうじが、お金の話題の流れで、

「中島くんって、実家めっちゃお金持ちなんやろ?お年玉とかすごかったんちゃう?」

と、輝幸にアドリブでトークをふった。

輝幸は、フリに乗ろうとしたが、慌てて、

「あっ…えっと…その…あの…いつも金庫に…入ってて…」

と話しがまとまらない。

すると、レイが

「おいおい!お年玉が“金庫管理”て!それもう“資産”やないか!」

とツッコんだ。

スタジオに笑いが起きる。

輝幸は、胸をなでおろした。

客席の笑いが落ち着いたあと、常田は次の芸人にトークを振った。

輝幸は、服がジットリと汗ばんでいるのを感じた。


 番組終了後、輝幸は、レイの楽屋を訪ねた。

レイは30歳代半ばに差し掛かった中堅である。いつも衣装はスーツで、頭は、フェードの短髪。男が見ても渋い雰囲気を醸し出している。

「失礼しまーす。」

「おう、中島か。おつかれさん。」

「レイさん。今日は、ありがとうございました。フォローしていただいて。」

「あぁ、あれか、助けたわけやない。ウケそうやったから、ツッコんだだけや。」

と、レイは言った。

「それでも、助かりました。」

と輝幸が続けた。

レイはそれを聞いて、黙ってしばらく輝幸を見つめると、

「いやいや、こっちはありがたいで。」

と言った。

「なにがですか?」

と輝幸が尋ねると、

レイはニヤリとして、

「お前が覚醒すると厄介やからな。もうしばらくモタモタしてててや。」

と言って、輝幸の背中を叩いた。

輝幸は、レイの言葉の真意を掴めなかった。



空回りすることがほとんどの輝幸だが、最近は、ごく稀に、ふっと言葉が出る瞬間もあった。


 ある日、綾子と輝幸は、特定の趣味をもつ芸人にフォーカスして、その趣味を紹介する深夜のバラエティー番組にゲストで呼ばれた。その日は、「飛行機好き芸人」というテーマであった。綾子も、輝幸も、飛行機にさほど興味がなかったが、MCの横で、「飛行機好き芸人」達のエピソードにコメントする立ち位置だった。最も、輝幸は、綾子のおまけで呼ばれていたが。


 スタジオ収録で、「飛行機好き芸人」の一人が、飛行機の面白ろエピソードのつもりで長々とトークをしていたが、全くウケない状況に焦り始めた。

すると、輝幸が、

「いや、結構滑走路走っているのに、全然離陸しないな!」

とツッコミをいれた。

輝幸の一言で、スタジオが一拍遅れて笑った。

爆笑ではない。

だが、確実に刺さった笑いだった。


輝幸自身が、一番驚いていた。

考えなかった。

言葉が、勝手に出た。


収録後、プロデューサーの安藤信康あんどう のぶやすが、何気ない顔で近づいてきた。


「さっきの一言、よかったね。」


それだけだった。

その言い方は、評価というより、確認に近かった。


 それから輝幸は、ポツポツとピンで安藤がプロデューサーを務めるバラエティー番組に呼ばれるようになった。

もっとも、ピンの出演は深夜ばかりだったが。

予算も少ない。

セットも簡素。

だが、安藤は、輝幸を“じゃない方”としてではなく、 “ツッコミ”として座らせた。


「無理に喋らなくていい。」

「入れそうなときだけ、入って。」


その指示は、彼にとって救いだった。

全部を求められない。

一瞬でいい。


まだ波はある。

沈黙もある。

それでも、輝幸の中で、小さな自信が芽を出し始めていた。

これから、輝幸の覚醒が始まります。

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