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楽園から続く道  作者: 詠み人知らず


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20/40

迷走

300PV、ありがとうございます。

 事務所設立から1年が経ったころ、テレビでは、輝幸は次第に「じゃない方芸人」として扱われるようになっていった。トークを振られるのは綾子。カメラが追うのも彼女だ。輝幸は、その横で綾子との対比でいじられる。オドオドした態度と、鈍いコメント、親は社長で、遅刻癖。そういうキャラクターは、わかりやすい。番組としても扱いやすい。本人が自分で認めて笑いにすれば、なおさらだ。

「いや、しょうがないでしょ。お金があるんだから。」

自分の口からそう言って、楽に笑いを取る。

スタジオは確かに沸く。スタッフも笑う。共演者も乗ってくる。

仕事としては、成立している。

だが、そのたびに、胸の奥で何かが削れていく感覚があった。

削れているのが自尊心なのか、言葉への信頼なのか、あるいは「自分が自分である」という感覚そのものなのか、輝幸には判別できなかった。

これは仕事だ。役割だ。

そう自分に言い聞かせることでしか、舞台に立ち続けられなかった。


 控室で一人になると、スマホを眺める時間が増えた。番組を見たというDM。

軽い誘い。深く考えなくていい関係。期待もしないし、失望もしない。今の輝幸にとって、その「浅さ」は救いだった。深く考えないこと。それが、彼が正気を保つために必要な距離だった。


そんなある日、何気ない雑談の中で、その話題が出た。

「加納さん、ドラマ出てるよね。」

スタッフの一人が、輝幸にいった。

「深夜枠だけど、あれ結構評判いいらしいよ。」

「演技、意外とハマってるって。」

「…そうみたいですね。」

輝幸は、できるだけ平坦な声で返した。

表情も変えなかった。

変えなかったつもりだった。

だが、胸の奥で、小さく何かが鳴った。

綾子が、自分の知らない場所で、別の評価軸を手に入れていく。

その事実が、時間差で効いてくる。


綾子と事務所で顔を合わせる時間は、確実に減っていた。

綾子は撮影と打ち合わせに追われ、輝幸は呼ばれない現場が増えた。


同じ空間にいるときも、会話は業務連絡が中心だった。


「この日、撮影でいない。」

「了解。」


それだけ。

それ以上でも、それ以下でもない。


ある日、番組の収録後。

輝幸は一人、スタジオの隅でモニターを眺めていた。

次の番組の予告が流れ、画面の中に綾子が映った。


ドラマのワンシーン。

そこに、もう一人、男が映った。

若い。だが、どこか影がある。


「綾瀬正輝だよね。」

「最近、すごいよな。」

スタッフの声が、背後から聞こえる。

「なんか、綾子ちゃんとお似合いだよね」

軽い調子の一言だった。

誰も深い意味で言っていない。

だが、その言葉は、輝幸の胸の奥に、濁った滴を落とした。

苛立ちとも、嫉妬とも言い切れない感情。

自分でも扱い方がわからないまま、広がっていく。

いじられて、笑われて、愚鈍な役を演じる。

それが求められている自分だと、身体が覚えてしまっている。

演じることに慣れてしまえば、それはもう演技ではなくなる。

帰り道、街灯の下で立ち止まり、自分の影を見た。

影は、どこまでも真っ暗だった。


 一方、綾子は、ドラマの撮影を終えて、一人でスタジオを出たところだった。

夜風が、火照った身体を冷ます。

綾子はふと輝幸のことを思い出した。

彼のワードセンス。

的確で、核心を外さないツッコミ。

信じている。

だからこそ、今の状況がもどかしい。

言葉を持っている人間が、言葉を捨てるような振る舞いをしている。


心の中で、芸人としての綾子が叫んだ。

「それは、本当のあいつじゃない。」と。

副社長としての綾子がそれに応えた。

「この世界で生き残っていくためには、今はそれしかない。」と。

輝幸の才能が覚醒するのを見届けたい方。

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