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楽園から続く道  作者: 詠み人知らず


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邂逅

 進学したのは有名私立大学のK大だった。世間的には十分に一流だが、父の中ではT大が「あたりまえ」であり、それ以外の大学は無価値だった。輝幸が大学の入学式の案内を渡したとき、父は仕事、母は友人との旅行を理由に、式には出席できないと輝幸に告げた。二人の顔から感情を読み取ることはできなかった。


 入学式の日、大学の最寄り駅から出て、大学へと向かっている途中、輝幸が遠くの空を見上げると、どんよりと黒い雲がかかっていて、空は見慣れた灰色をしていた。


 入学式の帰り、キャンパスは騒がしかった。サークル勧誘の声が四方から降ってくる。輝幸はそれらを避けるように歩いていたが、「君、お笑い、興味ない?」と後ろから声をかけられ、振り返ると、長身で細身の男が、輝幸にビラを差し出していた。男は黒髪で眼鏡をかけ、男の輝幸から見てもさわやかだった。差し出されたビラに書いてあったのは、お笑いサークル「KO道場」の文字。男は皆藤裕かいどう ゆうと名乗り、「KO道場」の部長をしていると言った。サークルの名前にセンスのなさを感じつつも、輝幸は話を聞いてみることにした。男が言うには、大学お笑いのコンテストにも参加し、過去に優勝者も排出しているサークルで、合コンに明け暮れる名ばかりのサークルではなさそうだった。輝幸は、お笑いをやりたかったわけではないが、高校時代、日本最大の漫才の賞レース「キングオブマンザイ」で優勝したお笑い芸人の自伝を読んだのをきっかけに、一時期、漫才の賞レースを見るのにはまっていたことがあった。本の他に、何かに熱中したのは、このときがはじめてだった。また、高校まで女性経験が皆無だった輝幸には、サークルに入れば、かわいい子と知り合えるかもしれないという下心もあったので、サークルの部室について行って、もっと詳しい話を聞くことにした。


 部室に着くと、既に20名ほどの男女が机を囲んで、座って話をしていた。「KO道場」の先輩たちと、彼らが集めた新入生達なのだろう。そんななか、輝幸の視線は一人の女性に引き付けられた。茶髪のボブで、ぱっちりとした二重瞼の瞳が印象的だ。モノクロだが個性的なデザインのパンツスタイルで、身長は高すぎず低すぎず、細身だが、胸や腰は女性的な丸みを主張していた。輝幸の好みのタイプではなかったが、単純にかわいいなと思った。

 皆藤が、皆の注目を集め、サークルの概要を説明し始めた。お笑いライブや漫才コンテストなどの活動実績や、旅行や飲み会などのイベント、芸能界との繋がりや定期試験の過去問など、新入生が興味があることだけを短くまとめて繋ぎ合わせたようだと輝幸は思った。皆藤の話が終わると、自己紹介が始まった。輝幸の目を引いた女は「加納綾子かのう あやこ」という名前だった。自己紹介の後は、近くに座ったメンバーと雑談をする流れになった。同じ新入生である彼女にとっても当然全員初対面であるはずだが、彼女の周りは、自然と盛り上がりをみせた。輝幸もその輪の中に加わり、話を聞いていると、彼女はお笑い好きの先輩からの雑なフリに、機転の利いた返しを見せ、皆を度々笑わせていた。先輩に気を使い、基本的には先輩を立てているのだが、要所要所でうまく先輩をいじって、それが見事にハマっていた。


輝幸が、だまって観客のように眺めていると、綾子が意地悪そうな笑みを浮かべて、皆藤に言った。

「先輩のサークル説明だけ聞くと、凄い面白そうに聞こえたんですけど、入ってみたらがっかりなんてことはないですか?」

いきなり新入生から飛び出した、やや皮肉めいた言葉に誰も反応できずにいると。

「いや、ハズレ映画の予告編みたいに言うな。」

輝幸の口から自然とツッコミが出てしまった。

一瞬、間があった後、皆が笑った。

「ははは、君うまいこというね。」

盛り上がる上級生をよそに、輝幸はそんな自分に驚いていた。


 ふと、綾子の方を見ると、目が合った。しかし、綾子は一瞬微笑むと、すぐに別の方を向いて、次の話題に加わった。「気のせいか・・・」と輝幸は思った。

 その後はますます綾子のペースになり、綾子は会話のなかにどんどんボケを挟むようになった。奇抜なボケではないが、感性が鋭く、頭の回転が速い。輝幸は直感的に、自分とは違う世界が見えている人間なんだろうなと思った。


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